今回のご紹介は「マネーボール」です。
メジャーリーグ「オークランド・アスレチックス」のGM(ゼネラルマネージャー)、ビリー・ビーンの半生を、ブラッド・ピット主演で映画化。
全米約30球団の中でも下から数えたほうが早いといわれた弱小球団のアスレチックスを独自の「セイバーメトリクス理論」により改革し、常勝球団に育てあげたビーンの苦悩と栄光のドラマを描いています。
監督は「」のベネット・ミラー。「シンドラーのリスト」のスティーブン・ザイリアンと「ソカポーティーシャル・ネットワーク」のアーロン・ソーキンが脚本を担当しました。
あらすじ、キャスト、見どころのほかに物語の核になっている「セイバーメトリクス理論」も簡単に解説していきます。
Contents
あらすじ(ネタバレあり)
元プロ野球選手のビリー・ビーンは若くして、アスレチックスのゼネラルマネージャーに就任します。
しかし、就任してすぐにチームの主力選手が複数人、他球団に移籍してしまい、チームは益々弱体化。
このままの選手層ではワールド・チャンピオンになることは無理だと感じ、チームを大型補強しようとオーナーに提案します。
しかし、資金難に陥っているチームに他球団のスター選手を獲得するのは不可能でした。
そんなある日、ビーンは、イェール大学卒のインテリであるピーターと出逢います。
ピーターは、各種統計から選手を客観的に評価するセイバーメトリクスを用いて、他人とは違う尺度で選手を評価していました。
ピーターのその理論はあまり評価されていませんでした。ビーンは、ピーターが推奨する理論に興味を持ち、自分の補佐として引き抜きます。
ビーンはピーターが推奨するセイバーメトリクスを用いて、他のスカウトには評価されていない埋もれた選手を発掘することにします。
その理論を持ち込むことにより、どのような場面でもオールマイティに活躍できる選手ではなく、ある分野だけ異常に特化して強い選手を自分のチームに移籍させていきます。
統計を持ち込むことにより、自球団の選手の得意なこと苦手なことがデータで浮き彫りになります。
ビーンは統計データのみを頼りに、監督に選手を適材適所で使用するように指示しますが、この戦術は選手や監督の批判が強く、中々協力体制を整えることが困難でした。
しかし、ワールド・チャンピオンという目標のために、ピーターの戦術を試すことに選手や監督も協力してくれるようになります。
そして、ビーンが信じた戦術は結果を現し始め、潤沢な資金で運営する他球団を打ち負かしていきます。
チームは生まれ変わり、ついに、にリーグ戦の成績上位チームによる順位決定トーナメント出場を決めます。
しかし、アスレチックは奮闘むなしくトーナメントで敗れ、ワールド・チャンピオンになる夢は叶いませんでした。
それにより、一時はビーンの戦術を指示した連中も離れていきます。ビーンはシーズンオフに大金で、資金力が潤沢なレッドソックスに誘われます。
潤沢な資金で自分が信じる統計戦術を試す絶好のチャンスでした。
しかし、目先の契約金に目がくらみ、大学進学をせずプロになり、一向に目が出なかった過去の苦い経験を思い出します。
そして、大金に左右される判断は不幸を招くと考えオファーを断ります。
2004年、レッドソックスは、ビーンの統計戦術を用いてワールド・チャンピオンになります。
キャスト
ビリー・ビーン(ブラッド・ピット)
アスレチックスのゼネラルマネージャー。かつては超高校級選手としてドラフト1巡目指名を受けていたスター候補生でした。
その莫大な報酬に目がくらみ、名門大学の奨学生の権利を放棄してプロ入りするが結果が出せず引退した過去を持ちます。それから2度と金で人生を左右されないと決意します。
演:ブラッド・ピット
91年、「バックドラフト」出演のため降板したウィリアム・ボールドウィンの代役で出演した「テルマ&ルイーズ」で注目を集めます。
「リバー・ランズ・スルー・イット」(92)以降注目されるようになり、「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(94)や「セブン」(96)のヒットで人気を不動のものとします。
女性ファンが多く、アイドル的に扱われることもありますが、オスカー初ノミネートとなった「12モンキーズ」での汚れ役など様々なキャラクターに意欲的に挑戦しています。
