今回は「ダークナイト」3部作や「インセプション」など数々の話題作を送り出してきたクリストファー・ノーラン監督によるアクションサスペンス超大作「TENET」のご紹介です。
「現在から未来に進む“時間のルール”から脱出する」というミッションを課せられた主人公が、第3次世界大戦に伴う人類滅亡の危機に立ち向かう姿を描いています。
主演は名優デンゼル・ワシントンの息子で、スパイク・リー監督がアカデミー脚色賞を受賞した「ブラック・クランズマン」で映画初主演を務めたジョン・デビッド・ワシントン。
共演はロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキのほか、「ダンケルク」に続いてノーラン作品に参加となったケネス・ブラナー、そしてノーラン作品に欠かせないマイケル・ケインらです。
撮影のホイテ・バン・ホイテマ、美術のネイサン・クローリーなど、過去にノーラン作品に参加してきた実力派スタッフが集い、音楽は「ブラックパンサー」でアカデミー賞を受賞したルドウィグ・ゴランソンが初参加しています。
今回は「TENET」をご紹介します。
あらすじ(ネタバレあり)
6月14日。キエフ国立オペラ劇場は突如現れた武装グループに観客もろとも占領されてしまいまいました。
CIAエージェントの“名もなき男”はテロリストと特殊部隊の乱戦の中で「プルトニウム241」を回収しようと、武装グループに潜入した仲間のもとへ近づきました。
しかしその時、観客もろとも劇場を爆破しようとする特殊部隊を見つけ、この戦い自体が何者かに仕組まれたものであることに気付きます。
名もなき男は敵の襲撃に遭ってしまいましたが、逆行する弾丸を操る謎の男によって助かり、観客の命を救うことができました。
ところがそう思ったのも束の間。敵に捕まってしまい拷問を受けました。敵の隙を見て、自殺カプセルを飲みましたがそれは単なる鎮痛剤でした。
目が覚めた場所は何かの施設でした。死んだと思われた名もなき男を救ったのは、第三次世界大戦を未然に防ぐために活動する謎の組織でした。
協力を要請された彼は、施設内で研究員から時間の逆行を見せられました。それは壁に打ち込まれた弾丸が、自力で飛び出し銃口に逆戻りするという、あまりにも現実離れした衝撃の瞬間でした。
そして、これは、キエフの劇場で彼を救った男が起こした現象と同じでした。
弾丸の薬莢に使われている金属がインド特産のものであることを突きとめた名もなき男は、ムンバイに行き大物武器商人サンジェイを探るためアシスタントのニールと合流しました。
ニールは初対面にもかかわらず、名もなき男のことをよく知っているようでした。サンジェイと対峙すると、本当の黒幕は妻のプリヤであることが分かりました。
その後、プリヤとイギリスの諜報員クロズビーの情報をたどり、ロシアの武器商人セイターが本当の黒幕だと判明します。
名もなき男はその妻キャットに接近し、夫に弱みである贋作絵画を握られている彼女のために、保管庫に突入することにしました。
オスロの空港に隣接された保管庫のセキュリティを大胆な方法で突破した名もなき男とニールは、保管庫の中心に回転ドアのような装置を見つけました。
すると突然、回転ドアが開き中から2人の黒服の男が飛び出してきました。名もなき男は時間を逆行する奇妙な動きに翻弄されながら苦戦を強いられます。
一方、ニールは逃げる黒服男を追いかけていきました。
キャスト
名もなき男(ジョン・デビッド・ワシントン)
劇中で名前を呼ばれることも、偽名を含め名乗る場面も一切なく、度々”アメリカ人”とだけ呼ばれ、公式WEBサイトでは便宜上「名もなき男」と紹介されていますが、原語ではPROTAGONISであり、作中における二つの役割を示すダブルミーニングとなっています。
演:ジョン・デビッド・ワシントン
俳優デンゼル・ワシントンの長男。女優のオリヴィア・ワシントンは妹です。
「デヴィッド」はミドルネームではなく、「ジョン・デヴィッド」がファーストネーム。
9歳の時に、父デンゼル主演のスパイク・リー監督の映画『マルコムX』に端役で出演します。
アメリカンフットボール選手を引退後、本格的に俳優業を始め、2015年からアメリカンフットボールを題材にしたテレビドラマ『ballers/ボーラーズ(英語版)』に出演。
2018年の映画『ブラック・クランズマン』で主人公ロン・ストールワース刑事を演じて注目され、ゴールデングローブ賞 主演男優賞 (ドラマ部門)にノミネートされます。
