今回ご紹介する「HEAT(ヒート)」は、1995年に公開されたアメリカのクライム・アクション映画です。
本作は、アカデミー賞の受賞歴もある超有名俳優アル・パチーノとロバート・デ・ニーロの共演作であり、その2大俳優が敵対する役となって戦う贅沢で完成度の高い作品です。
公開から20年以上も経ち映像は古い印象を受けますが、2人の演技は全く色褪せることがありません。
今回は、そんな「ヒート」を見ていないあなたのために、作品の大まかなあらすじと見どころをご紹介します。
Contents
あらすじ(ネタバレあり)
ニール・マッコーリーは冷徹無比の犯罪組織のボスです。ニールには長年の手下、クリスとチェリトがおり、良好な関係を築いていました。
ある時ニールは手下のクリスとチェリト、新顔のウィングローを率いて、LAのハイウェイで、160万ドルの有価証券を積んだ装甲輸送車を襲いました。
強盗には成功しましたが、新顔のウェイングローが警備員に発砲、射殺したのでニールはやむなく他の警備員も口封じのために殺して逃走します。
現場に急行した市警強盗殺人課の警部ヴィンセント・ハナは事件の担当となり、長年追っているニールのしっぽをつかもうと躍起になりました。
結果、強盗団のメンバーにチェリトがいた証拠を突き止めます。
ニールは失態を犯したウェイングローを殺すのに失敗し、逃げられました。
盗んだ有価証券の持ち主が、悪徳金融業者ヴァン・ザントのものだと知ったニールは、犯罪業界の大物・ネイトの説得を受け、ヴァン・ザントに返そうと決めます。
ザントとニールは取引をしますが、取引現場にザントが送りこんだ暗殺者が現れ、ニールはザントに宣戦布告しました。
その頃着々と捜査を進めるヴィンセントは、チェリトとクリスの顔を割り出し、彼らの家に盗聴器を仕掛けます。
ニールたちは貴金属の貯蔵倉庫を襲撃する計画を立てましたが、盗聴器によって計画が露見し、ヴィンセントたちが待ち受けていました。ニールは気配を察知し、襲撃せず退散します。
警察にマークされたと知ったニールは足を洗おうと言いますが、クリスらは無理だと言いました。そこでニールはヴィンセントたちをおびき出し、刑事の顔を覚えます。
ヴィンセントが手ごわい相手だと悟ったニールは彼を呼び出し、2人はコーヒーショップで対峙しました。
同じ匂いを感じ取った2人に共感めいた不思議な感情が芽生えますが、次に互いが出会う時は、どちらかが死ぬ時だとも分かっていました。
ニールは綿密な計画を立て、銀行襲撃の大仕事を実行に移すことにします。
警報装置も切り、強盗は成功しかけましたが、匿名の密告電話によって駆け付けた警官隊にニールらは包囲されました。
ニールらと警官隊とで壮絶な銃撃戦が展開されます。
チェリトは死に、クリスも重傷、ニールはクリスを抱えて脱出しました。
匿名の電話をかけたのは、ウェイングローを味方につけて情報を得た、悪徳金融業のザントでした。ザントの屋敷に赴いたニールは、ザントを殺して仇を討ちます。
ニールは知り合ってすぐ恋に落ちた女性・イーディと共に高飛びしようとしますが、ウェイングローの潜伏するホテルを知ったニールはそこへ向かい、彼を殺しました。
その頃、ヴィンセントはニールが空港に向かっていると知り、急行します。ニールとヴィンセントは空港の敷地内で銃撃戦となり、ニールはヴィンセントの銃によって倒れます。
薄れゆく意識の中ニールは「刑務所には入らないと言っただろう」と呟き手を伸ばし、ヴィンセントはその手を握りしめます。
キャスト
ヴィンセント・ハナ(アル・パチーノ)
ニール・マッコーリー率いる強盗団を追うLA市警察の警部補。
リーダー格のニールに注目し、執拗に追及していきます。ヴィンセントの仕事への執念は異常で、その家庭生活は破綻寸前のところまで迫っています。
三人目の妻であるジャスティンは薬物依存、連れ子のローレンは情緒不安定な状態です。
ニールが空港に向かっているとの情報を得ると空港に急行し、空港敷地内で銃撃戦となります。
演:アル・パチーノ
68年「ナタリーの朝」で映画デビュー。72年「ゴッドファーザー」のマイケル役でアカデミー助演男優賞にノミネートされます。
