今回ご紹介するのは「フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話」です。
監督は『インファナル・アフェア』『頭文字D』のヒットメーカー、アンドリュー・ラウ。
「中国版ハドソン川の奇跡」とも称された奇跡の実話を映画化した緊迫の実録航空機サスペンスドラマです。
中国では建国70年周年を迎えた2019年に「中国の誇り3部作」最後の作品として公開され、3週連続で1位を獲得し7週にわたりベスト10にランクインし、興行収入450億円を突破するメガヒットとなりました。
そして、国民的英雄のリュー機長を演じるのが、ジョン・ウー監督『マンハント』で福山雅治とW主演を務めたチャン・ハンユーです。
そのほかに、オウ・ハオ、トー・チアン、ユアン・チュアンなどが共演しています。
今回は、「フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話」のあらすじ、キャスト、レビューとともに、この映画のもととなった2018年の四川航空8633便不時着事故についてもご紹介したいと思います。
Contents
あらすじ(ネタバレあり)
2018年5月14日。重慶市からチベット自治区のラサに向かう四川航空3U8633便。リュー機長(チャン・ハンユー)をはじめとする9名のクルーは、乗客119名を乗せて飛び立ちました。
はじめは順調なフライトで、いつも通りに仕事をこなすクルーたち。しかし、地上1万メートルの高空を飛行する中、突如操縦室のフロントガラスにひびが入り、瞬く間に大破。副操縦士のチェン(オウ・ハオ)の体が外に投げ出されてしまいます。
リュー機長が辛うじてチェンの体を掴み、一命を取り留めたかと思われましたが、前方からは氷点下30度の冷風が激しく吹き込み、圧力を失った操縦室は自動操縦も不可能になってしまいます。
激しく揺れる機体に、クルーたちの制止も虚しく乗客たちはパニックとなりますが、それはまだ、その先に待ち受ける空前の危機の序章に過ぎなかったのです。
リュー機長とクルーたちは、豊富な経験による高度な技術で絶体絶命の危機に立ち向かっていきます。
そして、極限状態の中、難しい操縦を行いながら乗客の安全を確保し、四川省の成都双流国際空港への不時着を成功させます。
キャスト
リュー・チャンジェン(チャン・ハンユー)
3U8633便の機長です。
演:チャン・ハンユー
日本ではアクション俳優としての印象がありますが、実は中国国内では声優としても広く知られています。
小さい頃から映画が好きで、役者の声色を真似てセリフを話して遊ぶうちに声優に興味を持ち、中高生の頃はアニメの吹き替えのアルバイトをしていました。
高校卒業後は中国煤鉱文工団話劇団に入団し、約10年間声優として様々なジャンルの作品の吹き替えを担当しています。
俳優としては1990年代の終わり頃から活動を始め、2007年の『戦場のレクイエム』で主役に抜擢され、一躍スターの仲間入りを果たします。
その後もアクション作品を中心に数多くの作品に出演し、その確かな演技力で金馬奨、金鶏奨、百花映画賞、華表奨、四大授賞式で俳優賞を受賞という中国初の快挙を成し遂げました。
シュ・イーチェン(オウ・ハオ)
3U8633便の副操縦士です。
演:オウ・ハオ
1992年生まれ。2013年の音楽オーディション番組「快楽男声」で全国2位となり、正式に芸能界入りを果たします。
日本では、染谷将太さん主演の日中共同製作映画『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』に出演していることで知られています。
このほかにも、「ブレイブ 大都市焼失」(19)、「エイト・ハンドレッド -戦場の英雄たち-」(20) 、テレビでは、「天意 レジェンド・オブ・キングダム」(18)、「見知らぬ恋人 ~Love & Lie~(21)などの出演があります。
また、俳優だけではなく、歌手としても活躍しています。
リャン・ドン(トー・チアン)
3U8633便の第2機長です。
演:トー・チアン
1985年生まれ。中国ではイケメン俳優として人気があるようです。
