「パブリック 図書館の奇跡」は、エミリオ・エステスが主演に加えて監督・脚本・製作も手掛けた社会派ハートフル・ドラマです。
公共図書館を舞台に、寒さから逃れるために図書館を占拠したホームレスたちと、彼らの強制排除に乗り出した警察との板挟みになった図書館員の奮闘を描いています。
共演は、アレック・ボールドウィン、テイラー・シリング、クリスチャン・スレーター、ガブリエル・ユニオン、マイケル・K・ウィリアムズなどです。
今回は2018年のアメリカ映画「パブリック 図書館の奇跡」のあらすじ、キャスト、映画の制作された背景などをご紹介します。
Contents
あらすじ(ネタバレあり)
アメリカ・オハイオ州シンシナティ。
スチュアート・グッドソンは、シンシナティ公共図書館で働く男性職員です。
今年の冬、シンシナティを大寒波が襲っています。図書館は無料で開放されることもあり、開館前からホームレスが列を作って待っている状態でした。
ホームレスのメンバーと顔なじみになっているスチュアートは、彼らの横を通って図書館へ入ると開館の準備をします。
図書館に入ってきたホームレスたちは、施設を有効活用します。洗面所では髭を剃り、館内にあるパソコンを利用してネットを閲覧し、エアコンの利いた室内でゆったり過ごします。
トイレを利用したスチュアートは、手を洗うためにホームレスの間をかき分けねばなりませんでした。
ホームレスたちの対応に追われていたスチュワートは、館長のアンダーソンから会議室に呼び出しを受けました。
スチュワートは同じく呼び出しを受けた警備員のエルネストと共に会議室に入ると、そこに来ていた検事のデイビスがスチュワートとエルネストが告訴されていると告げました。
夜、スチュワートがアパートに帰ると、管理人のアンジェラが暖房器具を乱暴に修理していました。
2人はスチュワートが育てたハーブとトマトをトッピングしたピザを食べながら、お互いの話をします。似たような境遇であることが分かり、惹かれ合って夜を共に過ごします。
翌朝、アンジェラはスチュアートに図書館へ顔を出すと言います。
その夜、ホームレスは図書館の閉館時間になっても帰りません。そして、リーダー格のジャクソンから、このままでは凍死するため、このフロアを占拠すると宣言されます。
この日は記録的な大寒波がシンシナティに到来しており、市が用意した緊急避難用シェルターも既に満杯になっていました。
スチュワートはアンダーソンに、ホームレスたちに寛大な措置を取るよう求めましたが、アンダーソンは告訴の件もあり、あまり目立つマネをしてくれるなと消極的でした。
スチュワートは独断でホームレスの願いを聞き入れ、3階に立て籠もることを決意しました。
70数名のホームレスは、本棚で入り口にバリケードを築きます。間もなく警察が到着し、ビル刑事やデイビス検事もやって来ます。
ビル刑事に要求を聞かれたスチュアートは、あくまで今夜寝る場所が欲しいだけなのだと話します。
ホームレスが利用するシェルターが不足していることも告げ、その代わりになる施設が提供されるなら封鎖を解除すると話しました。
スチュアートを罵倒するデイビスに、「上着を脱いだ状態でコンクリートに5分間寝転がってみろ」と言います。
それをマスコミに目撃されたデイビスは、「図書館員が70数名の利用客を監禁し、施設を封鎖している」と言い、スチュアートが犯人のような言いぐさがテレビで流されます。
図書館へ顔を出そうと、アンジェラも図書館の外へ来ていました。彼女はマスコミと警官隊が図書館を取り巻いているのを見て、不審に思いスチュアートに電話します。
外の報道と実情に違いがあると知ったアンジェラは、動画を送ってくれれば、自分がマスコミに説明すると言ってくれました。
そんな時、図書館内で発作を起こしたホームレスがいました。スチュアートは救急車とほかのホームレスのためにピザの差し入れを要求します。
警察サイドがスチュアートを調べると、たくさんの小さな前科があることが発覚します。まるでホームレスだと話す声に、アンダーソン館長が「そのとおりだ」と認めました。
実は、スチュアートはアルコール依存症の元ホームレスだったのです。スチュアートは断酒して勉強もして司書の資格を取って、現在の地位にあるのだと館長は話しました。
スチュワートは篭城するホームレスたちの様子を撮影しました。それは暴動などではなく、暖房の効いた室内で寛ぐ姿です。
