超大作「ベン・ハー」は半世紀以上の時を経てどう変わったのか?「ベン・ハー(2016)」

超大作「ベン・ハー」は半世紀以上の時を経てどう変わったのか?「ベン・ハー(2016)」

今回は映画史に残る名作「ベン・ハー」のリメイク版「ベン・ハー(2016)」のご紹介です。
この映画はルー・ウォーレスの1880年の小説『ベン・ハー』を原作としています。

1907年のサイレント映画(英語版)、1925年のサイレント映画、そして、興行的にも大成功をおさめた1959年の映画、2003年のアニメ映画に続いて5度目の映画化で、小説の「再翻案」、「再想像」、「新解釈」などと表現されています。

アカデミー賞11部門を受賞した超大作1959年版「ベン・ハー」は、半世紀以上の時を経て、どのように変わったのでしょうか?

あらすじ(ネタバレあり)

ユダヤ人の貴族で、ユダヤ教あるユダ・ベン・ハーと、ローマ人で多神教のメッサラ。

2人はお互い宗教、身分が異なりながらも、幼馴染として、兄弟のような絆で結ばれていました。
メッサラはベン・ハーの妹のティルザに恋していましたが、ベン・ハーの母であるナオミに異教徒と、身分の違いから疎まれていました。

自分の存在意義を確かめるため、メッサラはイスラエルを発ち、ローマへと向かいます。

数年後、ローマ帝国の軍人としてエルサレムに帰ってきたメッサラは、ローマ軍とエルサレムが良好な関係を築けるようなんとかしたいと模索していました。

しかし、エルサレムの民は、争いばかりを繰り返しているローマ軍に反感を持っており、メッサラはベン・ハーに、エルサレムの民を説得するよう頼みます。

しかし、争いをよしとしないベン・ハーは、メッサラの依頼に疑問を持っていました。

そんな中、ローマ軍に親を殺され、自身も負傷していたゲスタスというユダヤの少年をベン・ハーは匿います。
ゲスタスの行為はベン・ハーによるものだとされ、友人であるメッサラによってベン・ハーは家族と引き離されます。

罪人として連行されている道中、不思議なオーラを持った見知らぬ男が水を1杯、ベン・ハーへ飲ませてくれます。それがイエス・キリストだという事が後に判明します。

その後、船へ乗せられたベン・ハーは漕ぎ手として、奴隷のような扱いを受けながら船上で5年間を過ごします。

ベンハー船

ある日大きな転機が訪れます。ベン・ハーの乗っていた船が転覆し、彼は海へと投げ出されたのです。ベン・ハーは九死に一生を得、なんとか浜辺までたどり着き、アラブの族長のイルデリムに助けられます。

体力が回復したベン・ハーは暴力の是非など忘れ、自分を陥れたメッサラ暗殺を試みますが失敗に終わります。

また、母と妹が施設に隠されている事を知り、会いに行きますが、重い病にかかっていた2人はベン・ハーを近づけようとしません。

それらがきっかけでベン・ハーの事情を知ったイルデリムは、ベン・ハーへ戦車競走への参加を提案します。

「メッサラを殺害することはできたとしても、ベン・ハーは罪人として処罰されるのみ。
しかし、戦車競走はイベント。そこでメッサラを倒したらいい」
それを聞いたベン・ハーは、戦車競走で現在無敗のメッサラに勝利するため特訓を重ねます。

そして、ベン・ハーはとうとうそのチャンスを手にします。何年振りかに故郷に舞い戻ったベン・ハーは、メッサラも出場する戦車競走に参加します。

戦車競走で無敵を誇るメッサラに、ベン・ハーは勝負を挑みます。そして、ベン・ハーは激しい戦いの末勝利を勝ち取ります。

後日、道を歩いていると十字にかけられた男が道を歩いています。よく見ると、彼はベン・ハーが以前罪人として連行されていた際、水をくれた人物、イエス・キリストだったという事が分かります。
その際、キリストに「敵を愛せ、隣人を愛せ」との言葉を受け、ベン・ハーはある事を決意します。

戦車競走で負傷したメッサラに会いに行ったベン・ハーは、メッサラを赦し、またメッサラも悔い改め2人は以前の友情を取り戻します。

また、ベン・ハーの母と妹の病も回復。ベン・ハー、メッサラ、母と妹は、イルデリム一行と共に幸せに暮らします。

キャスト

ジュダ・ベン・ハー(ジャック・ヒューストン)

