今回ご紹介する映画は、「アンフェア」シリーズなど手がけた秦建日子がジョン・レノンとオノ・ヨーコの楽曲「Happy Xmas(War Is Over)」にインスパイアされて執筆した小説「サイレント・トーキョー And so this is Xmas」を映画化したクライムサスペンスです。
佐藤浩市、石田ゆり子、西島秀俊らの豪華キャスト陣を迎え、「SP」シリーズの波多野貴文監督がメガホンをとっています。
クリスマスイブの東京。恵比寿に爆弾を仕掛けたという1本の電話がテレビ局にかかって来ました。
半信半疑で中継に向かったテレビ局契約社員と、たまたま買い物に来ていた主婦は、騒動の中で爆破事件の犯人に仕立て上げられてしまいます。
そして、さらなる犯行予告が動画サイトにアップされます。犯人からの要求はテレビ生放送での首相との対談。
要求を受け入れられない場合、18時に渋谷・ハチ公前付近で爆弾が爆発するといいます。
今回は「サイレント・トーキョー」のあらすじ、キャスト、背景などをご紹介です。
Contents
あらすじ(ネタバレあり)
山口アイコは買い物に出かけ、恵比寿ガーデンプレイスのベンチにかけますが、そこで見知らぬ男に声を掛けられます。
「ベンチの下に爆弾がある」
爆弾はアイコが座ったことで待機状態になり、立ち上がると爆発してしまうため、犯人の要求に従うしかありません。
犯人はテレビ局に爆弾のことを伝えてあり、アルバイトの来栖公太とその同僚がアイコの前に現れます。
アイコは同僚を座らせて自由になると、来栖には黒い時計をはめます。これも爆弾でアイコもつけています。
犯人の要求を伝えると、アイコは来栖を連れて場所を移動するのでした。
印南綾乃は合コンで須永基樹と知り合います。須永はスマホのアプリ開発の会社を立ち上げた若き経営者で、雑誌の表紙に載ったこともあります。
綾乃は合コンに退屈していましたが、須永の奥底にあるユーモアさに惹かれ、後日、彼に誘われて一緒に食事をとります。
しかし、特に盛り上がるわけでもなく、綾乃は須永が自分に興味がないのだろうと諦めますが、意外なところで須永と接点を持ち、それは一連の事件に関係していたのでした。
小規模ではありますが、恵比寿ガーデンプレイスのゴミ箱に設置してあった爆弾が爆発。市民が混乱する中、来栖は犯人の用意したマンションに行きます。
一方、爆弾処理班はベンチに到着し、起爆装置を凍らせるために液体窒素を使用します。
次の瞬間、轟音と閃光がほとばしります。
犯人は爆弾処理班が液体窒素を使用することを読んで細工していたのです。幸い、爆発はありませんでしたが、それは犯人が手を抜いただけで、本気になれば大惨事でした。
警察は犯人が爆弾のプロと認定し、本格的に捜査に乗り出します。
そんな中、犯人から犯行予告が出され、明日、渋谷駅のハチ公前がターゲットだといいます。
そして『これは、戦争だ』と。
犯人は首相とテレビの生放送番組での対話を要求しましたが、首相はテロに屈しないと徹底抗戦の構えをとります。
警察はハチ公前を警戒しますが、犯人の計画は警察を上回り、爆弾が起動。
結果として、大勢の人間が亡くなり、平和な日本では見ることがないだろうと思われていた惨状が渋谷に広がります。
キャスト
朝比奈仁(佐藤浩市)
連続爆破テロ事件の容疑者。元自衛官。
演:佐藤浩市
父親は戦後の大スターと呼ばれた名優の三国連太郎です。1980年にドラマ『続・続事件』で俳優デビューします。
その後は学校を中退。翌年の1981年には映画『青春の門』に出演し、ブルーリボン賞新人賞を受賞しました。1983年には『ひとりぼっちのオリンピック』でテレビドラマ初主演を飾ります。
重なるドラマ、映画の出演で俳優としてのキャリアを積んだ後、ついに1994年の映画『四谷怪談』で日本アカデミー賞最優秀主演男優を受賞しました。
2006年の映画『THE 有頂天ホテル』でコメディの才能を開花させました。本作の出演で佐藤浩市は、第30回アカデミー賞の優秀助演男優賞を獲得しています。
山口アイコ(石田ゆり子)
買い物の途中で事件に巻き込まれる主婦。
演:石田ゆり子
1987年に全日空の沖縄キャンペーンガールに選ばれてテレビCMやポスターなどに登場。
1988年11月にドラマ『海の群星』に出演し女優としてデビュー。映画『悲しい色やねん』(1988年12月公開 東映)に出演します。
1993年4月に連続ドラマ『彼女の嫌いな彼女』(制作局:よみうりテレビ、日本テレビ系放送)でドラマ初主演。
