音楽療法士について

音楽療法士について

疲れた時や悲しい時、音楽に癒された経験がある人は多いのではないでしょうか。
音楽療法の起源は紀元前5000年の古代エジプトにまでさかのぼります。
当時の人々は音楽を「魂の薬」と認識し、音楽によって病気を癒していたといいます。
今日の音楽療法は、先の世界大戦の折に兵士を慰問した米国の音楽グループを源流としています。現代の医学の観点からは、音楽を聴いた時や演奏した時の自律神経系への影響が認められ、ケースによるものの一定の効果があると考えられているようです。
今回は、この音楽療法を手掛ける音楽療法士という資格を紹介します。

適用する仕事

音楽療法士の活躍の場はさまざまですが、現在は発達障害を抱える幼児・児童向けの通所サービスや、障害者支援施設、高齢者施設などで需要が高まっているようです。
また、医療関係ではリハビリテーションや緩和ケア、小児医療などでも音楽療法を取り入れています。
そのほか、特別支援学校などで働く音楽療法士もいます。

音楽療法を受ける人

現在は利用者が音楽に触れる時間を作っている施設も多く、特に児童向けサービスや高齢者施設では合唱や手拍子、体操などの集団療法が積極的に取り入れられています。

家族と離れて暮らす高齢者などは気分が沈んでしまうことも少なくありません。
こうした集団療法には、音楽を介して周囲の人との関わりを増やし、孤独感を癒す目的もあります。

また、各利用者・患者に合った方法を模索しながらじっくりと向き合う個人療法を行うケースもあります。思うように身体を動かせない、集団の中に入っていくのが難しい人に提供することが多いようです。

おおよその年収とキャリアパス

正社員として採用される場合は、福祉施設であれば250万円程度からのスタートになると見ていいでしょう。
音楽療法士としてだけでなく、その施設で求められる他の業務を兼任することもあります。

そのほか、業務委託契約を各施設と締結し、1セッションにつき5,000円から15,000円程度を報酬として受け取る形式も多いようです。
1セッションは30分から2時間程度であることが多いため、1日にいくつかの施設を兼任することで収入アップが見込めます。
また、経験豊富な音楽療法士はそれだけ支払われる額も高くなります。

認可団体

国家資格の中には、資格を持つ人だけが独占的に従事できる業務独占資格や、資格を持つ人だけがその名称を名乗ることができる名称独占資格があります。

2022年現在、音楽療法士は民間の資格であるため、上記のどちらでもありません。
つまり、音楽療法士の資格を認定するのは民間団体で、それはひとつではありません。
こうした団体は主に国内に2つあり、認定の基準は団体によってやや変わります。

音楽系認可団体

全国音楽療法士養成協議会

1つは「全国音楽療法士養成協議会」です。この協議会には国内の21の短期大学および大学が加盟しています。
協議会に加盟している短期大学で指定されたガイドラインに則って科目を修めることで、卒業時に音楽療法士(1種)または音楽療法士(2種)の資格を取得できます。

1種は大学を卒業した場合、2種は短期大学を卒業した場合に取得できる資格です。
いずれも更新などはなく、一度取得してしまえば一生ものです。

ただし、卒業後に音楽療法士同士の交流会やスキルアップのためのセミナーなどに参加したい場合は自力で探す必要があります。

一般社団法人日本音楽療法学会

もう1つの団体は「一般社団法人日本音楽療法学会」です。
公式サイトには音楽療法士向けの研修会やイベント情報のほか、求人情報も掲載されています。
また、資格試験受験認定校の一覧も掲載されています。取得を検討している人は一読しましょう。

日本音楽療法学会が認定している資格は音楽療法士(補)です。
これは前述した1種よりも修める科目数が多く、さらに5年ごとの更新が必要です。

また、更新には音楽療法士としての活動実績や学会・セミナー参加状況がチェックされます。
資格の継続を難しいと感じる人もいるかもしれませんが、このような規定は音楽療法士同士の横のつながりを生んだり、スキルアップに繋がったりとポジティブな効果をもたらす側面もあります。

