敵か?味方か?「交渉人」は IQ180の心理戦!

敵か?味方か?「交渉人」は IQ180の心理戦!

今回のご紹介は1998年のアメリカ映画「交渉人」です。
キャッチコピーは”IQ180の駆け引き”となっています。

年金にからむ汚職と殺人の濡れ衣を着せられたシカゴ警察の人質交渉人ダニーは、自らの無実を訴えるため、内務捜査局のオフィスに乗り込み捜査局員を人質に篭城します。

内部の人間を誰も信用できないダニーは、西地区の交渉人セイビアンを窓口役として逆指名します。

ローマンの要求はただひとつ「真犯人を探し出せ」

そして、2人の優秀な人質交渉人との緊迫した交渉・頭脳戦の中で、次第に真実が明らかになっていく様子を描いたアクション・サスペンス映画です。

何よりもサミュエル・L・ジャクソン&ケヴィン・スペイシー演技派2人の魅力が満載で、役柄で演じた天才同士ならではの駆け引きや心理戦が楽しめる作品です。

それでは、ご紹介していきましょう

あらすじ(ネタバレあり)

シカゴ警察東分署の刑事、ダニー・ローマンは凄腕の交渉人。
ある晩、彼は相棒のネイサン・ローニックから、署内の人間が警察年金基金を横領している事実を聞かされます。

その中には内務調査局長のテレンス・ニーバウムの名前もありました。この件をネイサンに告げてきた警察学校の同期の内偵者も誘われたらしいが断り、完全に脅えているとのことでした。

別れた直後、ネイサンは殺害されます。後日、ダニーの家にネイサンを撃った銃が見つかったとフロスト、トラヴィス署長、内務捜査局ニーバウムが、家宅捜査に来ました。

自宅から横領に関わる証拠が発見されたダニーは、ネイサン殺害と横領の罪で逮捕されてしまいます。

検察官はダニーを完全に犯人扱いし尋問します。また、ダニーの弁護士も「このままでは裁判で争っても勝ち目がない。取り引きするしかない。諦めろ」と彼にいいます。

数々の事件を交渉術で解決してきた英雄ダニーは、一変して横領犯と殺人犯という濡れ衣を着せられることになります。

自分を罠にかけた人間がニーバウムと察したダニーは司法取引の一日の猶予を使い、身の潔白を証明するため、内務調査局へ向かい、彼を人質に籠城を開始します。

交渉人

ダニーはビニルテープや段ボールなどを使って、窓や部屋へ侵入できる通気口などを完全封鎖していきます。監視カメラは全て壊し、部屋の中は完全に見えない状態にしました。

そして、交渉人として西分署随一のクリス・セイビアンを指名します。セイビアンは西地区の交渉人で、粘り強く犯人と交渉し、一度も武力解決に持ち込んだことがないという敏腕交渉人でした。

ダニーは警察署内部にも裏切り者がいるために、あえて西地区の交渉人セイビアンを指名したのでした。

現場へと到着したセイビアンは手の内を読まれ、手出しのできない東分署の人間に変わり、先陣を切ってダニーとの交渉にあたります。

一進一退の攻防の中でダニーは汚職の全貌を掴みかけますが、いきなり換気ダクトからの発砲がはじまりました。

指揮権を託されたはずのセイビアンは驚き中止を命じましたが、止まりません。この銃撃戦でキーマンのニーバウムが狙撃されてしまいます。

セイビアンはダニーの言動や自身の意向を無視して、強硬手段に出る東分署の姿勢から、彼の無実を確信し始めます。
「信じられない。皆で彼を殺したがっている。仲間と呼んでいたのに、なぜ殺す?何かあるとしか思えん」

ダニーは汚職に関する決定的な証拠がニーバウムの家にあることを掴みます。そして、セイビアンにそれを伝え、彼に自分や人質を助けるように協力を求めました。

警官に変装してビルを徒歩で抜け出したダニーは、セイビアンの車で包囲網を突破し、ニーバウムの自宅へと向かいます。

そこに現れたのは横領の黒幕フロストでした。
フロストは逮捕され、ダニーの潔白は証明されます。

キャスト

ダニー・ローマン

シカゴ警察東地区で抜群の腕を持つ人質事件の交渉人。殺人及び横領の罪を着せられた人質交渉人が無実を訴えるべく人質犯として立て籠もります。

(演)サミュエル・L・ジャクソン
1948年ワシントン特別行政区出身。70年代にモーガン・フリーマンらとニグロ・エッセンブル・カンパニーに参加、舞台人としてキャリアをスタートさせます。

