伝説の麻薬運び屋は90歳の老人だった!巨匠クリント・イーストウッドが実話をもとに演じる「運び屋」

伝説の麻薬運び屋は90歳の老人だった!巨匠クリント・イーストウッドが実話をもとに演じる「運び屋」

今回は少し最近の映画をご紹介します。
巨匠クリント・イーストウッドが監督・主演を務めた2018年のアメリカ映画「運び屋」です。

これは、87歳の老人がひとりで大量のコカインを運んでいたという実際の報道記事をもとに、長年にわたり麻薬の運び屋をしていた孤独な老人の姿を描いたドラマです。

数々の名作を世に送り出し、自身も俳優として輝かしい活躍をしてきたクリント・イーストウッドの今をみることができる作品です。

今回も映画「運び屋」のネタバレ、見どころ、感想などを書いていきます。

あらすじ(ネタバレあり)

長年花を育て来たアールはいつものように花のコンテストで賞を貰います。
同じ頃、娘のアイリスはどこかで結婚式を挙げていました。

孫娘のジニーは結婚式にアールが来る事を期待していましたが、アールの前妻メアリーは彼がいつもの様に皆を落胆させるに違いないと思っていました。

数日後、アイリスの結婚式に出席しなかったアールがジニーの誕生日に姿を現しますが、アイリスには無視され、メアリーには彼が誕生日を祝いに来たのではなく住む場所に困っているからだろうと呆れられます。

誕生日パーティーに来ていたジニーの友人が生活に困っているアールを見ると名刺を渡し、ドライバーを探している知り合いがいると仕事を紹介してくれます。

金に困っているのなら、町から町へ走るだけで金になる仕事があるとアールに告げます。
テキサス州エルパソのタイヤ屋を訪ねたアール。そこには銃を手にした屈強そうな男たちがいました。
携帯電話を渡されあるホテルまで荷物を載せて運び、その場に車とキーを置いて1時間後に戻れと言われます。

荷物は絶対に開けるなと言われますが、アールには最初からそんなつもりはありません。

アールはテキサス州からイリノイ州へと入り、目的地のホテルの駐車場に車を停めます。
1時間後にトラックに戻ってみるとグローブボックスに大金が入っていました。

運び屋 現金

そこに男が現れまた仕事がしたくなったら連絡しろとメモを渡されます。

大金を得たアールはジニーの結婚式後のパーティーの金を払うことができました。
アールはメアリーと昔のようになれないかと話しかけましたが、彼女の心はすっかり閉じてしまっています。

家族がバラバラになってしまったのは、アールが仕事に夢中になってしまったためでした。アールは美しいが難しい花で時間もお金もかかるものなのだといいますが、メアリーは「家族だって同じ。あなたは家族よりも花を選んだ」と彼に言います。

麻薬取締局では新しい捜査員コリン・ベイツを採用し麻薬組織メンバーの逮捕を計画していました。

アールはトラックの運転で得た金で新しい黒いトラックを買い、差し押さえられていた自宅も取り戻します。

再びトラックの運転をするアールはバッグの中身が麻薬であることに気づきますが、そのまま仕事を続行します。

90歳とは思えないその仕事ぶりは雇い主であるメキシコの麻薬組織カルテルのボス、ラトンに一番使える運び屋として“エル・タタ”と言うあだ名で呼ばれます。

順調にトラックの運転で大金を稼いだアールはジニーの学費を負担し、彼女の卒業式にも出席します。

それでもアイリスはアールと距離を置きますが、メアリーは彼の変化に少しずつ許す気持ちを持ちはじめます。

麻薬取締局では、ずば抜けて大きな仕事をしている運び屋エル・タタの存在を知り、その正体を暴くため捜査を続けます。

彼らがエル・タタについて持っている情報は、彼が他の運び屋より多く麻薬を運んでいる事、黒いトラックを持っている事のみでした。

ある日、アールがいつものように運び屋の仕事で移動していると、休憩で立ち寄ったカフェでエル・タタを捜査中のベイツ捜査官と出会ってしまいます。

お互いの正体を知らない2人でしたが、アールは仕事で忙しくして妻との記念日を忘れたというベイツ捜査官に、自分みたいに仕事優先で生きて家族をないがしろにするなとアドバイスをします。

ラトンはアールの仕事ぶりに感謝し、彼をメキシコに招待すると盛大なパーティーを開きます。しかしそのすぐ後、ラトンへの反抗心を大きくしていった手下達がラトンを殺害し、カルテルは新しいボスになります。