ほかにも映画では『アムステルダム』、テレビドラマでは『ballers/ボーラーズ』などへ出演しています。
2020年のクリストファー・ノーラン監督作品『TENET テネット』で主演をしています。
ニール(ロバート・パティンソン)
主人公に協力する男です。クールに任務をこなす反面、ユーモラスな一面もあり、オスロ空港での火災を起こすための陽動もジャンボジェット機をフリーポートへ激突させるなど派手さを求めます。
演:ロバート・パティンソン
2004年にテレビ映画『ニーベルングの指環』でデビュー。翌年公開の『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』のセドリック・ディゴリー役で注目を集めます。
2008年公開の『トワイライト〜初恋〜』で演じた、主人公ベラ・スワンの恋人エドワード・カレン役でブレイク。
『トワイライト〜初恋〜』においては、サム・ブラッドリーと共作してロバートが歌った「Never Think」という楽曲が挿入歌として使用されており、曲はサウンドトラックに収録されています。
2015年公開の『ディーン、君がいた瞬間』ではジェームズ・ディーンを撮影したカメラマン、デニス・ストック(英語版)を演じています。
2022年公開のマット・リーヴス監督による『THE BATMAN-ザ・バットマン-』では主演のブルース・ウェイン / バットマン役に抜擢されました。
キャサリン“キャット”・バートン(エリザベス・デビッキ)
ロンドンで絵画の鑑定士をしているセイターの妻です。セイターから暴力的な仕打ちを受けていますが、息子を人質に取られて逃げ出せずにいます。
演:エリザベス・デビッキ
幼い頃からバレエに関心を抱き、のちに芝居へと切り替えることを決断するまでバレエダンサーとして特訓を受けます。
2010年、メルボルン大学ビクトリアン・カレッジ・オブ・ジ・アーツ(英語版)で演劇の学位を取得します。
2011年にスクリーンデビュー後、バズ・ラーマン監督の『華麗なるギャツビー』(13)でハリウッドに進出。
『コードネーム U.N.C.L.E.』や「エベレスト 3D」(ともに15)、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』(17)といった大作への出演が続き、マイケル・ファスベンダー主演の「マクベス」(15)では、マクダフの妻を演じました。
2012年12月にはファッション誌『ヴォーグ』のモデルとして登場しています。
Netflixのオリジナルドラマ「ザ・クラウン」のシーズン5と6でダイアナ妃役に抜擢されています。
アンドレイ・セイター(ケネス・ブラナー)
在英ロシア人の大富豪で表向きには天然ガスで富を築いたとされていますが、正体は銃器を売り捌く武器商人です。
演:ケネス・ブラナー
“ローレンス・オリヴィエの再来”と呼ばれ、シェイクスピア役者として名を馳せるイギリスの演技派俳優です。
幼い頃から演技を学び、王立演技学校を首席で卒業。ロンドンに渡り、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで最年少の『ヘンリー五世』を演じるなど、天才としての才能を顕示。
さらには、自ら演出を手がけるなど多才ぶりを発揮します。本格的な映画デビューは1987年の「ひと月の夏」。
その後、監督・脚本・主演を兼ねた「ヘンリー五世」でアカデミー賞の監督賞と主演男優賞にノミネートされます。
94年に監督・主演した「フランケンシュタイン」では、ロバート・デ・ニーロとの演技合戦が大きな話題になりました。
マヒア(ヒメーシュ・パテル)
ニールから依頼されオスロ空港の作戦に飛行機班として協力する男です。再び依頼され、スタルスク12の作戦にて、ポンペイのヨットへキャットを誘導する役目を担います。
演:ヒメーシュ・パテル
16歳の時に演劇学校の斡旋によりソープオペラ『イーストエンダーズ』のオーディションを受け、タムワル・マズード役に抜擢されます。
同作には2007年10月1日放送回で初登場となり、2011年に共演者であるメリル・フェルナンデスと共に、インサイド・ソープ・アワードのベスト・ウェディング部門を受賞。
その後は2016年までの9年間に渡って、タムワル・マズード役を演じています。
2016年9月27日より放送が開始されたチャンネル4のシットコム『Damned』に出演。『イーストエンダーズ』降板後では初のテレビ出演となりました。