以後20年近くに渡って映画には主にエキストラとして出演、ノン・クレジットを含めて100本近い作品に出演したと言われています。

88年の「スクール・デイズ」以降、スパイク・リー作品の常連となり、91年、「ジャングル・フィーバー」でカンヌ映画祭助演賞を受賞。

「ジュラシック・パーク」を経て94年、「パルプ・フィクション」で一気に注目され、「ダイ・ハード3」でその地位を確立させました。

クリス・セイビアン

西地区の交渉人で、粘り強く犯人と交渉し、一度も武力解決に持ち込んだことがないという敏腕交渉人。ダニーが窓口役として逆指名します。

(演)ケヴィン・スペイシー
1959年ニュージャージー生まれ。映画デビューは86年の「心みだれて」。注目を集めたのは95年の「セブン」からで、同年の「ユージュアル・サスペクツ」でアカデミー賞助演男優賞を受賞。

その後は「L.A.コンフィデンシャル」、「交渉人」に出演。99年の「アメリカン・ビューティー」ではアカデミー主演賞を受賞しました。

女優のメア・ウィニンガム、俳優のヴァル・キルマーとは高校時代の同級生です。

アダム・ベック

SWAT隊長。ローマンと交渉中のセイビアンに無断で警官を突入させます。怒るセイビアンに「突入のチャンスだった」「あんたにこの指揮権はない」と言い返します。

(演)デヴィッド・モース
1970年代初めからBoston Repertory Theatreで舞台に立つ。1980年代にはニューヨークに移り、オフ・ブロードウェイの舞台で活躍します。

1980年に映画「サンフランシスコ物語」にてデビューしますが端役ばかりが続き、TV、舞台での活動が中心でした。

グラント・フロスト

ダニーと長年の付き合いがあるベテラン警官。この事件の黒幕です。セイビアンの策にはまり自殺を図りますが、ベックにくい止められ手錠をかけられます。

(演)ロン・リフキン
幅広く活躍し、テレビでは「エイリアス」、「ブラザーズ&シスターズ」に出演しています。また、「LAW & ORDER」、「ER緊急救命室」、「セックス・アンド・ザ・シティ」などにも顔を出しています。

舞台では1998年にはリバイバル版の「キャバレー」でトニー賞を受賞しています。

アル・トラヴィス署長

セイビアンに「彼は交渉人に私を選んだ。でも、お気に召さないなら今すぐ降ろさせてもらいます。FBIに譲りますか?」と問いつめられ、彼に指揮権を渡すことを決めます。

交渉人署長

(演)ジョン・スペンサー
1983年に「ウォー・ゲーム」で映画デビューした後、松田優作の遺作となった「ブラック・レイン」を始め、「シー・オブ・ラブ」などに出演。

「ザ・ロック』、「コップランド」、「交渉人」などに出演、個性的な性格俳優として、政府高官や警官、軍幹部などのやや堅い役柄を演じています。

テレンス・ニーバウム

内務捜査局員。事件の主犯と見なされ、人質としてダニーに拘束されます。ダニーは厳しく問い詰めますが、知っているのは一部のみで証拠は別の場所にあるとだけ話しました。

(演)J・T・ウォルシュ
1983年には映画デビュー。1987年の「グッドモーニング、ベトナム」で注目を集め、存在感ある脇役としての地位を確立しました。

特に、90年代に入ってからの活躍は目覚ましく、鋭い目つきとふてぶてしい顔立ちから、悪役や政治家や財界人などの権力者の役を数多くこなしました。
残念ながらこの作品が遺作となってしまいました。

 

監督 F・ゲイリー・グレイ

ニューヨーク生まれ、ロサンゼルス育ち。アフリカ系アメリカ人をメインターゲットにしたエンタテインメント放送局BETでキャリアをスタートさせます。

1995年ラッパーのアイス・キューブが脚本・主演を務めた「friday」で映画監督デビューを果たし、その後「SET IT OFF セット・イット・オフ」(96)、「交渉人」といったクライムアクション作でメガホンをとります。

TVシリーズに挑戦した後、カーアクション「ミニミニ大作戦」(03)などの監督を経て、かつてアイス・キューブが所属していたヒップホップグループ「N.W.A.」の伝記映画「ストレイト・アウタ・コンプトン」(15)が大ヒットを記録。

この成功を受け大ヒットカーアクション「ワイルド・スピード」シリーズ第8弾の監督に起用されました。

基 本 情 報

基本情報
監督             F・ゲイリー・グレイ
脚本     ジェームズ・デモナコ ・ ケヴィン・フォックス
製作     デヴィッド・ホッバーマン ・ アーノン・ミルチャン
出演者    サミュエル・L・ジャクソン ・ ケヴィン・スペイシー
音楽     グレーム・レヴェル
撮影     ケヴィン・フォックス ・ ラッセル・カーペンター
編集     クリスチャン・ワグナー製作会社 リージェンシー・エンタープライズ
配給     ワーナー・ブラザース
公開     〔アメリカ〕 1998年7月29日 〔日本〕1999年7月3日
上映時間    139分
製作国    アメリカ合衆国
製作費      $50,000,000
興行収入   〔アメリカ・カナダ〕 $44,547,681

交渉人とは?