本作のほかにも、ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海(16)、チィファの手紙(18)、オペレーション:レッド・シー(18)、愛しの母国(19)などへの出演があります。
ビ・ナン(ユアン・チュアン)
女性の乗務長です。
演:ユアン・チュアン
生年月日:1977年生まれ。プライド 小魚兒與花無缺(04)、白い恋人たち(05)、楚喬伝~いばらに咲く花~ (17~)、我的前半生(17~)、流金歳月(20~)などへの出演があります。また、歌手としても活躍しています。
フォアン・ジャ(チャン・ティエンアイ)
乗務員です。
演:チャン・ティエンアイ
1988年生まれ。日本に留学経験もあり、ドラマで日本軍軍医を演じたこともあります。オウ・ハオと同じく『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』に出演しています。
君のいる世界から僕は歩き出す(16)、ジェンド・オブ・パール ナーガの真珠(17)などに出演しています。
基本情報
アンドリュー・ラウ『インファナル・アフェア』3部作
「フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話」の監督アンアンドリュー・ラウ(1960年4月~)は、香港の映画監督、撮影監督、映画プロデューサーです。
彼の代表作である『インファナル・アフェア』は2002年に第1作目が公開され、その後2003年に『インファナル・アフェア 無間序曲』、同年に『インファナル・アフェアⅢ 終極無間』公開と、3部作で完結する傑作シリーズです。
美しい映像とスリリングな展開のストーリーが人気を博し、本国の香港のみならず、日本を含む世界中で大ヒットしました。
18歳の二人の青年は、皮肉にもそれぞれ同時期に、警察とマフィアに身分を隠して潜入することを命じられる。10年後、覚せい剤勢力の一斉検挙をもくろんでいた警察は、マフィアに潜入するヤンから大きな麻薬取引が行われるとの情報を受ける。緊張感みなぎるなか水面下での捜査が展開されるが、警察に潜入するラウからもその機密情報がマフィアに流れ、検挙も取引も失敗に終わった。
双方に内通者の存在が明らかになり、裏切り者探しに乗り出す警察とマフィア・・・。
1991年、香港マフィアの大ボス、クワンが暗殺された。離反を目論む配下のボス4人は跡を継いだ2代目ハウに抑えられるが、サムはひとり時期を待っていた。
実はこの暗殺は、サムの出世を願う妻マリーが、夫の知らぬ間に手下のラウへ命じたものだった。そんな彼女に叶わぬ恋心を抱くラウは、サムによって警察学校へ送り込まれる。
一方、警察学校では組織犯罪課のウォン警部が、クワンの私生児と発覚して退学になったヤンを、ハウの組織へ潜入させることに・・・。
ウォン警視を殉職させ、サムに訣別の銃弾を見舞い、警官としての道を選んだラウ。自分の正体を見破ったヤンの死後、ラウは警察内に残る潜入マフィアたちを始末してきた。だが、新たに立ちはだかるエリート警官ヨン、彼と結びつく本土の大物密輸商人シェン。ラウはヨンをもうひとりの潜入マフィアと確信して追いつめるが・・・。
3作品を通して、ヤンとラウの哀しくも数奇な運命と不条理さ、そして香港社会の光と影が描かれます。
単純に暗黒社会を描いた作品ではないばかりか、アクション映画やサスペンス映画と言い切ってしまうことができないほど、深く鋭い視点で描かれる脚本の秀逸さが、この三部作を実に深淵なものにしています。
『インファナル・アフェア』は、日本で『ダブルフェイス』としてリメイクされました。 『ダブルフェイス』は2015年に放送されたスペシャルドラマで、「潜入捜査編」と「偽装警察編」の2回に分けて放送されました。
主演は西島秀俊と香川照之。『インファルナル・アフェア』のヤンにあたる、ヤクザの幹部・森屋を西島秀俊、ラウにあたる、実はヤクザの潜入員である警部・高山を香川照之が演じました。
ちなみにハリウッドでは2006年に『ディパーテッド』という名前でリメイク。主人公の二人にはレオナルド・ディカプリオとマット・デイモンが扮し、話題になりました。
四川航空8633便不時着事故とは?
