「エジゾンズゲーム」(2019年・アメリカ)は、発明王エジソンとライバルたちがアメリカ初の電力送電システムをめぐって繰り広げたビジネスバトル=電流戦争の物語です。
「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」のベネディクト・カンバーバッチがトーマス・エジソン、「シェイプ・オブ・ウォーター」のマイケル・シャノンがライバルの実業家ジョージ・ウェスティングハウスを演じています。
共演にも「女王陛下のお気に入り」のニコラス・ホルト、「スパイダーマン」シリーズのトム・ホランドら豪華キャストが出演しています。
19世紀、アメリカは電気の誕生による新時代を迎えようとしていました。白熱電球の事業化を成功させた天才発明家エジソンは、大統領からの仕事も平然と断る傲慢な男でした。
実業家ウェスティングハウスが交流式送電の実演会を成功させたというニュースに激怒したエジソンは、ネガティブキャンペーンで世論を誘導します。
事態は訴訟や駆け引き、裏工作が横行する世紀のビジネスバトルへと発展していきます。
監督は「ぼくとアールと彼女のさよなら」のアルフォンソ・ゴメス=レホンです。
今回は「エジゾンズゲーム」あらすじ、キャスト、見どころについてのご紹介です。
Contents
あらすじ
1880年、トーマス・エジソンは電球を発明して世間に発表し、ガス灯よりも安価でクリーンな直流電流を使用した電球が採用されていくことになりました。
しかし、直流電流は使用できる範囲が限られていて、なかなかさらなる安価での提供は困難でした。
実業家・発明家のジョージ・ウェスティングハウスは、エジソンに話を聴こうと夕食に招待しますが、エジソンは招待を断ります。
ウェスティングハウスは、交流電流はより長距離、大幅に低コストで使用できると証明するために動き出します。
エジソンとウェスティングハウスは、お互いにシェア獲得のため、全米の都市で競争をはじめます。
優秀な発明家ニコラ・テスラは、エジソンと一緒に仕事はじめていましたが、彼の言葉に耳を貸そうとしないエジソンの態度と、報酬を支払おうとしないことに失望していました。
ウェスティングハウスはテスラのもとを訪れ、手を組む提案をします。2人はシカゴで開催される万博の出展をすることにしました。
一方、エジソンは開発資金の捻出に苦労していました。長年エジソンに寄り添う助手のインサルの提案で蓄音機フォノグラフを発売し、瞬く間に人気に火がつきましたが、開発資金としては到底足りません。
そこでエジソンは望まない発明にも手を染めていきます。
その結果生まれたのが、死刑執行に使われる電気椅子でした。秘密裏に作られたことでしたが、ウェスティングハウスはそれを見逃さずマスコミに暴露します。
エジソンはさらに窮地に追い込まれました。
そして決戦の舞台、シカゴ万博が開幕されました。ここでそれぞれがプレゼンテーションを行い、支持を得られれば採用され、歴史に名を残すことになります。
この戦いに勝利したのは、ウェスティングハウス提唱の交流送電方式でした。エジソンは電流戦争から事実上の撤退となります。
その後、エジソンとウェスティングハウスは会場で偶然顔を合わせました。エジソンは電流戦争の負けは認めたものの、自分が発明した映写機キネトフォンが、いかにすばらしいものかを豪語するのでした。
その後、ウェスティングハウスとテスラはナイアガラの滝の発電事業をはじめました。エジソンも数々の発明を世に残し、1931年、ウエストオレンジの自宅にて84歳で死去。
一方、テスラには電気工学の栄誉であるエジソンメダルが受賞されました。しかし1943年、テスラはニューヨークのホテルで、86歳で死去。孤独死でした。
キャスト
トーマス・エジソン(ベネディクト・カンバーバッチ)
アメリカの発明家・企業家。おもに蓄音器、活動写真の発明、白熱電球を事業化した人物として有名です。
スポンサーのJPモルガン、秘書のサミュエル・インサル、そしてメロン財閥と、アメリカの電力系統を寡占しました。
演:ベネディクト・カンバーバッチ
2004年のTVムービー「ベネディクト・カンバーバッチ ホーキング」で注目され、「つぐない」「ブーリン家の姉妹」などに出演。
スピルバーグ監督作「戦火の馬」や「ホビット」シリーズといった大作、話題作に次々とキャスティングされます。
「それでも夜は明ける」では奴隷オーナー、「8月の家族たち」では頼りない青年、「スター・トレック イントゥ・ダークネス」では悪役をそれぞれ好演しています。
実在の天才数学者を熱演した「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(14)では、その実力が認められ、アカデミー賞主演男優賞にも初ノミネート。次代を担う国際的な英国俳優として最も有望視されている1人です。
ジョージ・ウェスティングハウス(マイケル・シャノン)
アメリカのエンジニア、実業家。鉄道車の空気ブレーキ等を発明しています。また、それらの発明を産業として発展させた、電気産業の先駆者です。
アメリカにおける初期の電力システムの建設に関してトーマス・エジソンのライバルです。
演:マイケル・シャノン
