船舶に乗り組む衛生管理者は、船内の衛生管理を担う者の資格です。別称で「船舶衛生管理者」とも呼ばれます。
この資格を取得するには、試験に合格して取得する方法と、講座を受講して取得する方法があります。
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適用する仕事
まずはじめに、近海区域以遠の遠洋区域を航行区域とする船舶、または近海区域を航行する船舶で、総トン数3,000トン以上の船舶などでは、乗組員の中から衛生管理者を選任しなければならないことが、船員法で決まっています。
船員法とは、船員として日本船舶または日本船舶以外の国土交通省令の定める船舶に乗り組む、船長及び海員ならびに予備船員の雇入契約や給料、労働時間、有給休暇などを定めた法律です。
選任する衛生管理者は、基本的には衛生管理者適任証書を持つ有資格者でなければなりませんが、やむを得ない場合には、国土交通大臣の許可を得たうえで、この資格を有していない者を選任することはできます。
「船舶に乗り組む衛生管理者」を選任する法律
船舶所有者は、船員法82条各号に掲げる船舶を除いて、次に示す船舶については乗組員の中から衛生管理者を選任しなくてはいけません。
ただし、国内各港間を航海する場合や、省令の定める区域のみを航海する場合は除きます。
内航船または東経150度、北緯21度、北緯46度の線、およびアジア大陸の沿岸により囲まれた海域のみを航海する船舶に対しては選任義務はありません。
「船舶に乗り組む衛生管理者」の仕事内容
船舶に乗り組む衛生管理者の主な職務は、船の乗組員たちの健康管理、船内の衛生環境の維持です。
船上が職場となるので、船舶衛生に関する専門知識が必要です。
他には、船員の保健指導、作業環境衛生、居住環境衛生、食料などの口にするものの衛生保持を行います。
この資格を持つものは、船上で衛生管理者の職務だけでなく、医療行為も行います。
注射や投薬、傷口の縫合などもできなければなりません。
血圧の測定や、止血などもするので、船内では医務室などで勤務します。
学校での医療系の教育を必須とせずに、診察や投薬、注射、縫合などの医療行為が部分的に行える日本でただ一つの資格です。
おおよその年収とキャリアパス
この資格を有している人のおおよその年収は、幅がありますが、年収300万円から900万円ほどと見られます。
年収に加えて、衛生管理者手当が出る場合があります。
手当が出る場合は、船会社によって異なりますが、年間で1,000円から36,000円ほどと差があります。
日本の客船は少ないので、大型の船への就職は狭き門です。
しかし、一定の船員が乗る船であれば、「船舶に乗り組む衛生管理者」は必ず必要なので、この資格を持つ人員は求められています。
ただし現状では、船長のような船員がこの資格を有して、兼務することが多いようです。
この資格を持つ人材は、船舶管理や工務監督として求められます。
工務監督は、陸上の仕事で、受け持った船とメールなどの通信でやりとりしながら、船の整備の計画を立てたり、行った整備の報告書をまとめたりします。
工務監督は、一人で数隻の船の管理をするのが普通です。
認可団体
船舶に乗り組む衛生管理者は、国土交通大臣が認定の国家資格です。
運営管理を行っているのは、国土交通省の関東運輸局、または神戸運輸管理部です。
「地球にやさしい、人にやさしい」交通社会の実現に向けて、船舶や自動車、鉄道、観光などの関係業務と、それらの密着した地域の活性化に向けた取り組みをしています。
受験条件
この資格を得るには、衛生管理者試験に合格するか、船舶衛生管理者講習を受講する、または大臣が同等以上の知識や技能があると認定する必要があります。
試験に合格する場合
試験に合格することで資格の取得を目指す場合、受験資格は次のようになります。
受験資格としては、学歴と必要実務経験があります。
主に3つあり、いずれかを満たしていなければなりません。
- 最終学歴が大学卒業であるか、短期大学、高等専門学校卒業で労働の実務経験が1年以上。
- 高等学校または中等教育学校卒業では、労働衛生の実務経験が3年以上。
- 最終学歴が中学校卒業の場合は、労働衛生の実務経験が10年以上。
船舶衛生管理者講習を受講する場合
船舶衛生管理者講習を受講することで資格の取得を目指す場合
受講条件は、原則として船員や予備船員になろうとする者であって、講習内の試験日において、年齢20才以上の者です。
船舶衛生管理者講習を受講する場合、受講できる定員があります。
令和5年度の定員は30人でした。(定員が減ることもあります。)
大臣から認定されるには
大臣から認定されるのは、次のような者です。
- 医療、薬事系資格者:医師、歯科医師、薬剤師、獣医師、助産師、保健師、看護師、准看護師、外国で免許を得た者。