FBIの「人質救出プログラム」

人質救出作戦においての犯人との交渉に関する訓練教育を受け、専門的知識・技能を有している警察官を指し、資質や訓練が必要となります。

アメリカでは交渉人及び交渉人チームが組織されている治安機関が多く、人質籠城事件の平和的解決(一切発砲せず、非致死性武器さえも使わずに犯人を投降させ確保し、人質も保護する)に貢献しています。

元々はFBIが始めた「人質救出プログラム」がさきがけとなっており、日本でも2005年から警察大学校にて「人質立てこもり事件説得交渉専科」が行われています。

人質籠城事件の平和的解決を目指す

心理学、行動科学、犯罪学の知識に基づいた話術を用いて、犯人と直接的に交渉を行い、犯人の精神状態や現場の状況についての情報を収集し、事件を平和的に解決するように導くことが任務とされています。

交渉人が心がけなければならないことは、話術を駆使して指揮官と犯人とを仲介し、あたかも第三者が仲裁をしているかのような「演技」を演じることです。

こうして交渉を行いつつ、自身と人質の生命を守るように犯人に働きかけ、投降を促します。
平和的な解決が不可能となった場合は、指揮官の命令により交渉が打ち切られ、SWATなどの人質救出部隊に事件解決を任せざるを得なくなります。

この映画の見どころ

天才VS天才

サミュエル・L・ジャクソン&ケヴィン・スペイシー演技派二人の魅力が満載で、役柄で演じた天才同士ならではの、駆け引きや心理戦が楽しめます。

交渉人2

この天才な2人というところが、この映画の「キモ」です。これが、二流・三流では成立しません。

こういう題材の作品は、邦画、洋画を問わず他にも多数ありますが、ここまでのハイスペックな天才を軸にした作品は多くないと思います。

ダニーはマシンガントークとも言える会話の中で相手の心理や行動を操るタイプで、いざとなれば過激な手段も厭わない行動派・強硬派。

一方セイビアンは冷静沈着で、自身が担当した事件では犯人だろうと犠牲者は出さないとの信条の持ち主で頭脳派・穏健派。

この対極に在りながらも、どちらも訓練を受けた一般警官よりも優れた能力の持ち主であり、その化学反応が興味深いです。

犯人が発する言葉の裏にある、心の真意やホントの意味を読み解き、人質全員を救い出すため、心理戦・頭脳戦が繰り広げられます。ココこそが見どころです。

イケメンがいない?

ダニーの鋭すぎる目力と威圧感、セイビアンのにじみ出る曲者感、ベックの分かりやす過ぎる悪役オーラ。ふてぶてしい顔でダニーに「お前がやったんだ」と繰り返すニーバウム。
ヒロイン枠であるはずのダニーの奥さんまで鋭い眼光。

2時間19分という長い時間を、ほぼほぼこういった濃い面子で埋め尽くしてくれます。
ワンカットでいいからさわやかなイケメンと、目の保養になる美女の場面があってほしかったと思ってしまいます。

しかし、ストーリーはテンポがよく、最後まで飽きさせません。ドンパチして人がいっぱい死ぬことで緊張感を高めるようなありきたりのアクション映画とは一味違います。

また、撮影はシカゴの高層ビルを借り切って行っています。ヘリはバンバン飛ばすし、エキストラや車両の規模もすごいです。CGに頼らない90年代のバブリーな画作りは今観ても迫力満点です。

突入したがるSWATT

前述したとおり、ダニーとセイビアン2人の天才交渉人の駆け引きがこの映画の最大の見どころですが、気になる点がもう1つあります。

SWATTは「どうしてそんなに突入したがるの?」
事態が大きく動くのはSWATが無理やり突入してきたことが原因ですし、セイビアンが指揮権を持つことになった後も強引な突入で銃撃戦になっています。

冒頭のローマンの交渉人としての仕事シーンも、交渉で解決したというよりは、やたらと突入したがるSWATのせいで仕方なくとった措置の結果、無事事件を解決したわけで、要するにローマンの交渉術が披露されたわけではないように思えます。

事あるごとに突入命令を出すベックは完全に悪役だと思っていました。
ベッグの射殺命令を、「俺には撃てません」と拒否して任務を外される狙撃手パラーモにはとても共感しました。