1993年の「恋はデジャ・ブ」でスクリーン・デビュー。「パール・ハーバー」や「ワールド・トレード・センター」など立て続けに話題作に出演しています。
「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」でオスカー初ノミネート。その後もコンスタントに様々な作品に出演しています。
「ボードウォーク・エンパイア 欲望の街」では主役を執拗に追い続ける捜査官、「テイク・シェルター」では悪夢により常軌を逸してしまう主人公と作品毎に大役に起用され、怪演によって鮮烈なインパクトを残しています。
16年の「ノクターナル・アニマルズ」では再びアカデミー賞助演男優賞にノミネート。クセのある役柄を演じることの多い性格俳優として評価を得ています。
ニコラ・テスラ(ニコラス・ホルト)
電気エンジニア、発明家。交流電気方式、無線操縦、蛍光灯、テスラコイルの名で知られ、共振変圧器など多数の発明で有名です。
磁束密度を発見しその単位「テスラ」は彼の名前からきています。
演:ニコラス・ホルト
ヒュー・グラントと共演した映画『アバウト・ア・ボーイ』で一躍有名になりました。
その後チャンネル4のドラマ『スキンズ』でミッチ・ヒューワーやデーヴ・パテール、ハンナ・マリーらと共に主役の1人を演じるなど、テレビや映画で俳優としてのキャリアを着実に積みます。
2009年、トム・フォードの監督デビュー作である『シングルマン』に抜擢されます。子役の頃から成長した美貌が話題となり、またその後トム・フォードのキャンペーンモデルをつとめます。
2015年、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』では、物語の鍵を握る武装戦闘集団「ウォーボーイズ」のひとり、ニュークスを演じています。
サミュエル・インサル(トム・ホランド)
若くしてトーマス・エジソンの下で助手として働き、その後、電気の事業モデルを確立する人物です。
演:トム・ホランド
ディザスタードラマ「 インポッシブル」で映画デビュー。第33回ロンドン映画批評家協会賞若手英国俳優賞 を受賞します。
2015年マーベル・スタジオ製作のスーパーヒーロー映画作品シリーズ『マーベル・シネマティック・ユニバース (MCU)』のピーター・パーカー / スパイダーマン役に抜擢されます。
2016年公開の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』以降のMCU作品に同役で出演しています。
基本情報
発明王・エジソン
傑出した発明家として知られ、蓄音器、白熱電球、活動写真など、生涯におよそ1,300もの発明と技術革新を行った人物です。
J・Pモルガンから巨額の出資・援助をしてもらい、Edison General Electric Company(エジソン・ゼネラル・エレクトリック、現・ゼネラル・エレクトリック=GE)を設立しました。
GEは電球などの家電だけでなく、発電から送電までを含む電力系統の事業化に成功し、エジソンは合計14の会社を設立しています。
エジソンは「努力の人」「非常な努力家」「不屈の人」などとして知られています。
幼いころから正規の教育を受けられないという困難に見舞われますが、新聞の販売員として働くことでお金をコツコツと貯め、自分の実験室を作った逸話などでも知られています。
一方で、自らの発明の権利を守るため訴訟を厭わなかったことから「訴訟王」の異名も持ちます。
エジソンは、自分が選択・採用した直流送電に拘るあまりに交流送電の優位を受け入れられず、交流を採用ウェスティングハウスとの間で電流戦争に陥り、敗北してしまいます。
この戦いでは、「交流電流は危険」とのイメージを人々に持たせるために、様々な汚いプロパガンダ工作を行ったことなどの汚点でも知られています。
その後の発電所に納入する発電機をめぐる戦いでも敗北したため、エジソン・ゼネラル・エレクトリック・カンパニーに出資して株の過半を持ち実質上のオーナーとなっていたJ・Pモルガンから見切られてしまいます。
エジソンは元々は自分が設立した同社の社長の座を失い、会社とは無関係とされ、社名から自分の名前も消されるという屈辱も味わっています。
カリスマ実業家ジョージ・ウェスティングハウス
米国の技術者・実業家。総合電気メーカー、ウェスティングハウス社の創設者です。
鉄道のエアブレーキや電気とガスの供給システムを発明・開発するなど、彼の手による発明は数多く、生涯に得た特許は400件にも達します。
彼は多くの会社を立ち上げ、重要な発明に貢献していますが、ジョージ・ウェスティングハウスの名は、エンジニアリングと技術の歴史に詳しい者以外にはほとんどいません。
ウェスティングハウスは南北戦争の直後、自動空気ブレーキ システムを発明します。これは鉄道の安全に飛躍的な進歩をもたらしました。
その 30 年後には交流電流 (AC) で「電流戦争」に勝利を収め、電力を家庭、産業で使用できるものとしています。
1911年に彼はアメリカ電気学会(AIEE: American Institute of Electrical Engineers、後のIEEE)から「交流システムの開発に関する賞賛に値する業績」に対してエジソンメダルを受賞しています。
直流電源と交流電源
直流電源とは?
