帝政ローマ時代中期を舞台とした英雄が誇りを胸に復讐を誓う「グラディエーター」

帝政ローマ時代中期を舞台とした英雄が誇りを胸に復讐を誓う「グラディエーター」

今回ご紹介するのは2000年公開のアメリカ映画「グラディエーター」です。

「ブレードランナー」の巨匠リドリー・スコットが、古代ローマを舞台に復讐に燃える剣闘士の壮絶な闘いを描き、第73回アカデミー賞で作品賞・主演男優賞など5部門に輝いた歴史スペクタルです。

帝政ローマ時代中期を舞台に、皇帝と皇太子の権力争いに巻き込まれて奴隷に身を落とした元ローマ軍将軍が、復讐のために剣闘士(グラディエーター)として過酷な運命に立ち向かう姿を壮大なスケールで描いた名作で、後の歴史大作映画ブームの先駆けとなる作品です。

あらすじ(ネタバレあり)

領土を拡大し続けるローマ帝国で武勲を誇り皇帝マルクス・アウレリウスからの信頼も厚い将軍マキシマスは、皇帝から次期皇帝の座を継いでほしいと打ち明けられます。

しかし、野心家で皇帝になることに固執する皇帝の息子コモドゥスの企みにより、皇帝は殺害されてしまいます。

マキシマスは処刑を命じられながらも、逃げ出し故郷へ戻ります。しかし遠征中、心の支えであった妻子はコモドゥスの命令で殺されています。

心身ともに極限状態にあった彼は気を失い、意識を取り戻した時には奴隷として自由を奪われていました。そして、剣闘士を育てるプロキシモに売られてしまいます。

マキシマスが新しい宿命を得た時、ローマでは皇帝コモドゥスは民を愛する皇帝として振舞うことで民の心を掴み、専制的な統治を進めていきます。

ローマに宿営地を構えたプロキシモの剣闘士団でしたが、不利な契約を取り付けられ、ポエニ戦争ザマの戦いを模した闘技での「カルタゴ軍」役に駆り出されてしまいます。

鼻当て付きの兜を被ったマキシマスは将軍時代の経験を生かして剣闘士団を指揮し、「ローマ軍」役の戦車騎馬隊を壊滅させます。

仮面

本来はローマが勝利する筋書きでしたが、民衆は怒るどこか圧倒的に不利な状態で打ち勝った剣闘士団をたたえ、歓声を上げます。

そして、皇帝コモドゥスが会場内に降りてきました。

コモドゥスはその腕前を褒め称えると「顔を見せて名を名乗れ」と命じます。

マキシマスは頭の防具をとって正体を明かし、観客に大声でいいました。

「真の皇帝マルクス・アウレリウスの臣下、マクシムス・デシムス・メレディウス。俺は新皇帝に妻と子供を殺された。恨みは必ず果たす。今世が無理ならは、来世でも。」

その後、マキシマスは元老院の手引きでかつて指揮した軍団の元へ行き、軍を引き連れてローマに戻ってコモドゥスを討つ計画を告げます。

軍

一方、コモドゥスはこの動きを悟っており、わざとマキシマスを泳がせて反乱を起こした直後に捕らえる計画を立てます。

それによってはマキシマスも捕らえられてしまいます。

コモドゥスはマキシマスの背に剣を突き立て、一騎打ちでの戦いを持ちかけます。

大観衆が迎える中、コロセウムに入場する2人。

背中に傷を負ったマキシマスは、意識が朦朧とする中で果敢に戦い、最後はコモドゥスの首にナイフを突き刺してとどめを刺し見事勝利します。

戦う

マキシマスはローマを正しき姿に導くよう進言して息を引き取ります。民衆はコモドゥスの遺体を放置し、マキシマスを丁重に葬りました。

キャスト

キャストをご紹介します。

マキシマス(ラッセル・クロウ)

ローマ帝国の将軍マキシマスを演じるのはラッセル・クロウです。

将軍でありながら騎兵隊の一員として自らも最前線で戦うマキシマスは、皇帝への忠誠を誓い、部下からの人望が厚い人物。そして彼は何より故郷で待つ妻子を愛していました。

作中における架空人物ですが、マルクス・ノニウス・マクリウスという実在した執政官がモチーフとされています。

マルクス・アウレリウス(リチャード・ハリス)

一代でローマ帝国を拡大した賢帝マルクス・アウレリウスを演じるのはリチャード・ハリスです。

自身に死が迫っていることを悟り、ローマ帝国の将来を案じるアウレリウスは帝政に限界を感じて再び共和政による支配へとローマを戻そうと計画します。

マキシマスを後継者として指名しますが、息子コモドゥスの手により無念の死を遂げます。

コモドゥス(ホアキン・フェニックス)