エルサレムの名家に生まれたベン・ハーは、義兄弟・メッサラの裏切りにより奴隷となります。復讐を誓う彼は、競技場でメッサラと宿命の対決に挑みます。

ベンハー

演:ジャック・ヒューストン
英ロンドン出身で、アメリカ人映画監督ジョン・ヒューストンの孫にあたる。創作系のコースをもつ寄宿学校ハートウッド・ハウスを卒業後、2004年から俳優として活動を開始。

「ファクトリー・ガール」(06)や「アウトランダー」(08)を経て、マーティン・スコセッシが製作総指揮を手がけたTVシリーズ「ボードウォーク・エンパイア」(10〜13)にリチャード・ハロー役でレギュラー出演し、注目を集めます。

13年にはビートニクの詩人たちが巻きこまれた殺人事件の実話を基にした「キル・ユア・ダーリン」で作家ジャック・ケルアックを演じたほか、アカデミー賞候補にもなった話題作「アメリカン・ハッスル」にも出演しています。

歴史大作のリメイク版「ベン・ハー」(16)ではタイトルロールを演じています。

そのほか近年の出演作に「高慢と偏見とゾンビ」(16)、「アイリッシュマン」(19)、「アンテベラム」(20)などがあります。

メッサラ(トビー・ケベル)

ローマ生まれのメッサラは、ユダヤ人のベン・ハーと仲の良い義兄弟でした。
しかし、ユダヤ人が起こした事件の罪をベン・ハーに押しつけ、ローマの奴隷にしてしまいます。

演:トビー・ケベル
17歳の時に参加した演技のワークショップで映画監督のシェーン・メドウスの目にとまり、「Dead Man’s Shoes(原題)」(04)で映画デビュー。

その後、同作を見たオリバー・ストーン監督の「アレキサンダー」(04)やウッディ・アレン監督の「マッチポイント」(05)に出演。

伝記映画「コントロール」(07)で英インディペンデント・フィルム・アワードの助演賞を受賞し注目を集めます。

以降、「ロックンローラ」(08)、「魔法使いの弟子」(10)、「戦火の馬」(12)などの話題作で活躍しました。

近年の出演作には「猿の惑星:新世紀(ライジング)」(14)、「キングコング 髑髏島の巨神」「猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)」(ともに17)、主演作「ワイルド・ストーム」「ストレイ・ドッグ」(ともに18)などがあります。

イエス(ロドリゴ・サントロ)

虐げられているユダヤ人に「汝の隣人を愛せよ」と説き、多くの人々の尊敬と信仰を集めますが、ローマ人によって捕らえられ磔にされます。

演:ロドリゴ・サントロ
ウォルター・サレス監督の「ビハインド・ザ・サン」(01)やブラジルで大ヒットした「カランジル」といった映画で注目を浴び、03年にTV映画で米国に進出。

映画「300 スリーハンドレッド」(06)のペルシャ王クセルクセス役で広く知られるようになり、スティーブン・ソダーバーク監督の「チェ」2部作(08)ではラウル・カストロ役を演じました。

「300」の前日譚を描く「300 スリーハンドレッド 帝国の進撃」(14)にも出演しています。

その他の出演作に「フィリップ、きみを愛してる!」(09)、「ラストスタンド」(13)、TVシリーズ「LOST」シーズン3(06~07)などがあります

エスター(ナザニン・ボニアディ)

サイモニデスの娘で、ベン・ハー家の使用人です。ベン・ハーと愛し合っています。

演:ナザニン・ボニアディ
最初の大きな役はエミー賞受賞の昼ドラマ『ジェネラル・ホスピタル』とそのスピンオフでのレイラ・ミール役。

マイク・ニコルズ監督『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』、 ジョン・ファヴロー監督『アイアンマン』、 ポール・ハギス監督『スリーデイズ』などいくつかの有名なハリウッド映画に脇役で出演しています。

2011年2月、ヒットしたCBSのシットコム『ママと恋に落ちるまで』第6シーズンでニール・パトリック・ハリス演じるバーニー・スティンソンに恋をするノラ役で出演。同役で第7シーズンにも出演しています。

2011年11月、グラント・ヘスロヴ監督『The Swap 』(仮)でジョージ・クルーニーの相手役も務めています。

イルデリム(モーガン・フリーマン)

アラブの族長。奴隷船から逃げ出したベン・ハーを助けます。ベン・ハーに戦車レースでメッサラに復習できることを教え、戦車の戦い方を伝授します。

ベンハー族長

演:モーガン・フリーマン

映画デビューは1980年の「ブ演:モーガン・フリーマンルベイカー」。舞台でも好演した映画版「ドライビングMissデイジー」(88)で同主演男優賞にノミネートされます。

