『天使のくれた時間』(原題:The Family Man)は、2000年製作のアメリカ映画。
優雅な独身生活を謳歌していたビジネスマンが昔の恋人とのもうひとつの人生を体験することで本当の幸せに目覚める姿を描いた大人のファンタジーです。
成功を夢見て恋人ケイトと別れロンドンへ旅立ったジャック。13年後のいま、ジャックは大手金融会社の社長として、優雅な独身生活を満喫していました。
クリスマス・イブ、昔の恋人ケイトからの電話がありましたが、かけ直すことはしませんでした。
その夜、自宅で眠りについたジャックだが、目覚めると、ケイトと我が子2人に囲まれた家庭人ジャックになっていました。
ブレット・ラトナー監督が、『素晴らしき哉、人生!』をモチーフに「もしあの時、違う道を選んでいたら?」をテーマに描いた作品です。
2000年度のサターンファンタジー映画賞にノミネートされ、ケイト・レイノルズ役のティア・レオーニがサターン主演女優賞を受賞しています。
今回は、『天使のくれた時間』のあらすじ、キャスト、見どころなどをご紹介します。
Contents
あらすじ
空港でジャックは恋人のケイトと別れを惜しんでいました。
彼は仕事で成功するため、ロンドンへ研修に旅立つところです。しかし、急にケイトが「いやな予感がするから行くのをやめてほしい」と言い出します。
ジャックはロンドンで研修し、ケイトはロースクールで学ぶこと、これが二人で話し合った末に出した結論でしたが、急に白紙に戻してやり直そうと提案するケイト。しかし、ジャックはこれを受け入れず、ロンドン行きの飛行機に乗り込んでしまいました。
13年後、ニューヨークのPKL投資会社の社長となったジャックは、高級マンションの最上階に住み、裕福な独身生活を謳歌していました。
クリスマス・イブの日、休暇もそっちのけで働いていた彼は、ケイトから電話があったという伝言を秘書から受けます。
「クリスマス・イブに1人きりが寂しくてかけてきたのだろう」と言って、折り返しの電話をかけようとする秘書の手を止めさせます。
夜も更けてやっとオフィスを出たジャックは徒歩での帰り道、エッグノックを買おうと通りかかった店に入ります。
そこで、宝くじの換金を求めて入ってきた男と、インチキだと取り合わない店員との悶着が始まり、激怒した男は拳銃を取り出して店員を脅します。
それを見たジャックはくじを買い取ると言って男をなだめ、一緒に店を出ると、銃など持たずまじめに働くように諭します。
そんな彼に男は「これから起こることは自分で招いたことだ」と謎めいた言葉を残して去って行くのです。
翌朝、目が覚めると、そこは見たこともない家で、子供が2人とケイトがいます。
何が起こったのかわからず気が動転したジャックは、車でマンションや会社などあちこちいってみますが、どこにも自分の存在はありません。
誰も自分を知らないのです。そこに昨日の男性が現れます。「時間はあるからよく考えろ」と言い残し、自転車のベルを渡してくれます。
親友だというアーニーに自分のことを聞いてみると、ケイトとは結婚し、子供にも恵まれていました。
仕事はタイヤの小売業者を営んでいるようです。ケイトは弁護士にはなっていましたが、ボランティアのような仕事をしていて無報酬。
ジャックも最初は動揺したものの、次第にこの現実を受け入れ始めます。すると、自分のこの今の人生がとても幸せに思えてきたのです。
すっかり新たな暮らしに馴染んだある日、元の世界で務めていた金融会社の会長がタイヤのパンクした高級車に乗って勤め先にやって来ました。
ジャックは経済に関する見識を披露して会長に自分を売り込み、金融会社へ転職するための段取りを整えます。
それは裕福な生活を送れば家族をもっと幸せにできると考えての行動でしたが、ケイトが望む幸せとは程遠い物でした。
ケイトの想いを知ったジャックは今の生活を続けることを決め、アニーには「おかえり、パパ」と本物の父として迎えられます。
しかしその晩、ジャックの前にキャッシュが再び現れ、「煌きは一瞬のこと、永遠には続かない」と告げてきました。
翌朝、いつものマンションのベッドにいました。さっきまでケイト達と住んでいた家ももう別人が暮らしています。
大事な商談を控えているジャックでしたが、現在のケイトの暮らすマンションに行ってみると敏腕弁護士として活躍するケイトは、フランス事務所へ移動をするための準備中でした。
