皆さんは中小企業診断士という職業をご存知ですか。
名前だけは聞いたことあるという人もいるかもしれません。
中小企業診断士とは、中小企業の経営課題に対応するため、診断や助言を行う専門家のことです。
経営コンサルタントとして唯一の国家資格ともいわれていて、企業をさまざまな角度から診断して、適切なアドバイスができる人を認定している資格です。
経営コンサルタントとして独立したい人はもちろんのこと、企業の中でキャリアアップしたい人や、よりマネジメントできる仕事にキャリアチェンジしたい人に有効な資格といえます。
どんな資格なのかをみていきましょう。
Contents
適用する仕事
冒頭でも述べたように、中小企業診断士とは経営コンサルタントで唯一の国家資格です。
しかし、国家資格といえども、弁護士や公認会計士のような「独占業務」はありません。
ただ、中小企業診断士はこの資格を得ることで初めて「中小企業診断士」と名乗れるので、名称独占資格といわれています。
中小企業診断士の資格を持っていない人でも、経営コンサルティングはできますが、中小企業診断士の資格を持っていることは経営コンサルティングを行う上で必要な知識を有しているという証になります。
中小企業診断士は国家資格ですから、能力があるとみなされます。
資格を持っていた方が仕事を遂行するうえで力になるでしょう。
中小企業診断士の仕事には、主に3つあります。
経営コンサルティング
中小企業診断士の最も代表的な仕事といわれているのが、経営コンサルティングです。
依頼された企業の経営状況を診断・分析して、よりよい経営に導くためのアドバイスを行います。
具体的には、企業の経営状態を知るために、経営に関する資料を提出してもらいます。
そして、そこから問題点や改善点などを洗い出せるようにヒアリングや会社訪問を行います。
そうしたうえで、総合的に企業の経営状態を分析していきます。
分析した後、生産管理や経営に関する課題、収益性改善やコスト削減など生産性向上の改善案を診断報告書にまとめて、改善にあたっての具体的な方法を提案します、
提案を踏まえたうえで、経営計画策定の支援、実行後の実績などのフォローアップ支援を行う場合もあります。
経営改善計画書や経営診断書の作成
中小企業診断士は中小企業診断士しかできない書類を作成します。
それが経営改善計画書と経営診断書です。
経営改善計画書とは、将来的な経営改善を具体的な施策を用いて説明する書類です。
お金の動きに直接にかかわる書類で、金融機関から融資を受けるうえで必要とされる書類の1つです。
経営診断書とは、「産業廃棄物許可申請」の際に提出する書類の1つです。
これは産業廃棄物を取り扱う中小企業の財政状態を把握して、不法投棄が行われないようにするための書類です。
書類提出は義務化されています。
このように中小企業診断士しか作れない書類があるので、各種申請において彼らのスキルが発揮されます。
専門知識の発信
中小企業診断士は経営に関する専門知識が豊富な方が多いので、その知識を発信するのも仕事の1つです。
講演活動
中小企業診断士は独立開業している人も多いですから、人気の方は講演依頼の話が来ることもあります。
主に経営者の集まるイベントに出席して、講演をするのが一般的です。
近年の傾向としては、ITと経営をどう絡めていけばいいかといったテーマが多いようです。
中小企業診断士は従業員の少ない中小企業やベンチャー企業などにとっては、非常にためになる存在です。
そうした企業向けやときには一般人向けに、経営に関わる知識の話をすることも仕事に含まれます。
執筆活動
講演活動の他に執筆活動をしている方もいます。
自ら所有している専門知識を書籍にしたり、webサイトで記事にしたりします。
そうすることで講演とは違った形で、自らのスキルを活かすことができます。
書籍を出すことで自分の名前を知ってもらえます。
すると、例えば本を読んだ経営者からコンサルティングの依頼が来るかもしれません。
このような仕事で、中小企業診断士は生計を立てているのです。
おおよその年収とキャリアパス
では、その中小企業診断士はどのくらい稼いでいるのでしょうか。
おおよその年収に関しては、幅があることがわかりました。
中小企業診断士の年収
下記の表は「一般社団法人中小企業診断協会」が、会員の中小企業診断士を対象に行なったアンケート調査の結果です。
年収 | 割合 |
300万円以内 | 8.9% |
301万~400万円 | 8.3% |
401万~500万円 | 10.0% |
501万~800万円 | 19.9% |
801万~1,000万円 | 14.9% |
1,001万~1,500万円 | 18.8% |
1,501万~2,000万円 | 9.1% |
2,001万~2,500万円 | 3.6% |
2,501万~3,000万円 | 2.2% |
3,001万円以上 | 4.3% |
平均年収は501万~800万円ともいわれていますが、年収1,000万円以上の方も約4割います。
なぜ中小企業診断士がこれだけ高収入を得られるのかは、複数理由があります。
- 日本で唯一の経営コンサルタントの国家資格だから
- 他の資格も併用して取得している人が多いから(ファイナンシャルプランナーや公認会計士、税理士など)
- 独立開業している割合が高いから
- 平均年収の高い年代が多いから(40~60代のベテランが多い)
中小企業診断士試験からのキャリアパス
中小企業診断士になるには、試験を受けなければなりません。
試験には、第1次試験と第2次試験があります。
しかし、試験に合格して終わりではありません。
第2次試験を突破したら、今度は実務補習を受講します。
補習は15日間のカリキュラムで構成されています。