四川航空8633便不時着事故は、2018年5月14日に中華人民共和国・四川省で起きた航空事故です。
事故を起こした航空機は重慶江北国際空港からチベットのラサ・クンガ空港への定期便で、当該機は成都双流国際空港に緊急着陸をした。航空機はエアバスA319-100。
事故までに、航空機は1万9千時間を超える飛行時間があり。当日は3人の操縦士に加えて、6人の客室乗務員と119人の乗客が搭乗していました。
事故の詳細
2018年5月14日に、8633便は6時25分(以下、全て現地時間)重慶江北国際空港を離陸。 離陸から約40分後、四川省小金県上空30,000フィート (9,100 m)で、突然コックピットの右側の窓が割れ、急激に機内の気圧が下がった。
急激な減圧の結果、FCU(Flight Control Unit、自動操縦などを操作するパネル)が大きく破損し、また吹き込む大量の気流の音で通信が聞き取れない状態になった。
副操縦士は、自動応答装置(トランスポンダー)を使用して成都双流国際空港の管制官に緊急事態を宣言した。
8633便は7時42分に成都双流国際空港に緊急着陸した。しかし、航空機はオーバーウエイト(重量超過)の状態だったため、タイヤの破損につながった。
なお、副操縦士はシートベルトを着用していたものの、上半身が機体から吸い出された。顔にすり傷、右目の軽度の打撲、及び腰を捻挫するなどの怪我を負った。また、客室乗務員の1人も腰を負傷した。
調査報告とその後
中国民間航空局、エアバス、四川航空が原因究明を行った。また、エアバスはシカゴ条約の附属書に基づいて、調査の進展についてはコメントを控えていた。
2020年6月2日、最終報告書が発表され、事故の根本的な原因は、フロントガラス右側のシールが湿気によって損傷し、キャビン内外の気圧差や離着陸時の温度変化により、フロントガラスがさらに損傷し、最終的にフロントガラスが破裂した。
8633便の乗務員は機内での対処に対してメディアによって賞賛され、また機長は500万元の賞を与えられた。
乗務員はその後、職務に復帰。また、8633便は”3U8633”として重慶発ラサ行の便で継続している。また事故機B-6419は修理を受けた後、2019年1月18日に運用が再開された。
“中国の誇り”3部作
2019年、中国建国70周年を祝って中国国内でスケールの大きな愛国映画3作品が撮られました。
その3作品をまとめて中国の誇り3部作と呼び、第1弾『ブレイブ 大都市焼失』、第2弾『決勝時刻』、そして、第3弾が『フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話』です。
いずれも実在の事故や出来事で活躍した英雄たちを描き、国民が自国に誇りを持てる内容の作品となっています。
2011年7月に大連市の石油化学コンビナートで発生した大規模火災で消火活動にあたった消防隊員の話をヒントに、CGに加え巨大なオープン・セットを組み実際のファイヤー・スタントで撮影した映像が桁外れの迫力を生んだパニック・スペクタクル・ムービーです。世界最大規模の石油コンビナートで火災が発生。タンクが燃えれば連鎖的に爆発が起こります。万一、化学物質へ引火すれば800万人が焼死する前代未聞の危機的現場で、命の危険を冒して人々の命と財産を救った消防隊員たちの活躍をスリリングな映像で描いています。
1949年の新中国誕生と共産党指導者たちの姿を描いた作品です。1949年、新中国成立前夜、毛沢東を中心とした党の初代指導グループが北京の香山にある双清別荘地を拠点に新中国成立の準備活動を進める様子を描いた歴史映画です。
もうハリウッドはいらない?
パンデミックの間、中国における映画の興行収入はアメリカを抜いて世界一でした。
専門家は、中国はもはやハリウッドを必要としておらず、公開されるハリウッド映画も少なくなるかもしれないと述べています。
2020年、中国はアメリカを抜いて世界最大の映画市場となりました。数カ月に及ぶパンデミックによる閉鎖から素早く立ち直れたのは、中国国内で制作された映画のおかげといわれています。
Varietyによると、中国の国家電影局は5カ年計画を発表し、その中で「映画作品に対する党の全面的な指導を堅持し」、中国を「力強い文化大国」にすると宣言しました。
「評価が高く、人気のある」映画を、年間で少なくとも10本以上公開する。
年間興行収入の55%以上を、中国映画からの収入とする。
劇場スクリーン数を、現在の7万7000から2025年までに10万にする。
「国家ハイテク映画研究所」を設立する。
SF映画の製作を積極的に支援し、映画の特殊効果のレベルを全面的に向上させる。
というもので、計画によると中国の映画作品は全般的に「信頼され、愛され、尊敬される中国のイメージ」を示すべきだとしています。