「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」(09)、「マネーボール」でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされました。
02年には、ジェニファー・アニストン、パラマウントCEOのブラッド・グレイと共に製作会社“Plan B Entertainment”を立ち上げ、「ディパーテッド」や「食べて、祈って、恋をして」などを手掛けています。
ピーター・ブランド(ジョナ・ヒル)
インディアンスの元スタッフ。イェール大学卒業のインテリです。様々な統計から客観的に選手を評価する『セイバーメトリクス理論』を用いて選手を評価しています。
その理論を見込まれてインディアンスから、ビリーのアスレチックスへと引き抜かれます。
演:ジョナ・ヒル
2004年に映画「ハッカビーズ」でスクリーン・デビュー。その後「40歳の童貞男」や「無ケーカクの命中男/ノックトアップ」、「エバン・オールマイティ」に出演。
主役に抜擢された07年の「スーパーバッド 童貞ウォーズ」でブレイクします。
以降も「寝取られ男のラブ♂バカンス」「ナイト ミュージアム2」など多くのコメディ作品に出演。
一方、「ホートン ふしぎな世界のダレダーレ」「ヒックとドラゴン」「メガマインド」といったアニメ作品でボイスキャストを務め、活躍の場を広げます。
11年、ブラッド・ピット主演の「マネーボール」でデータ分析に長けた秀才を演じ、アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の助演男優賞にノミネートされました。
アート・ハウ監督(フィリップ・シーモア・ホフマン)
アスレチックスの監督。ビリーから固定観念にとらわれずにその選手のいい部分をフィーチャーした起用方法を指示されます。
「自分には自分のプランがある」と起用方法をなかなか変えませんでしたが、最終的にはビリーの方針に従います。
演:フィリップ・シーモア・ホフマン
91年のインディ作品「トリプル・ボギー」の端役で映画デビュー。
翌92年にコメディ映画「マイ・ニュー・ガン/あぶない若妻」や「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」といったメジャー作品への出演を果たします。
以降も「ハピネス」「マグノリア」「25時」「コールド マウンテン」など数々の話題作に出演、そのつど印象的な演技を披露し、演技派俳優としての評価を高めていきます。
05年には自ら初の製作総指揮も務めた作家トルーマン・カポーティの伝記映画「カポーティ」に主演。アカデミー賞をはじめその年の主演男優賞をほぼ総ナメにする大活躍で、一流ハリウッド・スターへと大きな飛躍を遂げます。
スコット・ハッテバーグ(クリス・プラット)
2002年開幕を指名打者として開幕を迎え、カルロス・ペーニャが1塁手として出場。
ペーニャをトレードで放出後は、1塁手としての出場が増え、当初、ぎこちなかった守備も平均水準以上といわれるようなります。
出塁率が高く、1打席あたりの球数も多いハッテバーグのプレイスタイルはレッドソックスでは評価されませんでしたが、アスレチックスでは高く評価されます。
演:クリス・プラット
NBCテレビのコメディドラマ『パークス・アンド・レクリエーション』(2009年 – 2015年)のアンディ・ドワイヤー役で人気を集めます。
映画では『ウォンテッド』(08)で、主人公の彼女を寝取る役を演じ、『マネーボール』(11)、『her/世界でひとつの彼女』(13年)などの話題作やアカデミー賞ノミネート作品に出演を重ねます。
2014年、ジェームズ・ガン監督のSF映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のスター・ロード役に主演。世界興行収入が7億ドルを突破する大ヒットとなり、一躍スターダムにのし上がります。
ケイシー・ビーン(ケリス・ドーシー)
元妻シャロンとの娘です。離れて暮らす今でも彼女の声だけがビリーの励みになっていました。
父へのバッシングに心を痛めていたケイシーに対して、「テレビは見るな、スポーツ新聞は読むな、インターネットにも接続するな」とビリーはアドバイスを送ります。
