今回ご紹介する「ラ・ラ・ランド」は、「セッション」で一躍注目を集めたデイミアン・チャゼル監督が、ライアン・ゴズリング&エマ・ストーン主演で描いたミュージカル映画です。
売れない女優とジャズピアニストの恋を、往年の名作ミュージカル映画を彷彿させるゴージャスでロマンティックな歌とダンスで描いています。
オーディションに落ちて意気消沈していた女優志望のミアは、ピアノの音色に誘われて入ったジャズバーで、ピアニストのセバスチャンと最悪な出会いをします。
そして後日、ミアはあるパーティ会場のプールサイドで不機嫌そうに80年代ポップスを演奏するセバスチャンと再会。
初めての会話でぶつかりあう2人でしたが、互いの才能と夢に惹かれ合ううちに恋に落ちていきます。
「セッション」でアカデミー助演男優賞を受賞したJ・K・シモンズも出演。
第73回ベネチア国際映画祭でエマ・ストーンが最優秀女優賞、第74回ゴールデングローブ賞では作品賞ほか同賞の映画部門で史上最多の7部門を制しました。
第89回アカデミー賞では史上最多タイとなる14ノミネートを受け、チャゼル監督が史上最年少で監督賞を受賞したほか、エマ・ストーンの主演女優賞など計6部門でオスカー像を獲得しています。
今回は「ラ・ラ・ランド」のあらすじ・キャスト・見どころなどをご紹介します。
Contents
あらすじ(ネタバレあり)
ロサンゼルスの高速道路では、いつものように渋滞をしています。ドライバーの人たちは車の中で音楽を聴いて暇をつぶしています。
そして、1人の女性が突然車に出て歌い始めたのをきっかけに、渋滞の車の中から全員が出てきてララランドオープニング曲のAnother Day of Sunを踊りだします。
その人数ははるか先まで続いており、歌が終わると車に戻って渋滞が再開されます。
ミアは将来ハリウッド女優という大きな夢を持っていました。
そして、ワーナーブラザーズの入居するビルのコーヒーショップでアルバイトをしながら日々ハリウッド女優を目指してオーディションを受けています。
コーヒーショップには数多くの女優が来店し、ミアはいつかこのようになりたいと憧れを抱いています。
しかし、その日のオーディションの結果は最悪でした。気を晴らそうと、友だちと一緒に業界関係者のパーティへ出かけます。
帰宅するとルームメイトでミアと同じようにハリウッド女優を目指している3人と一緒にハリウッドであるパーティに出かけないかと誘われます。
つまらないパーティを出たミアは、ジャズバー『リプトンのバー』に入りました。その中ではセバスチャンがピアニストとして演奏をしていました。
ジャズバーの支配人であるビルからクリスマスにぴったりな曲を演奏してくれと言われていたセバスチャンですが、指示を無視して自身で考えたフリージャズを弾いていました。
反逆心でジャズを演奏していたところへミアが来たのです。セバスチャンは即刻クビ。声をかけようとしたミアを無視してとっとと帰ってしまいます。
しばらくして、ミアがまた別のパーティに出ていると、セバスチャンがバンドの一員として演奏していました。
ミアの方から声をかけ、2人はそれから親しくなります。
お互いの夢を語り合い、「理由なき反抗」を見る2人。やがて、一緒に暮らし始めます。セバスチャンの方は旧友の結成したR&Bバンドの一員となり、ツアーで全米各地を演奏旅行。
ミアの方はオーディションにうんざりし、自ら戯曲を書き上げて一人芝居を上演。お互いに忙しく、2人の仲はギクシャクします。
上演がうまくゆかなかったため、自信を喪失したミアは一旦実家へ帰りますが、たまたまそれを見ていたプロデューサーが彼女を大作映画に抜擢。
長期にわたる撮影がパリで行われます。ミアがパリに旅立つ前に2人は仲直り。「ずっと愛し続ける」とお互い口にします。しかし、離れ離れの生活ではその誓いも虚しいものでした。
5年経ち、ミアは女優として売れっ子に。もう結婚して子供もいました。夫婦そろってロスの市街に出た時、気まぐれにライブハウスに立ち寄ります。
