今回ご紹介する「21ブリッジ」は、「ブラックパンサー」のチャドウィック・ボーズマン主演のクライムアクション映画です。
マンハッタン島で強盗事件が発生。銃撃戦の末に警察官8人が殺害されます。捜査に乗り出したのは、警察官だった父を殺された過去を持つデイビス刑事。
彼はマンハッタン島にかかる21本の橋を封鎖させ、犯人の行方を追います。
しかし、全面封鎖されたマンハッタンで調べを進めていくうちに、思いがけない事件の真実にぶち当たります。
窮地に立たされた彼は、たった1人で事件の背後に隠されたニューヨークの大きな闇に立ち向かうことになります。
共演は「アメリカン・スナイパー」のシエナ・ミラー、「ビール・ストリートの恋人たち」のステファン・ジェームズ、「セッション」のJ・K・シモンズ。
製作には「アベンジャーズ」シリーズのアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟監督が名を連ね、「ゲーム・オブ・スローンズ」などテレビドラマを中心に手がけてきたブライアン・カークがメガホンをとっています。
2020年8月に逝去したチャドウィック・ボーズマンの最後の劇場公開主演作となりました。
作品の内容に惚れ込んだボーズマンは、プロデューサーも兼任しています。
それでは、ご紹介しましょう。
Contents
あらすじ(ネタバレあり)
父の後を継いで刑事になったデイビスは、捜査中の容疑者殺害で調査を受けています。デイビスは容疑者殺害について後悔はないと話します。
マンハッタン。マイケルとレイは知人のトリアノから依頼を受け、ワイン貯蔵庫にあるコカインを盗み出そうとします。
2人は隠してあるコカインの多さに驚きつつも盗みはじめます。
そこへ警官が到着し、銃撃戦になります。レイが警官数人を殺害します。2人は車コカインを乗せて逃亡しますが、監視カメラに撮影され身元が警察にわかってしまいます。
デイビスが現場に到着します。ニューヨーク市警85分署のマッケナ警部は、デイビスを事件の担当につけます。デイビスは麻薬取締班のフランキー刑事と組むになります。
デイビスはコカインの多さから巨大な犯罪と考え、犯人逮捕のため午前5時まで市内の21ある橋の封鎖を要請します。デイビスは車の持ち主の身元がわかったと連絡を受けます。
レイとマイケルはチャイナタウンに到着し、依頼者トリアノに会い。多額の報酬を要求します。
3人はコカインを盗み出す依頼したグループのリーダー、ホークに会い、量の多さから百万ドルの報酬を要求します。ホークは金を渡し、アディという男が逃走の手助けをすると言います。
レイとマイケルはアディにもコカインを与え、逃走先の確保を求めます。アディは2人にマイアミへ逃げることを指示します。トリアノはナイトクラブに向かいます。
ニューヨーク市警はトリアノの居場所を突き止めますが、マッケナ警部の部下であるニューヨーク市警の刑事がトリアノを殺してしまいます。
デイビスは、「事件の鍵を握るトリアノをなぜ殺した?」と彼らと対立します。
警察がアディの自宅を襲撃します。レイとマイケルは応戦するものの、アディは重傷を負います。アディは二人にUSBメモリを持ってマイアミへ逃げるように指示します。
2人は銃撃を逃れ、USBメモリを持って逃げますが、デイビスとフランキーに見つかります。銃撃戦になり、レイは負傷します。
マイケルは「ニューヨーク市警はコカイン事件に関与しているのでは?なぜかアディからUSBメモリを渡された」とデイビスに言います。
デイビスはニューヨーク市警のコカイン事件への関与を疑い始めますが、とりあえずはマイケルを捕まえることにします。
マイケルはUSBをチェックします。そこには、ニューヨーク市警のマッケナ警部と警察官たちのコカイン取引への関与が記されていました。
マイケルは変装して逃げますが、地下鉄でデイビスに追い詰められます。地下鉄内でデイビスはコカイン事件の真相、USBメモリを渡すよう説得します。
しかし、そこにフランキーが現れてマイケルを銃撃します。デイビスは瀕死のマイケルからUSBメモリを受け取ります。
マッケナ警部は自宅に着きます。しかしそこにはデイビスが待ち構えていました。デイビスは、USBメモリから得た情報を話します。
