放射線発生装置のうち身近なものといえば、病院でのレントゲン(X線)写真撮影でしょう。
ですが、放射線発生装置は病院の他にも、様々な工場、検査機関、研究機関、教育機関などで使用されています。
放射線取扱主任者は、放射性物質や放射線発生装置を使用している事業所では、利用状況をこと細かに記録・管理します。
また、毎月、施設の放射線量の測定をし、そこで働く人の放射性物質の影響を測定して、記録・管理します。
放射線取扱主任者は、それらの事業所で放射線発生装置の管理、監督をするのが主な役割です。
放射性同位元素や放射線を利用する場合には、放射線取扱主任者を事業所ごとに必ず選任しなければなりません。
なお、放射線取扱主任者は国家資格です。
第1種、第2種、第3種があり、違いは非密封放射性同位元素を扱えるか否かです。
第2種は、放射性同位元素を金属などで密封したもののみ扱えます。
第1種は、非密封の放射性同位元素も扱え、更に放射線発生装置も扱えます。
放射性同位元素を扱う業界では、この資格は有名なので合格していれば箔がつきます。
特に、非密封線源を用いる事業所では第1種で重宝されます。
診療放射線技師がこの資格にも合格すれば業務の幅が若干増えるので、核医学や放射線治療の部署へ配属される可能性もあります。
この資格に合格すると、以下の国家資格が無試験で申請できます。すなわち合格と同じになります。
- エックス線作業主任者(第1種のみ)
- ガンマ線透過写真撮影作業主任者(第1種および第2種)
- 作業環境測定士(第1種のみ、一定の条件あり)
【関連リンクは末尾に記載】
その他にも、第2種に合格していれば、エックス線作業主任者試験の2科目が免除になります。
なお、ウランやプルトニウムなどは核燃料物質としての扱いになります。
放射性同位元素の中でも、より厳しい条件で管理する必要があり、別の資格である核燃料取扱主任者が必要です。
Contents
適用する仕事
この資格で活躍できるのは、おおまかに、放射線同位元素や放射線発生装置を扱う事業所、販売所、廃棄事業所、病院、研究機関、製造業などです。
放射線を利用している主な業種は下記です。
工業
- 半導体加工
- 放射線滅菌(注射針・注射筒・真空採血管・人工関節・人工骨)
- 計測・検査(放射線測定器・非破壊検査)
- ラジアルタイヤ(今や一般的なタイヤ)の製造などの高分子加工
医療・医学
- 画像診断
- 放射線治療
- 乳がん検査
- PET CTがん検診
- 粒子線治療
農業
- 突然変異育種
- ジャガイモ芽止め
- 放射能分析
また、この資格の求人では、原子力発電所に関わる業務が目立ちます。
福島第一原発の廃炉に関わる仕事や、柏崎刈羽原発の再稼働に関わる仕事などの求人があります。
おおよその年収とキャリアパス
年収を分けて見てみましょう。
300万円~500万円
原子力発電所や各種プラント施設における、放射線管理やメンテナンス業務
450万円〜650万円
原子力発電所の放射線(能)の測定、廃棄物管理、作業員の支援 他
認可団体
原子力規制委員会
受験条件
試験と講習、それぞれで条件があります。
試験
第1種・第2種は制限無し
第3種は試験自体無し
講習
第1種は、18歳以上で、第1種放射線取扱主任者試験に合格した者
第2種は、18歳以上で、第2種放射線取扱主任者試験に合格した者
第3種は、18歳以上の者
合格率
第1種:28.9%(2022年度)
第2種:20.6%(2022年度)
第3種:講習のみで無試験
1種は試験が2日間であり、2日目の最終科目になる頃には半数ほどの人が諦めて帰るとのことです。
しっかり勉強した人の実質的合格率はもっと高いと思われます。
1年当たりの試験実施回数
年1回
願書申込み受付期間:5月中旬~6月中旬頃まで
試験日程:8月下旬頃(1種は2日間連続)
試験科目
試験と講習の内容をお伝えします。
第1種試験(2日間/全課目択一式問題・マークシート方式)
1日目
- 法律(五肢択一式:30問/1時間15分)
- 実務(多肢択一式:6問/1時間40分)
- 放射線に関する物理学(五肢択一式:30問、多肢択一式:2問/1時間50分)
2日目
- 放射線に関する化学(五肢択一式:30問/1時間50分)
- 放射線に関する生物学(五肢択一式:30問/1時間50分)
第2種試験(全課目択一式問題・マークシート方式)
- 法律(五肢択一式:30問/1時間15分)
- 実務(五肢択一式:10問、多肢択一式:2問/1時間15分)