ジャクソンは俺たちの存在を世に知らせたいと言い、「声を上げろ」と仲間に呼び掛けます。
ピザが届きますが、膠着状態は依然続いていました。デイビスが力ずくで制圧すると言うと、主任は反発。「公立図書館は民主主義の最後の砦だ」と言い、立て籠もりに加わります。
スチュワートは電話インタビューに応じ、図書館占拠の理由を訊かれると“アメリカ文学の巨人”ジョン・スタインベックの代表作『怒りの葡萄』の一節を引用しながら語り出しました。
スタインベックを知らないリポーターがスチュワートの意図を理解できずにいると、スタインベックの大ファンであるマイラが「小学生になったら必ず読む本よ」と説明しました。
図書館の外には、放送を見た市民たちが、救援物資を持って集まり始めました。長期戦はよくないと考えた警察サイドは突入を考えます。
スチュアートも、警察が突入するだろうと踏んでいました。取り押さえられるのではなく別の解決法をと考えた彼は、室内にある監視カメラをふさぎ見えなくしました。
内部の様子が分からなくなったので、警官隊は突入の準備を進めます。その時、先に図書館の方から封鎖が解かれました。
開けた扉には、スチュアートはじめ全裸のホームレスたちが立っていました。
スチュアートたちは全員で、歌をうたいはじめました。『I Can See Clearly Now』という有名な曲です。
曲を熱唱しながら両手を上げ、ホームレスたちは投降しました。スチュアートは逮捕され、あとのみんなは整然と収容されるバスに乗り込みます。
スチュアートはアンダーソン館長に巻き込んだことを謝罪しますが、館長は「後悔はない」と答えました。
スチュアートもホームレスたちと同じバスに乗せられ、護送されます。そのバスの窓越しにアンジェラが「留置所に服を持っていく」と声をかけました。
キャスト
スチュアート・グッドソン(エミリオ・エステベス)
シンシナティ公立図書館の図書館員です。ホームレスの占拠に協力し、検事の陰謀で人質事件の首謀者に仕立てられます。
かつてはホームレス生活をしていましたが、本のおかげで人生をやり直せたという過去があります。家庭菜園が趣味です。
演:エミリオ・エステベス
俳優マーティン・シーンの長男。弟はチャーリー・シーンとラモン・エステヴェス。妹はレネ・エステヴェスです。
幼い頃から俳優を目指し、16歳の時から演技活動を開始。高校卒業後、TV出演が始まり、82年「テックス」で映画デビュー。
その後も「アウトサイダー」、「セント・エルモス・ファイアー」などに出演し、若手スター・グループ、“ブラット・パック”の中心人物となります。
86年には「ウィズダム/夢のかけら」で初監督。以後も多くのメジャー作品で活躍します。
ビル・ラムステッド(アレック・ボールドウィン)
シンシナティ警察の交渉担当。図書館の占拠を担当。プライベートでは薬物中毒の息子が失踪中という問題を抱えています。
演:アレック・ボールドウィン
80年、TVドラマでデビューした後、舞台を中心に出演。86年にはシアター・ワールド賞を受賞。同年「ウーマン・イン・ニューヨーク」で映画デビュー。
90年の「レッド・オクトーバーを追え!」でCIAアナリスト、ジャック・ライアンを演じて一躍注目されます。
一方舞台出演も積極的で『欲望という名の電車』は後にTVMにもなり、トニー賞候補になります。
また、90年には後に映画化された舞台「キスへのプレリュード」にも出演してオビー賞を受賞。近年は悪役にも挑戦して評価を得ています。
マイラ(ジェナ・マローン)
たまたま占拠に居合わせた図書館員。エコ派でバス通勤、自然食品を愛好、愛読書はスタインベックの「怒りの葡萄」です。
演:ジェナ・マローン
96年、「冷たい一瞬(とき)を抱いて」で映画デビュー。児童虐待の被害を受ける悲惨な境遇の少女を熱演。高い評価を受けハリウッド期待の子役として注目されます。
97年には「コンタクト」でジョディ・フォスター演じるヒロインの少女時代を演じてサターン賞の最優秀子役賞を獲得したほか、TVムービー「HOPE/愛が生まれる町」に主演。
ゴールデングローブ賞のTVムービー/ミニシリーズ部門の主演女優賞にノミネートされる活躍を見せます。
その後も「グッドナイト・ムーン」(98)、「海辺の家」(00)、「16歳の合衆国」(02)と出演作が続き、印象的な演技を披露、名子役から実力派女優へと着実な成長を遂げています。