以後は73年「セルピコ」で主演賞、74年「ゴッドファーザーPARTⅡ」で主演賞、75年「狼たちの午後」で主演賞と、4年連続ノミネート。
一時期舞台を中心に活躍した後、「シー・オブ・ラブ」でスクリーンに復帰。
以後、90年「ディック・トレイシー」で助演賞にノミネートされた後に、92年「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」で遂に念願のアカデミー主演男優賞を受賞しました。
ニール・マッコーリー(ロバート・デ・ニーロ)
大胆で緻密な手口で大きなヤマばかりを狙う冷徹なプロの犯罪者で、いかなる状況でも高飛びできるようにするため、私生活の全てを封印しています。
そんな彼の元に現れたイーディという若い女性に恋に落ち、彼女と共にニュージーランドへ移住することを決意します。
ラストビジメスのはずの銀行襲撃が密告によってロス市警に知られ、ヴィンセントに追い詰められます。
演:ロバート・デ・ニーロ
コッポラの「ゴッドファーザーPARTⅡ」で若き日のコルレオーネ役を演じアカデミー助演男優賞を受賞。
そして「タクシードライバー」で当時の映画ファンに強烈な衝撃を与えます。
この辺りから本格的に名前が知られるようになり、その後は「レイジング・ブル」でアカデミー主演男優賞受賞、他ノミネートは4回に各映画賞受賞と燦々たる評価を集めています。
役に成りきるため体重を30ポンドも増やしたり 、頭髪を抜いたりと演技に対しかたくなに執着することでも有名で、その姿勢は“デ・ニーロ・アプローチ”といわれました。
クリス・シヘリス(ヴァル・キルマー)
ニールを支える犯罪グループのNO.2的な存在です。血気盛んな性格ですが、妻と子を最も大切にしています。
ロサンゼルスの銃撃戦では左肩を撃ち砕かれますが、命からがらその場を逃げ切ります。
裏切ったはずの妻シャーリーンが警察に見えないところで、クリスに合図を送り彼を逃がします。ニールの仲間で唯一生き残りました。
演:ヴァル・キルマー
17歳で名門ニューヨークのジュリアードに最年少者として入学、ギリシャ悲劇の舞台などに立ちます。
84年「トップ・シークレット」で映画デビュー。86年の「トップガン」ではクールな若手パイロットで注目を浴びるようになります。
91年、「ドアーズ」でロック界のカリスマ、ジム・モリソンを演じて大きく飛躍。
「ヒート」ではアル・パチーノとデ・ニーロの競演の中、しっかりとその個性を見せています。
ジャスティン・ハナ(ダイアン・ヴェノーラ)
再婚したジャスティンの妻です。仕事一筋のヴィンセントに不満が募っていて、夫婦仲には大きな溝ができています。
彼に仕事の話をさせて苦労を吐き出させようとしますが、ヴィンセントはそれを拒みます。彼は、その孤独な思いが仕事に緊張感を出すといい、ジャスティンは理解させてくれない夫を嘆きます。
演:ダイアン・ヴェノーラ
ニューヨーク・シェイクスピア・フェスティヴァルの「真夏の夜の夢」で女性として初のハムレット役を演じて注目されます。
81年「ウルフェン」で映画デビュー。以降も舞台を中心に活動しながらも、84年の「コットンクラブ」では大女優グロリア・スワンソンを、88年の「バード」ではチャーリー・パーカーの妻を演じて高い評価を得ました。
90年後半からは映画にも積極的に出演しています。
イーディ(エイミー・ブレネマン)
普段は書店で働いています。「店で姿を見かけた」と、カフェで本を読むニールに声を掛けます。
自分はセールスマンだとか適当に名乗り、二人はすぐに打ち解けました。
徐々にイーディに本気になっていくニールは2人でどこか別な場所で暮らそうと言い出します。
演:エイミー・ブレネマン
NYの演劇学校に通い、オフ・ブロードウェイの舞台を経験。
TVシリーズ「NYPDブルー」ではエミー賞にノミネートされたこともあります。映画デビューは95年の「バイバイ・ラブ」です。
「ヒート」ではデ・ニーロが唯一心を許そうとする恋人役に選ばれ注目を浴びました。