あるいは、第2次試験を受験しない代わりに、養成課程を受けて修了させるパターンもあります。
いずれにせよ、それらを修了させてから中小企業診断士登録手続きを行います。
無事手続きが終わったら、中小企業診断士登録証が届けられますが、登録の有効期間は5年間のみです。
更新することは可能ですが、理論政策更新研修という4時間の研修を受講したり、論文審査を受けたりしなければならないので厳しい道のりですね。
認可団体
認可団体は中小企業庁です。
受験条件
【キャリアパス】の欄でも触れたように、中小企業診断士試験には第1次試験と第2次試験があります。
第1次試験の受験条件
第1次試験での受験条件はありません。
どんな方でも挑戦できます。
ただし、受験条件ではなく、試験の科目の一部を免除してもらえる制度があります。
- 大学などの経済学の教授、准教授、旧助教授(通算3年以上)
- 経済学博士
- 公認会計士、または旧公認会計士試験第二次試験において、経済学を受験して合格した者
- 不動産鑑定士や不動産鑑定士補(試験合格者を含む)
- 公認会計士や会計士補(試験合格者、有資格者を含む)
- 税理士(試験合格者、試験免除者、有資格者を含む)
- 技術士(情報工学部門のみ。有資格者を含む)
第2次試験の受験条件
第2次試験は筆記試験と口述試験で行われます。
筆記試験の受験条件は第1次試験を合格していること、口述試験の受験条件は筆記試験を合格していることです。
合格率
繰り返しますように、中小企業診断士試験は2つの試験に合格しなければなりません。
それらを合わせると、低い合格率です。
年度 | 1次合格率(A) | 2次合格率(B) | 試験合格率(A)×(B) |
令和元(2019) | 30.2% | 18.3% | 5.5% |
令和2(2020) | 42.5% | 18.4% | 7.8% |
令和3(2021) | 36.4% | 18.3% | 6.6% |
1年当たりの試験実施回数
それぞれ年1回ずつ実施されます。
第1次試験は例年8月上旬の2日間です。
第2次試験の筆記試験が例年10月下旬、口述試験は例年12月中旬です。
試験科目
- 経済学、経済政策
- 財務、会計
- 企業経営理論
- 運営管理(オペレーション・マネジメント)
- 経営法務
- 経営情報システム
- 中小企業経営、中小企業政策
- 組織(人事を含む)を中心とした経営の戦略および管理に関する事例
- マーケティング・流通を中心とした経営の戦略および管理に関する事例
- 生産・技術を中心とした経営の戦略および管理に関する事例
- 財務・会計を中心とした経営の戦略および管理に関する事例
採点方式と合格基準
第1次試験はマークシート形式による多肢選択式です。(四肢択一または五肢択一)
合格基準は
- 総点数による合格基準 免除科目を除く全科目を受験し、総点数の60%以上、かつ1科目でも満点の40%未満のないこと
- 科目ごとによる合格基準 満点の60%を基準
第2次試験では、筆記試験は各設問15~200文字程度の記述式です。
口述試験は10分程度の面接で、筆記試験の出題内容をもとに4~5問出題されます。
合格基準は
- 筆記試験:総点数の60%以上で、かつ1科目でも満点の40%未満のない者
- 口述試験:評定が60%以上の者
取得に必要な勉強などの費用
独学の場合は、市販のテキストや問題集、過去問を購入すると、最低でも3万円以上はかかります。
入門書や模擬試験なども含めると、5万円程度はかかると思っておいた方が良いでしょう。
予備校に通う場合は、大手では通年コースで20万~30万円程度かかるそうです。
もし、さらに苦手科目向けの講座をオプションで受けるとしたら、数万円追加されます。
受験料
第1次試験は14,500円、第2次試験は17,800円です。
受験申込方法
受験を申し込むには、まず試験案内と受験申込書を入手しましょう。
書類の入手の仕方は郵送による書類請求と、窓口での受け取りの2通りが可能です。
webによる請求はできないので、注意して下さい。
郵送で請求する場合には、封筒に「中小企業診断士第1次試験案内請求」と明記しましょう。
書類を入手できたら、必要事項を記入し、受験申込書をゆうちょ銀行または郵便局に提出しましょう。
これは提出とともに、受験料の払い込みも行うためです。
払込票に記載された受験申込書は、中小企業診断協会へ送付されます。
そしたら、受験票と写真票が普通郵便で送られてきますので、それぞれの内容に誤りがないかを確認したら、写真票に写真を貼り付ける作業をしておきましょう。
写真の大きさは縦4.5cm×横3.5cm(パスポート申請用の写真のサイズ)です。
受験の申込手順は第1次試験・第2次試験とも、だいたい同じです。
まとめ
今回は経営コンサルタント唯一の国家資格である「中小企業診断士試験」について、解説してきました。
中小企業診断士は独立開業している人が多く、年収が高い面もあります。
しかし、資格を得るには2つの試験を受験しなくてはならず、それらの合格率をあわせると数パーセントしかありません。
特に第2次試験では、記述式で解答します。
独学でも勉強できますが、合格基準がありますからまんべんなく勉強しないといけません。
予備校に通うには20~30万円か、それ以上の費用がかかると思ってください。
しかし、中小企業診断士は従業員の少ない中小企業やベンチャー企業などにとっては、非常にためになる存在です。
中小企業は日本全体の9割もありますから、それらのために働くのも良いでしょう。
この資格の第1次試験は受験条件がありませんから、力をつけたら受験してみてはいかがでしょうか。
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