- 放射線に関する物理学・化学・生物学(五肢択一式:10問、多肢択一式:1問/2時間)
※試験合格後、下記の指定講習を受講する必要があります。(受講は翌年以降でも可)
第1種講習(5日間)
1日目
- 【講義】放射線安全管理の基本(法体系、放射線管理の概要)(2時間30分)
- 【講義】密封線源と非密封放射性物質の安全取扱実務(2時間)
- 【講義】装備機器及び放射線発生装置の概要と安全管理(2時間)
2日目
- 【講義】放射線施設の安全管理実務 (2時間)
- 【実習】取扱施設安全管理実習(1時間)
- 【講義】放射線測定の基礎(1時間40分)
- 【実習】放射線測定器の特性及び空間線量率の測定(個人線量計含む)(3時間)
3日目
- 【実習】汚染状況の測定(空気中濃度)(2時間)
- 【実習】汚染状況の測定(水中濃度)(2時間)
- 【実習】非密封放射性同位元素の取扱いの基礎(2時間30分)
4日目
- 【講義】事故及び危険時の対策と措置(1時間30分)
- 【実習】汚染状況の測定(表面汚染密度)(2時間)
- 【実習】事故及び危険時の対策と措置(2時間)
- 【講義】汚染状況の測定(空気中濃度)まとめ(1時間)
5日目
- 【講義】放射線安全管理の実務(記帳・記録、施設管理、報告等)(2時間)
- 【講義】放射性物質の安全取扱実務まとめ(1時間)
- レポート講評(1時間)
- 修了試験(1時間)
- 閉講式等(40分)
第2種講習(3日間)
1日目
- 【講義】放射線安全管理の基本(3時間)
- 【講義】放射線測定の理論及びその実務(2時間)
- 【講義】事故及び危険時の対策と措置(1時間20分)
- 実習ガイド(40分)
- 管理区域について(20分)
2日目
- 【実習】放射線測定実習(4時間20分)
- 【実習】密封放射性同位元素の取扱実習(3時間30分)
- 密封放射性同位元素取扱実習(2時間20分)
- 事故発生時の対応実習(1時間10分)
3日目
- 【講義】密封放射性同位元素の取扱いの安全管理(2時間30分)
- 【講義】放射線施設の安全管理(2時間)
- レポート講評(50分)
- 修了試験(1時間)
- 閉講式等(40分)
第3種講習(2日間)
1日目
- 【講義】放射線及び放射性同位元素の概論(1時間30分)
- 【講義】放射線安全管理の基本(1時間)
- 【講義】放射線測定の理論及びその実務(1時間)
- 【講義】事故及び危険時の対策と措置(1時間)
- 【実習】放射線測定実習(2時間40分)
2日目
- 【講義】放射線の人体に与える影響(1時間30分)
- 【講義】放射性同位元素等の規制に関する法令(2時間)
- レポート整理・講評(50分)
- 修了試験(1時間)
- 閉講式等(40分)
採点方式と合格基準
第1種・第2種試験
全試験課目の得点率が60%以上、なおかつ試験課目毎の得点率が50%以上で合格
第1種・第2種・3種講習および修了試験
正答率60%以上で合格
試験に合格後、免状を交付してもらうには、講習を受講し、実習レポートを提出してから修了試験に合格する必要があります。
この修了試験の合格率は、ほぼ100%とのことです。
会社に資格取得支援制度がある場合、まず試験のみ個人負担で合格しておき、その後、会社負担で受講するとお得でしょう。(試験の合格証は無期限で有効)
取得に必要な勉強などの費用
書籍の費用だけでなく、勉強方法もお教えします。
参考書・問題集(中古なら安く購入できる)
第1種、第2種共通
- 大量に覚えて絶対に忘れない紙1枚勉強法(ダイヤモンド社):1,540円
- エックス線作業主任者試験 徹底研究(オーム社):3,080円
第1種
- 放射線概論―第1種放射線取扱主任者試験受験用テキスト(通商産業研究社):5,280円
- 第1種放射線取扱主任者試験 マスター・ノート(メジカルビュー社):5,280円
- 第1種放射線取扱主任者試験 完全対策問題集(オーム社):12,068円
- 第1種放射線取扱主任者試験問題集(通商産業研究社):4,950円
第2種
- 初級放射線―第2種放射線取扱主任者試験受験用テキスト(通商産業研究社):4,620円
- 第2種放射線取扱主任者試験 マスター・ノート(メジカルビュー社):8,428円(定価での販売はなくAmazonでの新品価格)
- 第2種放射線取扱主任者試験問題集(通商産業研究社):4,840円
通商産業研究社の受験対策セミナー