キャスト
アンドレ・デイビス (チャドウィック・ボーズマン)
本編の主人公で、ニューヨーク市警殺人課の刑事。優秀だが過去に警官殺しの犯人を射殺したことが問題視されています。
演:チャドウィック・ボーズマン
003年に『サード・ウォッチ』でテレビドラマ初出演。2008年に『エクスプレス/負けざる男たち』で長編映画初出演。
『42 〜世界を変えた男〜』(03)オーディションを受けた当時、演技は諦めて監督業を追求しようとしていましたが、この映画でスターに躍進。レイチェル・ロビンソンにも演技を絶賛されています。
2018年『ブラックパンサー』に主演。この映画は「マーベル・スタジオ史上最高傑作」の呼び声も高く、アカデミー賞の3冠を含む全米の各映画賞で数多くの受賞をし、全米映画歴代興行収入で4位につけるほどの絶賛を浴びます。
自身も全米映画俳優組合賞やMTVムービー・アワードで受賞し、この年のタイム100に選出されます。
2016年、ステージ3の大腸癌(結腸癌)と診断され闘病生活を続けていましたが、年を追うごとにステージ4へと進行。
2020年8月28日、ロサンゼルスの自宅で家族に見守られる中で亡くなりました。43歳没。
フランキー・バーンズ(シエナ・ミラー)
ニューヨーク市警85分署の麻薬取締班の刑事。シングルマザー。アンドレとコンビを組みます。
演:シエナ・ミラー
2007年公開のスティーヴ・ブシェミ監督作品『Interview』でインディペンデント・スピリット賞主演女優賞や英国アカデミー賞ライジング・スター賞にノミネートされます。
2009年、『アフター・ミス・ジュリー(原題) / After Miss Julie』でブロードウェイの舞台デビュー。
2009年公開の『G.I.ジョー』はシエナ自身、最も興行収入の高い作品となり、ゴールデンラズベリー賞最低助演女優賞を受賞しています。
同年9月から『After Miss Julie』でブロードウェイの舞台に立ちます。2010年公開の『ロビン・フッド』で恋人マリアンを演じる予定でしたが、降板(ケイト・ブランシェットがマリアンを演じています)。
2015年2月17日開幕の「キャバレー」
で主役のサリー・ボウルズ役を務めています。
マット・マッケナ警部(J・K・シモンズ)
ニューヨーク市警85分署の警察署長。アンドレに事件の解決を依頼し、部下のフランキーを相棒として組ませます。
演:J・K・シモンズ
1994年「サイレントナイト/こんな人質もうこりごり」で映画デビュー。「サイダーハウス・ルール」、「ラブ・オブ・ザ・ゲーム」などに出演しています
本国では長寿TVシリーズ「ロー&オーダー」とそのスピンオフ番組に渡って活躍するスコダ医師役として広く知られています。
映画「スパイダーマン」シリーズでは主人公の上司である新聞社編集長を演じています。他にも「ザ・メキシカン」や「レディ・キラーズ」など、様々な役柄をこなす老練なバイプレーヤーのひとりです。
「セッション」(14)では、主役の音楽大学生を狂気に満ちたスパルタ教育で徹底的に鍛える鬼教師という強烈なキャラクターを怪演、アカデミー賞助演男優賞に輝きます。
マイケル・トルヒーヨ(ステファン・ジェームズ)
知り合いのトリアノから依頼を受け、レイとともにワイン貯蔵庫にあるコカインを盗み出そうとします。頭の切れる男です。
演:ステファン・ジェームズ
2012年に「Home Again」で映画デビュー。カナダ・スクリーン・アワードの助演男優賞にノミネートされます。
その後は、2014年のアカデミー賞主題歌授賞映画「グローリー/明日への行進」でトロント国際映画祭ではライジングスター賞を受賞。
2016年「栄光のランナー/1936ベルリン」でジェシー・オーウェンス役で主演を務めました。
また、ドラマ「Homecoming」で2018年度、ゴールデングローブ賞 テレビ部門男優賞(ドラマシリーズ)にノミネートされました。
レイモンド“レイ”ジャクソン(テイラー・キッチュ)
退役軍人の強盗犯。銃の腕が立つ男です。戦死した親友アーベル・トルヒーヨの弟マイケルの相棒であり、保護者でもあります。
演:テイラー・キッチュ