『北の零年』(2005年1月15日公開 東映)にて第29回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞しています。
実妹である石田ひかりと共に個人事務所「風鈴舎」を1999年に設立し、以降は、社長兼女優として活動しています。
世田志乃夫(西島秀俊)
一連の事件を追う渋谷署刑事課の警部補。
演:西島秀俊
1999年、役所広司と共演した『ニンゲン合格』で映画初主演。昏睡状態から目覚めて生き方を模索する青年を演じ、第9回日本映画プロフェッショナル大賞・主演男優賞を受賞。
2002年、北野武監督の『Dolls』で主演に抜擢されます。この映画への出演は西島のキャリアにとって大きな転機となります。
2005年の映画『帰郷』では、昔の恋人に子どもの父親だとして子どもを預けられて困惑するサラリーマンを演じ、第15回日本映画プロフェッショナル大賞・主演男優賞、第20回高崎映画祭・最優秀主演男優賞を受賞。
2021年には主演を務めた『ドライブ・マイ・カー』が、第94回アカデミー賞で日本映画として史上初となる4部門にノミネート。本作は国際長編映画賞を受賞しました。
須永基樹(中村倫也)
不可解な行動を取る孤独なIT企業家。
演:中村倫也
2005年、映画『七人の弔』で俳優デビュー。2007年、フジテレビの「土曜ドラマ」枠で放送されたドラマ『ライフ』で安石井知典役を演じています。
芸能生活10周年の2014年に『ヒストリーボーイズ』にて舞台初主演。同作により第22回読売演劇大賞優秀男優賞受賞。
2018年、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』で朝井正人役で出演し、知名度が上がるきっかけとなります。
NHKの勝田夏子ディレクターらに評価されて起用された。同年、Yahoo!検索大賞俳優部門受賞。
高梨真奈美(広瀬アリス)
興味本位で犯行予告現場に来る会社員。
演:広瀬アリス
2009年、女性ファッション雑誌『Seventeen』(集英社)の専属モデルオーディション「ミスセブンティーン」に応募。グランプリに選ばれ、以降は専属モデルとして活動します。
2015年12月号をもって専属モデルを卒業。女優業中心で活動します。
2010年の『明日の光をつかめ』は、東海テレビの昼ドラ史上最年少ヒロイン(当時・15歳)に抜擢。2018年には、芸能生活10年目で初の賞「コットンUSAアワード」を受賞しました。
2018年、第21回上海国際映画祭に参加(出演作『食べる女』が「GALA部門」に出品)。初の海外映画祭体験となりました。
来栖公太(井之脇海)
犯人に仕立てられるKXテレビ契約社員。
演:井之脇海
劇団ひまわり、砂岡事務所を経て、ユマニテに所属。映画「トウキョウソナタ」出演により、本格的に役者志望となります。
映画では、告白(10)、スイートプールサイド(14)、ザ・ファブル 殺さない殺し屋(21)、テレビでは、大河ドラマ「平清盛」(12)、「おんな城主 直虎」(17)、連続テレビ小説「ひよっこ」(17)などの出演があります。
初監督作品、3Words 「言葉のいらない愛」は、第68回カンヌ映画祭 ショートフィルムコーナー部門にて入選しています。
泉大輝(勝地涼)
世田とバディを組む生真面目な新人刑事。
演:勝地涼
2000年にドラマ『千晶、もう一度笑って』でデビューします。同年、ドラマ『永遠の仔』で渡部篤郎演じる長瀬笙一郎(モウル)の少年期を熱演。
2005年には映画『亡国のイージス』で第29回日本アカデミー賞新人賞を受賞。この映画で勝地は、物語の鍵を握る青年・如月を演じるために、自衛隊へ体験入隊や真冬の海に入るなど過酷なロケに挑戦しました。
あまちゃん(13)では、第128回にて“前髪クネ男”ことTOSHIYA役で出演、1回のみの出演にもかかわらず、強烈なインパクトを残します。
2014年、宮藤官九郎プロデュースで「涼 the graduater」名義で歌手デビューをしています。
基本情報
原作「And so this is Xmas」
『And so this is Xmas』
(アンド ソー ディス イズ クリスマス)は、秦建日子による長編小説です。
秦建日子は、1993年に「つかこうへい事務所特別公演『プラットホーム・ストーリーズ』のにて戯曲家・演出家としてデビュー。
