今回ご紹介する映画は「ドリームプラン」です。
世界最強のテニスプレイヤーと称されるビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を世界チャンピオンに育てあげたテニス未経験の父親の実話を基に描いたドラマです。
リチャード・ウィリアムズは優勝したテニスプレイヤーが4万ドルの小切手を受け取る姿をテレビで見て、自分の子どもをテニスプレイヤーに育てることを決意します。
テニスの経験がない彼は独学でテニスの教育法を研究して78ページにも及ぶ計画書を作成し、常識破りの計画を実行に移します。
ギャングがはびこるカリフォルニア州コンプトンの公営テニスコートで、周囲からの批判や数々の問題に立ち向かいながら奮闘する父のもと、姉妹はその才能を開花させていきます。
ウィル・スミスが主演・制作を務め、2022年・第94回アカデミー賞では作品賞、主演男優賞、助演女優賞ほか計6部門にノミネートされ、主演男優賞を受賞しています。
ウィル・スミスは3度目のアカデミー賞ノミネートで初のオスカー像を手にしました。
今回は「ドリームプラン」のご紹介です。
Contents
あらすじ(ネタバレあり)
アメリカ・ロサンゼルス南部のコンプトン。
ギャングがはびこり、治安の悪さで知られたこの街で、ウィリアムズ一家は父リチャードと母オラシーン、ビーナスとセリーナ以外にも3人の娘たちを抱えて狭い住居に暮らしていました。
ふたりの娘を世界最強のテニスプレイヤーに育てる夢を持つ、破天荒なウィリアムズ。彼はテレビで優勝したテニスプレイヤーが4万ドルの小切手を受け取る姿を見て、テニス未経験ながら、姉妹が生まれる前から「世界王者にする78ページの計画書」なるものを独学で作成しました。
彼らが練習するのは、公営の荒れたテニスコート。お金もコネもなく、地元のギャングに絡まれリチャードが殴られることもありましたが、彼は娘たちを、敬意払われる人間に育てるために強く決心し、彼女たちの盾となっていました。

リチャードとオラシーンの熱意ある指導により、ビーナスとセリーナはみるみる技術をつけていきました。
娘たちを次の段階へ進ませようとする中で、リチャードにはプロのコーチを雇ったり、高価なトレーニングを受けさせるお金はありません。
彼女たちのビデオを作成して、コーチの依頼をしに回りますが、無料でしかも2人も引き受けてくれる人は皆無でした。
そんなある日、リチャードは娘2人を連れて、高級住宅地を訪れます。その1つの豪邸のテニスコートでジョン・マッケンローをコーチングしているボール・コーエンがいました。
リチャードはマッケンローが席を外した隙に、コーエンに娘たちのプレーを見てほしいと強引に頼み込みます。
マッケンローが戻ってくるまでの条件付きで彼女たちと打ち合ったコーエンはその実力を認め、無料で指導することを了承しました。
ただし、ふたりではなくビーナスのみ。これにセリーナは気落ちしますが、オラシーンが練習に付き添い、彼女を励まします。
プロになるためにはジュニア大会に出場し名前を覚えてもらう必要があるというコーエンの考えのもと、ビーナスは初めての大会に出場しました。
裕福な白人ばかりの中で、ウィリアムズ一家は浮いた存在でしたが、ビーナスは次々と相手を打ち負かし、見事優勝しました。
キャスト
リチャード・ウィリアムズ(ウィル・スミス)
ビーナス&セレーナ・ウィリアムズ姉妹の父親。
演:ウィル・スミス
92年、「ハートブレイク・タウン」で端役ながら記念すべきスクリーンデビュー。
翌年の「メイド・イン・アメリカ」では主役に次ぐ大役を手にし、続く「私に近い6人の他人」ではみごとメインキャストの一人に抜擢されると、その演技力でも批評家の注目を集めます。
95年にはマーティン・ローレンスと共演した「バッドボーイズ」での派手なアクションとコミカルな演技の絶妙なブレンドが評判を呼び、映画ファンの間にもその名前が着実に浸透していきます。
そして96年、メガヒット作品「インデペンデンス・デイ」に主演、一気にハリウッドを代表する黒人アクターの一人へと成長します。
その後は「メン・イン・ブラック」(97)、「エネミー・オブ・アメリカ」(98)、「バガー・ヴァンスの伝説」(00)と主演作が続き、幅広い活躍を見せます。
01年にはボクシングの英雄モハメド・アリの伝記映画「アリ」に主演。アカデミー賞とゴールデングローブ賞のそれぞれで主演男優賞にノミネートされます。
