「マイノリティ・リポート」は、巨匠スティーヴン・スピルバーグとハリウッド屈指のスター、トム・クルーズが初めてコンビを組んだ2002年のアメリカ映画です。
SF作家フィリップ・K・ディックの短編小説『マイノリティ・リポート』を映画化しています。
西暦2054年。ワシントンDCでは予知能力者を利用して凶悪犯罪を予知する画期的なシステムが開発され、犯罪予防局が犯人を事前に逮捕することで、犯罪件数は激減していました。
そんなある日、犯罪予防局の凄腕捜査官ジョン・アンダートンは、自分が36時間後に殺人事件を起こすと予知されたことを知ります。
しかもその被害者となるのは、ジョンとは全く面識のない見ず知らずの男。同僚たちから追われる身となった彼は、真相を解明して自らの容疑を晴らすべく奔走します。
共演は「S.W.A.T.」のコリン・ファレル、「ギター弾きの恋」のサマンサ・モートン、「エクソシスト」のマックス・フォン・シドーです。
今回はスピルバーグとトム・クルーズの大物コンビによる近未来SFサスペンス「マイノリティ・リポート」のあらすじ、キャスト、見どころなどをご紹介します。
Contents
あらすじ
西暦2054年。ワシントンD.Cの殺人発生率は0%になっていました。
プリコグと呼ばれる預言者の3人による殺人予知システムを構築していたのです。
具体的なシステムの内容は、預言者であるプリコグの3人が殺人事件を事前に予知し、それに基づいて犯罪予防局の刑事たちが事件を未善に食い止めるというもの。
犯罪予防局のジョン・アンダートンは、6年前に息子を殺害された過去から、この犯罪予防システムに執心するようになります。
ある時、プリコグの1人アガサが突然過去の事件の映像を見せてきました。それはエコーと呼ばれる現象で、調べてみるものの結局この映像の正体はわかりませんでした。
後日、プリコグたちが新たな殺人事件を予知します。その内容はジョンが全く知らない男を銃殺するというものです。
信頼する部下の男性から「2分待って警報を鳴らす」と言われたジョンは、犯罪予防局から逃走を図りました。
ジョンは、犯罪予防局のシステムを考案したアイリス・ハイネマン博士のところへ行きました。
ハイネマン博士は初老の女性です。ジョンを家に招き入れたハイネマン博士は、システムは偶然発見したと言いました。
ハイネマン博士は麻薬患者の子供のDNA研究をしていました。今ではその麻薬は精製されて、インテリもたしなむ一品となっています。
麻薬患者の子供の多くは、脳に障害がありしかも短命でした。寿命が12歳といった中、生き延びたごく少数の子が驚くべき能力を持っていたことを彼女は発見します。
それがプリコグ誕生のきっかけでした。夜中に殺人の夢を見て泣きながら起きる子供を見て、その殺人が実際に起きていることだと知ったハイネマン博士は、3人のプリコグで犯罪を予知する仕組みを作りました。
但し3人の見たイメージが完全に一致する場合のみが保存され、少数派の意見(マイノリティ・リポート)が破棄されることを知るのは、博士とラマー局長のみです。
予知能力者のアガサには、母親を殺された過去があり、彼女の不審な残像はそれが原因ではないかとジョンは考えます。
また、彼女を連れ出し、なぜ自分が犯罪を起こすことになるのかを探ります。そして、彼女の予測からその被害者となりうる人物は、かつて息子誘拐し、殺した男であることがわかります。
そして、ジョンは犯罪予測時間に、クロウと対面します。憎しみが込み上げたジョンは、彼を殺そうとしますが、彼は息子のかつての言葉を思い出し、冷静になることができました。
まさしくマイノリティ・リポートに記すべきことが、彼に起こり殺人を踏みとどまります。
しかし、クロウは「自分を殺してくれなきゃ家族に保険金が降りない」とわめき、無理やり自分を撃たせます。クロウも何者かに利用されていたのでした。
ジョンは当局に身柄を拘束されてしまいます。ジョンの妻だったララは、顛末を聞きラマー局長にジョンを助けてくれるよう頼みます。
ララを励ますラマー局長でしたが、ララは犯人しか知りえない情報をラマー局長が口にしたことを不審に思います。彼女は本当の黒幕の正体がラマー局長だったことに気づきます。
隙をぬってそのことをジョンに伝えました。ラマー局長は自分が作り上げたシステムを守るため、ジョンを嵌めたのでした。
局長は予知能力のあるアガサを手に入れるため、彼女の母親を殺した過去がありました。ジョンに真実を暴かれるのではないかという危惧から、彼を抹殺しようとしたのでした。
ラマー局長は、真実を口にして拳銃自殺しました。
今回の件を受けて、未来は変えられること、つまりは「予知された殺人の全てが実行されるとは限らない」ということが判明します。