2019年に映画『イエスタデイ』で映画初出演。同作では主人公のジャック・マリクを演じ、劇中ではビートルズの楽曲の生演奏もしています。
同年に発売されたチャリティ・アルバム『BBC Children In Need: Got It Covered』に参加し、ザ・キラーズの「All These Things That I’ve Done」をカバーしました。
バーバラ(クレマンス・ポエジー)
時間を逆行する武器と未来から送られてきた第三次世界大戦の遺産を研究するTENETの女性科学者です。
演:クレマンス・ポエジー
パリ郊外のライ=レ=ローズ出身。父親は俳優・舞台監督、母親はフランス語の教師。妹のマエル(Maëlle)は同じく女優です。父親の影響から14歳で演技を始めます。
2005年、『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』にフラー・デラクール役で出演し一躍有名になります。
同年、『レジェンド・オブ・サンダー』のメアリー女王役でFIPA(国際テレビ映像祭)ミニシリーズ部門の女優賞を受賞。
その後、ハリー・ポッターシリーズ以外にも「招かれざる隣人 The Ones Below 」(15)
「あしたは最高のはじまり Demain tout commence 」(16)、ジャコメッティ最後の肖像 Final Portrait (17) などへの出演があります。
アイブス(アーロン・テイラー=ジョンソン)
プリヤ直属の部隊の指揮官。スタルスク12の戦いでは、順行状態・赤チームの隊長を務めます。
演:アーロン・テイラー=ジョンソン
6歳で初舞台を踏み、以降12年にわたってジャッキー・プラマー・ステージスクールで演技や歌、ダンスを身につけます。
2001年にTVデビュー。「トムとトーマス」(02)でスクリーンデビューを果たし、「幻影師アイゼンハイム」(06)、「ジョージアの日記 ゆーうつでキラキラな毎日」(08)などに出演。
「ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ」(09)で英インディペンデントアワードの俳優賞にノミネート。「キック・アス」(10)の主人公役で世界的に知られるようになりました。
「キック・アス」の続編「キック・アス ジャスティス・フォーエバー」(13)や「GODZILLA ゴジラ」(14)、「アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン」(15)に出演。
「ノクターナル・アニマルズ」(16)では、ゴールデングローブ賞最優秀助演男優賞を受賞しています。
マイケル・クロズビー卿(マイケル・ケイン)
MI6の連絡役で、ロンドンで主人公に情報提供を行っています。
演:マイケル・ケイン
軍隊退役後演劇に興味を持ち、舞台監督助手の職を得て、1954年の映画「ケイン号の叛乱」からとったマイケル・ケインを芸名にします。
俳優に転向して数多くのTVドラマや舞台を経験し、「韓国の丘」(56)で本格的にスクリーンデビュー。「ズール戦争」(64)で国際的な注目を集めます。
「アルフィー」(66)でアカデミー賞初ノミネート、「ハンナとその姉妹」(86)、「サイダーハウス・ルール」(99)で同助演男優賞を受賞。
近年は「バットマン ビギンズ」(05)をはじめとした新「バットマン」シリーズから、「TENET テネット」(20)まで、クリストファー・ノーラン作品の常連として知られます。
イタリアの名匠パオロ・ソレンティーノ監督による人生讃歌「グランドフィナーレ」(15)では主人公の老指揮者役を務めた。00年にナイトの称号を授与されています。
基本情報
なぜ主人公に名前がない?
TENETは日本語で“信条”という意味。主人公に名前がないのは、彼の物語が万人に通じるからだと思えます。
本作で主人公が様々なことに疑問を挟まず、淡々と任務を遂行していったのでしょうか?
おそらく、それは全ての首謀者である未来の自分と、意識のどこかが繋がっているからではないでしょうか。
SF的なことばかり取り上げられがちが、TENETのテーマは「運命とは未来の自分から伝わる意識である」だと思われます。
「お前は道の先にあるものを知っている。自分の信じる道を歩め」
クリストファー・ノーラン監督は、この映画を通じてそう言いたかったのかもしれません。設定の緻密さだけでない、物語の文学的な深さが感じられます。
赤色と青色の意味は?