1999年にはフジテレビ系列の「世にも奇妙な物語」シリーズ。TBSの月曜ミステリーなどのゴールデンタイムのドラマを執筆し、2000年に『編集王』で、連続ドラマのチーフライターになります。
以後、主な作品に、『HERO』、『救命病棟24時』、『天体観測』、『最後の弁護人』、『共犯者』』、『87%』、『ドラゴン桜』などがあります。
一方で、2003年から演劇ワークショップ「TAKE1」を主宰して新進俳優の育成に携わり、2008年には劇団「秦組」を旗揚げして秦作品の公演を行っています。
『And so this is Xmas』は、2016年の刊行にあわせて秦の脚本・演出で舞台化され、劇団「秦組」によりHATAGUMI vol.7公演として同年9月から10月に上演されました。
2019年12月3日には『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』と改題され、河出文庫より文庫化。
そして、2020年『サイレント・トーキョー』のタイトルで実写映画化され、同年12月4日に公開されました。
スクランブル交差点を完全再現
作品の要ともいえる大迫力の渋谷の爆破テロ。
実際のスクランブル交差点ではなく、栃木県の足利市のオープンセットを使用しています。
「足利スクランブルシティスタジオ」は、複数の道路が交わる交差点で東京の名所の1つでもある渋谷スクランブル交差点を複製した映画撮影セットです。
東京都心から車で約1時間半の栃木県足利市にある足利競馬場の跡地に2019年9月に完成しました。
このセットには地下鉄の入り口や、街灯、彫像などの特徴も含まれていて、オリジナルの環境を正確に表現しているため、撮影許可を取得して本物の環境を利用する必要がなくなりました。
「サイレント・トーキョー」では、作品のメインシーンとなるクリスマスイブの渋谷を再現した撮影がこのスタジオで行われています。
このスタジオでは、Netflixで爆発的にヒットしたオリジナルシリーズ「今際の国のアリス」(20)、PV「sacai.Inc」(21)、TBS金曜ドラマ「インビジブル」(22)、映画「ホリックxxxHOLIC」
など多くの作品が撮影されています。
「サイレント・トーキョー」の犯人は?
野間口徹
基樹と会っていた男。野間口徹が演じている男は探偵役です。
須永基樹は、母親が再婚するにあたり父親の行方について調査依頼していました。実際に父親とも会う約束を取りつけましたが、会えずじまいで終わっていいます。
基樹が真奈実達と会っていた際に来た「田中」という男のメールがそれで、約束を取りつけたのでイブに調査の結果と父と子を会わせる約束をしていたようです。
ただ、含みを持たせたようなメール文面や行動は、無理矢理怪しい人物に仕立て上げたいように見えてしまいます。
基樹と犯人との関係は?
基樹は犯人と直接繋がりはありませんが、犯人が父親だと思って行動しています。
スクランブル交差点に向かったのは父親の留守電を聞き、もしかすると父親が現れるのかもしれないと考えたからです。
そして、その時撮影していた動画を真奈実に見られてしまいます。それが、犯人らしい怪しさになってはいますが、単に父親が現れるのを証拠として撮りたかったと思われます。
ただ、別に撮影しなくても良かったと思いますし、最初の容疑者として強引に仕立て上げる点が不可解です。
基樹は、感情を表に出さない誤解されやすいタイプで、女性にも警察にも誤解されています。
朝比奈は犯人なのか?
続いて朝比奈。彼は犯人の幇助的役割を担っていました。
2人で組んで行動していたと見られますが、共犯というよりは真犯人・アイコのサポート兼あわよくば暴走を止められないかという立ち位置で動いています。
彼は解除コードを知りませんでした。しかし、どこで爆破するのか、音声認識タイプの爆発物を使っていたということは認知しています。
爆発物の範囲や、自身もバッグの中に爆発物を詰めていたことから、ある程度知っていいて、コンタクトも取っていた可能性は高いと思われます。
レインボーブリッジに向かう途中でようやくアイコの真意を掴んでいるので、最初から2人で計画立てていたわけではないはずです。
最初から知っていたのであればすでに聞いているだろうから、途中で察知して接触を試みたというのが正しいのではないのでしょうか?
真犯人・山口アイコが事件を起こした動機
アイコはなぜテロ事件を起こしたのか?
