「救命艇手」とは、船舶が非常事態に陥った際、救命艇への食料・航海用具の積み込み、救命艇の操作、旅客などに対する誘導・指示などを担当する専門家です。
また、船舶の事故に備えて救命艇の整備・管理をするのも救命艇手の仕事です。
船にまつわる仕事に従事したことのない人にはあまりなじみのない資格かもしれませんね。
こうした船舶の非常事態時の対応に特化した専門家は、船舶に必ず置かなければなりません。配置人数は船舶に積まれた救命艇の数・定員によって法律で決められています。
今回はこの救命艇手について見ていきましょう。
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適用する仕事
救命艇手は国家資格です。救命艇手の資格を取得すると次の4つの職場で活かされます。
海上保安官
海の安全を守る仕事です。
海上における犯罪・テロ行為の予防および対応、自国の海洋権益の保全、その他海上における不審事象確認のため、巡視船艇や航空機によるパトロールを行います。
また、法令違反がないか確認するため、船舶への立入検査も実施します。
その他にも地震や津波、火山の噴火など自然災害が発生した際には海上での捜索・救助、物資の運搬などを行います。また、海洋調査も海上保安官の仕事の一部です。
海上自衛隊
自衛隊には陸上、海上、航空がありますが、その中の1つである海上自衛隊で救命艇手の資格を活かすことができます。
国内外で災害が発生した場合には、災害派遣・国際緊急援助活動に従事します。
また、被災者や遭難した船舶(もしくは航空機)の捜索・救助活動も海上自衛隊の重要な役割です。
また、日本の領海への進入を防ぐ防衛活動も担います。海上保安庁と連携し、周辺の海域における海上交通の安全確保・不審船の確保といった業務も担当しています。
船舶関連企業
多くの船舶関連企業で救命艇手の資格を持った人は重宝されるでしょう。
たとえば、国内外へ物資を運ぶ輸出入関連企業において、船舶は欠かせない存在です。大量の物資を一度に運ぶには船舶が最も適しているためです。
また、旅客船を運航する企業でもこの資格を条件とする求人が出ています。
水産高校の教員
水産系の科目を設けている高等学校の教員を目指すにあたっても、この救命艇手の資格は有利にはたらきます。
水産系の教育現場においても、救命艇手を配置するよう義務付けられているためです。
水産高校では、生徒が実習船もしくは練習船に乗る機会が多々あります。課程内で乗航海実習や漁業実習、海洋調査などを行うためです。
こうした際に同乗する教員が救命艇手の資格を持っていれば、保護者や生徒本人も安心できるでしょう。
おおよその年収とキャリアパス
救命艇手の参考年収はおおよそ400万円程度です。救命艇手の資格に限定した求人情報が少なかったため、船員の求人を参考のため掲載しています。
救命艇手の資格が得られると救命艇へ旅客を誘導したり、救命艇の操作・指示などを担当できるようになり、非常事態の専門家として舵取りをすることで、パニック・人災などの二次災害を予防する役割を得られることは先ほどもお伝えしたとおりです。
しかし、この救命艇手という立場は船員の中から選任されて初めて就くことができるものです。
船舶には救命艇手を配置することが船員法で定められています。ただし、資格を持っている人全員が救命艇手として働くことができるわけではありません。
- 定員40人以下 →2人
- 定員41人以上61人以下→3人
- 定員62人以上85人以下→4人
- 定員86人以上 →5人
- 端艇及び救命いかだ →1人
単に船で働くのであればこれといった資格は必要ありませんが、救命艇手の受験資格を得るには6か月以上の実務経験が求められます。
さらに、総トン数5トン以上の船舶に2年以上乗船した人は海技士国家試験の受験資格を得ることができます。
船舶に関連する仕事を続けていくのであれば、そこから海技士(機関、航海、通信・電子通信)、航海士といった上級資格を取得しつつ船長などを目指すのが一般的です。
認可団体
救命艇手の資格は「国土交通省」が運営・管理しています。
国土の利用・開発・保全、社会資本の整備、交通政策の推進、気象業務、海上の安全・治安を確保することが国土交通省の業務です。
救命艇手の資格を取得するには、地方運輸局が実施する試験に合格するか、地方運輸局長の認定を受けることが必要です。
受験条件
- 18歳以上
- 船員法第83条の健康証明書を受けていること
- 船舶に6ヶ月以上乗り組んでいること
- 次のいずれかに該当していること
- 海技士(航海、機関、通信・電子通信のいずれか)
- 大学、高等専門学校、高等学校、中等教育学校の後期課程において、救命艇の操作に関する教科課程を修めて卒業した者
- 海技大学校、(独)海技大学校、海員学校、(独)海員学校、(独)海技教育機構、海上保安大学校、海上保安学校、水産大学校、(独)水産大学校の卒業者
- 上記3つ以外に同等以上の能力を有すると認められる者
合格率
合格率は非公開ではありますが、ほぼ100%ともいわれています。これは受験資格に船舶経験6ヶ月以上と規定があり、船舶知識がない人はその時点でふるいに掛けられるためです。
1年当たりの試験実施回数
試験の日程や回数については不定期です。年に4回以上試験が実施されているようです。
試験科目
試験は筆記試験と実技試験があります。
筆記試験
- 救命艇、いかだ内の措置
- 衝突、火災、沈没など非常事態の知識
- 非常任務、消火知識
- 救命艇の種類などの知識
- 設備や構造知識
- 救命艇推進装置の知識
実技試験
- 救命胴衣の知識
- 救命艇の起こし方
- 救命艇の表示、医療措置
採点方式と合格基準
公開されていません。
取得に必要な勉強などの費用
受験資格を満たしている時点で知識量には問題ないと見込まれているため、資格取得のために特別費用をかける必要はないと思われます。
通信講座や専門学校を利用する必要もありません。
試験科目の内容について一度整理しておくことで余裕をもって試験に臨めるでしょう。
受験料
5,000円(収入印紙)
受験申込方法
運営団体は各地方運輸局 船員労働環境・海技資格課です。まずは各地方の運輸局に問い合わせてみましょう。
無事救命艇手として認定されたら手続きとして次の書類が必要になります。
- 救命艇手資格認定申請書(国土交通省の運輸局にてフォーマットあり)
- 収入印紙(2,500円分)
- 船員手帳
※船員手帳が提示できないときは以下の書類を用意してください。
- 戸籍謄本、抄本または記載事項証明書
- 健康証明書
- 船舶経験を証明する書類(乗船履歴証明書など)
- 海技士資格や海技系水産系の学校を卒業したことを証明する書類
まとめ
今回は救命艇手の資格についてお伝えしました。
試験の合格率はほぼ100%と推定されています。その受験資格を得るまでの道のりのほうが大変かもしれませんね。
認定されるためには救命艇の操作に関する教科課程の修了、海技大学校の卒業、海技士資格の取得などが求められます。
とくに海技士の受験条件を満たすには1年から3年の実務経験が必要です。以下の関連記事で詳しく紹介していますので、これから船員になりたいと考えている方はそちらも参考にしてください。
既に船舶で活躍している方はぜひ救命艇手の資格にもチャレンジしてみてくださいね。
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