アンジェラ(テイラー・シリング)
占拠前夜にスチュワートと恋人同士になるアパートの管理人。図書館の外から占拠の様子を見守ります。アルコール依存症を克服中です。
演:テイラー・シリング
2007年「アフター・ザ・レイン」で映画デビュー。2009年のテレビドラマ「マーシー・ホスピタル」でシリーズレギュラーのヴェロニカ・キャラハン役を演じました。
ネットフリックスのオリジナルドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』(13)のパイパー・チャップマン役でブレイク。
映画では「一枚のめぐり逢い」(12)、「ファミリー」(12)、「ブロディッジー」(19)などへの出演があります。
ジョシュ・デイビス(クリスチャン・スレーター)
地方検事です。次の市長選挙に立候補していますが、人望がないため圧倒的に不利な状況です。占拠事件に食い込んで、世間の注目を集めようとします。
演:クリスチャン・スレーター
幼い頃から芸能界に身を置き、7歳でTV出演。9歳でブロードウェイの舞台にデビューしています。
映画デビューは85年、「ビリージーンの伝説」からで、以後は86年「薔薇の名前」で注目され、以降アクション、コメディ、ロマンスにシリアス・ドラマと多彩に演じ分け実力を発揮しています。
基本情報
アメリカのホームレス問題
2018年の推計によれば、アメリカでは55万人超がホームレスを経験。別の調査によるとホームレスの4人に1人は無職ではないとされています。
ホームレスの割合が特に高いのは、カリフォルニア州、ニューヨーク州、ハワイ州、ワシントンDC。ホームレス比率の高い上位10州のうち8州が、全米でも最も住宅費の高い地域となっています。
ロサンゼルス市では、住宅供給などホームレス支援を拡充するため、増税案が可決されました。
また、サンフランシスコ市では顧客情報管理大手セールスフォースのベニオフCEOが、ホームレス支援策の財源とするため法人売上高への課税を提案しています。
財源を増やす必要は確かにありますが、支援策を効果的なものとするには、政策担当者がホームレスの状況を正確に把握していなければなりません。
全米3007郡のうち、連邦最低賃金の時給7.25ドルで働いてワンルームの家賃が賄える場所は12郡にしかありません。
住宅価格の中央値が150万ドルというサンフランシスコの場合、最低賃金で働くシングルマザーが生きていくには週に120時間働かなければならない計算になります。
また、アメリカでは3分の2近くの世帯が500ドルの突発的支出に備えた貯金すら持っておらず、ちょっとした不運が起きただけでホームレスとなりかねない状態です。
国民が路上に放り出されるのを防ぐセーフティネットも複雑な手続きのせいで、利用を事実上阻まれるケースがかなりの割合に上っているようです。
住宅供給の拡大は対策の第一歩として不可欠ですが、人々がホームレスとなる要因は複雑であり、さらに多くの手を打つ必要があるといえます。
「I Can See Clearly Now」
まず、驚かされるのは、舞台となるシンシナティの公共図書館で突如歌い出す裸の男性が出現するシーンです。
静かな場所あるはずの図書館のどこからか大ボリュームの歌声が聞こえはじめます。そして、館内は笑いを伴いつつも騒然とします。
異変に気づき、声の元を辿る図書館員のグッドソンとマイラ。外を望む大きな窓があるフロアに着くと、そこには全裸の男性が熱唱しているのです。
マイラは果敢に「服を着てください」と注意します。それでもお構いなしで歌い続ける男性。騒ぎをきき駆けつけた図書館の警備員と、常連のホームレスたち。
歌っている曲は、『クール・ランニング』でおなじみの大ヒットソング「I Can See Clearly Now」。
おかしな来館者に関わりたくないグッドソンは、警備員に対処を頼みますが、「裸の男との絡みは職務に含まれない」とあっさり断られてしまいます。
それでも歌い続ける全裸の男。意を決して警備員のひとりが「あの、すみません」と話しかけると、男性は意識を失い倒れてしまいます。
思わず笑ってしまう場面ですが、同時に、「公共」の場である図書館だからこそ、あらゆる人が訪れるということをストレートに感じさせてくれるシーンです。
「図書館は民主主義を守る最後の砦」
