こちらの資格を持つ者は、多くの人が出入りする特定建築物(学校、病院や診療所、映画館、オフィスビルなど)の敷地構造や建築設備を定期的に検査することができます。
特定建築物調査員は国土交通省のもとで認定される国家資格です。
平成28年6月1日施行の建築基準法改正により、これまであった「特殊建築物等調査資格者」から変わって創設されました。
建築関係や点検・調査する資格は他にもあります。
「特定建築物調査員」は具体的にどんなことができるかを、説明していきます。
Contents
適用する仕事
資格名にもなっている「特定建築物調査員」の特定建築物とは、建築基準法第2条2項で定められている建築物のことです。
「特定建築物調査員」は、不特定多数の人が利用する建物で使用する床面積が合計200㎡以上あるものを対象として調査します。
もし、そのような建物で火災や災害が発生したら、人命に被害が及びやすいため、定期調査とそれにもとづく結果報告が大事なのです。
特定建築物調査とは
下記のような箇所を調査・点検します。
- 敷地や地盤(地盤や敷地に加えて、堀や擁壁の状態を目視中心で検査)
- 建築物の外部(基礎や外壁の状態を目視やテストハンマーなどで検査)
- 屋上や屋根(屋根や屋上そのものの損傷やパラペットや笠木、ドレーンを含む排水周りの状態も調査)
- 建築物の内部(防火区画や壁、床、天井などの状態や火災の際でも耐火性能が確保されているかなどを調査)
- 避難施設(廊下・通路・出入り口・バルコニー・階段などや排煙設備が建築基準法に適合しているかを点検)
- その他(避雷設備や煙突などを目視で調査)
建築物の点検は規定に基づいて3年ごとに、実施、建築物の設備などの調査・点検は規定に基づいて1年以内に実施することが義務付けられています。
報告業務
建築物や建築物の設備に関する調査・点検の結果は、各建築物の所在地を管轄する地方自治体に報告します。
報告の仕方も、建築物の所在地である各特定行政庁のホームページなどからテンプレートが指定されていますので、それをダウンロードして使用します。
報告書の冒頭には、建築物の所有者・管理者・調査資格者等の記入と報告者(所有者または管理者)の記名をしなければいけません。
そして、場合によっては、特定建築物の管理者への指導も行います。
※特定建築物調査を行うことができるのは、指定された講習を受講修了した特定建築物調査員だけでなく、一級建築士と二級建築士も該当します。
おおよその年収とキャリアパス
特定建築物調査員が主として資格取得後に目指せるのは、建築設備会社です。
年収は勤務する建築設備会社の規模や業務内容、あるいは本人の役職などによっても変わってきます。
平均的には350~500万円程度が最も多い年収ゾーンです。
こちらの資格は、独立を目指すよりかは、建築設備関連会社に勤務し続けるのが一般的です。
その中で役職に就くキャリアパスが考えられます。
公共施設や指定された民間施設は、建築基準法によって建築物の点検を定期的に点検をすることが要求されています。
となると、今後も必要とされ続ける仕事であるため、有資格者は建築業界で重宝されます。
よって、これからも非常に役立つ国家資格です。
認可団体
国土交通省
受験条件
この資格を講習を受けて取得する仕組みですが、受講条件は細かく設定されています。
いずれかの項目に該当する人が受講できます。
学歴を伴う受講条件
学校 | 課程 | 卒業後の建築に関する実務経験年数 |
イ.大学 | 正規の 「建築学」 「土木工学」 「機械工学」 「電気工学」 に相当する課程 |
2年以上 |
ロ.3年制短期大学(夜間を除く) | 3年以上 | |
ハ.2年制短期大学または高等専門学校 | 4年以上 | |
ニ.高等学校または中等教育学校 | 7年以上 |
対象となる課程名 | |
建築学系 | 建築工学科、建築学科、建築科、建設工学科、環境デザイン学科、環境都市工学科、建築CAD設計科、建築設計科、住居学科、建設科、建築デザイン科、生活環境学科、建設環境工学科、建築設備工学科、建築デザイン学科、住居環境科、デザイン学科 |
土木工学系 | 土木学科、土木工学科 |