映画「プライド 栄光への絆」(04)をTVドラマ化した「フライデー・ナイト・ライツ」(06~11)で脚光を浴びます。
ユニバーサル映画が100周年を記念して製作したSF超大作「バトルシップ」とウォルト・ディズニー生誕110周年を記念する「ジョン・カーター」に主演。
また、2012年には「バトルシップ」「ジョン・カーター」「野蛮なやつら/SAVAGES」と3本の主演作が公開されています。
基本情報
チャドウィック・ボーズマン最後の映画
主人公デイビス刑事を演じたチャドウィック・ボーズマンは、『ブラックパンサー』で大スターに躍り出たのですが、昨年の8月に43歳の若さで夭折、この作品が最後の主演映画になってしまいました。
劇中で事件の犯⼈レイを、アンドレ刑事が追うシーン。パトカーやヘリからの追跡を振り切ろうとしたレイは、地下鉄の駅に逃げ込みますが、アンドレ刑事もレイを追いかけて激走。地下鉄の改札を飛び越えて、必死の追跡を⾒せます。
ブライアン監督は「彼は⾞にぶつかるシーン以外はノースタントで挑み、本⼈が演じたからこそのリアルさをこの作品では得られました」と、チャドウィックの俳優魂を感じさせるコメントを寄せています。
また、役者としてだけでなく、製作の立場からも映画の完成に貢献したチャドウィック。その姿を間近で見ていた彼こそが「真のヒーロー」であると実感したといいます。
「彼のプロ意識の高さには本当に驚きました。いつも集合時間より早く現場に到着していたり、準備段階でも一切手を抜かない。
製作段階でのリサーチも欠かさず、元警官に話を聞いたり、ニューヨークのコーディネーターにも会いに行っていました。
特に忘れられないのが、毎日笑顔で現場入りするチャドウィックの姿。まさか、その時から病と闘っていたなんて、私も他のクルーも知りませんでした。
彼はヒーローを演じていますが、私はチャドウィック自身が真のヒーローだと今でも思います。役者として人間として偉大な功績を残しましたからね」
マンハッタン島を「ロックダウン」
マンハッタン島に潜む犯人を逃さないため、アンドレ刑事が考案する作戦は、“マンハッタン島すべてを封鎖”してしまうというもの。
島を出る21の橋、3つの川、4つのトンネル、そして鉄道網のすべてをロックダウン。犯人を物理的に脱出不可能にしたうえで、島全域におびただしい数の警官を放つ、あまりに豪快なパワープレーでした。
ハドソン川河口部の中州であるマンハッタン島 。アメリカ最大の都市圏人口を背景にした経済・文化面の影響力により、ウォール街を擁するニューヨーク市のマンハッタンがニューヨーク州の中心であるともいえます。
5番街やタイムズスクエアなどの繁華街があり、世界中からの観光客をひきつけているほか、マンハッタン島に置かれている国連本部は、全加盟国で共有する国際領土となっています。
一般的に「ニューヨーク」と言えば、ニューヨーク州ではなく、ニューヨーク市とりわけマンハッタンを意味することがほとんどです。
マンハッタンはアメリカ最大の都市圏人口を持つニューヨーク市(約800万人)の中心であり、人口は約160万人と推定されています。
イタリア系やユダヤ系、中国系、プエルトリコ系など多くの人種が混在する街であり、地域ごとに異なった文化が形成され、「人種のるつぼ」「ビッグ・アップル」などと称されます。
また、ニューヨークでは19世紀後半から世界に先駆けて高層ビルの建設が始まり、マンハッタンには多数の超高層ビルが密集しています。これらは『摩天楼』と呼ばれ、象徴的なマンハッタンの景観を形成しています。
解説 名作刑事物の「いいとこ取り」
刑事が主人公で犯罪に挑む、解明するというお話はもう出尽くしている感があります。それでも人気なので作られ続けます。
ちなみに「刑事物」といっても、刑事が探偵役となって謎(主に殺人事件)を解明していく「推理」がメインになるものと、刑事が凶悪犯とかと戦う「アクション」に大別できます。
もちろん両者を融合させる作品もあって、「21ブリッジはそうした複合型といっていいでしょう。さらには、組織としての警察内部の汚職や不正を暴くといった「告発」ものもあって、その要素も取り入れています。
「21ブリッジ」はこうした過去の名作刑事物のいわばいいとこ取りをしています。
