宮崎吾朗が挑むスタジオジブリ初のフル3DCG作品「アーヤと魔女」はどんな映画?

宮崎吾朗が挑むスタジオジブリ初のフル3DCG作品「アーヤと魔女」はどんな映画?

「アーヤと魔女」は、「ハウルの動く城」の原作でも知られるダイアナ・ウィン・ジョーンズの同名児童文学を、スタジオジブリが同社初の長編3DCGアニメとして映像化しました。

1990年代のイギリスを舞台に、自分が魔女の娘とは知らずに育った少女アーヤが、奇妙な家に引き取られ、意地悪な魔女と暮らすことになる姿を描いています。

孤児として育った10歳のアーヤは、なんでも思い通りになる子どもの家で何不自由なく暮らしていましたが、ベラ・ヤーガと名乗るド派手な女とマンドレークという長身男の怪しげな2人組に引き取られます。

魔女だというベラ・ヤーガは手伝いがほしかったからアーヤを引き取ったと言い、魔法を教えてもらうことを条件にアーヤはベラ・ヤーガの助手として働きだします。

宮崎駿が企画し、宮崎吾朗が監督を務めています。主人公アーヤの声を若手女優の平澤宏々路が担当するほか、寺島しのぶ、豊川悦司、濱田岳などがおもなキャストです。

2020年・第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション作品。2020年12月30日にNHK総合で放送されています。

2021年には、テレビ放送版に一部の新カットなどを追加した「劇場版 アーヤと魔女」として劇場公開されています。

今回は「アーヤと魔女」のあらすじ、みどころなどについてご紹介します。

あらすじ(ネタバレあり)

1990年代のイギリス。幼少期から孤児院で孤児として育ってきた少女アーヤ・ツールは、誰もが自分の思い通りにしてくれる孤児院での生活に快感を覚えていました。

しかし、ある日魔女のベラ・ヤーガと彼女と共に暮らす男マンドレークに引き取られることになります。
ベラ・ヤーガに魔法を教わることを条件彼女の助手として働くことを約束したアーヤでしたが、いくら頑張ってもこき使われるばかりで1つも魔法を教えてくれません。

そこでアーヤは、ベラの使い魔の黒猫トーマスの力を借りて反撃を始めます。

アーヤ

ある日、アーヤのことでマンドレークから怒られたベラがアーヤを怒鳴り散らすと、アーヤは、ついに手が生える魔法を発動させ、ベラの鼻とお尻から手が生えてしまいました。

激怒したベラは、アーヤに魔法のミミズを送りつけましたが、アーヤはすべての魔法から身を守る秘薬のおかげで何も起こりませんでした。

アーヤは魔法が効いていないことをベラに悟られないように壁の穴にミミズを入れましたが、その穴はマンドレークの部屋につながっており、激怒したマンドレークはベラに襲い掛かりました。

その隙にアーヤはマンドレークの部屋に入り、青いドラマーがベラ・ヤーガで、キーボードがマンドレークで、赤い髪の女がボーカルのEARWINGのバンドを知ることになります。

その騒動の最中、マンドレークの部屋に入ったアーヤは、ベラとマンドレークと見知らぬ女性が移っている写真を見つけ、3人がバンドを組んでいたことを知りました。

実は、その見知らぬ女性は、アーヤの母親のダン・スティーヴンスでした。

この一連の騒動後、マンドレークが、ベラに、アーヤを助手として魔法を教える約束をさせます。そして、ベラはアーヤに魔法を教え始めるのでした。

アーヤは小説家の仕事を手伝い、学校に行かせてもらえるようになり、魔女の修行も始めるのでした。

それから、半年後にはアーヤは家族を従わせるまでに、ベラとマンドレークを操っていました。そして、デーモンまでも言うことを聞くようになっていました。

マンドレークはアーヤのことをちゃん付けで呼びます。アーヤが小説の出来を上手に褒めると、マンドレークはやる気になってすぐに続きを書き始めます。

マンドレーク

デーモンもアーヤの言うことをきくようになっており、希望したものを取ってきます。
学校で再会したカスタードですが、マンドレークのことを怖がって家に一度も遊びに来ていません。

それでもクリスマスパーティーには、招待されたカスタードがやってくるはずでした。

そして迎えたクリスマス。ドアベルの音を聞いてアーヤが玄関へ行くと、カスタードといっしょに扉の前に、赤毛の女性が立っていました。

「メリークリスマス。アヤツル」と声をかけます。

キャスト

アーヤ(平澤 宏々路)