犯罪予知システムは廃止され、捕まっていた囚人は免罪になり解放されました。但し、一部の囚人は警察の監視下に置かれます。(いわゆる危険人物)
ジョンとララは復縁し、ララは妊娠しました。
3人のプリコグ…双子のアーサーとダシール、アガサは秘密の某所に移され、能力の重荷から解かれて、田舎の小さな小屋で安らかな日々を送りました。
キャスト
ジョン・アンダートン(トム・クルーズ)
犯罪予防局の捜査官。部下や局長のバージェスからの信望は厚く、チーフを務めています。
6年前に息子が何者かに連れ去られる経験をしたことから犯罪を憎み、仕事に情熱を燃やしています。
一方、息子を失った痛手から立ち直っておらず、薬物を常用し、夜になると自宅で息子や別居中の妻との幸せだった日々のホログラムを見ています。
演:トム・クルーズ
81年「エンドレス・ラブ」で映画デビュー。その後、「タップス」、「アウトサイダー」、「卒業白書」などで徐々に頭角を現し「トップ・ガン」の大ヒットと共にブレイクします。
「レインマン」、「ア・フュー・グッドメン」など演技者としての力も確実に付け、「 7月4日に生まれて」ではアカデミーとゴールデングローブ賞の主演賞にノミネートされ、「ザ・エージェント」ではゴールデングローブ賞を受賞。
1996年の『ミッション:インポッシブル』で初めて映画プロデューサー業にも進出します。
この作品で主演を務めたことで彼のキャリアの中で転換期を迎え、以降はアクション映画にも多数出演するようになりました。
ダニー・ウィットワー(コリン・ファレル)
司法省の役人。3年間神学校に通っていたことや、殺人課に所属していたことを自ら語っています。
犯罪予防局のシステムの違法性について調べに来ます。司法長官の直接の指揮下にあり、権限によってプリコグたちのいる“聖域”に立ち入って調査を行っていきます。
演:コリン・ファレル
「タイガーランド」(00)でハリウッド・デビュー。演技が高い評価を受け、ボストン批評家協会賞主演男優賞を獲得するなど期待の若手俳優としてでも注目の存在となります。
続く「アメリカン・アウトロー」「ジャスティス」を経て、02年「マイノリティ・リポート」でトム・クルーズの相手役をみごとに演じ切り、ハリウッド・トップ・スターの仲間入りを果たします。
その他にも「S.W.A.T.」「リクルート」とヒット作に立て続けに出演、ハリウッドでの人気を不動のものとしています。
アガサ(サマンサ・モートン)
予知能力を持つプリコグの1人。3人のプリコグの中で最も能力が高く、薬物中毒の子どもとして産まれました。
森で溺死する女性のビジョンを繰り返し見ており、ジョンにもその映像を見せます。女性はアン・ライブリーという名前で、アガサの母親であることが明らかになります。
演:サマンサ・モートン
97年、カリーヌ・アドラー監督の「アンダー・ザ・スキン」で映画デビューを飾ると、いきなりボストン映画批評家協会賞の主演女優賞に輝くなど一躍国際的な注目を集めます。
ギター弾きの恋」(99)でショーン・ペンの相手役を見事に務め上げ、アカデミー賞の助演女優賞にノミネート。その後も順調にキャリアを重ねます。
「マイノリティ・リポート」以外にも「モーヴァン」、「イン・アメリカ/三つの小さな願いごと」などにも出演ハリウッドでの地位を確かなものとします。
ラマー・バージェス局長(マックス・フォン・シドー)
犯罪予防局の局長。犯罪予防システムを作り上げた人物で、全国への適用の賛否を問う投票が近づく中、司法省がシステムを奪うことを警戒しています。
ジョンの相談相手でもあり、アン・ライブリー事件の映像が失われていることをジョンから相談されます。
演:マックス・フォン・シドー
55年に映画監督イングマール・ベルイマンと知り合い、「第七の封印」に出演。以降、ベルイマンとは多くの作品でコンビを組み、共にスウェーデンを代表する映画人となります。
65年の「偉大な生涯の物語」でアメリカに進出。神秘的な風貌と高い演技力により、「さらばベルリンの灯」で高い評価を得ます。
その後も多くの作品に出演し、「エクソシスト」のメリン神父役や「コンドル」の殺し屋などで強い印象を残しています。
エディ・ソロモン医師(ピーター・ストーメア)
ジョンの眼球移植を引き受ける闇医者です。かつては整形外科医で、ジョンによって逮捕されて刑務所に入れられていました。
詳細は明かされませんが、患者に火をつけてその様子を撮影したことが語られます。眼球移植手術は刑務所の図書館で勉強したと言います。
演:ピーター・ストーメア
その容貌から悪役を演じることが多いですが、シェイクスピア俳優としても有名です。