「21ブリッジ」の評判として、「展開が読める」というのがあって、確かにデイビス刑事が最後に挑む「巨悪」というあたりは察しがつきます。ただそうだとしても、本作のおもしろさを決して損なってはいません。
シナリオの作りとしてもうひとつ注目したいのは、各主要人物の造型です。トップシーンは、主人公デイビスの原点、生い立ちのエピソードからですが、事件の発端となる強盗犯の2人も、いつの間にか彼らに感情移入してしてしまいます。
彼らだけでなく、主人公デイビス刑事をこれでもか、これでもかと“困らせる”そうした手法ゆえに感情移入をさせられるのです。
「21ブリッジ」のレビュー
二転三転の急展開や臨場感満点の銃撃アクションが息もつかせぬ作劇となっています。警察官の父親を殺された過去を持つ孤高の刑事の執念の追跡と正義の鉄槌を様々な顔を覗かせる深夜のマンハッタン島を舞台にノンストップで活写したクライム・サスペンスの力作。撮影時闘病中の身であったチャドウィック・ボーズマンが示す命懸けの熱演に目を見張ります。
ただ、警察の不正を取り上げた類似作品には、LAコンフィデンシャルや交渉人などエンターテインメント性で優れたものがあり、それには及ばない感じがします。また、黒人差別についてのメッセージもゲット・アウトの方がストレートでパンチがあります。
悪くない映画ですが、多くの映画好きにとっては「平均点よりは上」だけど「最高」まではいかない感じなのではないでしょうか。
若干、暴力表現がきついかなという感じはするけど、まずます楽しめる作品だった。
脚本のひねりと展開力のテンポが良くて、最後までグイグイと引っ張られる。
印象に残ったのは夜のニューヨークの撮影。ほとんど夜のシーンばかりなのだけど、光の使い方がうまくてとてもきれい。
奥行きのある夜景の撮影は、なかり意識的に構図とか陰影とか配色とか計算されていると思う。
ここらへんの撮影技術と絵作りのセンスは、日本映画にないハリウッドのとても秀でたところ。
そこで巻き起こる一筋縄ではいかない人間模様とサスペンスも、プロットとして予測可能とはいえ、熟練の役者陣が魂を注ぎ込むことで深みが増している。
すなわち、本作の原動力となるのは脚本や設定よりもまず、確実に「俳優の存在」なのだ。彼らが内面をさらけ出す場面は驚くほど少ないが、むしろその少ないチャンスを絶対に外さない。
チームワークというか相乗効果というか、この映画には「人」が動かしている部分があると思う。
まとめ
今回は「21ブリッジ」のご紹介でした。いかがでしたでしょうか?
チャドウィック・ボーズマンの遺作であり、劇中の彼の存在感は圧倒的です。
全体的にテンポよく描かれ、最後の最後までほとんど気を緩めることができない展開。ニューヨークを舞台に、繰り広げられる銃撃戦や大規模な犯人追跡劇は迫力満点です。とにかく、たくさん人が死にます。
ただ、途中で何となく話の落ちが見えてくる展開の映画ではありました。
また、21本の橋を封鎖する設定にあまり意味がない気がしました。もうちょっとストーリーに絡めて欲しかったと思います。
終わってみるとすごい目新しさもない話ではあるのですが、その1つ1つの質がとても高いと感じました。「21ブリッジ」まさに王道のクライム・サスペンスです。
監督 ブライアン・カーク(英語版)
脚本 アダム・マーヴィス マシュー・マイケル・カーナハン
原案 アダム・マーヴィス
製作 アンソニー・ルッソ ジョー・ルッソ チャドウィック・ボーズマン 他
総指揮 マーク・カミネ マイク・ラロッカ エイドリアン・アルペロヴィッチ 他
出演者 チャドウィック・ボーズマン シエナ・ミラー ステファン・ジェームス 他
音楽 ヘンリー・ジャックマン アレックス・ベルチャー
撮影 ポール・キャメロン
編集 ティム・マレル
製作会社 MWMスタジオズ フワイ・ブラザーズ Gozie AGBO
配給 〔アメリカ〕 STXエンターテインメント 〔日本〕 ショウゲート
公開 〔アメリカ〕 2019年11月22日 〔日本〕 2021年4月9日
上映時間 99分
製作国 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $33,000,000
興行収入 〔世界〕 $40,013,645