この計画は、中国政府が映画市場をコントロールするためにすでに行っている措置を反映したものだといえます。
バージニア大学のメディア研究教授で「Hollywood Made in China」の著者であるアイン・コカスは、中国メディアと映画業界が「広範囲に渡って締め付けられている」と述べています。
特に、ハリウッド作品の『シャン・チー/テン・リングスの伝説』や『エターナルズ』などのマーベル映画は、中国の一部の民族主義者から怒りを買ったこともあり、2021年に中国での公開が承認されることはありませんでした。
コカスは、今後中国で公開を承認されるハリウッド映画はますます少なくなり、承認されたとしてもより厳しい規制を受けることになると予想しています。中国では現在、外国映画の公開本数を34作品までと定めています。
映画プロデューサーのクリス・フェントンは、中国の映画市場が「ハリウッドから離れつつある」と指摘。「観客動員のために、もはやハリウッド映画は必要ない」と述べています。
レビュー
- コクピット内のトラブルによる航空機事故からの生還もの。なかなか見応えがあった。この映画を観ていて、どうしても日航123便を重ねずにいられなかった。コクピットクルーたちの闘い。乗員らの必死のフォロー。123便は無念にも生還出来なかったが、この便は本当に良かった。
- ノンフィクションなので過度な演出やエピソードは期待しない方がいいです。思っていたよりお金もかかっていて楽しめたというのが正直な感想ですが、中国の国内線はこんなにキレイではありません。しかし、本作中のクルーはみんな美男美女ばかりですね。
- 制作は中国。根拠の無い不安はあったけど見事に裏切られた。ハリウッド映画に匹敵する完成度だった印象。前半はパイロットやCAのお仕事紹介みたいな展開。でもこれはトラブルが発生してからの緊迫感のある音楽への伏線だった感じ。機内トラブルが発生してからはスクリーンに釘付け。目が離せない感じでした。
- 中国国内興行収入450億円とうたう作品で、登場人物はとてもカッコいいです。しかし、はっきり言えば危機に対して一致団結して困難を克服する、中国万歳という国威発揚映画です(原題が「中国機長」ですしね)。つまらないかといえばそうではなくて、開始後85分ぐらいはスリリングです。ただ、残り25分は蛇足で無理に話を引き延ばした感じがします。
- 我が国にはこんな優秀なパイロットがいるというプロパガンダ的映画。実話だけに変に脚色しなかったのは良いと思う。エベレストのヤツは酷かったから余計良く見える世界の中の11分の1の事故率の割りに何で窓ガラスが割れるのか?そこが謎のまま。こんな怖い航空会社に乗らないと普通は思う取り敢えず誰も死ななかったのは良かった。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は「フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話」をご紹介しました。
実話ベースの作品ですが、ものの数年前の出来事と知って驚きました。それをこんなに早く映画化してしまうとは中国はすごいですね。
作品については、とにかく作りこみが徹底しており、引き込まれる臨場感があります。一体どうやって撮影したのだろうと考えてしまうほどです。特に、事故直後のシーンの緊迫感は必見です。
しかし、逆にいうと良かったのはそれくらいで、後は延々と退屈なドラマが続きます。
仰々しいグッドサインや、スローモーションの多用など、安っぽい演出が多かったのも確かです。
また、この作品はクライマックスが早すぎるので、40分近く時間を残しておきながら、もう物語は終着へと向かい始めてしまいます。
中国版「ハドソン川の奇跡」と称されることもあるようですが、まだまだ、あちらの方が上ですね。
ただ、国内向けの中国映画ならではの愛国気分を盛り上げる要素がいくつもあって、そのあたりの盛り具合はいかにもアジアで感情的な感じもします。
蛇足気味の後日談がついているなど、ハリウッド映画と比べれば、垢ぬけない部分も感じますが、映像技術レベルは高く、十分に楽しめる作品です。
近い将来には、こうした作品が本格的に輸出されていくことになるのではと思われました。
監督 アンドリュー・ラウ
脚本 ユー・ヨンガン
製作 アンドリュー・ラウ ペギー・リー
撮影 アンドリュー・ラウ フォン・ユンマン
編集 アズラエル・チャン 李建祥 辛子敏
アクション指導 リー・ダーチウ 夏小龍 林祥堅
音楽 チャン・クォンウィン チャン・ジーイー
出演 チャン・ハンユー オウ・ハオ ドゥー・ジアン ユアン・チュアン
製作会社 博納影業
配給 〔中国〕 浙江博納影視製作有限公司、華夏電影発行有限責任公司
公開 〔中国〕 2019年9月30日 〔日本〕 2020年10月2日
上映時間 111分
製作国 中華人民共和国
興行収入 29.1億元