その後も「メン・イン・ブラック2」(02)、「バッドボーイズ2バッド」(03)と主演作で確実にヒットを飛ばし、ハリウッドでの地位を不動のものとしています。
オラシーン・・ウィリアムズ(アーンジャニュー・エリス)
リチャードの妻で、ビーナスとセレナ、プライス3姉妹の母。
演:アーンジャニュー・エリス
米サンフランシスコ出身。ブラウン大学卒業後、ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アーツで演技を学びます。
オフブロードウェイの舞台などを経て、「Girls Town」(96)で映画に初出演。以降「ザ・ダイバー」(00)、「アンダーカバー・ブラザー」(02)などの映画で助演を務めます。
1960年代の白人女性と黒人家政婦たちの友情を描いた話題作「ヘルプ 心がつなぐストーリー」(11)にも出演しています。
TVドラマの主演作「The Book of Negroes」(15)の演技で注目を集め、世界最強とも言われるテニスプレイヤー姉妹の実話を基にした「ドリームプラン」(21)で姉妹の母役を演じ、アカデミー助演女優賞にノミネートされました。
その他の出演作にTVドラマ「クワンティコ FBIアカデミーの真実」(15〜17)、「ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路」(20)などがあります。
ビーナス・ウィリアムズ(サナイヤ・シドニー)
ウィリアムズ家の長女。
演:サナイヤ・シドニー
『ドリームプラン』で若き日のビーナス・ウィリアムズを演じたのは、15歳のサナイヤ・シドニーです。
実在の人物の生き生きと、繊細に演じきっています。ハリウッドのビッグネームウィル・スミスとの共演が注目される次世代スターです。
「ドリームプラン」(21)のほかにも、「フェンス」(16)、テレビドラマでは、「パッセージ」(19)、「アメリカン・ホラー・ストーリー:体験談」(16)などへの出演があります。
セリーナ・ウィリアムズ(デミ・シングルトン)
ウィリアムズ家の次女。
演:デミ・シングルトン
2017年に演技をはじめ、10歳でアンドリューロイドウェバーのスクールオブロックでブロードウェイデビューを果たします。
ブロードウェイのディズニーのライオンキングに若いナラとして参加する前に、ほぼ2年間演奏しました。
2018年9月にはアカデミー賞を受賞したフォレスト・ウィテカーが率いるEpixの犯罪ドラマ「ゴッドファーザー・オブ・ハーレム」に、彼のキャラクターの孫娘マーガレット・ジョンソンとして出演。
そして「ドリームプラン」(21)では、妹のセリーナ役を演じました。
ポール・コーエン(トニー・ゴールドウィン)
アメリカの伝説的なテニスコーチであり、ビーナスの最初のプロテニスコーチ。

演:トニー・ゴールドウィン
「13日の金曜日PART6 ジェイソンは生きていた!」(86)で映画に初出演し、「ゴースト ニューヨークの幻」(90)の暴漢役で注目を集めます。
その後、長編アニメーション「ターザン」(99)で主人公の声を務め、「シックス・デイ」(00)や「ラスト サムライ」(03)などに助演。
ダイアン・レイン主演の「オーバー・ザ・ムーン」(99)で監督デビューを果たし、「恋する遺伝子」(01)や「ディア・ブラザー」(10)でもメガホンをとります。
政治ドラマシリーズ「スキャンダル 託された秘密」(13~18)のフィッツジェラルド・グラント役で人気を博し、同作ではいくつかのエピソード監督も担当しました。
近年の映画出演作に「ダイバージェント」(14)、「ザ・シークレットマン」(17)、「ドリームプラン」(21)など。プロデューサー、ブロードウェイ俳優としても活躍しています。
リック・メイシー(ジョン・バーンサル)
ビーナスとセリーナのもう1人のコーチ。
演:ジョン・バーンサル
ロシアのモスクワ・アート・シアタースクールで演劇を学び、モスクワ芸術座付属演劇学校で学位を取得。
ロシアで舞台俳優としてキャリアを積んだ後、米国に戻る。「CSI:マイアミ」(05)などの人気TVシリーズにゲスト出演し、「ナイト ミュージアム2」(09)などのハリウッド映画にも出演しています。
大ヒットゾンビドラマ「ウォーキング・デッド」(10~12)でメインキャラクターのシェーン役を演じて注目を集めます。