皇帝マルクス・アウレリウスの嫡男で、策謀に長けた傲慢な野心家。賢帝たる父に屈折した感情を持ち、情緒不安定な部分があります。

自分よりも父から信頼されている旧友マキシマスに不安を覚え、父を殺した上でマクシムスを失脚させます。

ルッシラ(コニー・ニールセン)

コモドゥスの姉。若き日はマキシマスの恋人だったが、身分の差から結婚を諦めマルクス・アウレリウスの共同皇帝ルキウス・ウェルスと結婚します。

当面の跡継ぎとされた一人息子のルキウスと共に皇帝を支えるが、次第に弟へ恐怖を感じるようになります。

ルシアス(スペンサー・トリート・クラーク)

ルシッラの子で、コモドゥスの甥。作中、マキシマスから名を尋ねられ、「父の名を継いだ」と発言していることから、父は皇帝ルキウス・ウェルスと推察されます。

クィントゥス(トーマス・アラナ)

ローマ軍の将軍。マクシムスの同僚として従軍していたが、コモドゥスに従って反逆したマキシマスを捕らえます。

功績によって近衛隊長に栄達しますが、マキシマスを裏切ったことに罪悪感を抱きます。

基本情報

監督:リドリー・スコット
脚本:デヴィッド・フランゾーニ 、ジョン・ローガン 、ウィリアム・ニコルソン
原案:デヴィッド・フランゾーニ
製作:ダグラス・ウィック、デヴィッド・フランゾーニ、ブランコ・ラスティグ

製作総指揮:ローリー・マクドナルドウォルター・F・パークス
音楽:ハンス・ジマー、クラウス・バデルト、リサ・ジェラルド
撮影 :ジョン・マシソン
編集 :ピエトロ・スカリア

製作会社 : スコット・フリー・プロダクションズ、レッド・ワゴン・エンターテインメント
配給:ドリームワークス、ユニバーサル・ピクチャーズ
UIP公開 :アメリカ 2000年5月5日   日本 2000年6月17日
上映時間  :  155分(劇場公開版)171分(完全版)

製作国 :アメリカ合衆国
言語 :英語
製作費:$103,000,000
興行収入: アメリカ・カナダ $187,705,427、世界 $457,640,427、日本15億6000万円

受賞歴

第73回アカデミー賞
作品賞
主演男優賞  ラッセル・クロウ
衣裳デザイン賞
録音賞
視覚効果賞

英国アカデミー賞
撮影賞
編集賞
作品賞
美術賞

第58回ゴールデングローブ賞
作品賞(ドラマ部門)
作曲賞

批評家の反応は?

映画が公開されてすぐに著名な映画レビューのウェブサイト「Rotten Tomatoes」で76%(186名中142名)の批評家が本作に肯定的な評価を下し、また平均点は10点満点で7.2点となりました。

同様の映画レビューサイト「Metacritic」の平均点は100点満点中64点でしたが、このサイトにおいては高い点数といえます。

CNNは冒頭の戦闘場面を「最高の名場面」と賞賛し、『エンターテインメント・ウィークリー』はラッセル・クロウの情熱的な演技はマキシマスを「映画世界の英雄」の一人に押し上げ、同作全体も素晴らしい復讐物の映画に仕上がっていると評価しました。

2002年、イギリスの公営放送チャンネル4は映画ランキングで映画史上の名作と並んで第6位に同作をランキングしました。

一方、しばしば通俗的な評価とは異なる評論で知られる批評家ロジャー・イーバートは、この映画を強く批判した数少ない一人です。

彼は映像面を「汚くてぼやけて見辛い映画」と酷評し、物語についても「喜怒哀楽を表現すれば薄っぺらさを避けられると思ったら大間違いだ」と罵倒しています。

グラディエーターとは?