機械工学系 | 建築設備工学科、建築設備科、設備工業科、衛生工業科、機械工学科、機械学科、生産機械工学科、精密機械工学科、応用機械工学科 |
電気工学系 | 電気工学科、電気学科、電気科、電気技術科、電気工作科、電子科、電子工学科、電気電子工学科、電気通信工学科、通信工学科 |
その他の受講条件
- 建築に関して11年以上の実務経験を有する者。上記の学歴を伴う実務経験でも該当するが、建築物や建築設備の設計や施工、保守や調査、点検などの経験を指す
- 建築行政に関して2年以上の実務経験を有する者
- 消防吏員として5年以上の実務経験(火災予防業務に関するもの)を有する者
- 防火対象点検資格者として、5年以上の実務経験(点検業務)を有する者
- 甲種消防設備士として、5年以上の実務経験(設計、施工、工事、保守、整備、点検)を有する者
- 上記と同等以上の知識や実務の経験を有する者
合格率
2021年:77.9%
2020年:68.2%
2019年:81.3%
1年当たりの試験実施回数
受講地は東京や大阪です。(修了考査のみ名古屋や福岡で受けられる年があります)
会場受講だけでなく、Webからでも受講できます。
どの受講地でも年1回、秋に実施されます。
試験科目
こちらは受講内容を挙げます。
- 1日目:特定建築物定期調査制度総論、建築学概論
- 2日目:建築基準法令の構成と概要、特殊建築物などの維持保全、建築構造
- 3日目:防火や避難、その他の事故防止
- 4日目:特定建築物調査業務基準など
その後に修了考査
採点方式と合格基準
修了考査は四肢択一式で行われます。
講習の内容を理解した者として、修了考査では30問中20問以上正解した人が合格です。
修了考査が不合格であった場合でも、次年度にかぎり修了考査のみを受けることができます。
取得に必要な勉強などの費用
受講料以外の勉強の費用は必要ないでしょう。
テキストも講習当日に受け取ることができます。
受験料
こちらは受講料です。
52,800円(税込)かかります。
受験申込方法
受講は講習申込サイトで手続きできます。
「一般財団法人 日本建築防災協会」のホームページにて用意しています。
手続きするには、事前に受講条件の証明に必要な書類を準備して、PDFデータを作成しておきましょう。
そして、申込時にそれをアップロードします。
必要な書類は3種類あります。
1.基本情報などの証明書 | 講習申込サイト上で、基本情報等の項目1~11の事項を入力し、写真データ(JPG)を準備して取り込みます。 |
2.受講条件証明書 | 受講条件に応じて選択した様式(Excelファイル)をダウンロードし、項目12~16の事項を入力・選択します。 それをプリントアウトして証明者の押印(公印)を受けたものを準備します。 Excelファイルは、講習申込時にアップロードします。 |
3.受講条件関係必要書類 | 受講条件によって、卒業証明書や防火対象物点検資格者免状、消防設備士免状が必要です。 実務経験を証明するのに労働者名簿も必要になります。 |
詳細は「一般財団法人 日本建築防災協会」の「講習・検定」のページをご覧ください。
まとめ
今回、多くの人が出入りする特定建築物(学校や体育館、劇場や展示場、百貨店、ダンスホール、旅館や下宿屋、工場など)の敷地構造や建築設備を定期的に検査する「特定建築物調査員」を取り上げました。
この仕事は今後も必要とされ続ける類であるため、有資格者は建築業界で重宝されます。
試験(修了考査)はあまり難しくないものの、受講条件が細かく設定されているのが1つの関門といえるでしょう。
通常なら、11年以上の実務経験がないと、「特定建築物調査員」の講座は受けられません。
しかし、【受験条件】で解説したように、該当する卒業学科や資格を持っているともっと早い段階から受講へこぎつけます。
もし、該当する学科や資格がある人は、それらを強みにして受講してみましょう。
それ以外の人はコツコツと実務経験を積み上げていってから、講座を申し込みましょう。
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