呆然とするジャック。夜、ジャックはケイトに会うために空港に向かいました。そこで自分が体験した夢のような話をして、フランスに行かないで欲しいと頼みます。
13年前とは逆にケイトを引き留めるジャックでしたが、彼女は取り合わず搭乗口に並んでしまいます。
それでも諦めないジャックが、「もしもの世界」でのケイトや子供達との暮らしを夢のように語り必死に説得すると、ケイトは飛行機への搭乗を見送ることを決めます。
夜空に雪が降りしきる中、空港のカフェには楽し気に会話をするジャックとケイトの姿がありました。
キャスト
ジャック・キャンベル(ニコラス・ケイジ)
ジャック・キャンベルは、NYのウォール街にオフィスを構える大手金融会社の社長をしています。
ドアマンがいる高級ペントハウスに住んでフェラーリで通勤するいわゆる独身貴族です。
何よりも仕事を最優先したため、何不自由のない生活を手にしました。
演:ニコラス・ケイジ
1981年に『初体験/リッジモント・ハイ』でニコラス・コッポラとしてデビュー。
その後、現在の芸名に変更しています。
月の輝く夜に(87)、バンパイア・キッス(89)、ハネムーン・イン・ベガス(92)など多数の映画に出演。1995年の『リービング・ラスベガス』でアカデミー主演男優賞を受賞しました。
オスカー受賞後は、芸術的な映画に留まらず、大作映画にも積極的に出演し、同業のショーン・ペンはケイジの大作映画出演をいぶかしく思っていると発言しています。
その後、サターン・フィルムズ(Saturn Films)という映画制作会社を設立。2000年に『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』に製作者として参加します。
2002年には『SONNY ソニー』(Sonny)で監督兼プロデューサーを務めています。その後も、サターン・フィルムズの共同経営者として、いくつかの作品をプロデュースしています。
ケイト・レイノルズ(ティア・レオーニ)
現実では高給取りの弁護士で、バリバリに働いているキャリアウーマンです。
ジャックとの生活を選んだ世界では、弁護士としてプロボノ(ボランティア)活動をしています。
演:ティア・レオーニ
アメリカ版昼ドラマ『サンタバーバラ』でテレビデビュー。
ウィル・スミス、マーティン・ローレンスと共演したアクションコメディー映画『バッドボーイズ』あたりから徐々に名前も知られ始めます。
大作映画『ディープ・インパクト』で主役を演じて一気に知名度が上がり。その後も順調にキャリアを重ねていきます。
その後、いくつかのシットコムにも出演。コメディーセンスを開花させてコメディエンヌとしての才能を発揮します。
『おかしな泥棒 ディック&ジェーン』のリメイク作品『ディック&ジェーン 復讐は最高!』でジム・キャリーと競演し、キャリーと息の合った夫婦を演じてコミカルな演技を披露しています。
キャッシュ・マネー(ドン・チードル)
突如としてジャックの前に現れた不思議な青年。
ジャックが「13年前にケイトとの生活を選んでいた場合の人生」を体験することになったきっかけを作ったキーパーソンです。
演:ドン・チードル
映画は85年の「ドライブアカデミー/全員免停」がスタートです。
「ハンバーガー・ヒル」や「カラーズ/天使の消えた街」といった問題作に出演し、95年の「青いドレスの女」ではLA批評家協会賞、全米評論家協会賞の助演男優賞に輝き、以降も順調に出演作を重ねていきます。
98年にはTVドラマ「ラット・パック/シナトラとJFK」でサミー・デイヴィス・Jrを演じ、ゴールデン・グローブ助演男優賞を受賞。
そして04年には、「ホテル・ルワンダ」での迫真の演技が各方面から絶賛され、アカデミー主演男優賞にノミネートされるなど演技派としての評価を不動のものとしました。
アーニー(ジェレミー・ピヴェン)
ケイトと結婚している世界での親友。唯一ジャックの異変を感じ取り、彼を父の姿をしたエイリアンとして接します。
演:ジェレミー・ピヴェン
1980年代より映画やテレビで活躍。テレビシリーズ『アントラージュ★オレたちのハリウッド』で2006年と2007年のエミー賞助演男優賞(コメディシリーズ部門)を受賞しています。
2013年から2016年にかけては、イギリスのテレビドラマ『セルフリッジ 英国百貨店』で4シーズンにわたり主演を務めています。
基本情報
「すばらしき哉、人生」とは?