そこは偶然、セバスチャンが経営する店でした。2人はずっと音信不通になっていたのです。ミアを見たセバスチャンは何も言わず2人にとって思い出のある曲を弾きます。
彼はミアとの出会いから現在まで、”もう一つの過去”を想像しますが、それはもちろん虚しい幻想でした。2人はこうなったのも運命だったとあきらめ、笑顔で別れるのでした。
キャスト
セバスチャン(ライアン・ゴズリング)
本作の主役。ジャズピアニスト志望です。
演:ライアン・ゴズリング
ディズニー・チャンネルの「ミッキーマウス・クラブ」で子役タレントとしてキャリアをスタート。
1996年に映画デビューし、純愛映画「きみに読む物語」(04)の主演でレイチェル・マクアダムスとともに一躍有名になります。
06年の「ハーフ・ネルソン(原題)」でアカデミー主演男優賞に初ノミネート。その後も「ラースと、その彼女」(07)、「ブルーバレンタイン」(10)などで活躍し、主演作「ドライヴ」(11)でさらに多くのファンを獲得。
初監督作「ロスト・リバー」(14)はカンヌ国際映画祭ある視点部門に出品されました。「ラ・ラ・ランド」(16)で2度目のアカデミー主演男優賞候補に挙がりました。
傑作SFノワール「ブレードランナー」の続編「ブレードランナー 2049」(17)で主演を務めています。
ミア(エマ・ストーン)
女優志望の女性
演:エマ・ストーン
2005年にTVドラマで女優デビュー。07年の「スーパーバッド 童貞ウォーズ」で映画に初出演して以降、「ゾンビランド」(09)などで注目を集め、「小悪魔はなぜモテる?!」(10)で初主演を務めます。
「ラブ・アゲイン」(11)でも好演を見せ、「アメイジング・スパイダーマン」シリーズ(12、14)ではヒロインのグウェン・ステイシー役を演じています。
また、主演俳優のアンドリュー・ガーフィールドとの交際でも話題を呼びました。
14年の「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」でアカデミー助演女優賞初ノミネートを果たします。
ウッディ・アレン監督の「マジック・イン・ムーンライト」(14)と「教授のおかしな妄想殺人」(15)の2作連続でヒロイン役を務めました。
ミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」(16)で女優志望の主人公を演じ、ベネチア国際映画祭の最優秀女優賞や、アカデミー主演女優賞など数多くの賞を受賞しています。
トレイシー(キャリー・ヘルナンデス)
ミアのルームメイトです。
演:キャリー・ヘルナンデス
ニューヨーク・マンハッタンの演劇学校ウィリアムズ・エスパー・スタジオに通うが経済的な理由から中退。
テレンス・マリック監督の「Song to Song(原題)」で映画に初出演しますが、同作は2017年まで公開されていないため、ロバート・ロドリゲス監督の「マチェーテ・キルズ」(13)が最初の劇場公開作となります。
同じくロドリゲス監督の「シン・シティ 復讐の女神」(14)にも顔を出し、TVシリーズ「フロム・ダスク・ティル・ドーン ザ・シリーズ」(14)に出演。
ホラー映画「ブレア・ウィッチ」(16)で初めて主要キャストに起用され、大ヒット作「ラ・ラ・ランド」(16)でエマ・ストーン演じる女性主人公のルームメイト役を演じ注目を浴びます。
その他、リドリー・スコット監督の「エイリアン コヴェナント」(17)にも出演しています。
アレクシス(ジェシカ・ローテ)
ミアのルームメイト
演:ジェシカ・ローテ
ボストン大学在学中にバイオリンやタップダンスを習い、卒業後ドラマや映画に出演するようになります。
2015年にTVドラマ「Lily&Kat(原題)」でタイトルロールを演じ、注目を集めました。
その後、映画「ラ・ラ・ランド」(16)で、主人公ミアのルームメイト、アレクシス役を演じ話題になります。
17年にはホラー映画「ハッピー・デス・デイ」で主演を務め、続編の「ハッピー・デス・デイ 2U」(19)でも同役を演じています。
