今回のご紹介は「カムイ外伝」です。
白土三平の名作コミック「カムイ外伝」を、崔洋一監督、松山ケンイチ主演で映画化したアクション時代劇です。
宮藤官九郎が脚本を手がけ、小林薫、小雪、伊藤英明、佐藤浩市らが共演します。
強靭な意志を持ち、剣の達人である忍者、カムイは、理不尽な殺戮もいとわない、掟に縛られた世界に嫌気がさし、真の自由を求め、忍の世界を抜け出します。
しかしそれは裏切り者として、追っ手と戦う運命を背負うことでした。かつての仲間、大頭やミクモらに執拗に追われながらも、生きるための逃亡の旅は続きます。
ある日、半兵衛という漁師を助けたことからその家族に迎え入れられるカムイ。しかし、半兵衛の妻はかつての仲間で、抜忍となった“くノ一”のスガルでした。
今回は「カムイ外伝」のあらすじ、キャスト、みどころなどをご紹介します。
Contents
あらすじ(ネタバレあり)
17世紀の日本には身分制度がありその中でも理不尽な階級の最下層で生まれながらも、少年カムイはたくましく育っていきました。
カムイの願いは強くなって自由な人間として生きることでした。カムイは夢を見て村を後にしたのですが、冷たい世間の現実と貧しさのため、いつしか忍びの技を覚えて人を殺めるようになっていました。
しかし、カムイの願いは自由、そのため抜け忍となるのですが、かつての仲間はそれを許さず追い忍を差し向けて抜け忍カムイを殺そうとどこまでも追ってきます。
いつものように追い忍を迎え撃つカムイ、そこに女性の忍者がいました。それはかつて共に涙した幼馴染でした。
カムイはもうやめようと話しかけますが、かつての幼馴染の姿はそこにはなく、カムイを裏切り者として憎みながら刃を向けてきます。
カムイは必殺忍法“飯綱落とし”を仕掛けますが幼馴染は「引っかかったな!」と叫びながら自身もろとも剣で突き刺してしまいます。カムイは鎖帷子を着ていました。
逃げるカムイはある光景を目にして立ち止まります。川で領主の馬が世話をされていたのだがその馬を狙う者がいたのです。
その男は吹き矢を馬にうつと暴れる馬の足を切り取って逃げ出します。このままでは領主の追っ手たちに捕まってしまう、カムイはその男半兵衛を助けます。
カムイは半兵衛の家族に迎え入れられましたが、半兵衛の妻は抜忍のスガルでした。スガルはカムイを追っ手と思い心を許しません。
一方で、半兵衛の娘サヤカは密かにカムイに恋心を募らせていっていました。
半兵衛は馬の片足の蹄から漁用の仕掛け針を作ります。それで見事なまでに魚が釣れるようになりました。
村の吉人の密告により、半兵衛が時の藩主・水谷軍兵衛に捕えられてしまいます。カムイとスガルは半兵衛を救出するため処刑場へと向かい、奇襲をかけて半兵衛を奪い返します。
カムイと半兵衛一家は、荒れ狂う海に船を漕ぎ出しました。
人食い鮫の群れに襲われるところを救ったのは、不動率いる渡り衆でした。不動らは幸島へ向かう途中で、幸島の村人たちは渡り衆を歓迎しました。
カムイは渡り衆が自分と同じ抜忍であることを知り、行動を共にするようになります。
そして、幸島に移ってからさらにサヤカと心を通わせることになり、カムイは穏やかな日々に幸せを感じていました。
しかし…。
キャスト
カムイ(松山ケンイチ)
物語の主人公。非人部落の出身。自由と誇りを求めて忍者になります。しかし、忍者の世界の非情な掟に馴染めずに抜け忍になり、住むところや職業を転々としながら追及を逃れる日々を送っています。
演:松山ケンイチ
黒沢清監督作「アカルイミライ」で映画デビュー。青春スポーツ映画「ウィニング・パス」(03)で初主演。
人気コミックを映画化した「デスノート」(06)の探偵L役でブレイクし、スピンオフ映画「L change the WorLd」(08)でも主演を務めます。
続く主演作「デトロイト・メタル・シティ」(08)ではデスメタルバンドのフロントマンへの豹変が話題を呼びます。
以降、「カムイ外伝」(09)、「ノルウェイの森」(10)、NHK大河ドラマ「平清盛」(12)などに主演。
近年の出演作に「怒り」「聖の青春」(16)、「関ヶ原」「ユリゴコロ」(17)などがあります。「カムイ外伝」で共演した女優の小雪と11年に結婚しています。
スガル(小雪)