「デイライト」ではスタローンとも共演しています。
基本情報
映画史に残る銃撃戦
「ヒート」といえば白昼の大都会での銃撃戦。
この仕事を最後に足を洗うと決め、どうしても銀行襲撃の大きなヤマを踏みたいニール。
襲撃手段は意表をついて「白昼堂々正面から押し入る」というもの。
重そうな現金を背負ってマイケルが車に乗り、ニールが乗り「うまくいった」とクリスが微笑みかけた瞬間。銃撃戦は幕を開けます。
当時は公開前から「市街地でとんでもない銃撃戦を撮影した」と話題になっていました。
撮影に入る前に監督のマイケル・マンは役者たちに実弾による射撃訓練を受けさせています。(この訓練の模様はDVDの特典映像等で確認できます)
また、彼はリアリティを追求する為、劇中で使用されている銃撃音は全て実際の音を収録し使用しています。
日本に住んでいる限り、本物の銃声を聞くことはありませんが、明らかに他の映画とは違う銃声に驚かされます。
デ・ニーロとアル・パチーノがロサンゼルスの市街で10分以上も銃撃戦をすれば、それだけで傑作映画が確定される気がしますが、脚本はこの銃撃戦がゴールとしてあったのではないかと思えるほどの臨場感です。
気がつけば、「自分もロサンゼルスにいるのでは?」と思ってしまうほど、引き込まれてしまう銃撃戦。間違いなく映画史に残る名シーンです。
アル・パチーノ&ロバート・デ・ニーロ 夢の共演
『ゴッドファーザー PART II』以来初のアル・パチーノとロバート・デ・ニーロの共演作品です。
(『ゴッドファーザーPARTII』では、2人が同時に登場する場面がないため、厳密に言えば本作が2人の史上初の共演作であるということも出来ます)
夢の共演を果たしたデ・ニーロ、アル・パチーノとの会話シーンですが、同じシーンに2人が同時に映るシーンが全くないため、当初、2人は本当は共演してないのでは?という憶測が飛び交いました。
実は2人は仲が悪く、撮影現場で顔を合わせないよう別々に演技を撮影し、編集によって、さも会話をしているように見せたのではないか?映画ファンの間ではそんな都市伝説めいた噂がまことしやかに囁かれました。
しかし、2人は実際に向かい合って会話をしています。会話シーンは緊張感を生み出すためリハーサルなしで本番に臨んだそうです。
2人の演技はアドリブの連続となり、テイクごとにセリフや表情が微妙に異なってきました。監督のマイケル・マンは納得のいく演技が撮れるまで何度も本番を重ね、テイクは11回に及んだそうです。
モデルとなった犯罪者と刑事の奇妙な関係
アル・パチーノが演じた刑事とデ・ニーロが扮した犯罪者には明確なモデルがいます。
60年代にシカゴを荒らしまわった犯罪者ニール・マッコーリーと彼を追い続け、最後には射殺することになった刑事のチャック・アダムソンです。
監督のマイケル・マンは元刑事のアダムソンにマッコーリーとの対決を詳細に取材しています。すると、そこには単なる刑事と犯罪者を越える関係性が浮かび上がってきたのです。
武装強盗など、あらゆる犯罪に手を染めるマッコーリー。アダムソンは彼を追い続けるうち頭の回転が速く、独自の掟で自らを律するマッコーリーに尊敬の念を抱くようになったといいます。
マイケル・マンは言います「二人はコインの裏と表のような関係だった。似たもの同士なんだ」
犯罪者と刑事は正反対の価値観や人格を備えているかに思えますが、2人には「自分の仕事に取りつかれている」という大きな共通点がありました。
「仕事」のためなら家庭や恋人も顧みず突き進む。妄執にとらわれ、破滅へと向かう2人の男。彼らはいつしか避けようのない運命的な対決へと導かれる。これこそ「ヒート」の根底を支えるモチーフといえます。
作品の評価
批評家からは好意的な評価を得ています。
Rotten Tomatoesによれば、批評家の一致した見解は「アル・パチーノとロバート・デ・ニーロがスクリーン上で一緒にいる時間はわずかしかない。
しかし、「ヒートはそのスターたちから説得力のある演技を引き出し、そして、マイケル・マンのこのジャンルでの熟練ぶりを再確認させてくれる魅力的な犯罪ドラマである」というものです。