作中の「図書館は民主主義を守る最後の砦」というセリフが印象に残ります。
図書館はだれもが情報にアクセスできる自由を保証しています。移民によって発展したアメリカでは、言葉を学んだり、知識を得るために図書館は大きな役割を果たしてきました。
その図書館が今、全米でホームレスたちのたまり場となっています。そして、行き場のないホームレスの生命を守る最後の砦になっていることがこの作品では描かれています。
大寒波に襲われた街で、ホームレスのシェルターも全く足りない状況で、行くあてのないホームレスたちが図書館を占拠。
今追い出されたら寒さで死んでしまうという状況で、図書館司書たちは彼らとともに図書館に立てこもります。検察は法を執行しようと彼らを追い出そうとします。
表現の自由や情報アクセスの自由を守るだけでなく、図書館は今、貧困で家を無くした人々の命をも守っている、タイトルの「パブリック」のあるべき形が描かれています。
映画はスチュアートが図書館員としての責任を真っ直ぐに果たす姿を描いています。そして、冒頭の「図書館は民主主義を守る最後の砦」をそのままにホームレスを守ります。
しかし、検察官の偏った主張やメディアの勝手な思い込み報道から、スチュアートは過激な容疑者に仕立てられ、社会に向けた平和的な抗議デモは、人質立てこもり事件へ捻じ曲げられてしまいます。
そして、警察、検察などが力によってこの占拠を鎮圧させようとする中、ホームレスたちとスチュアートの勇気がひとつの奇跡を起こします。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は「パブリック 図書館の奇跡」という作品をご紹介しました。
監督のエミリオ・エステベスが、ある公共図書館が実質ホームレスの避難所となっているという実話から着想を得て作られた作品です。
前述したようにこの映画は、アメリカの「ホームレス」という深刻な問題を扱った作品です。
自分は弱者になんか絶対にならないと思っている人が多いと思います。しかし、ホームレスの人のほとんどが昔は仕事を持っていたし、家族もいた、家も持っていたのです。
離婚、家庭内暴力、虐待といった家庭環境、または経営失敗、リストラ、借金などの金銭的問題は、誰にでも起こりうる問題で、現代社会に住む私たちは簡単に弱者(ホームレス)になりかねないのです。
映画「パブリック 図書館の奇跡」は、普段はホームレスのことなんて考えたことがない、そんな私たちに対して問題提起をしてくれています。
日本はどうでしょうか?約6人に1人が相対的貧困である日本は、路上生活者を「見えない人」として扱っているような感じを抱きます。
災害の時に、路上生活者の人が避難所に入ることを拒まれた問題が起きました。
自己責任論が強まり、個人主義や削減されるセーフティネットからあぶれた人たち、「見えない人たち」を排除しようとする姿勢が見受けられるような気がしています。
テレビの女性レポーターが言う通り、篭城事件のラストは機動隊が突入して悲劇で終わるのが一般的ですが、この映画は素っ裸という意表を突いた作戦により、負傷者ゼロで終わるという奇跡が起きます。
実際にこんな事件が起きたら、全員無傷という訳にはいかないでしょうが、映画だからできるハートフルな展開です。
「ホームレス」という誰にも答えが出せないようなヘビーなテーマを、真正面から切り込むといったものではありませんが、とても分かりやすく面白く描かれた作品です。
監督 エミリオ・エステベス
脚本 エミリオ・エステベス
製作 エミリオ・エステベス アレックス・レボヴィッチ スティーヴ・ポンス
製作総指揮 クレイグ・フィリップス リチャード・ハル ジャネット・テンプレトン 他
出演者 エミリオ・エステベス アレック・ボールドウィン クリスチャン・スレーター
音楽 タイラー・ベイツ
撮影 フアン・ミゲル・アスピロス
編集 リチャード・チュウ
製作会社 Hammerstone Studios Living the Dream Films E2 Films
配給 〔アメリカ〕 グリニッジ・エンターテインメント(英語版)
公開 〔アメリカ〕2019年4月5日 〔日本〕 2020年7月17日
上映時間 119分
製作国 アメリカ合衆国
言語 英語
興行収入 〔アメリカ・カナダ〕 $573,503 〔世界〕$644,740