抜け忍の女忍者。カムイを追手の忍者であると疑い、何度も襲います。霞切りを破るかなりの腕前の忍者であり、千本乱れ打ちを得意技としています。普段はお鹿という名前で呼ばれます。
演:小雪
98年、TVドラマ「恋はあせらず」で女優デビューし、「ケイゾク 映画 Beautiful Dreamer」(00/堤幸彦監督)で映画に初出演。
03年にはエドワード・ズウィック監督、トム・クルーズ主演の「ラスト・サムライ」でハリウッドデビューを果たして話題になります。
「嗤う伊右衛門」(04)や「ALWAYS 三丁目の夕日」(06)の演技は高く評価され、森田芳光監督の「わたし出すわ」(09)で単独初主演を務めています。
その他の出演映画に「ラスト・ブラット」(09)、「信さん 炭坑町のセレナーデ」(10)などがあります。
「きみはペット」(03)、「僕と彼女と彼女の生きる道」(04)、「不毛地帯」(09~10)といったTVドラマのほか、CMにも多数出演しています。
不動(伊藤英明)
国元より発せられた追忍。一旦、公儀隠密に囲まれたときにカムイとスガルを助け、自らを抜け忍であると言いますが、実は不動自身も追忍でした。
演:伊藤英明
97年、TVドラマ「デッサン」で俳優デビュー。
スクリーンデビューした00年には、「秘密」「クロスファイア」、映画初主演作「ブリスター!」の3本が公開され、01年のエランドール賞新人賞に選ばれます。
潜水士を目指す海上保安官を描いた「海猿」(04)で演じた主人公・仙崎大輔役ははまり役で、翌年にはTVドラマ「海猿 UMIZARU EVOLUTION」が放送され、劇場版第2弾「LIMIT OF LOVE 海猿」(06)は興行収入71億円を記録。
ファンの熱い要望に応え製作された劇場版第3弾「THE LAST MESSAGE 海猿」(10)は、大手邦画配給会社作品で初めて3Dでも上映され大成功を収めました。
そのほかの出演作に「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」(07)、「252 生存者あり」(08)、「アンダルシア 女神の報復」(11)などがあります。
サヤカ(大後寿々花)
スガルと半兵衛の娘。カムイが遭難した際、裸になりカムイの体を温めて助けます。その後カムイに思いを寄せ、月日貝という貝を渡し、将来一緒になろうと告白します。
演:大後寿々花
2000年11月、劇団ひまわりに所属し、明治座秋の演劇祭『国盗り物語』でデビュー。
2005年、行定勲監督の『北の零年』に出演。同作品で共演した渡辺謙に推薦され映画『SAYURI』に出演します。
「SAYURI」では、主人公・さゆりの少女時代を演じ、日本映画批評家大賞 新人賞を受賞しています。
チャン・ツィイーが演じるヒロインの子供時代を演じ、11歳でハリウッドデビュー。
2007年4月、『セクシーボイスアンドロボ』で連ドラ初ヒロインを務めます。2010年1月、新春ドラマスペシャル『福助』でテレビドラマ初主演。その後も、ドラマ、映画など数多くの作品に出演しています。
半兵衛(小林薫)
瀬戸内の奇ヶ島の漁師です。カムイに助けられたことをきっかけに、その家族に迎え入れられます。しかし、彼の妻はかつての仲間で、抜忍びとなった“くノ一”スガルでした。
演:小林薫
77年に「はなれ瞽女おりん」で映画デビューし、「ふぞろいの林檎たち」シリーズ(83、85)などのTVドラマにも多数出演します。
85年の「それから」、「恋文」で日本アカデミー賞の最優秀助演男優賞、99年の「秘密」ではアカデミー賞の優秀主演男優賞、07年の「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」で同最優秀助演男優賞を再び受賞しています。
そのほかにも、TVドラマ「ナニワ金融道」シリーズ(96~05)、「Dr.コトー診療所」シリーズ(03~06)、映画「歓喜の歌」(07)、「舟を編む」(13)などで活躍。
安倍夜郎のコミックが原作の「深夜食堂」では、ドラマ版(09~)に続き劇場版(15、16)でも主演を務めています。
ミクモ(芦名星)
カムイのかつての仲間です。忍びの世界から抜け出したカムイを裏切り者とみなし、執拗に後を追います。
演:芦名星