第1種:66,000円(6月下旬始まり6日間)
第2種:50,600円(7月中旬始まり4日間)
勉強方法
勉強一般の復習による記憶定着法は『大量に覚えて絶対に忘れない紙1枚勉強法』がおすすめです。
放射線の知識が全くない場合は、知識を充足してくれるテキスト『エックス線作業主任者試験 徹底研究』を放射線取扱主任者の勉強の前に読み始めることをおすすめします。
昔から、第1種放射線主任者試験の受験用テキストとして、964ページからなる『放射線概論』があります。
一方で、図解が多くて分かりやすく、なおかつ内容を凝縮しページ数も半分以下の参考書があります。
- 『第1種放射線取扱主任者試験 マスター・ノート』-過去5年分の試験問題を分野ごとに整理し収録した問題集がある
- 『第1種放射線取扱主任者試験 完全対策問題集』
上記の2冊との併用で、かなり合格確率はあがるでしょう。
『放射線概論』は補足として使用するのがよいでしょう。
他には、試験内容をそのまま掲載していて、試験目前の演習として適している問題集があります。
『第1種放射線取扱主任者試験問題集』です。
第2種は「完全対策問題集」がありませんが、第1種に準ずる勉強方法でよいかと思われます。
この資格は難度の高い第1種を受験する人が多数派です。
一方、第3種の受験者はかなり少数です。
使用する放射性同位元素が密封か非密封かで、第1種か第2種かを決める人が多いようです。
いずれ第1種が必要になるのであれば、最初から第1種取得を選択すべきでしょう。
第1種は放射線について特に学ぶ必要があります。
診療放射線技師を養成する大学の学生であっても、放射線について不勉強ですと不合格になります。
この資格は化学・物理・生物の高校基礎知識と関係法令に関する知識が必要で、出題範囲も広いです。
記憶することが膨大なので、特に社会人は勉強時間が不足しがちです。
なおかつ出題数も多く、試験時間が切迫しやすい傾向があります。
また、小数点第2位や第3位を含む数値同士の掛け算もありますので、計算ミスをしない注意も必要です。
しかし、基礎的な重要事項の問題が多く、応用力を試される問題は少なめです。
受験料
試験と講習の料金です。
試験
第1種:19,800円(税込)
第2種:14,124円(税込)
講習
第1種:167,546円(税込)
第2種:103,176円(税込)
第3種:93,398円(税込)
受験申込方法
詳しくご説明します。
- 登録するメールアドレス、パスワード
- 顔写真画像データ(画像ファイル)
受験WEBサイトへのユーザー登録が必須です。
ユーザー登録では、メールアドレスとパスワードが必要です。
そしたら、登録したメールアドレスにメールが届きます。
届いたメール内に記載された「申込(登録する受験者の情報)入力URL」をクリックすると、申込フォームが表示されます。
次に、試験区分(第1種試験、第2種試験、第1種及び第2種試験)を選択します。
登録する受験者の情報や顔写真画像データ(画像ファイル)を入力します。
受験料の支払方法は、クレジットカード、コンビニ、ペイジーの中から選択できます。(試験区分、受験料の支払方法は、受験申込[受験者情報の登録]後は変更できません)
最後に、申込(受験者情報の登録)内容確認を行い、受験者情報を登録します。
受験申込(受験者情報の登録)完了メールが送られてきます。
そして、選択した支払方法で受験料を支払います。
申込内容に不備がないことが確認されると申込みが受理され、申込手続きが完了となり、申込受理のお知らせメールが送られてきます。
まとめ
クリニックでの放射線取扱主任者は、医師・歯科医師を選任することができ、大病院でも上層部で選任されている人がいる場合がほとんどです。
他の業種でも、この資格は取得しても選任者にならなければ役立つ機会も少ないので、常に人材が不足していることはありません。
転職情報を探しても、放射線取扱主任者の求人数は全国的に少なめです。
病院や会社などで、中堅社員がステップアップのために取得する資格という側面もあります。
しかし、就活などでは合格率が低い試験に合格できた点でアピールにもなります。
学生や第二新卒までなら、医療・検査機器の製造会社、製薬会社、非破壊検査会社などで好評価をされうるでしょう。(3種は試験無しの講習のみなので、例外です)
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