散々ダニーを犯人扱いして撃とうとしていたベックは、真相が判明した途端、ダニーを気遣って「仲間が撃たれたんだぞ」と言うのは、すごい「手のひら返し」です。

セイビアンの交渉術

ダニーがニーバウムのコンピュータの中の秘密ファイルを突き止めた頃、司令所ではセイビアンがFBIに「あと1時間交渉する時間がほしい」と要求します。

そこにダニーから電話がかかってきます。セイビアンはぎりぎりまで電話を取らず、取ったかと思えば「忙しい」と言ってすぐに切ります。「また、かけてくる」とセイビアンが呟くと、また電話がかかってきます。セイビアン今度は何も言わずに電話を切ります。

これにはダニーも驚き、また電話をかけてきました。セイビアンは銃と無線を手に取ると、「そっちに行くと伝えてくれ」と言い、ダニーのところに行きました。

セイビアンが再びダニーに会いに行くと、ダニーは警官フロストを人質に「交渉のやり直しだ。電気を戻してくれ」と要求しました。

交渉人3

セイビアンは銃を抜き「人質を殺せば交渉する?あんまり当てにするなよ。私の後ろではあんたを殺そうと部隊が手ぐすねを引いて待っている。なぜ連中からあんたを守る必要がある?私が仲裁に立つ理由を教えてくれ」と言い返します。

そして、「赤の他人だということを忘れるな。いざとなると何をするか分からんぞ」と警告します。

百戦錬磨のダニーを相手にわざと怒らせるようなセイビアンの行動や言動。ハラハラするシーンです。

「交渉人」レビュー

レビューをいくつかご紹介しましょう。

セイビアンが見事
序盤のダニーの交渉術、犯人は警察内部にいるという設定、真相に近づく者が暗殺されていくという怖さと黒幕の巧妙さ、そのどれもがこの作品に緊張感を生んでいて見ていて飽きない。別の交渉人、クリス・セイビアンはこの作品には不可欠で、彼の冷静な駆け引きと咄嗟の判断こそ真の交渉人だなと思わされた。

 

緊迫感が続く
最後まで緊迫感があり、交渉人の心理攻撃、手法などの頭脳戦がおもしろかった。銃撃戦などの派手なアクションもところどころあり見応えがある。登場人物が多くて謎解きに付いていくのが大変だったのと、謎解きがなかなか進展しない中盤までが減点材料だが、交渉人の演技は素晴らしい。

 

脚本が良い
犯人との頭脳線を繰り広げる交渉人が、無実の罪を着せられ籠城。立場が逆転するサスペンス。サミュエル・L・ジャクソン、ケヴィン・スペイシーの両名俳優が緊迫するやりとりを飽きさせなく見せてくれます。黒幕の姿やエンディングの仕掛けはバレバレですがテンポや、話の展開や推理は飽きなく観られます。警察って何処の国も怖いですね。腐敗はどの国にも平等にあるようです。

 

面白かった
 90年代後半からCG全盛、中身スカスカの娯楽映画ばっかりで、かなり辟易としていたのだが、これは中々面白かった。交渉人としては、少々冷静さに欠けるのでは?と首を捻りつつも、気がつけばどっぷりと入り込んでいた。終盤にかけてはちょっとストーリーが甘くなったが、シナリオ、構成、キャスティングともに及第点以上の出来映え。こういう娯楽映画をもっと作ってほしい。

まとめ

今回は「交渉人」をご紹介しました。

超一流のネゴシエーターどうしの駆け引き、ストーリーのテンポのよさ、そして、敵が誰なのか分からないミステリー。最後までハラハラさせてくれます。

何よりもサミュエル・L・ジャクソンとケヴィン・スペイシー2人の白熱の演技だけでも十分に観る価値のある映画です。

ただ、この作品には否定的な意見も多く見られます。最も多いのが2大俳優によるやりとり、頭脳戦のシーンが少ないこと。

「IQ180の駆け引き」のキャッチコピーを期待した人にとっては少し物足りないかもしれません。やはり、警察の度々の突入劇は不要でした。

もう1つは後半の黒幕を特定する展開です。ダニーとクリスで黒幕にたどり着いたのではなく、黒幕側からの唐突な登場。

しかも、黒幕はダニーとの関わりも薄いフロスト。特に伏線もなく、それまでがスリル満点の面白いストーリーだっただけに、あっけないクライマックスでした。

しかし、それらのマイナスを差し引いても観ないのはもったいなさすぎる傑作です。
地味なタイトルのせいであまり知られていないようですね。

F・ゲイリー・グレイ監督の「交渉人」超オススメです。