TVドラマ「STAND UP!!」(03)でデビュー。「恋骨・劇場版」(04)で映画に初出演し、「仮面ライダー響鬼」(05)などへの出演で徐々に知名度をあげます。
カナダ・フランス・イタリア・イギリス・日本合作「シルク」(07)でヒロイン役に抜てきされて注目を集め、同作でマイケル・ピットや、役所広司、中谷美紀ら豪華キャストと共演。
以降、ドラマでは「スワンの馬鹿」(07)、「ブラッディ・マンデイ」(08、10)、NHK大河ドラマ「八重の桜」(13)などに参加。「相棒」にもレギュラー出演しています。
映画では主演作の「七瀬ふたたび」(10)をはじめ、「ハードロマンチッカー」(11)、「検察側の罪人」(18)、「AI崩壊」(20)など話題作で活躍しましたが、20年9月14日、自宅で死亡しているところを親族に発見されます。享年36歳。
基本情報
監督・崔洋一
長野県佐久市生まれ。父は在日朝鮮人、母は日本人のハーフです
1981年(昭和56年)、テレビドラマ『プロハンター』(草刈正雄、藤竜也)で監督デビュー。
1983年、『十階のモスキート』(主演内田裕也)でスクリーンに本格的にデビューします。同作はヴェネツィア国際映画祭にも出品され、1984年の毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞を受賞しました。
1993年、シネカノンの李鳳宇のプロデュースのもとに手がけた『月はどっちに出ている』で報知映画賞、ブルーリボン賞、毎日映画コンクールの各賞、第17回日本アカデミー賞最優秀監督賞、最優秀脚本賞にノミネートされます。
1999年、映画『豚の報い』(主演小澤征悦)で第52回ロカルノ国際映画祭金豹賞にノミネートされ、ドンキホーテ賞を受賞。
2004年、初の外国人の理事長として日本映画監督協会第8代理事長に就任。2005年、ビートたけし主演の映画『血と骨』(04)で第28回日本アカデミー賞最優秀監督賞、最優秀脚本賞を受賞します。
2006年、初の韓国資本の映画『ス SOO』(主演チ・ジニ)の撮影を開始し、2007年3月22日韓国国内で公開されます。
2007年4月、宝塚造形芸術大学(現: 宝塚大学)教授に就任。同年秋、白土三平原作の映画『カムイ外伝』の撮影を開始、2009年9月19日公開されました。
2019年に膀胱がんが判明し、その後2021年春に肺、右の腎臓、リンパ節などに転移していることが判明。抗がん剤治療を続けてきました。
2022年4月に自身が再編集した『松田優作・メモリアル・ライブ』『優作について私が知っている二、三の事柄』の上映と連動させたトークイベント「ラスト・ショー」を7日間にわたって開催しましたが、この映画が崔自身の遺作となりました。
2022年11月27日1時、膀胱がんのため、東京都内の自宅で死去。73歳没。
カムイ外伝について
「カムイ外伝」とは?
「カムイ外伝」は、白土三平の漫画作品です。
1965年より「週刊少年サンデー」、「ビッグコミック」、「ビッグゴールド」など小学館の漫画雑誌に掲載されてきました。正伝である「カムイ伝」から派生したスピンオフ作品です。
「カムイ伝」は群像劇であり、主人公であるカムイは読者の視点に立ち物語りを傍観する立場であることが多かったのに対し、「カムイ外伝」ではカムイを主軸に話を進める形態が取られています。
カムイにスポットが当てられたことでより物語がとらえやすくなっており、この外伝ならではの傑作エピソードも多数あります。
第1部は作者が多く手がけていた忍者物の流れを引き継いだ作風でしたが、第2部は作者の作風の変化を受けて作画も劇画調となっています。
実写映像化
正伝を差し置いて『忍風カムイ外伝』(1969年4月6日~9月28日)としてテレビアニメ化されており、最終エピソードはプロットのみだったストーリーを元に制作されました。
後にこのエピソードは漫画作品として発表され、それを契機に第2部が描かれています。
そして、このエピソードを元に2009年に実写映画化されました。
映画「カムイ外伝」の原作は『カムイ外伝 第二部』の「スガルの島」で、このストーリーは、過去に劇場アニメ『忍風カムイ外伝 月日貝の巻』にもなっています。
2007年11月にクランクインしましたが、主演の松山が撮影中に怪我をして撮影は一時中断。約半年後の2008年5月に撮影再開し、同年10月に全撮影を終了しました。
