産業カウンセラーとは、職場でカウンセリングを行うカウンセラーのことです。
民間企業や学校などの公的機関、医療機関などで働く人たちが抱える悩みや問題に、心理学的手法を用いてサポートする職業です。
今回はどうしたら産業カウンセラーになれるのかについて紹介していきます。
Contents
適用する仕事
産業カウンセラーとは、人の心の問題に向き合う「心理カウンセラー」のなかでも、特に企業などで働く人の心の問題やキャリア開発といった「産業領域」を専門とする職業を指します。
産業カウンセラーの具体的な仕事内容には、メンタルヘルス対策への援助、キャリア開発の援助、職場における人間関係開発への援助などがあります。
メンタルヘルス対策への支援
これは労働者のメンタルヘルスの維持・改善の支援です。
近年、企業が行う人事労務政策には、リストラによる雇用の不安定化、成果主義の導入など、労働者にとってストレスを与えるものがかなりあります。
そうしたストレスに耐え切れなくなることで心身に変調をきたせば、生産性の低下へとつながり、些細なミスが大事故へと発展することも危惧されます。
こうした職場のストレス対策と個人のストレスコントロールへの援助をするのが、産業カウンセラーの役割です。
キャリア形成への支援
これはキャリア・カウンセリングのことです。
産業構造の変化、技術革新の進展、そして労働者の就業意識や就業形態のなかで労働移動が激しくなっています。
そのため、企業内だけでなく、企業の外でも通用する職業能力が労働者に求められています。
こうした点から、キャリア・カウンセリングに取り組むのも産業カウンセラーの仕事です。
2003年度から認定試験が始められ、これまで約3,500人のキャリア・コンサルタントが誕生しています。
具体的には、キャリアアップへの悩みを抱えている人や能力開発の方向性がつかめない人たちなどの話に耳を傾けて、最善の道を提示します。
職場における人間関係開発への援助
上記でメンタルヘルス対策への支援とキャリア形成への支援を挙げましたが、それとともに個々人の成長を促す人間関係育成の援助もします。
産業カウンセラーは、より快適な職場環境を作ることにも積極的に取り組みます。
ハラスメントが横行していたり、人間関係に問題が生じていたりする現場には個々人の対処だけでは不十分の場合があるので、そうしたことを起こさない組織改革や再発防止策の考案をします。
おおよその年収とキャリアパス
産業カウンセラーの年収は勤務先や雇用形態によって異なるため、ばらつきがあります。
民間企業に正社員として雇用された場合は、年収200万~400万円程度でしょう。
企業の規模が大きいと相応に給料も上がります。
しかし、カウンセラー単体として雇用されるのは稀だと思ってください。
他の業務と兼任するパターンが多いです。
一方、パートタイムや派遣形態での雇用は時給換算になるため、年収は200万円以下が大多数です。
例えるなら、非常勤の講師のように、決められた日にちのみ活動する勤務形態になるでしょう。
どれだけの企業や団体から仕事を任せてもらえるかによって変動するため、収入は安定しないかもしれません。
産業カウンセラーは「一般社団法人日本産業カウンセラー協会」が認定している民間資格の名称なので、産業カウンセラーと名乗るには協会が実施する産業カウンセラー養成講座を受ける必要があります。
協会では、産業カウンセラーの資格を保有している会員を対象に無料職業紹介を行なっています。
ただし、求人に限りがあるので求職者すべてに行き渡るかは微妙です。
産業カウンセラーの資格を保有している人のなかには、それ1本に絞らずに複数の資格やキャリアを持っている方も多いです。
現役産業カウンセラーの声として、キャリア・コンサルタントの資格を取って、通信制高校のキャリア・コンサルタントのポジションに就いたり、企業グループの健康保険組合で相談室を立ち上げて資格を活かしたり、あるいは産業カウンセラーの業務をしながら本業の行政書士の仕事を行なっていたりと、産業カウンセラーの資格の活かし方はさまざまあります。
認可団体
産業カウンセラーの資格を認定している団体は「一般社団法人日本産業カウンセラー協会」です。
こちらは1960年に創立されました。
2013年からは一般社団法人へと移行しています。
産業カウンセラーの育成をはじめ、企業や団体向けの研修や相談、個人向けの電話相談活動など多岐にわたって活動しています。
受験条件
受験資格は1、2、3のいずれかに該当している場合に受験できます。
1.養成講座
成年(試験日に20歳以上)に達した者で、【認可団体】である協会が行う産業カウンセリングの学識および技能を修得するための講座を修了した者。
協会が実施する養成講座(1992年度~2020年度:2021年3月末までの閉講分)を修了した場合は、修了年度に関係なく受験が可能。
2.大学関係
4年制大学学部の卒業者であって、公認心理師法関連の「大学における必要な科目」のうち、協会が指定する下記の17科目について、所定の単位を取得した者。
ただし、当該大学が公認心理師コースを開始した年度以降に履修した単位に限る。
- 「公認心理師の職責」
- 「心理学概論」
- 「臨床心理学概論」
- 「知覚・認知心理学」
- 「学習・言語心理学」
- 「感情・人格心理学」