グラディエーターとは何でしょうか、説明します。

剣闘士の歴史

グラディエーターという名前は、古代ローマで使用された武器の「グラディウス」という剣からきています。日本語では「剣闘士」と訳されます。

歴史書に残る最古の剣闘士の闘技会は、紀元前264年、ローマにて行われたものです。

ペラとマルクスという兄弟が、父の死を弔うために行いました。

三組の剣闘士を、市場で戦わせたのです。この後、闘技会は、市民の娯楽の「見世物」として発展していきます。

ローマには円形競技場が次々と作られました。西暦80年には5万人を収容する「コロッセウム」が完成します。

現在ローマのメインの観光地で世界遺産となっています。

コロッセオ
コロッセウムの落成を祝い、100日間イベントが行われました。

1日5000頭の猛獣が殺され、期間中数百人の剣闘士が落命したといいます。

当時猛獣を調達した北アフリカでは生息数が大きく減少したそうです。

次第に闘技会は大規模になり、1万人を超す大会も行われています。

剣闘士養成所

剣闘士は、戦争捕虜や奴隷市場、犯罪者から集められました。

身分は低く、ローマ市民からは、堕落したもの・野蛮人・恥ずべき者と蔑まれ、売春婦と変わらぬ扱いを受けました。

しかし勝ちつづければ名声や富を手にすることが出来る為、勝利の栄誉に憧れて志願する「自由民」もいました。

剣闘士は養成所で効果的な戦い方、行進の仕方を徹底的に仕込まれます。

訓練はハードであり、外に逃げることもできなかった為、自殺してしまう者もいました。

怪我と反乱を避けるため、訓練は訓練生同士で行われ、木製の武器を使用しました。

ラグビーの選手のように、2mの木の杭に体をぶつけて筋肉づくりをしました。また藁人形を使い、攻撃する訓練をしました。

映画のみどころ

映画のみどころをご紹介します。

よみがえったローマ帝国

『ブレードランナー』『エイリアン』『ブラック・レイン』などで独特の映像美を追求しつづけてきたリドリー・スコット監督がSFXだけでは表現ができない、重量感のあるローマ帝国を見事に甦らせています。

また、主演のラッセル・クロウは、グラディエーターを演じる為に20キロ近くの減量 に成功。骨太のヒーローを演じきります

単純明快なストーリー

老皇帝アウレリウスは偉大であり、その子コモドゥスは絵に描いたような愚息。

マキシマス将軍は勇敢で素朴で、何よりも家族を愛しています。ほんのわずかしか出番のない彼の妻子は、実に健全に描かれています。

故にわたしたちは、嫉妬心から父と何の罪もないマキシマスの妻子を殺したコモドゥスを完全なる悪だと見做すことができるのだと思います。

そしてマキシマスの絶望に共感し、彼の奮闘を心から応援したくなるのです。

リアリティのある剣闘シーン

私は古代ローマ帝国を見たことはないし、剣術の心得も無ければ軍人でもありません。
しかし、この映画はとてもリアルだと感じます。

セットやCGの出来も見事ですが、なにより目を惹くのは剣闘シーン。マキシマスは強い。しかし、あくまで訓練を積んだ人間だからできるのです。

華麗な剣技を披露する一方で、しっかり剣の重量が考慮されている点にリアリティを感じることができるのだと思います。

『ブレイド』や『座頭市』のような超人的な剣捌きも興奮しますが、マキシマスの人間的な動きも実に魅力的です。

グラディエーターが戦うトラは本物

剣闘技のある試合で地面に作られた仕掛け扉からトラが現れ、グラディエーターに襲い掛かる場面があります。

トラがマキシマスを襲うカットは緊張感が増し、刺激的な映像に仕上がっていました。

このトラはCGIによりつくられたものだと思われることが多いようですが、撮影には本物のトラが使用されていたのです。

映像は実写合成で作成され、トラがマキシマスの肩に飛び掛かる場面は餌を持った調教師の背後からトラが飛びついて撮影されました。

グラディエーターは暴れん坊?

その短気な性格からしばしばトラブルも起こしてきたラッセル・クロウですが、オスカーを受賞した2000年の映画『グラディエーター』の撮影中、プロデューサーに「殺す」と脅しをかけていたことが明らかになっています。

これは、ジャーナリストのニコル・ラポルテが執筆した書籍の中につづられていたもので、この本によるとラッセルは映画の撮影中、ベテラン・プロデューサーのブランコ・ラスティグ氏とギャラをめぐって対立。

早朝にラスティグ氏に電話をかけ、汚い言葉でののしりながら「素手で殺してやる」とわめいたそうです。

さらに、映画のクライマックスでマキシマスが言うセリフ「この世でも、次の世でも復讐してやる。」と脅したといいます。

ラッセルはこの後、監督のリドリー・スコットに対し、「このセリフはよくないが、オレは世界で最高の役者だから、聞こえのいいようにしてやるよ」と言い放ったそうです。

この本は、『グラディエーター』の製作を担ったドリームワークス社と、会社の立役者、スティーヴン・スピルバーグとほか2人のプロデューサーについて綴った書籍です。

ラッセルについてはほかにも、撮影中に2度、セットを投げ出して帰ってしまったこともあるということで、俳優として波に乗っていた時期の暴れん坊ぶりが露出してしまったようですね。

世界遺産「アイト・ベン・ハッドゥ」

1987年に登録されたモロッコの世界遺産の一つ、「アイト・ベン・ハッドゥ」

7世紀にモロッコ北部を征服したアラブ人の支配から逃れるため、先住民族ベルベル人はアトラス山脈を越えてオアシスに「カスバ」と呼ばれる要塞を築いて移り住んでいました。