その後は「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(13)、「フューリー」(14)、「ベイビー・ドライバー」(17)、「フォードvsフェラーリ」(19)などの話題作にも出演しています。
Netflixのマーベルドラマ「デアデビル」のシーズン2(16)でパニッシャー役に抜てきされ、同シリーズの「パニッシャー」(17~19)では主演を務めています。
基本情報
受賞歴
第94回アカデミー賞
主演男優賞 ウィル・スミス
第79回ゴールデングローブ賞
主演男優賞(ドラマ部門) ウィル・スミス
ウィル・スミスが念願のアカデミー主演男優賞受賞
第94回アカデミー賞では作品賞、主演男優賞、助演女優賞ほか計6部門にノミネートされ、主演男優賞を受賞。ウィル・スミスが3度目のアカデミー賞ノミネートで初のオスカーを手にしました。
受賞に際してスミスは、「リチャード・ウィリアムズは本当に強く家族を守った男です」、「ビーナスとセリーナ、ウィリアムズ一家が自分たちのストーリーを私に任せてくれたことに感謝を申し上げます。彼らの愛情のための大使のような存在になれたらと思います」と続けました。
そして瞳に溢れる大粒の涙について、「受賞したから涙を流しているわけではありません。
私の受賞でアーンジャニュー、サナイヤ、デミらキャスト全員、そしてスタッフ、ビーナス、セリーナ、ウィリアムズ一家全員に光が射すことができたことを心から嬉しく思います」と語っています。
惜しくも受賞は逃したものの、助演女優賞(アーンジャニュー・エリス)、歌曲賞(ビヨンセ)、脚本賞、編集賞にもノミネートされた「ドリームプラン」。
授賞式のオープニングアクトではエンディングテーマを手掛けたビヨンセが登場。
製作を務めたビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹の紹介でコンプトンのテニスコートから “Be Alive”を熱唱するなど大きな注目を改めて集めました。
スミスは実在する人物リチャードの役作りのために、単に本人を真似るのではなく、彼が歩んだ道筋を辿ったといいます。

「彼はテニスについて何も知らなかった。ビーナスが生まれる前の2年間、彼と妻のオラシーンはテニスについて独学で学び、一緒にそのスポーツを習得したんだ。
家族で学んでいて、その一歩一歩が新しいことばかりだった」と、テニス経験ゼロで挑戦した父と母の奮闘を心に刻んでいました。
テニス界の絶対王者ウィリアムズ姉妹
ビーナス・ウィリアムズ
姉のビーナスは、グランドスラムで7回、ウィンブルドン選手権で5回優勝し、オリンピックでは合計4個のメダルを獲得した世界最強のテニスプレイヤー。
スポーツ史上最も優秀で、影響力のある女性のひとりです。
彼女はわずか14歳でプロテニス界の階段を上り始め、瞬く間にトップランクに達し、数え切れないほど多くの記録を塗り替えながら数々の大会で優勝を果たし、テニス界に旋風を巻き起こしました。
また、テニス以外でも、幼い頃からクリエイティブな面を開拓していくことを母親に勧められ、ファッションスクールに入学。
すぐにファッションとインテリアデザインの世界に魅了され、現在はその大胆な気質に従い、2つのベンチャー事業で成功を収めています。
さらに、ファッションデザイン学準理学士号を取得し、2012年にはスポーツウエアブランドも立ち上げました。
インスタグラムでは155万人、ツイッターでは170万人という数多くのファンが彼女を支えています。
セリーナ・ウィリアムズ
妹のセリーナは、グランドスラム四大大会連続優勝を達成。これまでに、シングルス73勝、ダブルス23勝を挙げ、オリンピックでは、4つの金メダルを獲得しています。
そして2015年のウィンブルドン、全仏オープン、全豪オープン、そして14年度全米オープンと合わせてグランドスラム四大大会を連覇。彼女の功績は“セリーナ・スラム”と呼ばれています。
起業家・投資家・ファッションデザイナーとしても認められており、熱心な慈善事業家でも知られているセリーナ。
ウィリアムズ家は暴力に苦しむ住人たちが必要なサービス提供機関を、故郷のカリフォルニア州コンプトンに開設しており、包括的なリソースネットワークの活動にも力を入れています。
そしてセリーナは、インスタグラムは1,417万人、ツイッターが1,070万人という、姉のビーナスを超える驚異の人数にフォローされています。
ドリームプランとは?