90年代には「許されざる者」(92)、「ショーシャンクの空に」(94)、「セブン」(95)などの名作・話題作に出演し、米映画界にとって欠かせない存在となります。

2005年、再びイーストウッド監督と組んだ「ミリオンダラー・ベイビー」でアカデミー助演男優賞を受賞。以降は「グランド・イリュージョン」シリーズ(13、16)などの大作で脇役を務めたほか「ジーサンズ はじめての強盗」(17)などに主演しています。

1997年には映画プロデューサー、ロリー・マクリアリーと共に映画制作会社「リヴェレーションズ・エンターテイメント」を設立。また2人は、これの姉妹会社にあたるオンライン映画配給会社「クリックスター」も立ち上げています。

フリーマンはナレーターとしての仕事も頻繁に行っており、2005年にはスティーヴン・スピルバーグ監督『宇宙戦争』、アカデミー賞最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞した『皇帝ペンギン』のナレーターを務めています。

基本情報

基本情報
監督        ティムール・ベクマンベトフ
脚本        キース・クラーク ジョン・リドリー
原作        ルー・ウォーレス 『ベン・ハー』
製作        ショーン・ダニエル(英語版) ダンカン・ヘンダーソン ジョニ・レヴィン
製作総指揮     マーク・バーネット(英語版) ジェイソン・F・ブラウン 他

出演者       ジャック・ヒューストン トビー・ケベル ロドリゴ・サントロ

音楽        マルコ・ベルトラミ
撮影        オリヴァー・ウッド
編集        ドディ・ドーン(英語版) リチャード・フランシス=ブルース 他

製作会社      パラマウント映画 メトロ・ゴールドウィン・メイヤー バゼレフス(英語版)他
配給        パラマウント映画
公開        〔アメリカ〕 2016年8月19日
上映時間       141分
製作国       アメリカ合衆国
言語        英語
製作費        $100,000,000
興行収入           〔世界〕 $94,061,311

小説「ベン・ハー」について

『ベン・ハー』の原作者であるルー・ウォーレスはアメリカ南北戦争で北軍将軍を務めた経歴を持つ人物。
インディアナ州ブルックビルで生まれた彼は、小説家であり政治家でもありました。

『ベン・ハー』(副題 キリスト物語)ウォーレスが1880年に発表した長編小説です。

アメリカで200万部を売るベストセラーとなりました。架空の物語ですが、イエス・キリストはじめ『新約聖書』に登場する人物たちも作品中に出てきます。

この長編小説は1899年に舞台化されて話題になり、何度も上演されています。やがて映画の時代が訪れると1907年に最初の映画化がおこなわれました。

まだ無声映画の時代だった1925年にフレッド・ニブロが監督し再び映画化され大ヒット。

その後30余年を経てウィリアム・ワイラーが監督し、70ミリ幅のフィルムによるワイドスクリーンの作品が1959年に公開されました。

この「ベン・ハー(1959)」不朽の名作として今なお語り継がれています。

1959年版「ベン・ハー」とは?

映画史に残る不朽の名作

数多く制作されている「ベン・ハー」作品のなかで最も有名で、評価の高い作品は1959年版「ベン・ハー」です。

ここでは、その概要について少しご紹介します。「ベン・ハー(1959)」は2度目の映画化の際にスタッフとして参加していたウィリアム・ワイラーが監督を務めました。

主演はポール・ニューマンやバート・ランカスターなどがオファーされましたが、紆余曲折を経てチャールトン・ヘストンになりました。「ベン・ハー(1959)」は世界中で大ヒットし、日本でも大きな話題を呼びました。

世界中で大ヒットした1959年版は映画界からも高く評価されたことでも知られています。

第32回アカデミー賞で作品賞・監督賞・主演男優賞・助演男優賞・美術賞など11部門でオスカーを受賞しました。

この記録は「タイタニック」と「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」に並ばれましたが、未だに破られていません。映画のヒットで当時経営危機にあったMGMが一気に立て直されたエピソードも有名です。

イエス・キリストの存在

「ベン・ハー(1959)」のテーマにキリスト教を挙げる人が多いと言われています。

物語の冒頭から最後がキリストのシーンであること、キリストがベン・ハーに水を施すシーンが重要な伏線となっていることなどがその理由です。

これによって「ベン・ハー(1959)」の世界観が壮大なだけではなく荘厳でもあると分析するファンもいると言われています。

このように、とても重要な役割を果たすイエス・キリストですが、1959年版では顔を見せることはありません。

このキリスト役を演じたのは、クロード・ヒーターというアメリカ人のオペラ歌手です。
ローマでコンサートを行っている際に映画製作者たちに認められ出演が決まったそうです。