『素晴らしき哉、人生!』(原題:It’s a Wonderful Life)は、1946年のアメリカ合衆国のファンタジードラマ映画。
フランク・キャプラ、ウィリアム・ワイラー、ジョージ・スティーブンスの3人が協力して設立したリバティ・ピクチャーズの第1号作品です。
アメリカ映画協会(AFI)が選ぶ「感動の映画ベスト100」では1位に、同協会の「アメリカ映画ベスト100」では11位にランクインしています。
アメリカでは不朽の名作として毎年末にテレビ放映されることから、若い世代から再評価され、今ではクリスマスにこの映画が流れるのは定番となり、アメリカで最も親しまれた作品としてよく知られる映画です。
(あらすじ)
主人公ジョージは、子供のころから世界中を旅する生活を夢見ていましたが、父の急死により会社を継ぐことになります。
街を支配しようとする悪徳実業家に対抗しながら奮闘し、自分の給料が安くても我慢を重ね、経営と資金繰りに奔走していました。
ところが、あるハプニングで経営の資金が紛失し、会社は経営危機に立ちます。仕事に人生を捧げてきたジョージは、失意の余りに自殺直前まで追い込まれます。
自殺の直前に現れた天使は、ジョージの存在しなかった場合の架空の世界を見せます。それは、優しかった人々の心がすさんだ世界でした。
「天使のくれた時間」の見どころ
人生で大切なものは愛
とは言うけれど愛が正しい表現なのかはわかりません。別の世界線で前の彼女と貧乏だけど子供が2人いて幸せに暮らしています。
最初はその貧乏な暮らしにうんざりするジャックですが、少しずつ慣れてその生活の方がよくなっていきます。
そして、慣れてきたときに現実に戻されて主人公は虚無感を感じます。人生でお金では買うことができない大切なものを身を持って実感するという訳です。
そこで、お金があるだけでは結局心は満たされないということに気づかされます。
結局、人生はお金だけ持っていても時間を共有する仲間や家族がいなければ意味がないものだと思います。
人生はいつでもやり直せる
「天使がくれた時間」のもう一つのメッセージでもあると思っています。
主人公のジャックは現実に戻されてから彼女に会いに行ったり幸せな家庭を手に入れるために行動します。
そして、現実でも彼女と再び付き合うだろうというラストで映画は終わります。
このように、気づいた時に行動すれば間に合う可能性はあります。人生はいつでもやり直すことができるということです。
もちろん、作中で彼女が結婚していたらバッドエンドにはなりましたが、彼女と付き合うことができたのも行動したからです。行動しなかったら何も始まりませんでした。
この映画では「愛」と「行動」という幸せな人生を送るためヒントを教えてくれます。
受け手にも語り掛けるような映画
作品で描かれる物語のテーマは、「もしあの時、違う道を選んでいたら?」であり、誰しもがある人生における分岐のもう1つのルートの物語です。
ストーリーはジャックの人生で描かれますが、これは鑑賞者自身も思いを巡らせながら鑑賞できるところがこの作品の面白いところです。
今回の奇跡を自分に置き換え、想像できる楽しみ方ができる設定は、とても斬新で面白いです。
「どっちの人生がいい?」という二者択一を迫られているような問いかけをしてくれる作品です。
ジャックが歌っている歌は?