スウェーデンでは王立劇場に所属し、イングマール・ベルイマンが演出した『ハムレット』『リア王』『夜への長い旅』に出演しました。
他には『ドン・ファン』『シラノ・ド・ベルジュラック』『ラスプーチン』等の舞台に出演した。その時に日本語もマスターしています。
東京グローブ座では1988年に『ハムレット』の舞台に立ち、1990年の『夏の夜の夢』『間違いの喜劇』では舞台演出家として活躍しました。
基本情報
巨匠スティーヴン・スピルバーグ
1969年にプロ監督として初めて手掛けた作品は、ロッド・サーリングが脚本を手掛けたテレビシリーズ『四次元への招待』パイロット版の一編「アイズ」。
テレビ映画として撮った『激突!』が評判を呼び、海外で劇場公開されたことで、スピルバーグの名が世界に知られるようになります。
その後、「ジョーズ」(75)、「未知との遭遇」(77)、「レイダース 失われたアーク」(81)、「E.T.」(82)など発表する作品が次々と記録破りの大ヒットとなります。
93年には「ジュラシック・パーク」が自身最高の世界興行収入を記録し、「シンドラーのリスト」でアカデミー作品賞と監督賞を受賞。名実ともにハリウッドのトップに立ちます。
以降も94年に映画スタジオ、ドリームワークスSKGを設立するなど映画業界をリードし、「プライベート・ライアン」(98)では2度目のアカデミー監督賞を受賞しました。
その後も「ミュンヘン」(05)、「リンカーン」(12)、「ウエスト・サイド・ストーリー」(21)でもアカデミー監督賞にノミネート。
1980年代から90年代、00年代、10年代、20年代の各年代でアカデミー監督賞にノミネートされており、世界最高のヒットメーカーの1人として挙げられています。
「マイノリティ・リポート」の見どころ
プリコグが新しい殺人事件を予知します。いつもと同じように、プリコグが見た映像を使って分析するジョン。しかし、スクリーンには驚くべき映像が映し出されます。
それは、ジョン自身が男を撃ち殺す映像でした。さらに、ジョンが加害者であることが記されたボールが出てきます。動揺するジョンは何度も繰り返し映像を確認します。
殺人犯であることが予知されたジョン。動揺するジョンは、犯罪予防局から逃げ出しますが、虹彩認証によって、電車に乗っても、車に乗っても居場所が特定されてしまうのです。
殺人を犯すことを予知されたジョン。しかし、予知された殺害相手であるレオ・クロウは見知らぬ人物であり、ジョンには心当たりがまったくありません。
予知が間違っていると考え、自分が殺人を犯さない「マイノリティ・リポート」を探しますが、「マイノリティ・リポート」は存在しません。そしてジョンは、予知された映像で自分がレオ・クロウを殺すホテルにたどり着きます。
レオ・クロウの部屋にやって来たジョンは、ベッドの上に多くの子どもの写真が散らばっているのを発見します。
そして、ジョンは6年前に何者かに連れ去られた息子ショーンの写真もあることに気づきます。姿を現したクロウに襲いかかるジョン。
予知は合っていたことを確信したジョンは、銃をクロウに向けます。止めるアガサ。ジョンは何とか思いとどまり、犯行を犯すはずの時間が過ぎます。
するとクロウが「殺してくれ。殺してくれなきゃ、俺の家族に金が払われない」と言い出します。
「あんたの子を殺した振りをすれば」という発言で、ジョンは殺人が何者かによって仕組まれたものだと知ります。
最先端のガジェット
劇中で注目されるのは、登場している数々のガジェットです。
空間で手を動かすことで自在に操作できる映像ソフト、磁気で浮く完全自動操縦の車、警察用ジェットパック、音声を認識する家具と、スピルバーグ監督らが想像した近未来の科学がギュッと詰め込まれています。
最先端のガジェットが描かれる一方で、近未来SF映画では定番の、ワープ技術やタイムトラベルなどは描かれていません。
そのため劇中に登場する技術は「夢のような遠い存在」ではなく、今の生活の延長線上にある「将来開発されうるもの」かのように想像が膨らみます。
実際、劇中の技術は、「最高のSFは事実や未来の事実に基づいている」と考えたスピルバーグ監督によって集められた全米の専門家たちよって生み出されています。
網膜や虹彩といった瞳を使った生体認証は、スマートフォンのロックシステムにも取り入れられるほど身近な存在になり、個人に向けて展開される広告はインターネットを開くたびに常に見られるようになりました。
遺伝学的なミスと科学が絡み合って偶然誕生したとされるプリコグ(未来予知者)以外の技術は、理論的に可能なものばかりなのです。
『マイノリティ・リポート』トリビア
シュワルツェネッガー×バーホーベンの企画だった?