仕事に戻り車を運転していたアールに、ジニーから電話が入りました。メアリーが数日持つかどうかわからないというのです。

アールはルールを破り自宅に戻ります。メアリーは「ここに来てくれたことが嬉しい」という言葉を残し亡くなってしまいました。

1200万ドルのコカインを車に積んだまま1週間以上も連絡を途絶えているアールに、組織は怒りハイウェイ中を探しています。

メアリーの葬式後、仕事に戻ったアールを組織は殺そうとしますが、ブツを運ばせることにしました。

その時、ベイツにタタ発見の情報が入り位置を特定します。組員に殴られ血だらけのアールを警察車両が取り囲みます。

両手を上げアールが車から降りてきました。

「妻が死ぬ間際に一緒に過ごせたおかげで家族に受け入れられた」とアールが言うと、「家族との関係を正した」とベイツは答えます。
そして、手錠をかけられ後部座席に座るアールを見送りました。

裁判で「麻薬組織の悪党たちがアールの人の良さと高齢であることを利用した」と訴える弁護士を制し、アールは「罪を犯した有罪です」と答えます。

すべての罪状で有罪だと認めたアールは、その場で手錠をかけられアイリスとジニーに「時間がすべて。何でも買えるのに時間だけは買えなかった」と言い連邦刑務所に戻されました。

刑務所では花を育てているアールがいます。
それは、とても穏やかでゆったりで楽しんでいるようでありました。

キャスト

アール・ストーン(クリント・イーストウッド)

デイリリーの農園を営む老人。若い時は全米を車で移動する運送業をしていました。

デイリリーの栽培に時間と金をつぎ込み、家族はほったらかし。特に、アイリスからは結婚式をすっぽかしたことで口すら聞いてもらえなくなっています。

デイリリーを育てる腕は一流で賞を受賞した経験があります。運転技術も高く、今まで違反切符は一度も切られたことがありません。

演:クリント・イーストウッド
71年の「ダーティハリー」のハリー・キャラハン役でマネー・メイキング・スターのトップに躍り出ます。

また、役者のみならず監督としても高い評価を受け、「許されざる者」で念願のアカデミー作品・監督賞を受賞。その後も多くの作品でオスカーを受賞しており、名実ともにハリウッドを代表する巨匠です。

リン・ベイツ(ブラッドリー・クーパー)

DEA麻薬取締局にやってきた凄腕捜査官です。
優秀な成績からイリノイ州での麻薬密輸を早急に解決してほしいと期待されています。

しかし、アール同様仕事に熱中するあまり、家族を最優先してこなかったことを悔やんでいますアールから「俺みたいになるんじゃないぞ」という言葉をかけられます。

運び屋尋問

演:ブラッドリー・クーパー
「SEX AND THE CITY」のゲスト出演で本格的に俳優デビュー。TVを中心にキャリアを重ね、主人公に抜擢された「キッチン・コンフィデンシャル」などでその名を知られることとなります。

その後、映画でも次々と話題作にキャスティングされ、賞レースも賑わせた大穴ヒット・コメディ「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」で大ブレイクを果たします。

遅咲きながら、その後もオールスター競演の「バレンタインデー」やリーアム・ニーソン共演の「特攻野郎Aチーム THE MOVIE」など注目作品が目白押しで、一躍人気俳優のひとりとなりました。

主任特別捜査官(ローレンス・フィッシュバーン)

DEAの主任特別捜査官。コリンとトレビノの上司です。

演:ローレンス・フィッシュバーン
18歳の時、フランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』に出演。
1988年、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の『レッドブル』で共演して広く知られるようになります。

『TINA ティナ』ではアカデミー主演男優賞候補になり、『マトリックス』三部作でのモーフィアス役で有名となり、ハリウッド俳優としての確固たる地位を築きました。

メアリー(ダイアン・ウィースト)

アールの元妻。今でもアールのことを愛していますが、さんざん裏切られてきたため素直になることができません。病魔に侵されており、余命いくばくもない状態です。

演:ダイアン・ウィースト
ブロードウェイやオフ・ブロードウェイで活動後、1980年に映画デビュー。

ウディ・アレン作品映画のうち1986年の『ハンナとその姉妹』と1994年の『ブロードウェイと銃弾』で、アカデミー助演女優賞を2回受賞しています。

アイリス(アリソン・イーストウッド)

アールの娘です。娘の結婚式よりも仕事を優先するなど、家族をないがしろにしてきたアールを許せておらず、12年以上口も聞かない関係です。

演:アリソン・イーストウッド
父はクリント・イーストウッド。父が主演した映画「ブロンコ・ビリー」で映画初出演を果たします。

本格デビューは同じく父が主演した「タイトロープ」。数本の映画で父子共演しています。カリフォルニア大学で演劇を学び、パリやアメリカでモデルとしても活躍しました。

ラトン(アンディ・ガルシア)