「カムイ外伝」のみどころ
忍者どうしの戦闘シーン
出てくる登場人物のほとんどが、人並みはずれた運動能力をもつ忍者なので、疾走シーンや、木々を軽快に跳び渡るシーン、手裏剣や必殺技を繰り出す戦闘シーンは、とてもスピード感や躍動感があって、観ていて爽快でした。
カムイの必殺技は2つ。1つは平地での斬り合いで使う変移抜刀霞斬り、そしてもう1つは森林での格闘戦用の飯綱落としですが、どちらも迫力ある必殺シーンとなっています。
主要キャストの活躍
主人公のカムイを演じるのは松山ケンイチ。アクション系のイメージはありませんが、相当練習したようで、斬り合いのシーンは見事です。ただ、もう少し体を絞ってほしかったです。
もう一人の重要人物、抜け忍スガル役は小雪。スゴ腕のくの一という役どころですが、この映画では一番ハマっていると感じました。とくに睨み顔。さすがの目力です。
そして、カムイに恋するスガルの娘サヤカ役の大後寿々花もいい演技をしています。
スガルの夫でサヤカの父親の半兵衛役の小林薫。この半兵衛もタダ者じゃない役どころですが、さすがにうまく大物感を醸し出しています。
ただ、物語後半の重要人物として出てくるのが鮫ハンターの不動。伊藤英明が演じていますが、こちらは若干迫力不足だったかもしれません。
惜しいところ
惜しいといえば、佐藤浩市と土屋アンナが出演していますが、活躍の場面が少ないです。
とくに佐藤浩市はタダのバカ殿役でまったくヒネリがなかったのが残念でした。似合っていません。
要所でナレーションが入るので、原作を読んでいない人でも、問題なくストーリーに入ることができますが、そのせいなのかはわかりませんが、終盤の登場人物の描かれ方がやや中途半端に感じました。
ほかにもいろいろと伏線になりそうなネタがあるのに、原作を尊重するあまりなのか、このあたりはあえて抑えた展開になっている感じがしました。
「カムイ外伝」レビュー
まとめ
今回は「カムイ外伝」をご紹介しました。
「カムイ外伝」は、白土三平の「カムイ外伝」のうち、「スガルの島」編を基にした映画です。「カムイ伝」は扱っているテーマが重く、社会思想が色濃く出ています。
江戸時代の都市生活者である武家や町人といった者たちではなく、それ以外の人々を描いている点や、当時の社会風俗を上手く描いている点でも評価の高い作品です。
その本編に対して、「カムイ外伝」は、抜忍として逃亡を続けるカムイを描いているところに特徴があります。
「カムイ外伝」のレビューでは、低評価が多いです。
キャストの演技に悪い評価は見当たりませんが、物語の編集と特に特撮部分への注文が多いようです。
まずは特撮。映画はワイヤーアクションやVFXなどを多用しながら進んでいきますが、もう少しうまく使って、洗練された動きを見せてほしかったです。
特撮の使いどころと映像の完成度が今ひとつ、いや、今二つなのは、日本映画の共通の課題なのかなとも思いました。
殺陣はなかなかカッコ良くて、松山ケンイチはうまくアクションしていたし、それを取り巻くキャストはいい存在感を出していました。
抜け忍という存在自体がドラマを生む格好の設定なのに、編集が全体的に間延びしているというか、冗長な展開になってしまっています。
抜け忍となってからのカムイから話を始めるのであれば、食料を探し、寝床を確保しながら生き抜くという抜け忍のサバイバルな日常をもう少し描くべきだと思います。
また、スガルの子供らと心通わせるシーンをあれだけ長々と描くのならば、カムイの出身と差別の問題をもっと深くつっこんでほしかったです。そうすれば、観ている人がより感情移入できたかも知れません。
あまり重要でない話を詰め込み過ぎた気がます。もう少し的を絞ってほしかったです。
いろいろと惜しい作品でした。
監督 崔 洋一
脚本 崔 洋一 宮藤 官九郎
原作 白土 三平
出演 松山ケンイチ 小雪 伊藤英明 大後寿々花 小林薫 芦屋星 佐藤浩一
撮影 江崎 朋生 藤澤 順一
編集 川瀬 功
美術 今村 力
音楽 岩代 太郎
主題歌 倖田 來未 「Alive」
照明 渡邊 孝一
配給 松竹
製作会社 「カムイ外伝」製作委員会
上映日 2009年9月19日
上映時間 120分
製作国 日本
言語 日本語
興行収入 11.2億円