映画「エルヴィス」は、「キング・オブ・ロックンロール」と称されるエルヴィス・プレスリーの人生を、「ムーラン・ルージュ」のバズ・ラーマン監督が映画化。
スターとして人気絶頂のなか若くして謎の死を遂げたプレスリーの物語を、「監獄ロック」など誰もが一度は耳にしたことのある名曲の数々にのせて描いていきます。
ザ・ビートルズやクイーンなど後に続く多くのアーティストたちに影響を与え、「世界で最も売れたソロ・アーティスト」としてギネス認定もされているエルヴィス・プレスリー。
独特でセクシーなダンスを交えたパフォーマンスでロックを熱唱するエルヴィスの姿に、若者たちは興奮。小さなライブハウスから始まった熱狂はたちまち全米に広がっていきました。
しかし、瞬く間にスターとなった一方で、保守的な価値観しか受け入れられなかった時代に、ブラックカルチャーを取り入れたパフォーマンスは世間から非難を浴びてしまいます。
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」などに出演したオースティン・バトラーがエルヴィス・プレスリー役に抜てきされ、マネージャーのトム・パーカーを名優トム・ハンクスが演じています。
今回は「エルヴィス」をご紹介します。
あらすじ(ネタバレあり)
1953年、夏。
カントリーの人気歌手ハンク・スノウのマネージャーを務めていたパーカー大佐は、ハンクの息子ジミーが持ってきたレコードから流れる白人青年の声に衝撃を受けました。
その青年の名はエルヴィス。1935年ミシシッピ州の東トゥペロで生まれたエルヴィスは双子の兄ジェシーを生後間もなく亡くし、母グラディスの愛情を受け育ちました。
しかし一家は貧しく、家計が苦しくなったため1948年に黒人が多く住むテネシー州メンフィスへと引っ越すことになりました。
幼少期のエルヴィスはメンフィスでゴスペルやブルースなどの黒人音楽に触れ、自然と音楽性を磨いていきました。
そして1954年。エルヴィスはサン・レコードからデビューし、やがてハンクの前座を務めるまでになりました。
しかし、初の大きなステージでは緊張からなかなか声が出せず観客にヤジを飛ばされます。
その瞬間エルヴィスの中で何かが吹っ切れました。大きく息を吸うと、圧倒的な歌唱力とセクシーに腰を振るダンスで歌い上げる『ザッツ・オールライト』が女性観客を虜にします。
この反応を見たパーカー大佐はすぐさまエルヴィスにハンクの巡業ツアーに帯同する話を付けました。
エルヴィスのすさまじい人気でライブは大盛況でした。しかしハンクは彼の信者である息子ジミーとは対照的に、エルヴィスに強い嫉妬心を抱いていきます。
そんなハンクを差し置いてパーカー大佐はこっそりエルヴィスに大手レコード会社RCAビクターと独自契約の話を持ち掛けました。
パーカー大佐はさっそくプレスリー・エンタープライズを設立。はじめはこの話に不信感をいただいたエルヴィスの両親も、経営者に迎えられたことでパーカー大佐を信用していきます。
次々とヒット曲を出し、パーカー大佐が作ったグッズが飛ぶように売れ、エルヴィスは名声を手にしていきますが・・・。
キャスト
エルヴィス・プレスリー(オースティン・バトラー)
若くして謎の死を遂げたスーパースター。本編の主人公です。
演:オースティン・バトラー
ディズニー・チャンネルのテレビドラマ「シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ」(06)でデビューします。
TV映画「シャーペイのファビュラス・アドベンチャー」(11)、「コンビニ・ウォーズ バイトJK VS ミニナチ軍団」(16)、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(19)などに出演。
ベストセラー小説を実写化したTVドラマ「シャナラ・クロニクル」(16~17)では主演を務めます。
伝説的ロックスターのエルヴィス・プレスリーを描いた「エルヴィス」(22)ではタイトルロールに抜てきされて注目を集めます。
トム・パーカー(トム・ハンクス)