リチャードがテニスコーチのポールと会話している時に話しが出ますが、彼は娘が生まれる前からプロテニスプレーヤーとして育て上げる計画を練っていて、その計画書は78ページも及ぶといいます。
テニスプレイヤーにしたい理由はお金。テレビを見ていたリチャードは、テニスプレイヤーが4万ドルの小切手を受け取る姿を見て決意しました。
黒人で貧困、成り上がるのが難しい環境で人生を変えるには、テニスのプロのような狭き門でしか叶えられないと思ったのです。
しかし、テニスはすること自体にお金がかかる。だからこそリチャードは有名なプロコーチに交渉をし、ビーナスとセリーナの才能を見せつけてフリーでコーチをつけたのです。
映画の中ではあっさり有名コーチを味方につけていますが、泥臭い努力があったに違いないと思います。
親子のサクセスストーリーは、天才の育成メソッドとしても需要は大きいでしょうが、残念ながらリチャードを観ていてもその秘訣を知ることは難しいです。
映画を観ただけでは「計画書」には何が書いてあったのかは全く分かりません。わかるのは、娘をプロにするために最大限にやれることをやった父の奮闘があったということだけです。
「ドリームプラン」の見どころ
リチャードの一家は、ロスの治安の悪い地区に五人の娘と妻と暮らしています。リチャードはかなり変人で、テニス未経験ながら、ふたりの娘が生まれる前に独学で「世界王者にする78ページの計画書」を作り実行していきます。

このサクセスストーリーを描いていくのですが、とにかくリチャードのプランを進めていく頑固ぶり、徹底ぶりがキャラクターとしての要です。
リチャードの目的は、「娘二人を世界チャンピオンにする」なのですが、この物語はこのプランが成功したことを、承知した上で視聴者は見ています。
それでもおもしろく見せていけるのは、常識外の彼のプランをいかに進めていくかというその過程におけるドラマ要素、いわゆる「対立と葛藤」です。
利害の違いや欲望、互いの目的の違いから「対立」が生じる。さらに人物が悩んだり、障害にぶつかることで「葛藤」する。
リチャードは自身で練りに練ったプランを信じて進めますが、次々に障害に見舞われます。
スラム街のテニスコートには、ストリートギャングたちが現れます。このギャングたちとの「対立」と、排除しようしてリチャードがある行動にでようとする展開は、激しい「葛藤」です。
さらには、実力を発揮し始めて注目されるようになったビーナスを、ジュニア大会には出さないというプランで生じる娘との「対立」。
サクセスストーリーのおもしろさは、そのプロセスを描きながら、いかにドラマ要素を踏まえていけるか、人物たちを困らせるかがだと思います。その展開のさせ方を『ドリームプラン』にはしっかりと描かれています。
まとめ
今回は「ドリームプラン」のご紹介でした。
「ウィル・スミスが天下を獲った映画」です。おそらくですが、『ドリームプラン』が大ヒットしている原因は何といっても「実話」だからだと思います。
世界的テニスプレイヤーであるビーナスとセリーナ姉妹を育て上げた父親・リチャードの型破りで、良い意味で“毒親”がもたらすメリットを描いているからでしょう。
しかも、彼らが「貧乏な黒人だった」というハンデキャップの乗り越えての偉業達成ですから、多くの人に勇気と希望を与えたことは言うまでもありません。
実際、ビーナスとセリーナは世界的なテニスプレイヤーになって、アメリカ全国民から賞賛されますから、結果的には間違っていなかったのです。
しかし、リアルタイムでリチャードと接して来た人たちにとっては苦痛だったと思います。
『ドリームプラン』のように“スポ根”物語は日本でもあります。主に漫画とテレビアニメで放映されていました。『巨人の星』などがそうでしょう。
今見返すと完全に幼児虐待・DV映画ですし、自身の子どもに夢を託して「殴る蹴る」を繰り広げています。
これは昭和ならではの笑い話となっていますが、今現在のスポ根親子はもっとスマートになっていると思います。
脚本 ザック・ベイリン(英語版)
製作 ティム・ホワイト(英語版) トレバー・ホワイト ウィル・スミス
製作総指揮 イーシャ・プライス セリーナ・ウィリアムズ ビーナス・ウィリアムズ
出演者 ウィル・スミス サナイヤ・シドニー デミ・シングルトン トニー・ゴールドウィン
音楽 クリス・バワーズ
主題歌 ビヨンセ「ビー・アライヴ」
撮影 ロバート・エルスウィット
編集 パメラ・マーティン
製作会社 ウェストブルック・スタジオズ キーピン・イット・リール 他
配給 〔アメリカ・日本〕 ワーナー・ブラザース映画
公開 〔アメリカ〕 2021年11月19日 〔日本〕 2022年2月23日
上映時間 144分
製作国 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $50,000,000
興行収入 〔アメリカ・カナダ〕 $15,129,285 〔世界〕 $39,359,895