そのほかの出演作にコメディドラマ「Mary+Jane(原題)」(16)、ヒロインを演じた映画「Forever My Girl(原題)」(18)などがあります。
ケイトリン(ソノヤ・ミズノ)
ミアのルームメイト
演:ソノヤ・ミズノ
英国ロイヤル・バレエ団の付属学校に10年間所属し、ドイツのドレスデン国立歌劇場バレエ団でダンサーとしてのキャリアをスタート。
20歳でモデルに転身しますが、まもなくダンサーとしての活動も再開。バレエ・アイルランドや、ニュー・イングリッシュ・バレエ・シアター、国立のスコティッシュ・バレエ団の一員として活躍します。
2015年、アレックス・ガーランド初監督作のSFサスペンス「エクス・マキナ」で美しい人工知能ロボットのキョウコ役を演じ、鮮烈な映画デビューを果たします。
続く「ハートビート」(16)では主人公とともにプロのダンサーを目指す親友のジャジー役を好演。
その後もガーランド監督の「Annihilation(原題)」、ディズニーの実写版「美女と野獣」(ともに17)といった話題作への出演が続いています。
ビル(J・K・シモンズ)
セブが働くレストランのオーナー
演:J・K・シモンズ
TVシリーズ「LAW&ORDER」(94~10)とそのスピンオフシリーズ「LAW & ORDER 性犯罪特捜班」(00~01)などのスコダ医師役で知られるようになります。
そのほかにも「OZ オズ」(97~03)や「ER 緊急救命室」(04)などに出演。「スパイダーマン」3部作では(02、04、07)、編集長J・ジョナ・ジェイムソン役で演じました。
「JUNO ジュノ」(07)、「とらわれて夏」(14)、「フロントランナー」(18)などジェイソン・ライトマン監督作品の常連で、ライトマンが製作総指揮を務めた映画「セッション」(14)にも出演。
主人公のジャズドラマーを指導するスパルタコーチを怪演し、第87回アカデミー助演男優賞を受賞しました。
近年のその他の出演作に「ラ・ラ・ランド」(16)、「ジャスティス・リーグ」(17)、「パーム・スプリング」(20)、J・ジョナ・ジェイムソンを再演した「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」(21)などがあります。
基本情報
受賞歴
第74回ゴールデングローブ賞
作品賞/ミュージカル・コメディ部門 受賞
主演男優賞/ミュージカル・コメディ部門 受賞
主演女優賞/ミュージカル・コメディ部門 受賞
監督賞 受賞
脚本賞 受賞
主題歌賞 受賞
作曲賞 受賞
第89回アカデミー賞
監督賞 受賞
主演女優賞 受賞
作曲賞 受賞
歌曲賞(City of Stars) 受賞
美術賞 受賞
撮影賞 受賞
「ラ・ラ・ランド」制作までの苦労
デイミアン・チャゼルが『ラ・ラ・ランド』の着想を得たとき、彼はまだ大学生でした。音楽担当のジャスティン・ハーウィッツも、同じ大学の同級生です。
ハーバード大学在学中、チャゼルはハーウィッツと共に本作の映画化を決心し、脚本自体は2010年に完成させていました。
しかし、当時の彼にとって映画界は遠い存在で、ヒット曲に頼った形でなく、ジャズを使用したミュージカル映画にどのスタジオも興味を示しません。
伝手を辿ってプロデューサーを迎え、ようやく興味を持ってくれるスタジオが現れても、主人公をロックミュージシャンに変更する、OP曲を差し替えるなどチャゼルが作品の特色として重要視した部分の変更を要求されたため、一旦プロジェクトは破棄されました。
そして2014年公開の『セッション』の興行的、批評的成功によって、『ラ・ラ・ランド』はついに日の目を見たのです。
徹底的に作りこまれたミュージカル要素
本作は最初、ミアやセブの登場シーンからではなく、歌から物語が始まります。
舞台となっているロサンゼルスは車社会の為、渋滞は日常的なものですが、どうしてもイライラしてしまう人々。
クラクションが鳴り響く中、一人の女性が歌を歌い始めることで瞬く間に陽気な大合唱となります。