映画の終盤でジャックが昔のビデオを観る場面で歌っている歌は、フィリー・ソウルの先駆者THE DELFONICSで、68年発表の「」です。見事なほどに歌詞どおりTHOM BELL のプロデュースによってポップ・チャートも席巻した名曲です。
甘く響く歌声にトロンとさせられてしまうこと請け合い。後年には“Swing Out Sister(スウィング・アウト・シスター)”にもカヴァーされていたことでも有名になりました。
この映画には、多くの挿入歌が使われています。映画の情景と歌詞を照らし合わせて聴いてみてください。
感動のラストシーン。その後は?
「コーヒーを飲もう。パリは逃げないよ。行かないでくれ、今夜は」
ジャックが朝起きると、孤独なペントハウスに戻っています。ケイトはパリの弁護士事務所を任され、パリに向かう途中でした。ジャックは意を決して自分の思いを話します。
ジャックがケイトに伝えた名言です。彼女は承諾し、2人で笑いながらコーヒーを飲むところで物語は終わります。
『天使のくれた時間』のエンディングはとても印象的ですが、ジャックとケイトはその後どうなったのでしょうか?
おそらく、ケイトがパリ行きを捨てて、家庭中心のハッピーな結婚生活を送ることが予測されますが、既に成功している2人には十分な貯蓄やキャリアがあり、ジャックの夢に出てきた郊外の生活よりも良い生活ができそうです。
ラストまで「富か愛か」のような映画だったにもかかわらず、「その後」を語る上で冷静に考えてみると、結局2人とも仕事に大成功して富がある状態というところが少し腑に落ちませんね。
それでは、ケイトが仕事を辞めジャックの理想の家庭をニューヨークで作る未来はどうでしょうか?
バリバリのキャリアウーマンとして働いているケイトを家庭・子育てがメインの生活に突然変えるのは幸福なのか?という見方もできます。
涙を誘う映画でしたが、「ケイトの気持ちは?人生は?時間は?」とラストにモヤモヤ残る作品という意見もありました。
「天使のくれた時間」を女性目線で描いたとすれば、ラストはビンタして爽快な気持ちで飛行機に乗りパリ人生を謳歌していくという終わり方もあるもかもしれません。
「天使のくれた時間」レビュー
どんな人でも、ある程度歳を重ねると過去に選択した道とは別の人生を進むとどうなったかと考えてしまう。というのが根底にある作品かな。主人公はビジネス成功者で、過去に後悔があった訳ではないが、(天使が出てきて)別の人生を体験したらそっちが良かったので、現実に戻ってもそっちを選びたいというトコロで終わる話。ハートウォーミングな話なので、30代以上のカップルで見ると楽しめるかな。
まとめ
今回は「天使のくれた時間」をご紹介しました。
この作品は2000年に上映されて以来、人々に愛され続ける不朽の名作です。
誰もが羨む富と名誉のすべてを手にした男が、ある青年との出会いを機に奇妙な体験をすることになります。
そこには、唯一彼が手にできていなかった「愛のある人生」が待っていました。
その選択は「仕事か恋人との関係か」というありがちなものですが、ストレートだからこそ観るものに強く訴えかけるものがあります
そして、誰もが考えてしまう「あの時、違う選択をし、違う道を歩んでいたら、どうなっただろうか?」という普遍的な思いに見事に応えています。
実際に違う人生を生き直してみて、いろんな気づきを得るニコラス・ケイジに共感したという人はとても多いのではないでしょうか。
そして、同じ自分でも、自身の境遇や生活、収入、人間関係で変わってくる幸せの定義、「何を持って幸せとするか」にフォーカスしたこの作品は、人を選ばず万人の心に刺さる名作だと思います。
監督 ブレット・ラトナー
脚本 デヴィッド・ダイアモンド デヴィッド・ウェイスマン
製作 マーク・エイブラハム トニー・ルドウィグ アラン・リッシュ
製作総指揮 アーミアン・バーンスタイン トーマス・A・ブリス 他
出演者 ニコラス・ケイジ ティア・レオーニ
音楽 ダニー・エルフマン
撮影 ダンテ・スピノッティ
編集 マーク・ヘルフリッチ
配給 〔アメリカ〕 ユニバーサル・ピクチャーズ 〔日本〕 ギャガ
公開 〔アメリカ〕 2000年12月12日 〔日本〕2001年4月28日
上映時間 125分
製作国 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $60,000,000
興行収入 $124,745,083