83件の評論のうち高評価は87%にあたる72件で、平均点は10点満点中7.8点となっています。
Metacriticによれば、22件の評論のうち、高評価は15件、賛否混在は6件、低評価は1件で、平均点は100点満点中76点となっています。
また、allcinemaはオリジナルの「メイド・イン・L.A.」と比較して「全く同じダイアローグ、カット割り、シークエンスだらけなのは構わないが、何故、ほぼ倍の尺になったのかが不明」と批評。
しかし、「売りの12分(実質は半分の6分)の銃撃戦は音響も含めて迫力満点で、この部分だけは他のシーンと比較して数倍のヴァージョンアップになっている。」と評価しています。
レビュー
市街地での銃撃戦が本当に凄すぎて圧倒されました。最後車に残されたイーディがもう可哀想すぎて、叫んでしまいました。
最後はヴィンセントがニールを射殺でしたが、息を呑むようなシーンでした。ヴィンセントが警察なのにニールくらい悪役みたいで面白かったです。もはやどっちが悪者なのか。
監督もみんなそれが分かっているから、なかなか2人は出会わない。出会いそうで出会わない。そして、中盤でやっと会う。2人の信念をぶつけ合うシーンはキャラなのか本人なのかもはや分からないくらいドキドキする。
「男の美学は女には分からない」という作りは昔にしかない無骨さがあって、格好良いけどもっと利口な生き方なくないですか?と思ってしまう。2人とも最後は大切な物を置いて決着をつけに行く演出がどちらが死ぬのか?最後まで分からなくて面白かった。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は「ヒート」のご紹介でした。
この映画は「仕事」に取り憑かれたプロフェショナルな2人の男の物語です。
1人は強盗団のリーダーニール・マッコリー(ロバート・デ・ニーロ)、そして、もう1人は、そのニールを追うロサンゼルス市警の警部補ヴィンセント・ハナ。(アル・パチーノ)
強盗と刑事という敵対する関係の2人ですが、2人共に順風満帆とはいえない苦さを感じさせる人生を歩んでおり、落ち着いた演技と淡々と進行する物語が渋みのある映像を作り出しており、観ていてグッとくるものがあります。
この映画のクライマックスの1つでもある2人がコーヒーショップで話しをする場面。
ニールはヴィンセントに言います「ある男がこう言った。30秒で高飛びできるよう面倒な関わりは持つな」そして、「それを地でいくヤツを捕まえようとするヤツが結婚なんかするのが間違っている」と。
その言葉どおり、何よりも仕事を最優先にするヴィンセントは、何度も離婚を繰り返し、今も家庭内に多くの問題を抱えていました。
仕事に生きるプロフェッショナルという点で、2人は同じ種類の人間でした。
お互いを認め合う2人でしたが、どちらも「次に会ったときは躊躇なく殺す」と言って別れます。
そして、一度見たらまず忘れられない終盤の銃撃シーン。10分以上に渡って繰り広げられる応酬は余計な音楽などはほとんど挟まず、非常にリアルな緊張感に満ちています。
この場面を観るだけでも、観てよかったと思える映画史に残る名シーンです。
「ヒート」。仕事に生きるプロフェッショナルな男の映画です。
かなり前の作品ですが名優2人の演技には圧倒されますよ。
監督・脚本 マイケル・マン
製作 マイケル・マン アート・リンソン
製作総指揮 アーノン・ミルチャン ピーター・ジャン・ブルージ
出演者 アル・パチーノ ロバート・デ・ニーロ
音楽 エリオット・ゴールデンサール
撮影 ダンテ・スピノッティ
編集 ドヴ・ホウニグ パスクァーレ・ブバ(英語版)
製作会社 リージェンシー・エンタープライズ
配給 〔アメリカ〕 ワーナー・ブラザース 〔日本〕日本ヘラルド
映画公開 〔アメリカ〕 1995年12月15日 〔日本〕 1996年5月25日
上映時間 171分
製作国 アメリカ合衆国
言語 英語 スペイン語
製作費 $60,000,000
興行収入 $187,436,818