エルヴィスを世界的スターに押し上げた敏腕マネージャーです。
演:トム・ハンクス
1984年、ロン・ハワード監督作「スプラッシュ」で注目を集め、「ビッグ」(88)でアカデミー賞に初ノミネート。
「フィラデルフィア」(93)、「フォレスト・ガンプ 一期一会」(94)でアカデミー主演男優賞を2年連続で受賞する快挙を成し遂げました。
以降、「アポロ13」(95)や「グリーンマイル」(99)といった主演作が軒並み大ヒットし、「プライベート・ライアン」(98)と「キャスト・アウェイ」(00)で再びアカデミー主演ノミネート。
ハリウッドを代表する演技派スター俳優として活躍を続け、ピクサーの「トイ・ストーリー」シリーズ(95~19)では主人公ウッディの声を担当しています。
近年の主演作に「キャプテン・フィリップス」(13)、「ハドソン川の奇跡」(16)、「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」(17)などがあります。
グラディス(ヘレン・トムソン)
エルヴィスの母親です。
演:ヘレン・トムソン
オーストラリアで舞台や映画、テレビなど幅広く活躍するベテラン女優。映画「Bloodmoon」(90)でスクリーンデビュー。
以降TVドラマや舞台作品を中心に活躍します。主な映画出演作に、オーストラリア映画協会賞最優秀助演女優賞にノミネートされた「Getting’ Square」(03)や「The Rage in Placid Lake」(03)、「A Man’s Gotta Do」(04)などがあります。
エルヴィス・プレスリーの人生をバズ・ラーマン監督が描いた映画「エルヴィス」(22)では、エルヴィスの母親であるグラディス・プレスリー役で出演しました。
ヴァーノン(リチャード・ロクスバーグ)
エルヴィスの父親です。
演:リチャード・ロクスバーグ
オーストラリア国立演劇学院卒業後の1987年にテレビ映画「Frontier」でデビュー。
映画「Doing Time for Patsy Cline」(97)で、オーストラリア映画協会賞主演男優賞を受賞したのち、2000年頃からハリウッド作品に出演するようになります。
主な映画出演作に、「M:I-2」(00)、「ムーラン・ルージュ」(01)、ジェームズ・キャメロンが製作総指揮を務めたアクションアドベンチャー「サンクタム」(10)、「ハクソー・リッジ」(16)、エルヴィス・プレスリーの父親を演じた「エルヴィス」(22)などがあります。
プリシラ(オリビア・デヨング)
エルヴィスの妻です。
演:オリビア・デヨング
オーストラリア、メルボルン生まれ。8歳の時にラジオで声の仕事をする機会にめぐり合い、それをきっかけにラジオ広告に40本以上出演。
2011年に短編「Good Pretender」で映画に初出演し、15年にはM・ナイト・シャマラン監督作「ヴィジット」に出演して国際的にも知名度を上げました。
エルヴィス・プレスリーの生涯を描いた映画「エルヴィス」(22)では、エルビスの妻となるプリシラを演じています。
そのほかの出演作に「ベター・ウォッチ・アウト クリスマスの侵略者」(16)、Netflixオリジナルシリーズ「ザ・ソサエティ」(19)などがあります。
B・B・キング(ケルビン・ハリソン・Jr.)
エルヴィスの音楽仲間。ギタリストです。
演:ケルビン・ハリソン・Jr.
名門ニューオーリンズ・センター・フォー・クリエイティブ・アーツでジャズを学ぶ傍ら、ミュージカルの舞台に参加したのをきっかけに俳優を志し、ニューオーリンズ大学では映画を専攻します。
サンダンス映画祭でグランプリと観客賞を受賞した「バース・オブ・ネイション」(16)やトレイ・エドワード・シュルツ監督の心理スリラー「イット・カムズ・アット・ナイト」(17)で注目され、シュルツ監督の青春映画「WAVES ウェイブス」(19)では主演を務めます。
アフリカの戦火の国で生まれ、アメリカの白人夫婦の養子となった少年の内面に迫る「ルース・エドガー」(19)でもタイトルロールを演じています。
基本情報
エルヴィス・プレスリーとは?