主人公のアーヤは10歳の女の子。
赤ちゃんの時に孤児院の前に置いていかれて、孤児として育ちますが、自分が魔女の子だということは知りません。

孤児院では何でも自分の思い通りにして育ってきたので、ちょっと勝気で生意気な女の子です。

魔女 ベラ・ヤーガ(寺島しのぶ)

アーヤを孤児院から引き取った魔女です。
アーヤを引き取ったのは手伝いがほしかったからだと言い、助手としてこき使います。

長身の男 マンドレーク(豊川 悦司)

ベラと一緒に暮らしている男。
食事の時しか顔を見せず、いつも不機嫌で「わたしを煩わせるな」が口癖。ベラですらマンドレークを恐れているという、厄介で謎多き人物です。

黒猫のトーマス(濱田 岳)

人間の言葉を話し、魔法の秘密を知る使い魔の黒猫です。ミミズが嫌い。
生まれてはじめてまわりが自分の思い通りにならないアーヤは、トーマスの力を借り、反撃を始めます。

基本情報

基本情報
監督      宮崎吾朗
脚本      丹羽圭子 郡司絵美
原作      ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
製作総指揮   吉國勲 土橋圭介 星野康二
出演者     寺島しのぶ 豊川悦司 平澤宏々路 木村有里 濱田岳 柊瑠美
音楽      武部聡志
主題歌     シェリナ・ムナフ『あたしの世界征服』
撮影      髙橋護 山本雄一 窪田雅之
制作会社    スタジオジブリ NHK NHKエンタープライズ
TV放送      2020年12月30日、2021年12月31日
劇場公開      2021年8月27日
上映時間      82分
製作国       日本
言語        日本語
興行収入      3億円

「スタジオジブリ」とは?

株式会社スタジオジブリ

スタジオジブリは、日本のアニメ制作会社です。通称は「ジブリ」。長編アニメーション映画の制作を主力事業としています。

1985年6月15日、『風の谷のナウシカ』を制作したトップクラフトを、徳間書店の出資によって発展的に解散・改組する形で設立されました。

1990年代中期以降は、短編アニメーションの制作や実写映画の企画、日本国外のアニメーションの公開やDVDの販売、小冊子『熱風』の発行を行う出版事業や音楽事業を展開しています。

加えて、三鷹の森ジブリ美術館への展示物定期制作など、関連事業は多岐にわたっています。また、他社テレビ作品の動画グロスも請け負っています。

「スタジオジブリ」の由来

「スタジオジブリ」の名称は、サハラ砂漠に吹く熱風(Ghibli)に由来しており、第二次世界大戦中のイタリアのカプローニの偵察爆撃機の名前でもあります。

宮崎駿の思い込みから「ジブリ」となっていますが、「ギブリ」の方が原語に近い発音です。

スタジオジブリのマークは、『となりのトトロ』に登場するトトロがデザインされています。第2レーベルで実写映画部門の「スタジオカジノ」の名称は、スタジオの所在地である梶野町から命名されました。

2005年の徳間書店傘下からの独立に際して、「ジブリ」の名称を徳間書店から買い取らなければならなくなった際、宮崎は買い取りに消極的でした。

新しい名称として宮崎が「シロッコ」という案を出したが社内での評判がよくなく、結局「ジブリ」の名称を継続することとなりました。

ベラ

三鷹の森ジブリ美術館

三鷹の森ジブリ美術館は、東京都三鷹市の井の頭恩賜公園西園内にある、三鷹市立のアニメーション美術館です。

正式名称は三鷹市立アニメーション美術館。指定管理者は公益財団法人徳間記念アニメーション文化財団となっています。

スタジオジブリに深く関わる宮崎駿が発案し、2001年に開館。名称のとおりジブリ関連の展示品を多数収蔵・公開しています。

建物自体も宮崎駿による断面スケッチを元にデザインされ、設計者は日本設計が担当。美術館の運営および館内で上映する短編映画もジブリが制作しているほか、歴代館長もジブリ関係者が多く就任しています。

また2007年からは、三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーとして、世界のアニメーション映画の配給やテレビ放送も行っています。

宮﨑駿とジブリ作品

監督 宮崎 駿

宮崎 駿は、日本の映画監督・アニメーター・漫画家です。

株式会社スタジオジブリ取締役、公益財団法人徳間記念アニメーション文化財団理事長、三鷹市立アニメーション美術館(三鷹の森ジブリ美術館)名誉館主です。

学習院大学政経学部卒後、1963年に東映動画にアニメーターとして入社。その後いくつかの会社を経てフリーとなります。

その間にテレビアニメ『未来少年コナン』、初の劇場用アニメ『ルパン三世 カリオストロの城』で頭角を現します。

1984年に個人事務所の二馬力を設立し、翌年に高畑勲らとアニメーション制作会社スタジオジブリの設立に参加(2005年に同社取締役に就任)