アイコは、かつて夫と幸せに暮らしていました。
原作小説では、ハワイで知り合ったロブ(米兵)でした。夫は自衛隊員で26年前にカンボジアに派遣されたと思われます。
アイコの夫は、部下たちを死なせてしまったことから、病んでしまって帰国しました。そして、自ら命を絶ってしまいます。
ある日、アイコがテレビを見ると、磯山首相が「日本も戦争のできる国になるべきだ」と発言していました
それを聞いたアイコは、戦争の苦しみを知らない人たちに、戦争とは何かを教えてあげることにしました。そして、2人の思い出の場所の恵比寿や渋谷に爆弾を仕掛けていました。
アイコがテロの犯人になったきっかけは、戦争の苦しみを知らない人たちに、戦争とは何かを教えるためだったようです。
山口アイコは死んでいない
朝比奈仁と山口アイコは車で逃げて、レインボーブリッジから落ちて、車が海の中で爆発しました。
後日、朝比奈仁の遺体が発見されましたが、アイコの遺体は発見されませんでした。
遺体は流されたとみて、事件は被疑者死亡で、事件の詳細は発表されずに終わりました。
最後に、車が海に落ちる前、朝比奈はアイコに逃げるように言い、アイコが逃げてから、爆弾を爆発させて、アイコを救っていました。
そして、朝比奈に救われた犯人のアイコは、ひっそりと生きています。
主要キャストのコメント
佐藤浩市のコメント
戯曲を映像化する面白さと難しさがある作品です。
エンターテイメント作品としての高揚感をキープしつつ、喉元にはある異物感を感じてもらう。
そんな作品にするために波多野監督以下スタッフキャストで撮了まで走りたいと思います。
石田ゆり子のコメント
一年で一番幸せな空気に包まれるクリスマスの夜。
その日にもし、東京でテロが起きたら・・・。
登場人物の様々な視点で描かれる予測不能な展開に、 私はこの作品に込められた人とのつながりと愛について深く考えさせられました。
初めてご一緒する波多野監督、佐藤浩市さんをはじめとする共演者の皆さんとともにこの作品に込められたメッセージを一人でも多くの方に届けることができたらと思います。
西島秀俊のコメント
波多野組の参加は本作で2度目になりますが、前作とは全く違った世界観でとても楽しみです。
監督ならではの娯楽性の高さとスケール感に今から期待を膨らませています。クリスマスで賑わう街並みが、一瞬にして緊張と不安に包まれてしまう。
その大掛かりなフィクションの世界に、観客の皆様と深く入り込んでいきたいと思っています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は「サイレント・トーキョー」のご紹介をさせていただきました。
原作はドラマで大ヒットしたアンフェアシリーズの秦建日子。
総理との生対談を条件にして、渋谷駅を爆破すると脅迫する犯人。目的は何なのか?とクライムサスペンスの典型のような設定です。
この国の暗い部分を描いたこの作品は、冒頭の爆破シーンから息継ぎさせずにラストまで展開する流れはよくできていたと思います。
しかし、最初の爆破シーンが最大で最後の見どころと言えなくもありません。
その後のストーリーが整理されておらず、伏線回収がなさすぎてわからないことだらけです。また、キャラクターの描写が中途半端で希薄なので、感情移入出来ません。
政権への批判的な映画かとも思いましたが、意図的なのか、説明が不足している部分が多くありました。
もっと残念なのは、真犯人アイコの動機の薄さです。
ご主人のことで大変な思いをしたのでしょうが、あれだけの爆発事件を起こす動機になり得るか疑問です。
レビューでも、「途中まではすごく面白かったんだけど、だんだんとストーリーのつながりが雑になっていた印象。勿体ない」
「無理に90分程度に映画をまとめずにじっくりストーリーを描いた方がよかったのでは?セットも素晴らしかったので、少し残念だった」と言う声が多くあがっていました。
平和ボケしている日本への問題提起にしては直接的な戦地の描写が少なすぎるし、みんなが無関心だからといって爆破するのは浅はかすぎるように思えます。
戦争について本当に考えてほしいなら、視聴者に考えてくださいというようなラストにしないほうがよかったのではと思います。
120分あっても良いので、もう少しストーリーを整理して、膨らませられる展開ができたのではと感じてしまいます。
佐藤浩市、石田ゆり子、西島秀俊などキャストが豪華だっただけに、少し残念な感想を持ちました。
監督 波多野貴文
脚本 山浦雅大
原作 秦建日子『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』
製作 在原遥子 川田亮 長谷川晴彦 小柳智則
製作総指揮 石黒研三 安藤親広
出演者 佐藤浩市 石田ゆり子 西島秀俊 中村倫也 広瀬アリス 勝地涼
音楽 大間々昂
主題歌 Awich 『Happy X-mas (War Is Over)』
撮影 山田康介
編集 穗垣順之助
制作会社 ROBOT
製作会社 Silent Tokyo Film Partners
配給 東映
公開 〔日本〕 2020年12月4日
製作国 日本
言語 日本語
興行収入 4億4000万