麻薬組織のボス。運び屋としてのアールを高く評価しています。

演:アンディ・ガルシア
86年、「800万の死にざま」で注目され、翌年「アンタッチャブル」のストーン役で一躍スターの仲間入り果たします。

その後「ブラック・レイン」を経て、90年「ゴッドファーザーPARTⅢ」でアカデミー助演賞にノミネート。以降、出演作で深い印象を残し活躍を続けています。

基本情報

基本情報

監督         クリント・イーストウッド
脚本         ニック・シェンク
原案         サム・ドルニック『The Sinaloa Cartel’s 90-Year-Old Drug Mule』

製作         クリント・イーストウッド ティム・ムーア クリスティーナ・リベラ

製作総指揮      アーロン・L・ギルバート

出演者        クリント・イーストウッド ブラッドリー・クーパー アンディ・ガルシア

音楽         アルトゥロ・サンドバル
撮影         イブ・ベランジェ
編集         ジョエル・コックス

製作会社       インペラティブ・エンターテイメント BRONクリエイティブ マルパソ
配給         ワーナー・ブラザース
公開         〔アメリカ〕2018年12月14日 〔日本〕2019年3月8日
上映時間        116分
製作国        アメリカ合衆国
言語         英語 スペイン語
製作費        $50,000,000
興行収入       $164,004,407 〔日本〕 8億3000万円

巨匠 クリント・イーストウッド

スター俳優の気まぐれ

2021年に91歳となるクリント・イーストウッドは、これまでに監督として38本の長編劇映画を発表しています。

イーストウッドの60年以上におよぶ映画人生には、ターニングポイントとなった出来事がいくつもありますが、やはり最大の転機は1971年です。

ロサンゼルス市警の荒くれ刑事ハリー・キャラハンを演じた「ダーティハリー」が大ヒット。アメリカにおけるアクション・スターの地位を確立しました。

さらに、同年「ダーティハリー」に先んじて、監督デビュー作「恐怖のメロディ」を発表。興行と批評の両面で成功を収めました。

多くの映画業界人やマスコミは、これをスター俳優の気まぐれと評しましたが、当時すでに自らの制作会社マルパソ・プロダクションを設立し、監督業進出の機会をうかがっていたイーストウッドは、その後もコンスタントにメガホンを執ります。

万事が順調ではなく、いわれなき酷評を受けることもありましたが、「アウトロー」「ペイルライダー」などで並々ならぬ実力を証明。

1992年の「許されざる者」アカデミー賞の作品賞、監督賞を受賞し、16本目の監督作にして名実共にハリウッドの頂点に立ちます。

彼は自分がやりたい企画だけを撮り続けています。世間の流行やマーケティング調査には目もくれず、「向いてないのではないか」といった他人の助言にも耳を貸さないそうです。

むしろ他の誰も目にとめないようなテーマや地味で小さなストーリーに興味を持ち、その原作や脚本に語る価値があると思えば、自分の直感に従ってゴーサインを出す。

“直感”はイーストウッドがインタビューで映画作りの姿勢などを問われた際に、繰り返し発してきたキーワードです。

また、多くのハリウッド・スターは名声を得ると、自分のイメージに「縛られる」ものですが、イーストウッドの場合はむしろ監督としてのキャリアを重ねるごとに、どんどん自由になっている印象を受けます。

運び屋再会

「人間を描く」ことへのこだわり

「アメリカン・スナイパー」「ハドソン川の奇跡」「パリ行き、15時17分」「リチャード・ジュエル」など、イーストウッドの作品には実話ものが多いのも特徴的です。

映画作りにおけるイーストウッドの関心はつくづく“人間を描く”ことにあるのだと再認識させられます。

そのほかにも、一途なまでに純粋に夢やロマンを追い求める男「ブロンコ・ビリー」「センチメンタル・アドベンチャー」、愛や疑似家族との関係に揺らめく男の「マディソン郡の橋」「ミリオンダラー・ベイビー」

そして、はるか年下の若い世代に人生訓を示す昔気質の男を描く今回の「運び屋」

これら強烈な印象を残す主人公たちは皆、克服できない欠陥を抱えており、イーストウッドはそうした人間のネガティヴな面を積極的かつ赤裸々に描いていきます。

俳優の扱い方や心理を熟知しているうえに、カリスマ性に富んだ自分の顔やたたずまいの見せ方をも心得たスター監督の強みなのでしょう。

87歳の運び屋「レオ・シャープ」とは?

レオ・シャープとは?