「キング・オブ・ロックンロール」
エルヴィス・アーロン・プレスリー(Elvis Aron Presley、1935年1月8日 – 1977年8月16日)は、アメリカのロック歌手です。
ミュージシャン、映画俳優。全世界のレコード・カセット・CD等の総売り上げは5億枚以上とされ、史上最も売れた音楽家の1人です。
1950年代にチャック・ベリーやファッツ・ドミノ、リトル・リチャード、カール・パーキンス、ジェリー・リー・ルイスらと共にロック・アンド・ロール(ロックンロール)の誕生と普及に大きく貢献しました。
いわゆる創始者の一人であり、後進のアーティストに多大なる影響を与えた。その功績から「キング・オブ・ロックンロール」またはキングと称され、ギネス・ワールド・レコーズでは「史上最も成功したソロ・アーティスト」として認定されています。
多くのミュージシャンたちの憧れ
1950年代に、アメリカやイギリスをはじめとする多くの若者をロックンロールによって熱狂させ、20世紀後半のポピュラー音楽に最初の大きなムーブメントを引き起こしました。
また、極貧の幼少時代から一気にスーパースターにまで上り詰めたことから、アメリカンドリームの象徴であるとされています。
ジョン・レノン、ボブ・ディラン、ポール・マッカートニー、ボブ・シーガー、フレディ・マーキュリーなど、多くのミュージシャンたちが憧れたことでも知られています。
「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」において第3位。「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100組のアーティスト」において第3位。
「Q誌の選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」において第1位となっています。
記憶に残るエルヴィス
過激なパフォーマンス
あなたはエルヴィスのパフォーマンスを見たことがあるでしょうか?見ているものをくぎ付けにするその歌唱姿で、特に印象に残るのが身体の動きです。
激しく腰を揺らしながら歌うその姿は、観客を興奮の渦に包み、時に大きな称賛を浴び、また時には卑猥だとして非難も浴びました。
アメリカ・CBSで放送されていたバラエティ番組『エド・サリヴァン・ショー』に出演した際には、そのダンスが過激とみなされ、下半身をカットし放送するという異例の対応がなされたほどでした。
あの派手な衣装、実は・・・
エルヴィスのステージ衣装というと多くの方が、袖に多数のひらひらとした紐が付いている白のジャンプスーツに、サングラスをかけた姿を思い浮かべるのではないでしょうか?
「そっくりさんコンテスト」でもこの衣装を身にまとった参加者ばかりで、エルヴィスの衣装と言ったらこれの印象が強いのでしょう。
しかし、エルヴィスがこの袖にひらひらが付いた衣装でステージに立ったのはたった1回だけ。しかも歌っているときはサングラスを付けていなかったそうです。
たった1回のステージ衣装で多くの人の頭に残っているとは、それほど印象深い姿だったのでしょう。
トム・パーカー大佐
アメリカへの密入国
パーカーはアンドレアス・コルネリス・ファン・カウクとして、オランダのブレダでカトリック家庭の11人兄弟姉妹の7番目に生まれました。
少年の頃は、ブレダのカーニバル(謝肉祭)などで呼び込み として働き、後に芸能界で働く上で必要となった様々なスキルを身に付けます。
18歳のときアメリカへ密入国します。この最初の渡米の際には、ショトーカ運動のテント・ショーの一座に加わって旅をしましたが、その後はオランダに短期間だけ帰国しています。
パーカーは20歳で米国に戻り、密入国者であることを欺くためにアメリカ陸軍に志願し、面接に当たった士官の名をそのままとって「トム・パーカー」と名乗るようになります。
最初は真面目勤務態度でいたが、許可なく部隊を離れ 、敵前逃亡に問われます。その後、精神病を発症して精神病院に2か月入院。こうした精神状態を踏まえ、陸軍はパーカーを除隊させます。
音楽産業へ
パーカーの音楽産業への関わりは、1938年にポピュラー歌手ジーン・オースティンのプロモーターになったことがきっかけです。
1924年以来、8600万枚以上のレコードを売り、1700万ドル以上を稼ぎながら、当時のオースティンは不振に陥っていました。
オースティンはそれまでに稼いだ金のほとんどを、パーティーや車、大邸宅、そして女性たちに浪費して尽くしており、かつての人気もすっかり翳リを見せていました。
このスターをプロモートする仕事に就いたパーカーは、自分のカーニバルでの経験を活かせば、チケットを売り、群衆を集めることがスムーズにできるようになることを悟ります。
エルヴィスとの出会い