- 医薬・薬科系学位:医学士、歯学士、薬学士、衛生看護学士。
- 労働安全衛生法に規定する衛生管理者の資格を持ち、船舶に乗り組み2年以上船内の衛生管理に関する業務に従事したことのある者。
- 国土交通大臣の登録を受けた講習(登録講習)を修了した者。
- その他、これらと同等以上の能力があると認められる次のような者。(海上自衛官[衛生特技の者]、認定校卒業者、認定校卒業者かつ船舶衛生管理者講習(B)修了者など)
一定条件の外航船舶(特定船舶)に乗り組む衛生管理者に限っては、5年ごとに大臣に登録された再講習の受講が義務となっています。
年に1,2回、100時間の講習を行っています。
会場は、横浜掖済会病院、名古屋掖済会病院、大阪掖済会病院、神戸掖済会病院のいずれかです。
合格率
合格率は非公表です。受験者数も発表されていません。
1年当たりの試験実施回数
試験で取得する場合、試験は年に1回実施されています。
船舶衛生管理者講習を受ける場合も、修了試験は講座の中で年に1回行われています。
試験が行われるのは12月です。
試験科目
試験は、筆記試験と実技試験があります。多肢選択の問題が多いですが、記述の問題もあります。
【筆記試験】
労働生理、船内衛生、食品衛生、疾病予防、保健指導、薬物、労働衛生法規
【実技試験】
救急処置、看護法
採点方式と合格基準
語群から選んで解答するものはありますが、マークシート方式ではありません。
採点は正誤判定になります。
合格基準は、公表されていません。
取得に必要な勉強などの費用
過去問は5年分、国土交通省のホームページで公開されています。
また、船員災害防止協会が実施している「船舶衛生管理者講習」というものがあります。
船舶衛生管理者講習は「船舶に乗り組む医師及び衛生管理者に関する省令」に基づく登録講習で、名古屋掖済会病院で開催されています。
定員は30人です。
応募者が定員を超えた場合は、申請期間内であっても募集が締め切られます。
応募が可能なのは、講習最終日に20歳以上の者です。
- 船員災害防止協会会員:206,300円(税込)
- 船員災害防止協会非会員:268,200円(税込)
ここでの会員価格とは、団体会員や賛助会員の人には適用されません。
受講料には、教材費や修了試験受験料が含まれます。
修了試験不合格で再試験となったときは、1科目1,650円の別途受験料が発生します。
なお、受講者の宿泊や食事などは、受講者自身で手配が必要です。
受験料
5,400円
受験申請書に収入印紙を貼付する支払い方法です。
受験申込方法
試験に合格して資格の取得を目指す場合と、登録講習を受ける場合の申し込み方をご説明します。
試験を受ける場合
受験するには受験申請に必要な書類をそろえて、希望する試験地の運輸局の「海上安全環境部船員労働環境・海技資格課」に申請します。
受験申請に必要な書類は、以下の通りです。
・衛生管理者試験受験申請書
WEB上の国土交通省のホームページの「船舶に乗り組む衛生管理者試験について」のページの中に、衛生管理者受験申請書がPDF形式であります。
各地方運輸局窓口で配布もしています。
※申請書の余白には、連絡先電話番号を記載しましょう。
・写真一枚
申請前1年以内に撮影したもの。正面・脱帽・上半身・縦5cm・横4cmのもの。裏面に氏名を記載したもの。
・手数料5,400円に相当する収入印紙
・本人確認書類
例として、運転免許証、マイナンバーカード、戸籍の謄本、抄本、記載事項証明書、住民票の写し等です。
戸籍の謄本の場合は、申請前1年以内に作成されたものでなければなりません。
登録講習を受ける場合
衛生管理者登録講習を受講して、資格の取得を目指す場合は、まずは受講申込書を準備して申し込む必要があります。
この申し込みは、本人でなくても、所属する会社の担当者などでも問題ありません。
定員を超えた場合は、申請期間中であっても募集が締め切られることがあります。
受講の場合は、講習最終日に修了試験を受けます。
それに合格すると、修了証明書が発行されます。
修了証明書に必要書類を添えて国土交通大臣に申請すると、衛生管理者適任証書が交付されます。
まとめ
船内の衛生管理を担う人の資格についてでした。
医療系の教育を必須とせずに、診察や投薬、注射、縫合などの医療行為が部分的にできる日本で唯一の資格です。
受験資格も20歳以上なので、受け皿が広いです。
日本は海に囲まれているので、漁業をはじめ船に乗り組む人が居ます。
船の上では、怪我や病気になってもすぐに陸には戻れないので、船上での衛生管理は重要と考えられてきました。
食料の管理なども重要なので、食品衛生も取り扱います。
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