 

「ベン・ハー(2016)」の見どころ

圧巻のビジュアル

戦車レース(チャリオットレース)とは人が乗った二輪車を馬に引かせて競走する競技です。

これはとても危険な競技で人や馬が亡くなることもあります。しかし、監督のティムール・ベクマンベトフはチャリオットレースのリアル感にこだわり、わずかな特殊効果以外にはCGを使用せず、実際にチャリオットを走らせ競技シーンを撮影したそうです。

作品のハイライトである戦車戦の迫力は1959年版を凌駕しているとの声も多いです。
撮影には4ヶ月という長期間がかけられているそうです。

ベンハー戦い

また、中盤の見せ場であるガレー船での海戦のシーン。
おびただしい数の戦艦同士の激突は大迫力です。これは現代のCG技術を駆使して撮影されたものと思われます。

イエス・キリストの祈り

戦車レースで勝利し、メッサラに重傷を負わせ復讐を終えたベン・ハーが「この先何を目的に生きていったらいいんだ」というセリフを言った後に、キリストの死を目撃します。

ベン・ハーが十字架を見上げる中、イエス・キリストは「父よ。彼らをお赦しください。彼らは、何をしているのか自分でわからないのです。」と天に向かって祈るのですが、ここでベン・ハーが兄の復讐に人生を費やしていた場面に一瞬フラッシュバックします。

この祈りはまるで復讐に燃え、それを勝ち取った後のあまり虚しさに人生の本当の目的を見失いまさに「何をしているのか自分でわからない」ベン・ハーのための言葉のようです。

話題のあの人が主役だったかも?

「アベンジャーズ」(2012)のロキとして知られ、2016年に最も稼いだ女性ミュージシャンである歌姫テイラー・スウィフトと交際3か月でスピード破局したことでも話題になったトム・ヒドルストン。

米MGMとパラマウント・ピクチャーズは当初、「ベン・ハー」を映画化するプロジェクトで、主演に英人気俳優トム・ヒドルストンを希望していると米Deadlineが報じています。

「ベン・ハー(2016)」のレビュー

実際はすごくよかった
観る前は期待してなかったけど、かなり楽しめた。映像がすばらしい。
私は考古学・・・具体的にいうと古代ローママニアなんだけど、いつも博物館でみているものが映画の中で蘇っているのを観て、こんなに熱中したり、興奮したことなんて長年なかった。
コスチュームセット、そして、戦車競技場がすばらしい。
新しいアイデアを加えている

1959年版は希望、許し、目的や愛する人のための戦いを描いた名作だったが、2016年版もなかなかおもしろかった。よく作られていて思っていたよりも演技がよかった。ストーリーは知っていたけど、同じストーリーに新しいアイデアを加えて再考されていた。一方で、新しさを出すためにオリジナルのストーリーとは違うところがあったけど、斬新さや驚きはあまりなかった。

良い映画です
1950年版「ベン・ハー」のような傑作とは思えないけど、キャラクターもいいし、良いシーンもたくさんある。トータルで考えたら2時間楽しむにはよいエンターテイメント作品。1959年の大作に馴染んでいるので、つい粗探しをしてしまいましたが、前作とは異なる視点と解釈で描かれたシーンが多く、それなりに楽しめました。
前作を知らない人なら、十分に引き込まれると思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか?
今回は「ベン・ハー(2016)」をご紹介しました。

「ベン・ハー(1959)」はルー・ウォーレスの1880年の小説「ベン・ハー」を忠実に映像化し、アカデミー賞の史上最多受賞作品の一つとなった名作で、半世紀以上たった今もなお人気があり、繰り返し観る人も多い歴史映画の代表作です。

本作「ベン・ハー(2016)」まで57年の歳月が過ぎています。そのあいだに世の中は大きく変わり、新たな価値観、宗教観が生まれています。

当然、あの名作のリメイクには多くのの拒否反応があったものと思われますし、昔のファンからの評価が低いのも事実です。

ただ、見終わった感想として、「ベン・ハー(2016)」は、現代に生きる現代の人間感情にとてもわかりやすく設定されていると思います。

「ベン・ハー(1959)」とは異なり、ラストは身分の格差を超えた深い友情と、家族の再生。みんなの笑顔でハッピーエンドを迎えます。

映画の内容はエンターテイメントに振り切っているので、難しいことを考えずに気楽に見るのが正解だと思います。

1959年版を知らなくても間違いなく楽しめる内容になっていると思いますよ。