- 「神経・生理心理学」
- 「社会・集団・家族心理学」
- 「発達心理学」
- 「障害者・障害児心理学」
- 「心理的アセスメント」
- 「心理学的支援法」
- 「健康・医療心理学」
- 「産業・組織心理学」
- 「人体の構造と機能及び疾病」
- 「精神疾患とその治療」
- 「関係行政論」
3.その他
他には、大学院で単位を修得した場合と、社会人を経験し、なおかつ単位を修得した場合に受験可能となります。
大学院関係
大学院研究科において、心理学または心理学隣接諸科学、人間科学、人間関係学のいずれかの名称を冠する専攻(課程)の修了者であって、下記のA群からG群までの科目において、1科目を2単位以内として10科目以上、20単位以上を取得していること。
ただし、D群からG群の科目による取得単位は6単位以内とする。
科目群について | |
A群 | 産業カウンセリング、カウンセリング、臨床心理学、心理療法各論(精神分析・行動療法など)などの科目群 |
B群 | カウンセリング演習 カウンセリング実習などの科目群 |
C群 | 人格心理学、心理アセスメント法などの科目群 |
D群 | キャリア・カウンセリング、キャリア概論などの科目群 |
E群 | 産業心理学、産業・組織心理学、グループダイナミックス、人間関係論などの科目群 |
F群 | 労働法令の科目群 |
G群 | 精神医学、精神保健、精神衛生、心身医学、ストレス学、職場のメンタルヘルスなどの科目群 |
社会人関係
社会人として週3日以上の職業経験を通算3年以上有し、大学院研究科において心理学または心理学隣接諸科学、人間科学、人間関係学のいずれかの名称を冠する専攻(課程)の修了者であること。
上記のA群からG群までの科目において、1科目を2単位以内として4科目以上、8単位以上を取得していること。
ただし、D群からG群の科目による取得単位は2単位以内とする。
ここでいう職業経験とは、雇用形態を問わずにすべての職業経験を指す。
合格率
2021年度の合格率は以下のとおりです。
学科試験:67.8%
実技試験:67.3%
総合合格率:61.2%
1年当たりの試験実施回数
年2回(6・7月と1月)実施されます。
試験科目
- 産業カウンセリング概論
- カウンセリングの原理および技法
- パーソナリティ理論
- 職場のメンタルヘルス
- 実戦的な知識・技能の理解
- ロールプレイング(ミニカウンセリング)
- 口述試験
採点方式と合格基準
学科試験は五肢択一式の問題です。
マークシート方式で、学科試験1と学科試験2に分けられます。
学科試験1では、基礎的な学識が問題が40問出題されます。
学科試験2では、事例への対応能力や対話分析能力を問う問題が40問出題されます。
実技試験では、受験者同士でのロールプレイングや試験官との口述試験が行われます。
産業カウンセラーとしての、基本的態度・適切な技法・自己理解的側面・社会的貢献といった4つの能力が問われます。
合格基準は学科・実技ともに、おおむね6割以上の得点となっています。
なお、学科試験または実技試験のいずれかに合格された方(一部合格)は、翌年度と翌々年度まで合格した試験が免除されます。
取得に必要な勉強などの費用
勉強には協会が実施している「産業カウンセラー養成講座」を受講します。
養成講座を受けるのは以下の条件から外れている、成年(試験日に20歳以上)に達した方です。
- 4年制大学学部の卒業者で、公認心理師法関連の「大学における必要な科目」のうち、協会が指定する17科目の単位を取得した方
- 大学院研究科において、心理学または心理学隣接諸科学、人間科学、人間関係学のいずれかの名称を冠する専攻(課程)を修了した方で、かつA群からG群までの科目において、1科目を2単位以内として10科目以上、20単位以上を取得している方
- 週3日以上の職業経験を通算3年以上有している社会人で、かつ大学院研究科において心理学または心理学隣接諸科学、人間科学、人間関係学のいずれかの名称を冠する専攻(課程)を修了している方
受講料は297,000円(教材費を含む・税込)です。
ただし、一定の条件を満たす方は受講料の割引制度が適用されます。
受験料
学科試験:11,000円(税込)
実技試験:22,000円(税込)
受験申込方法
【認可団体】である「一般社団法人日本産業カウンセラー協会」の公式サイトを検索していただき、お申し込みください。
そこで、試験に関する案内も掲載されます。
まとめ
ここまで、どうしたら産業カウンセラーになれるのかについて解説してきました。
産業カウンセラーは基本的に企業や公的機関など「働く人たちが集う場」で活躍します。
近年、不安定な雇用や厳しい労働環境の中でストレスなどが問題視されています。
そのような労働者をケア・フォローする産業カウンセラーへの需要は徐々に高まってきているといえます。
しかし、正社員や常勤での求人の枠は狭いのが現状です。
年収の項目でもご紹介したように、産業カウンセラー単体での収入は不安定です。
この資格を本業に役立てたり、他の公認心理師や臨床心理士などの資格を目指す足がかりにしたりするといった活かし方が、今のところ最適な方法ですよ。
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