お返しにケイシーが披露してくれたのは、最近始めたというギターの弾き語りでした。
演:ケリス・ドーシー
テレビシリーズ「ブラザーズ&シスターズ」のペイジ・ウィドン役が有名です。
映画では『マネーボール』のビーンの娘ケイシー、『アレクサンダーと恐ろしい、恐ろしい、良くない、非常に悪い日』(14)のエミリー・クーパーを演じています。
また、「キムに言わないで」(16)、「トーテム」(17)、「ガンジャンプ」(20)などの出演があります。
基本情報
原作「マネー・ボール」
映画「マネーボール」は、マイケル・ルイスによるアメリカのノンフィクション本『マネー・ボール』が原作の映画です。日本語版の副題は「奇跡のチームをつくった男」です。
2000年代初頭のMLBでは財力のある球団とそうでない球団の格差が広がり、財力のない球団では勝利に貢献できる大物選手を抱えることが出来ませんでした。
しかも、自力でそのようなスター選手を育てたとしてもことごとく財力のある他球団に引き抜かれてしまう、という状況が続いていました。
このような財力のない球団のオーナーからは「もはや野球はスポーツではなく、金銭ゲームになってしまった」という声が上がっていました。
そんな中、リーグ最低クラスの年俸総額でありながら黄金時代を築いていたチームがありました。
ビリー・ビーンGM率いるオークランド・アスレチックスは毎年のようにプレーオフ進出を続け、2001年、2002年と2年連続でシーズン100勝を達成。
2002年には年俸総額1位のニューヨーク・ヤンキースの1/3程度の年俸総額ながらも全30球団中最高勝率・最多勝利数を記録しました。
「アスレチックスはなぜ強いのか?」多くの野球ファンが感じていた疑問の答えは、徹底した「セイバーメトリクス」の利用に基づくチーム編成でした。
この本では、有望選手として鳴り物入りでプロ入りしたビーンのプロ野球選手としての挫折、スカウトへの転身とセイバーメトリクスとの出会い、その後の物語を描いています。
映画「マネーボール」
実話との相違点
20連勝を達成した試合に関しては、試合展開も含めて事実に沿っていますが、それ以外のシーンにおいては若干の脚色が見られます。
主人公の ビリー・ビーンは妻と別れて一人娘がいる設定ですが、実際には、既に幼馴染で2人目の妻のタラと1999年に再婚しており、翌年には双子が産まれています。
ビリー・ビーンの補佐役でイェール大学卒業となっているピーター・ブランドのモデルは、ポール・デポデスタでありハーバード大卒です。
彼は、映画化にあたり、あまりに自分とは異なる外見の俳優がキャスティングされたこと、データおたくのようなキャラの描かれ方に納得できず、実名の使用を拒否しています。
ジェレミー・ジアンビやチャド・ブラッドフォードは映画序盤に他球団から獲得したように描かれていますが、実際には映画序盤に相当する時期にはすでに在籍しています。
映画化されるまで
『マネー・ボール』が出版された翌年の2004年に、ソニー・ピクチャーズが映画化の権利を獲得しました。
2008年11月になって、ブラッド・ピット主演、スティーヴン・ソダーバーグ監督で映画化が発表されましたが、クランクイン3日前に突然制作中止が決定。
制作中止の理由は、ソダーバーグが手を加えた脚本に制作側が難色を示したためだと言われています。
その後、しばらく音沙汰のない状態が続いていましたが、2009年12月、ベネット・ミラー監督の元で再始動が発表され、2011年9月23日に全米公開されました。
オークランド・アスレチックスの名物GMビリー・ビーンのチーム改革を描いたこの映画ですが、当初は映画化不可能と言われていました。
野球業界を取り上げたとはいえ、中心は野球における非効率な点やその検証、あらゆる場合のケーススタディや統計学を綴ったもので、物語性はまったく皆無。
しかし、この原作に登場する、統計学、データをもとにアスレチックスを改革したビリー・ビーンという人物に、プロデューサーのレイチェル・ホロヴィッツは注目しました。
「この映画は典型的な弱者のストーリー。彼らはどうやったら生き残れるか、どうやったら金持ち球団と互角に戦えるかと考えた」
「同じやり方ではなく、独自のスタイルを見つけなければと体制に闘いを挑んだ人たちを描いた映画なんだ」と、ブラット・ピットは言っています。
セイバーメトリクス理論とは?