色分けの意味
映画の中で、正常な時間軸=順行は赤、逆行は青で表示されています。この色分けで思い浮かぶのが、少年時代ノーラン監督が最も影響を受けた『スター・ウォーズ』シリーズ。
同作では、正義のジェダイが青でシスは赤と設定されていました。主人公の“名もなき男”が高速ヨットで滑走するシーンは、宇宙を飛び回るXウィングをイメージしてます。セイターの高速ヨットの色は青でした。
映画会社のロゴ
ワーナー・ブラザースの“WB”ロゴは青地に黄文字ですが、本作では赤一色です。
続くノーランの製作会社シンコピー・フィルムズ(SYNCOPY)のロゴは黒字に青と、本作のテーマカラー赤と青で塗られています。
ちなみに『ダークナイト』はダークブルー、『インセプション』はモノクロ、『インターステラー』はセピア、『ダンケルク』ではグリーンなど、ノーラン監督は作品ごとに色やトーンを使い分けています。
逆行装置の部屋
逆行装置(回転ドア)は、赤でマーキングされた順行と青の逆行との両スペースが、ガラスで仕切られた部屋(=検証窓)に設置されています。
赤側から順行者が回転ドアに入れば逆行になり(タリンで銃を持ったセイターが逆行するくだり)、青側から逆行者が入ると順行に戻ります(オスロで黒い防御スーツの逆行男が装置に入り赤側から順行で走り出る)
「テネット」の見どころ ➀
時空を飛び越えて過去や未来にワープしてみせる映画はすでにおなじみですが、『TENET テネット』は過去や未来に飛びつつ、そこから時間を過去の方向へ逆行していくところが一線を画しています。
ふだん私たちが認識している時間を一方向にしか進めない川の流れにたとえるとすれば、『TENET テネット』の〈時間〉はプールのよう。レーン内なら縦方向どちらにも進めて、まるで空間のような広がりを持っています。
この例えからしてわかりにくいかもしれませんが、クリストファー・ノーランが世界を全く新しい見方で捉えているので、観ているこっちの見方も変えないとついていけません。
時間を逆行したら熱の伝わり方も変わるの?とか、未来と過去の因果律が逆転するの?など、直感的に理解できないことばかりで、『TENET テネット』を観ていて私は何度も頭が痛くなりました。
「テネット」の見どころ ②
IMAXカメラで撮影
『ダークナイト』(2008年)以降、IMAXでの撮影を当たり前にしたクリストファー・ノーラン。前作『ダンケルク』(2017年)は、ほぼ全編IMAXカメラで撮影という前代未聞の作品となりました。
ノーランのこだわりにより、本作ももちろんIMAXで撮影されています。
映像の美しさ、画面の広さや明るさなど、監督が意図したとおりに上映できる劇場はまだ多くはありませんが、カメラの性能に合わせて衣装やセットなども作り込まれていることがわかります。
ホンモノ志向のアクションも健在
CGをあまり好まない映画監督として知られるクリストファー・ノーラン。彼のこだわりはアクションシーンでも発揮されます。
彼の代表作である『ダークナイト』(08)には、トラックがひっくり返るシーンや病院が爆破されるシーンなど、実際に撮影された危険なアクションシーンが数多く存在しました。
本作でも車が横転からもとに戻るシーン、破壊されたジャンボジェット機のパーツが戻っていくシーン、巨大な建物が爆破され残骸が飛び散るシーンなどが見られます。
もちろんこれらもCGを使わず、実際に撮影した映像です。ホンモノだけが持つ迫力のアクションも、本作の見どころのひとつです。
まとめ
今回は「TENET」をご紹介しました。
日本でも大ヒットしたクリストファー・ノーラン監督の新作『TENET 』
全編にわたって謎がちりばめられ、1度観ただけでは理解しきれない本作のすべてを解説することは難しいです。
タイムバックする映画は無数にありますが、時間が戻る過程、逆再生をそのまま描いた映画は他にはないと思います。
そういった意味でTENETは、映画史に残る画期的な作品にだと思います。こんなストーリーを考えたクリストファー・ノーラン監督はやはり天才です。
それに、逆再生と普通の時間軸のアクションを両方同時に再現するなんて狂気じみています。
撮影でキャストやスタッフも意味不明で気が狂いそうになったのではないでしょうか?(そもそも科学的に正しいかも検証できません)
TENETは時系列がバックしていく彼の出世作『メメント』に、さらに逆再生のアクションを加えた感じです。凄まじく難解な映画でした。
監督 クリストファー・ノーラン
脚本 クリストファー・ノーラン
製作 エマ・トーマス クリストファー・ノーラン
製作総指揮 トーマス・ヘイスリップ
出演者 ジョン・デビッド・ワシントン ロバート・パティンソン エリザベス・デビッキ
音楽 ルドウィグ・ゴランソン
撮影 ホイテ・バン・ホイテマ
製作会社 ワーナー・ブラザース シンコピー・フィルムズ
配給 ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ
公開 〔イギリス〕 2020年8月26日 〔アメリカ〕 2020年9月3日 〔日本〕 2020年9月18日
上映時間 151分
製作国 アメリカ合衆国 イギリス
言語 英語
製作費 $225,000,000
興行収入 〔世界〕$365,294,355 〔アメリカ・カナダ〕$58,504,105 〔日本〕27億3000万円