以後、『となりのトトロ』『魔女の宅急便』『もののけ姫』などの劇場用アニメーションを監督し、『千と千尋の神隠し』でベルリン国際映画祭金熊賞アカデミー長編アニメ映画賞を受賞。

2014年には日本人で2人目のアカデミー名誉賞を受賞しました。

圧倒的なブランド力

国内の歴代興行収入を見ると、トップは『千と千尋の神隠し』。

ジブリ作品はほかにも3作品がランクインしており、世界的ブランドであるジェームズ・キャメロン作品やハリー・ポッターシリーズに勝っています。

日本でのジブリ作品の圧倒的な強さがわかります。

ジブリの強さは「最高のクオリティを提供する」ということに対する観客からの信頼(ブランディング)が絶対的なところにあります。

以前、日経BPコンサルティングが実施したブランド調査では、トヨタ自動車やソニーといったグローバルブランドをおさえて首位となっています。

スタジオジブリは、単なるアニメスタジオではなく、子供から大人まで、アニメや映画ファンではなくとも、名前を知っている「ウォルト・ディズニー並み」の認知力・影響力を持つ、日本最高のコンテンツ・ブランドだといえます。

宮崎駿とジブリは90年代以降の日本の映画産業を引っ張ってきた存在でもあります。
特に、97年の『もののけ姫』以降は、興行収入100億円を超える大ヒットを連発してきました。

2000年以降の14年間に限っていえば、9作の劇場公開作で映画総興行収入2兆7737億円の3.9%にあたる1078.1億円の興行収入をあげています。

これは、日本映画(1兆3131億円)に限っていえば、8.2%を占めることになります。

原作者 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

イギリスのファンタジー作家

映画『アーヤと魔女』の原作者は、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ(Diana Wynne Jones)
イギリスのファンタジー作家で、子ども向けの独創的なファンタジー小説が多いことで有名です。

『大魔法使いクレストマンシーシリーズ』や『デイルマーク王国史シリーズ』など、子どもがワクワクしそうな物語が多く、根強いファンを持っています。

幼い時から古典文学に親しんでいた彼女は、主人公の多くが男性であることに歯がゆさを覚えていました。
そして、オックスフォード大学卒業と同時に結婚、3児の母となりこの頃からファンタジーを書き始めました。

3人の子どもたちと一緒の時間を過ごすことで、彼女の想像力がさらに掻き立てられたのでしょう。それが作品となり、その名作に触れることができるのは嬉しい限りです。

トーマス

『ハウルの動く城』の原作者

代表作『魔法使いハウルと火の悪魔』は、2004年スタジオジブリにより『ハウルの動く城』として映画化されました。

『ハウルの動く城』が公開された当時、ジョーンズ氏は映画について「とても素晴らしい」「宮崎はわたしが執筆した時と同じ精神で映画を作った」と大絶賛のコメントを残しています。

また、ジブリファンであることを度々口にしていました。

ダイアナ・ウィン・ジョーンズは、2009年に診断された肺癌の闘病生活の末、2011年3月に76歳で惜しくも亡くなっています。

『アーヤと魔女』は彼女にとっての遺作となる作品でもあります。
『アーヤと魔女』はジョーンズ氏作品の2回目となる映像化でしたが、原作者が観ることが叶わなかったのは残念です。

一方、本作の企画を手掛けた宮崎駿は「きっかけはたまたま街の本屋さんで絵本を見つけたこと。ダイアナさんの作品は好きだから、開いてみたらとても面白かった」と話しています。

『アーヤと魔女』はジブリとダイアナ・ウィン・ジョーンズ、17年ぶりの共演となります。

「アーヤと魔女」の見どころ

超前向きのアーヤ

アーヤは自分を捨てた母親を決して恨みません。それどころか、孤児院を愛し、離れようとしません。
魔女の家に連れていかれようとも、悲しみもせず、アーヤが今できる最高のパフォーマンスを発揮して、自分の人生を最高のものにしようと突き進みます。

ときには裏で画策し、ときには愛情表現をして大人たちの心を掴むなどして周囲の人間を操り、自分の思い通りの人生を作っていきます。

そして、アーヤに操られていく人々もまた幸せになっていきます。他人を攻撃するだけでは幸せになれないことをアーヤは知っているのです。

アーヤは過去の負の出来事を決して振り返りません。正確に言えば、「振り返らない」のではなく、過去を「言い訳にしない」。そこが観ていて気持ちいいです。

スタジオジブリ初の全編3DCG制作

ストーリーと共に注目すべきはなんといっても、スタジオジブリとして初の全編3DCG制作です。
DCGは3次元コンピューターグラフィックスのことで、コンピューターで立体感のある画像を作り出しています。