直流電源は、電流と電圧が変化せずに流れる電源です。
直流は、英語で“Direct Current”です。製品にはDCと略して表記していることが多く、川の流れにも例えられるように、常に一定の方向に向かって電気が流れる方式です。
電池やバッテリー、太陽電池などから得られる電気の流れのことをいいます。
交流電源とは?
交流電源は、電流と電圧が一定の周期で変化する電源です。時間とともに電気の向きや大きさが変わるのが特徴です。
交流は英語で“Alternating Current”です。製品にはACと略して表記していることが多く、様々な場面で使われています。
電気の向きが1秒間に何回変わるか、を表すのが「周波数」という単位です。東日本では 50Hz、西日本では 60Hz です。
ちなみに、地域による周波数の違いは、初めてその地方で導入された発電機が東日本では 50Hz、西日本では 60Hz だったことの名残です。
ACアダプター
ACアダプターから流れる電気は、交流電流です。これは発電所から送られてくる電気が交流電流であることが関係しています。
なぜ直流電源ではなく、交流電源で送るのでしょうか。
発電所で作られる電力の電圧は 2 万ボルトともいわれています。これが数々の変電所を経由することで、私たちの家庭に届く時には 100V になります。
この「変電」作業が、交流の方がロスが少なくすることができるのです。これが、交流電流で送られる最大のメリットといえます。
家庭で使用する電気製品はDC電源が多いので、送られたAC電源をDC電源に変換する必要があります。
変換器は通常、製品に内蔵されているので、ACアダプターはAC電源を最後に供給する役割をしているのです。
天才たちによるビジネスバトル
映画『エジソンズ・ゲーム』は、繰り広げられる電力送電システムをめぐる熾烈な戦いです。
これまで社会に存在しなかったシステムを新たに創設するわけですから、特許権を手に入れれば莫大な報酬が手に入ります。
ただ、彼らの場合、心底求めているのは金銭だけではなく、発明家の誇りでもあります。
トーマス・エジソンは電球を発明して世間に発表し、ガス灯よりも安価でクリーンな直流電流を使用した電球が採用されていくことになりました。
しかし、直流電流は使用できる範囲が限られていて、なかなかさらなる安価での提供は困難でした。
一方、実業家・発明家のジョージ・ウェスティングハウスは、交流電流はより長距離、大幅に低コストで使用できると証明するために動き出します。
エジソンとウェスティングハウスは、お互いにシェア獲得のため、全米の都市で熾烈な競争をはじめます。
本作の原題は、『The Current War(電流戦争)』
邦題を見るとエジソンの伝記のような印象ですが、内容はまさしく戦争です。
「さすがに演出では?」と思うような展開も、史実に基づいているこの作品。天才たちによる過激な足の引っ張り合いに注目です。
もう1人の天才
また、ウェスティングハウスとタッグを組み、エジソンを敵対することになるもう1人の天才ニコラ・テスラ。
彼は天才的な頭脳と革新的な発想から数多くの発明と技術革新を起こしており、現代文明にも多大な影響を与えています。
しかし、ニコラ・テスラの思想はあまりに時代を先取りしていたため、彼が生きた時代では理解されない研究もありました。
また、晩年にはオカルトに興味を示していたため、日本では「狂気の科学者」として扱われることも少なくないようです。
エジソンの名言「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である」は、「努力することが大事なんだ」という意味で捉えている人も多いかと思いますが、そのあとエジソンはそれを以下のように否定しているのです。
「私は1%のひらめきがなければ、99%の努力は無駄になると言ったのだ。なのに世間は勝手に美談に仕立て上げ、私を努力の人と美化し、努力の重要性だけを成功の秘訣と勘違いさせている」
実はこの発言は、エジソンの名言を受けたテスラの「天才とは、99%の努力を無にする1%のひらめきをことである」という発言によって引き出されたものといわれています。
結局のところエジソンがどちらの意味であの名言を言ったのかは分かりませんが、こうした2人の関係性も面白いポイントではないでしょうか。
今使われている電気は?