1955年はじめ、パーカーはエルヴィス・プレスリーという名の若い歌手の存在に気づきます。
エルヴィスは流行のスタイルとは異なる歌い方をしており、パーカーは即座にその音楽スタイルの将来性に関心を持ちます。
サン・レコードに契約していたエルヴィス独立を持ちかけ、プレスリー・エンタープライズを設立。両親が経営陣に任命され、パーカーとエルヴィスは動き始めます。
その後、大スタートなったエルヴィス。世界中を回る公演をやりたいと熱望しますが、パーカーは頑として聞き入れることはありませんでした。
劇中で歌われた楽曲
映画「エルヴィス」の劇中で使用されている楽曲の一部をご紹介します。
エルヴィスの間違いない代表曲です。聞いているだけで陽気な気分になれます。オリジナルも素晴らしいですが、この曲はリミックスが最も有名です。
この曲でエルヴィスはビートルズを抜いて、イギリスで最もチャート1位を獲得したアーティストとなりました。(総計18作品)
「ハートブレイク・ホテル」はエルヴィスが1956年に発表したシングルです。エルヴィスにとって初のビルボード・チャート1位獲得曲となりました。後のビートルズなど、多くのミュージシャンに絶大な影響を与える曲となりました。
映画『ブルー・ハワイ』のために書かれた楽曲です。ジャン・ポール・マルティーニの歌曲「愛の喜びは」を元に作曲されました 。
曲にハワイアン・ミュージックの要素を取り入れるために、アルヴィノ・レ曲にハワイアン・ミュージックの要素を取り入れるために、アルヴィノ・レイ(英語版)はスティール・ギター、フレッド・タヴァレスとバーニー・ルイスはウクレレを演奏しています。
1956年リリースの曲です。日本語のタイトルは「ハウンド・ドッグ」全米チャートで11週連続1位となりました。エルヴィスの代表曲という枠を超えて、多くのロック好きに愛されている1曲です。意外にも2:14しかない短い曲です。
まとめ
今回は「エルヴィス」のご紹介でした。
「エルヴィスを死に追いやった張本人」「エルヴィスから搾取し続けた強欲なペテン師」など、現在でも悪評の高いパーカー大佐ですが、エルヴィスが世界的な大スターになるには、パーカーのショービジネスの才覚が不可欠だったのは間違いないことです。
そのパーカーを物語の語り手にすることで、華々しいサクセスストーリーは、苦悩する人間ドラマになっていきます。
エルヴィスとパーカーは愛憎を抱えた共犯者。時に手をとりあい、時に反目する。エルヴィスを演じるオースティン・バトラーの線の細さに対し、パーカー役のトム・ハンクスは貫禄十分。
ハンクスの名演により、独特なコンビネーションが、実際もそうだったろうと思えてしまいます。
オースティン・バトラーの歌も特徴的な下半身の動きも見事に再現され、客席に瞬く間に広がる熱狂もスリリングに描写されています。
ただ残念なのは、幼少のエルヴィスがゴスペルを聴いて神の啓示のような神秘体験をしたことが音楽との出会いとして描かれているにもかかわらず、そこからステージに立つ青年エルヴィスまでの過程がほとんど描かれない点です。
あの表現力豊かなボーカルも、刺激的に腰と脚を揺らすパフォーマンスも、スタイルを確立するまで多くの試行錯誤もあったはずだと思われますが、そこはあっさり省略されています。
華やかなショービジネスの世界で未曽有の成功を手にし、けた外れの名声と富に翻弄された2人の愛憎劇は、確かに見るべきものがあります。
しかし、そちらに力を入れすぎるあまり、音楽史に多大な影響を与えたアーティスト、パフォーマーとしてのエルヴィスの魅力を表現することが少しおろそかになったのではと感じました。
それでも、エルヴィスを知らない世代でも十分に見応えのある作品だと思います。
脚本 バズ・ラーマン クレイグ・ピアース サム・ブロメル
原案 バズ・ラーマン ジェレミー・ドネル
製作 バズ・ラーマン キャサリン・マーティン ゲイル・バーマン(英語版)
製作総指揮 トビー・エメリッヒ コートニー・ヴァレンティ ケヴィン・マコーミック
出演者 オースティン・バトラー トム・ハンクス オリヴィア・デヨング
音楽 エリオット・ウィーラー
撮影 マンディ・ウォーカー
編集 マット・ヴィラ(英語版) ジョナサン・レドモンド
製作会社 ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ
配給 ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ
公開 〔アメリカ〕 2022年6月24日 〔日本〕 2022年7月1日
上映時間 159分
製作国 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $85,000,000
興行収入 〔アメリカ・カナダ〕 $151,040,048 〔世界〕$286,040,048