この映画の要になっている「セイバーメトリクス理論」を解説します。
セイバーメトリクス理論
攻撃では、打率や打点、本塁打などの分かりやすい部分が評価されがちな世界で、ビーンたちは出塁率を重視します。
打撃や野手に対して重要視したのは、
出塁率が高い
長打率が高い
選球眼が良い
慎重性がある の要素で、安打数ではなく四球を含めて良く出塁する選手を評価し、
また、どんな手段でも出塁することを重視しました。
逆に重要視しない要素として、
バント・犠打は駄目
盗塁は駄目
打点・得点圏打率は偶然
失策、守備率は度外視 などの偶然や判定結果に左右されるものや自動的にアウトを献上する行為を排除していくという考えです。
投手で重要視した要素は、
与四球が少ない
奪三振をよく取る
被本塁打が少ない
被長打率が少ない という失点に結びつかない要素を重視しました。
逆に重視しなかった投手の要素は、
被安打の数
防御率・自責点
勝利数・セーブ
球速 などの、アウトに関係のない部分や投手個人による要素だけではないものを重要視しませんでした。
GMビリーの奮闘記
この映画は、GM(ゼネラルマネージャー)ビリーが、セイバーメトリクス理論を用いて、弱小球団アスレチックスを再建する実話に基づいた物語です。
勝利のために古い球団の体質にメスを入れていきますが、変化を好まない周囲と衝突をくり返します。
ビリーから引き抜かれたピーターは、アスレチックスに入社して早々、セイバーメトリクスを使って市場価値は低いが本来の価値が高い選手をピックアップします。
ビリーはスカウト達とのミーティングの場を設け、彼らの意見を無視してピーターが探した選手(ジャスティス、ジオンビ、ハッテバーグ等)を獲得する旨を伝え、スカウト達の猛反発を買います。
そして、いよいよシーズンが開幕しますが、アート・ハウ監督はビリーやピーターが補強した選手を使わずに自分のやり方で選手を起用し、チームは黒星を重ね続けてしまいます。
そんな状況にも関わらず、ロッカールームで馬鹿騒ぎをしていた選手たち見たビリーは、バットを振り回して激怒。静まりかった状態に、これが「敗者の音だ」と教えます。
いつまでも自分の起用方法を採用しないハウ監督に我慢が出来なくなったビリーは、ジオンビとペーニャを放出することをハウ監督に伝えます。
ペーニャがいなくなった一塁を当初の計画通りハッテバーグに守らせることを命じて、セイバーメトリクスを駆使したチーム改革を次々に実行していきます。
衝突にもめげずに自分の信じたことを遂行し結果を残し、そして、最終的に戦略の正しさを認めさせ現代野球の発展に大いに貢献したビリーの奮闘記です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は「マネーボール」をご紹介しました。
野球にかける想いやひたむきさ、そして、常識にとらわれない発想と行動力で、旧態依然とした球界に挑戦するビリーを応援したくなります。
そして、お父さんに小さな勇気を与えたケイシーの歌声が感動的です。
「セイバーメトリクス理論」は完璧ではなく、理論外の成功例も多くあります。また、従来の価値観と相反する部分もあり、批判的な声があるのも事実です。
しかし、資金力のない球団が戦うアイデアとしてビリーは実践し、結果を残しました。
また、最近はスポーツのあらゆるデータを見られる環境になっているので、ファンもデータを見て観戦を楽しむことができるようになりました。
「マネーボール」は野球観戦、スポーツ観戦の新しい価値観や楽しみ方という面でも爪痕を残した作品といえます。
また、この作品には「野球は詳しくないけど楽しめた」という感想・評価が多くあります。
それは、スポーツ映画というよりヒューマンドラマ的な要素が強いということ、それに加えて、ビジネス映画的な要素が強いからだと思います。
この映画を“野球に興味がないから”と敬遠してしまうのはもったいない傑作です。
監督 ベネット・ミラー
脚本 スティーブン・ザイリアン アーロン・ソーキン
原案 スタン・チャーヴィン(英語版)
原作 マイケル・ルイス『マネー・ボール』
製作 マイケル・デ・ルカ レイチェル・ホロヴィッツ(英語版)
製作総指揮 スコット・ルーディン アンドリュー・S・カーシュ シドニー・キンメル 他
出演 ブラッド・ピット ジョナ・ヒル フィリップ・シーモア・ホフマン
音楽 マイケル・ダナ
撮影 ウォーリー・フィスター
編集 クリストファー・テレフセン
製作会社 マイケル・デ・ルカ・プロダクションズ スコット・ルーディン・プロダクションズ 他
配給 〔アメリカ〕 コロンビア ピクチャーズ 〔日本〕ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公開 〔アメリカ〕 2011年9月23日 〔日本〕 2011年11月11日
上映時間 133分
製作国 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $50,000,000
興行収入 〔世界〕 $110,206,216 〔アメリカ〕 $75,605,492