今使われているパソコン、携帯電話は、直流で動いています。太陽光発電は、直流の電気を生み出しています。
バッテリーは、直流でなければ充電できません。充電するときケーブルについている大きい箱が交流を直流に変換する魔法の箱(コンバータ)です。
また、私たちの身の回りの製品では、インバータを使って直流を交流にすることもしています。
そして、エアコン、電車、照明などでは、コンバータやインバータを使って、交流と直流を行ったり来たりさせながら、風量や温度の調整をしたり、急に揺れないよう加減速を調整したり、光がチカチカしないように調整したりする、などの制御を行っています。
もちろん、パソコンもインターネットによる通信も同様です。
このように、私たちが安心で快適な社会を過ごしているのも、実は、エジソンの直流とテスラの交流の技術を融合しているからこそといえます。
そういった意味では、現代において、もはや直流か交流かといった争いもなく、勝者も敗者もいないといえます。
まとめ
今回は、「エジソンズ・ゲーム」のご紹介でした。いかがでしたか?
「エジソンズ・ゲーム」で描かれる時代には、エジソンはすでに蓄音機の商品化で誉れ高い発明家の地位を確立していました。
直流派のエジソンに台頭してくるのは、交流派のカリスマ実業家ウェスティングハウス。そして、そこに加わる天才電気技師テスラの存在が、電流戦争の戦況を大きく変えることとなります。
2人の最終的なバトルは、1893年のシカゴ万国博覧会。
政府はアメリカの技術力を誇示するために博覧会で、エジソンの直流か、ウェスティングハウスの交流か、を選ぶに当たってのプレゼンを両者にさせます。
最後はもちろん「お金」が決め手になります。ウェスティングハウスの「交流は安い」の一言で決まってしまうのです。
実験に実験を重ね時間と情熱をかけてきたからこそ、直流に執着してしまったエジソン。
ウェスティングハウスは、実用化が常に頭にあったからこそ交流の事業化に成功し、人当たりも良かったためにテスラの力を借りることが出来たのでしょう。
私たちが毎日普通に使っている電気の誕生の裏側に、こんなビジネスバトルがあったこと、
歴史上の偉人たちのスキャンダラスなネガティブキャンペーンも人間の醜さを垣間観ることもできます。
出だしはスローですが、途中からテンポが上がってきて激しいバトルとなります。
邦題の「エジソン・ゲーム」より、確かに原題のThe current war(電流戦争)の方が、ずっとしっくりくる作品です。
監督 アルフォンソ・ゴメス=レホン
脚本 マイケル・ミトニック(英語版)
製作 ティムール・ベクマンベトフ ベイジル・イヴァニク(英語版)
製作総指揮 マーティン・スコセッシ スティーヴン・ザイリアン ギャレット・バッシュ
・ マイケル・ミトニック ボブ・ヤーリ アン・ロアク ミシェル・ウォーコフ 他
出演者 ベネディクト・カンバーバッチ マイケル・シャノン トム・ホランド
音楽 ダスティン・オハロラン
撮影 チョン・ジョンフン
編集 デヴィッド・トラクテンバーグ
製作会社 サンダー・ロード・ピクチャーズ フィルム・ライツ バザレフス・カンパニー(英語版)
配給 〔アメリカ〕 101スタジオズ 〔日本〕 KADOKAWA
公開 〔アメリカ〕 2019年10月25日 〔日本〕 2020年6月19日
上映時間 108分
製作国 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $30,000,000
興行収入 〔世界〕 $10,799,576 〔日本〕 7500万円