アトラスの南には数々のカスバが残る中、最も美しいクサル(カスバ化した村)と言われているのがアイト・ベン・ハッドゥで、現在でも数組の家族がここで暮らしています。

アイト・ベン・ハッドゥは、名作映画の撮影地としても有名です。

「アラビアのロレンス」、「ソドムとゴモラ」、「ナイルの宝石」など、少なくとも誰もが一度は耳にした事がある映画で使われてきた砂漠の町です。

そして、この「グラディエーター」でも、多くのシーンがここで撮影されました。

マキシマスが奴隷として連れてこられ、グラディエーターになるローマ辺境領、ズッカバール(現アルジェリアのミリアナ)の町のシーン(奴隷市、コロセウムなど)

ちなみに、コロセウムは、3万個の日干し煉瓦を使い、伝統的な工法でこの映画のために建設され、後日取り壊されたそうです。

レビュー

堕ちた将軍ラッセル・クロウの復讐譚に、コンプレックスと嫉妬に裏打ちされたホアキンのキャラクター像が圧倒的。2時間半があっという間でした。妻と子を殺されホアキンに追放されたラッセル。奴隷となり剣闘士として売られるハメに。しかし勝ち続ければホアキンとめぐり合える可能性があることが判明。そこから始まる名将の無双。これが爽快タマリません。追われて全てを失った男と追いやって全てを欲する男のドラマです。
中世及び殺しのシーンがリアルなので、苦手な女性は控えた方がいいですが、ラッセル・クロウが渋すぎる。リドリー・スコット監督さすがって感じです。主演・助演・音楽・映像・迫力どれを取っても星5つです。助演のリチャード・ハリスも素晴らしい演技です。これは名作ですので、ぜひ男女問わず見てほしいです。第73回アカデミー賞作品賞、第58回ゴールデングローブ賞ドラマ部門作品賞を受賞しています。納得です。
リドリー・スコットという監督の良さは圧倒的に芸術性が高いのに、それに負けずとも劣らないエンターテイメント性の高さを感じます。栄光からの絶望それでも折れない負けないラッセル・クロウが本当に逞しく、カッコよく、美しい。人の弱さ強さ、家族の愛、大切な事とは何がこの2時間に詰まっています。
ローマ帝国の軍を率いる名将がまさかの奴隷となり妻と子を殺され新皇帝に憎しみを抱く。ここからのハラハラドキドキ感が堪らなく、映像に見入ってしまった。憎たらしい新皇帝がとても嫌らしくて良かった。こんな時代が昔あったなんて考えると恐ろしくなるけど、ラッセル・クロウがとにかくカッコ良くて、それに勝ると劣らぬ映像と音響効果。2000年代の映画なのにすごいと思う。

まとめ

「グラディエーター」をご紹介しました、いかがでしたでしょうか?

リドリー・スコット監督、ラッセル・クロウがタッグを組んだ超大作と言う言葉がピッタリの作品です。

アカデミー賞の作品賞、ラッセル・クロウは主演男優賞を受賞しています。

ホワキン・フェニクスは助演男優賞にノミネートされました。

その他にも、世界中でさまざまな映画賞を受賞し、興行的にも大成功を収めました。

制作費も1億300万ドルという巨額なものですが、お金を掛けたら良いものが出来る訳ではもちろんなく、リドリー・スコットの映像美と様式美が詰まっているからこその出来だったと思います。

実直な軍人が奴隷に身を落とし、そこから始まる復讐劇という、誰でも感情移入できる(悪く言えば単純?)なドラマゆえに、最初から最後まで存分に楽しめます。

エンディングについて賛否があるようですが、先帝アウレリウスが望んだ世界を実現させるという展開なので、私はアリなのかなと思っています。

悪役であるコンモドゥスを演じるホアキン・フェニックス。

小心者・卑怯・シスコン・親不孝者、と女々しさを体現したようなキャラクターで、それを実に見事に演じていました。

ただの悪役とは決めつけられない深いキャラクターは、可哀そうですが実にはまり役でした。

そして、何と言っても一番の見どころは主人公のマキシマスの生き様です。

武に長け、圧倒的なカリスマ性を持つローマ帝国の将軍ですが、彼に野心はありません。

唯一の願いは田舎で暮らす家族のもとに帰ることだけ。

義理堅く、当然のように身を挺して仲間を助けることができる。

寡黙だけど怒りや悲しみや他人に対する情は隠さず表現する。

人は彼のような純粋さに気高さを感じ、魅かれるのではないでしょうか?

この映画を観終わった頃には、きっとマキシマスのことが好きになっているはずです。1度は観ておきたい映画です。