2014年『ニューヨーク・タイムズ』にサム・ドルニックの記事「The Sinaloa Cartel’s 90-Year-Old Drug Mule」が掲載されました。

この記事によると、園芸家のレオ・シャープは長期にわたってシナロア・カルテルの麻薬の運び屋を秘密裏に務めていたというのです。

当時、シナロア・カルテルの麻薬がたった一人の“運び屋”の手によって、メキシコからデトロイトへ大量に運び込まれているという事実を知った麻薬取締局は、必死の捜査の末、その“運び屋”をついに追い詰めることに成功しました。

しかし、車から姿を現したのは超がつくほど高齢の老人。2011年に逮捕されたのですが、このときレオ・シャープは87歳。逮捕歴もなくごくごく普通のどこにでもいる老人でした。

映画「運び屋」は、このレオ・シャープの物語をベースに作られています。

そんなレオ・シャープは、映画「運び屋」が全米公開される2年前の2016年12月12日92歳でその数奇な生涯の幕を閉じました。

なおその死後、レオ・シャープは国立太平洋記念墓地へと埋葬されたとのことです。

もしも、レオ・シャープがまだ生きていて、映画「運び屋」を鑑賞していたとしたら、
いったい、どんなことを思ったのでしょう。

「運び屋」の見どころ

やり直せる場所

主人公アールは、自分の家庭や娘の結婚式よりも仕事で熱中している“デイリリー”栽培を最優先させるほど、自分勝手な男として登場します。

人生の終盤を迎えたとはいえ、花の品評会には洒落た服装で出かけるほど社交的な彼は、常に自分が一番輝ける場所にいることを好む人生を送ってきた様に見えます。

しかし、時代の流れには逆らえず、ネット通販に押されて自身の栽培所を手放し途方に暮れたアールは、勇気をもって孫娘のパーティーを訪ねますが、疎遠だった妻と娘に冷たく扱われてしまいます。

ただ、このパーティーで偶然話しかけてきた男が持ちかけたある仕事によって、アールは90歳という年齢になって全く新しい世界へと足を踏み入れることになります。

最初は運ぶ荷物の中身や、仕事の報酬がこれほど高額とは知らなかったとはいえ、結果的に麻薬の運び屋という犯罪行為に手を染めてしまったアールは、自分よりも遥かに年下のギャングから指示を受け仕事を続けます。

アールが運び屋の仕事を続けたのは、そこが孤独な彼にとっての居場所であっただけでなく、またやり直せる唯一の手段であると思わせたからでしょう。

運び屋クリント

失われてきた家族愛

父親とそれ以外という家族関係が冷え切っていた中、麻薬の運び屋という仕事を通じて、次第に関係性を修復していきます。

これまで家族を蔑ろにして、仕事を優先してきたアールですが、物語が進んでいくにつれて家族と過ごす時間の重要性を認識していきます。

それが決定的となったのは元妻メアリーの病気でした。
寝たきりの状態になっているメアリーと対峙する中で、アールは自身の過ちについて深く反省をしていきます。

いくら仕事でお金を得ても時間を取り戻すことはできず、アール自身がが失ってきたものの重要性に気づくのです。この家族愛という部分はこの映画の中心として見て欲しいテーマです。

メアリーの病気を前にして、彼が長年失われてきた家族愛に気づくシーンは注目です。

まとめ

いかがでしたか?今回はクリント・イーストウッドの「運び屋」をご紹介しました。

人生のすべてを仕事に捧げ、家族に見放された男が、懸命に罪滅ぼしをして元妻や娘との絆を取り戻そうと「運び屋」を続けるストーリーです。

実話ベースで深刻な問題をテーマにしているため、重い内容を想像しがちですが、明るくてテンポもよく、見応えのある作品です。

そして、私がこの作品を観て感じたのは、アールという「麻薬の運び屋」を絶対的な悪者として描いていないという点です。

一般社会では当然、麻薬に携わる人間は悪で、麻薬捜査を行なっている警官たちは正義として見なされています。

もともとアールは園芸家として生計を立てていました。しかし、彼の仕事はインターネットという巨大な新しい産業によって奪われてしまいました。

その中でお金を得るために運び屋をはじめるのですが、アールは本当に悪人なのか?という疑問が浮かび上がってきます。

時代が進んでいく中での技術革新は、今後も起きてくるでしょう。社会全体としてはプラスなのかもしれませんが、ミクロの部分では被害を被っている人たちも大勢いるわけです。

アールを必ずしも悪人として描かれていない部分に、時代に対する批判的な視点があったのではないかと想像してしまします。

大きな犯罪を犯しているにも関わらず、カーステレオから流れるカントリーミュージックに乗せて荒野を車で走るアールはとてもかっこよく、どこかのどかな印象を抱いてしまいます。

これもやはり、主人公でもあるクリント・イーストウッド演じるキャラクターの魅力といえるのではないでしょうか。