原作はSF作家フィリップ・K・ディックの短編小説『マイノリティ・リポート』
この小説にまず目を付けたのは、同じくフィリップ・K・ディック原作の『トータル・リコール』(90)を大ヒットさせた脚本家ゲイリー・ゴールドマンとロナルド・シュゼットのコンビです。
90年代初頭、2人はポール・バーホーベン監督×アーノルド・シュワルツェネッガー主演でもう一本作る際の原作にこれを使おうとしていました。
それは『トータル・リコール』の続編企画なのか、それとも単独作品のつもりだったのかは分かりませんが、いずれにせよシュワルツェネッガーが態度を鮮明にしなかったため企画は前進しませんでした。
監督と主演のギャラは?
スピルバーグは自分が18年間、前金をもらっていないことを引き合いに出し、トム・クルーズにも同じことを要求しました。
報道によると、前金をもらわない代わりに興行収入の15%を報酬とすることでスピルバーグ、トム・クルーズ共に合意したとされています。
全世界の興行収入が3億5,800万ドルを超えた『マイノリティ・リポート』ですが、2人の報酬はいくらだったのでしょうか。
23人の未来人を組織
2054年の世界を構築するため、スピルバーグは哲学者、科学者、デザイナー等からなる“未来人”23人を組織し意見を出し合いました。
サイエンス・フィクションの世界ではなく現実に即した未来を描きたかったのです。
スピルバーグが招集した23人全員が将来プライバシーを守られなくなることを懸念しています。彼らは建築、経済、政治及びあらゆる観点から2043年の世界を構築。
80ページからなる「2043年バイブル」と呼ばれる本を編纂し、映画の世界観に矛盾が生じないようにスタッフの手元に置かれ使用されました。
プロダクト・プレイスメント
「プロダクト・プレイスメント」とは映画作品の中に特定の企業の商品を登場させることをいいます。
企業は宣伝効果を狙って製作費を出資したり作品のタイアップを行ったりと、近頃ではハリウッド映画の常識となっています。
トム・クルーズ扮する主人公が乗る車は2054年型のレクサス、ヘッドセットは携帯会社のノキア製です。
レクサスを開発したトヨタは本作に500万ドル、ノキアは200万ドル出資しています。
他にもギャップ、ペプシ、アメリカン・エキスプレスと多くの企業が「プロダクト・プレイスメント」契約を結んでいるそうです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は「マイノリティ・リポート」をご紹介しました。
この作品はSFでもありサスペンスでもあります。序盤からグイグイ引き込まれていきます。
スピルバーグが、現実味ある未来世界の構築を目指し「全米の知能を結集させて作り上げた」というさまざまな未来技術が登場します。
しかも、それらのガジェットはいずれも美しくデザインされていて「使ってみたい」と感じさせるものばかりです。
そして、主演のトム・クルーズの存在感はさすがです。彼のカッコよさ、魅力も作品をよくしている大きな要素だと思います。
ただ、脚本も凝っていますが、あれこれ詰め込みすぎているので、後から「このシーンの詳細はなんだっけ?」ということがいくつかありました。もっとシンプルにしてもよかったのではと思います。
SF作品なので設定にツッコミどころはありますが、純粋に楽しめる娯楽作品です。
監督 スティーヴン・スピルバーグ
脚本 ジョン・コーエン スコット・フランク
原作 フィリップ・K・ディック『マイノリティ・リポート』(旧題:『少数報告』)
製作 ボニー・カーティス ジェラルド・R・モーレンヤン・デ・ボン 他
製作総指揮 ゲイリー・ゴールドマン ロナルド・シャセット
出演者 トム・クルーズ コリン・ファレル サマンサ・モートン
音楽 ジョン・ウィリアムズ
撮影 ヤヌス・カミンスキー
編集 マイケル・カーン
製作会社 ドリームワークス 20世紀フォックス クルーズ/ワグナー・プロダクションズ
配給 20世紀フォックス
公開 〔アメリカ〕 2002年6月17日 〔日本〕 2002年12月7日
上映時間 145分
製作国 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $102,000,000
興行収入 〔世界〕$358,372,926 〔アメリカ・カナダ〕$132,072,926