受験条件

ここでは日本音楽療法学会が認定する音楽療法士(補)の受験条件をお伝えします。
以前は日本音楽療法学会の正会員のみが受講できる講習会によって資格取得を目指すルートがありましたが、2021年をもって廃止されました。

現在は、日本音楽療法学会が認めた認定校で必要な単位を修めることが受験資格を得る唯一のルートです。

しかし、認定校は2022年現在関東でも9校のみ、そのうちの数校は新入生の募集がない年もあります。
また、信越・北陸では長野に1校、九州では熊本に1校と非常に少なく、東北・四国に至っては1校も存在しません。
地方から音楽療法士(補)を目指すのであれば、認定校に通学できる地域への転居も考える必要があります。
これについては音楽療法士(1種)または音楽療法士(2種)についても同様です。

合格率

非公開
音楽療法士(補)の試験合格率は公開されていません。

1年当たりの試験実施回数

日本音楽療法学会認定音楽療法士(補)資格審査(筆記試験)は例年1月中旬に札幌・東京・大阪で行われます。
受験申請期間は前年11月中旬から下旬にかけてです。

資格審査の後には面接試験(弾き歌いを含む)があり、例年3月中旬に行われます。面接試験に進むには、前述の資格審査に合格する必要があります。
受験申請期間は1月下旬から2月初旬にかけてです。

試験科目

音楽療法士(補)資格審査(筆記試験)は、音楽療法科目を中心に、カリキュラムに関するガイドライン11に含まれる教科全般から出題されます。

カリキュラムに関するガイドライン11
  • 総合科目 17科目
  • 音楽分野 18科目
  • 音楽療法分野 20科目
  • 医学・心理学分野 7科目
  • 福祉・教育分野 5科目
  • 語学分野 3科目

面接試験では、口頭試問および実技試験が課せられます。
メロディックな曲群、リズミックな曲群それぞれ5曲から2曲ずつを選んで面接審査申請時に記載します。
面接審査当日、申請時に記載した曲から選ばれた1曲を弾き歌いすることになります。

採点方式と合格基準

マークシートによる多岐選択形式 100 問(100 分)
提示するテーマに沿った論述 60 分

論述は合否判定に直接影響しないものの、面接試験における口頭試問の資料として使われます。

取得に必要な勉強などの費用

費用
前述のとおり、音楽療法士になるには協議会加盟校学会認定校に通う必要があります。
協議会加盟校は2年制の短期大学から4年制大学と幅があります。
認定校は3年制の専門学校と4年制大学の2つに分かれています。

それぞれの学校によりますが、卒業までに支払うことになる額は少なくとも300万円から800万円程度とみておくべきでしょう。

受験料

音楽療法士(補)の受験料は以下のとおりです。

筆記試験:10,000円
面接試験(弾き歌いを含む):10,000円

合格後には資格認定料として30,000円を支払います。

受験申込方法

音楽療法士(補)資格審査(筆記試験)を受験する際は、以下の書類を揃えて日本音楽療法学会事務局あてに送付する必要があります。

  1. 日本音楽療法学会 第 21 回 音楽療法士(補)資格審査 受験申請書
  2. 日本音楽療法学会 音楽療法士(補)資格審査 受験申請用 単位修得証明書
  3. 受験料を振り込んだことのわかる振込票のコピー(振込票の通信欄には(補)受験料と明記する)
  4. 卒業証明書原本(既卒者のみ)

各書類は学会公式サイトの「認定校専用(補)受験申請関連」メニューよりダウンロードできます。

まとめ

音楽療法を受ける老人
音楽療法士
は、音楽の技能はもちろん、対象となる人の病状や置かれた環境などからニーズを汲み取る力、音楽を通じてコミュニケーションを取る能力も必要です。
さらには、認定校の少なさや学費など、ハードルは決して低いとは言えません。

しかし、今なお発展を続ける医療や福祉、教育の各分野を見れば、音楽療法士の活躍の場が今以上に広がっていくことが予想できます。
これから音楽を学ぼうと考えている人や、他者の心身を癒すこと、音楽を通じたQOL向上に関心を寄せている人は音楽療法士という道も検討してみることをおすすめします。

 

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