宮崎吾朗監督は「新しい挑戦がジブリにとって必要だと思った」と話しています。

2014年にNHKで放送されたアニメで、3DCGと手描き風を融合した作品を作ったとき3DCGの可能性を感じていたそうです。

現在では、3DCGの技術も向上しており、クオリティの高いアニメが完成しました。

これまでも迫力ある映像が魅力だったジブリの作品。「アーヤと魔女」は、更にダイナミックな見応えのある作品になっているのではないでしょうか。

「アーヤと魔女」の解説

アーヤの本当の名前「アヤツル」

「あやつる」という言葉には、「物事をうまく操作する」、「人をうまく利用する」意味があります。
一見いいイメージがありません。ずる賢く、私利私欲で行動するイメージになるからです。

しかし、アーヤの両親は、きっと周囲を「あやつる」ことを悪いことではないと思っているのではと思います。

むしろ、賢く強く生きていく手立てとして周りをうまく利用していく…そんな強い女の子になってほしいと願ってこのような名前をつけたのではないでしょうか。

なぜアーヤは捨てられた?

アーヤが孤児院「聖モーウォード子どもの家」に捨てられてしまった理由、それは、アーヤのお母さんが12人の魔女に追われていたためです。

アーヤのお母さんは、おそらく「13人の魔女団」のうちの1人。

その「13人の魔女団」がどんな組織なのか、なぜアーヤのお母さんが仲間だったはずの魔女12人から追われることになったのかは原作でも明らかになっていません。

しかし1つ確実なことは、アーヤはお母さんに愛されていたということ。

そのため、たとえ何年かかったとしても逃げきったらアーヤと返してもらいに来るとはっきり手紙に書いています。

「アーヤと魔女」レビュー

楽しめた
期待値が低かったせいか、普通に楽しめたなという印象。確かに内容的には、よくこんな中身のないお話で1本映画作ったなとは思うのですが、こういう作品もたまにはあっていいんじゃないでしょうか。魔女とアーヤの関係は、なんだか姑にこき使われる嫁みたいな感じなんですが、そのやりとりを見ているだけでも楽しいものがありました。
何かが足りない
初の3D化にであるからか、まだ試作段階のような感じがしました。物語として少々盛り上がりに欠けており「大きなトラブルが無い」故に見終わったあとは「え?これで終わり?」と思いました。しかし全くジブリっぽくないという訳ではなく、それぞれ憎めないキャラクター性はブレないままでした。だからこそ勿体無いなーと感じます。曲はとても好きです。
子供向けです
「自分の人生、自分でなんとかする」ということを子供が理解できるなら、大変よい作品です。要は人のせいにするな、人に迷惑かけるな、自分の人生、自分でなんとかしろということです。世間を「アヤツル」なんて発想には至らず、人生なんとかならなかったことを悔やんいでる大人が多いですから、こんなテーマは未来ある子供だけのものでしょう。
実験映画のよう
頑張ってはいたと思うけど、ジブリ作品である点を考えるとちょっと悲しい。ストーリー展開もなんとなくどこが盛り上がる点なのかいまいちよく分からなかった。わざわざCGにした必要があるのかなぁと。確かに魔女の使う魔法とかはCGならではの迫力があったし、悪くはないんだけど個人的にはシンプルなアニメで観たかったなぁ。

まとめ

今回は「アーヤと魔女」のご紹介でした。いかがでしたか?

『劇場版 アーヤと魔女』は厳しい評価にさらされています。Filmarksでは3.1点、映画.comでは2.9点と、ジブリ映画という枠組みではかなり低いです。

興行成績もとても厳しいものになっており、全国371館という最大規模の公開館数にも関わらず、初週の興行収入ランキングでは8位。

昨年末にテレビ放送されており、その時点であまり評判が芳しくなかったとはいえ、関係者の期待を大きく裏切るものとなりました。

一般の映画観客のほとんどは監督名を踏まえて映画館に足を運ぶことはありませんが、ジブリは例外です。宮崎駿以外の監督に観客はシビアな判断をしたと考えられます。

逆に言えば、「宮崎駿=ジブリ」だと捉えられており、いまだにそのイメージから脱却できていないようです。

今作は、いかに宮崎駿監督との違いを見せるかという意味で、3DCGという選択肢をとったのではないかと思います。次世代のジブリにとって冒険作だと思います。

ジブリブランドとはいえ、基本的には今までのジブリ作品とは別のものとして観た方が、すっきり観られる気がします。良い意味でジブリっぽくない作品です。