歌詞は別れを連想する歌詞であり、夢の為に一歩踏みだす自分への応援歌のように感じられます。
その中で鳴り響く楽器、カラフルな衣装を着て踊る人々、そして観ている者を笑顔にするような歌声とパフォーマンス。
歌が終わり、人々が一斉に車のドアを閉めた瞬間、その一瞬の空白に思わず拍手したくなるほどの圧巻のシーンです。
そしてこの後も所々に歌が現れるのですが、一般的なミュージカルのようにセリフを歌に乗せて話す、というよりは動作の一部として音が流れ始め、それが歌へと繋がるといった方が感覚的には近いように感じられます。
だからこそミュージカルを見慣れない人も自然と物語に入りやすくなっています。
過酷な衣装チェンジとダンスシーン
『ラ・ラ・ランド』はストーリーの展開に合わせて、主人公2人の感情の変化・成長を言葉や場所だけではなく、衣装でも見事に表現しています。
心情を小物などで表現するのは、チャゼル監督が得意とする技法と言われ、エマとゴズリングは映画の中でそれぞれ50着の衣装を着こなしました。
チャゼル監督の強いこだわりから、過酷になったのは衣装チェンジだけではありません。
夕闇のハリウッドヒルズでのダンスシーンを撮影するチャンスは、2日間で30分間しかなく、主演2人は1日5回のダンスシーンを撮影しました。
特にオープニングシーンは気温43度という猛暑の中行われ、一度撮影が終わるとアシスタントに抱えられスタート地点に戻り、汗を拭いて再び踊るということを繰り返したといわれています。
キャストたちは予備の衣装を2つ用意し、テイクごとに着替えなければなりませんでした。
また振り付けを担当したマンディ・ムーアは、撮影中に写り込んでしまうことを避けるため、車の下に隠れてダンサーに指示を出していたそうです。
あの見事なシーンの数々は、衣装に込められた思いと、過酷な撮影を乗り越えたキャストの努力の賜だったようです。
「ラ・ラ・ランド」はバッドエンド?
この作品が評価されている大きな要因は、ラストシーンであるといわれています。
回想シーンで描かれたのは「もし彼が私と一緒にパリに来てくれていたら」「もし僕が彼女と一緒にパリに行っていたら」というタラレバシーンです。
誰だって、過去に淡くも辛い失恋の経験があるでしょう。その時、「あの時こうしていれば、ああしていれば」と誰しもが考えた事があるはずです。
この、恋を経験したことのある全ての人が“理解できる後悔”を美しく夢物語のように具現化したこと、これに人は涙し、これこそ本作を傑作とした一因なのだと思います。
ミアとセブの2人はそれぞれの道で成功しましたが、結ばれることはありませんでした。果たしてこれは“バッドエンド”なのでしょうか?
ラストで2人が結ばれなかったことに対してチャゼル監督はCNNのインタビューで、「結末は最初から決まっていたが、2人の愛は『生き続ける』ものである」と話しています。
この「生き続ける」愛とは何なのか、同インタビューで監督は次のように述べています。
「一緒にいることが、すなわち愛というわけじゃない。実際に関係自体に終止符を打ち、2人が別々の道に進んだとしても、お互いを思い合う気持ちがあるならば、それは愛なんだ。
この『生き続ける愛』こそが最もロマンティックで美しいものなんだ。」
まとめ
今回は『ラ・ラ・ランド』のご紹介でした。いかがでしたでしょうか。
この映画はとてもメッセージ性の高い作品です。それは単なるハッピーエンドで終わらない結末からも見て取れますが、「夢を追う」ということの難しさ、葛藤をセブとミア、2人の夢追い人の姿を用いることでとてもリアルに描いています。
セブとミアが自宅で喧嘩をする場面、ミアはセブにジャズだけで生きてほしいと願いますが、一方のセブは初めて人に認められた自分の才能、成功、を理由に純粋だった自分のジャズピアニスト時代を否定してしまいます。
この場面、1度は夢を持ち、どこかで色んなことを諦め、社会に順応し大人になった人には心に響く場面にもなっています。
『ラ・ラ・ランド』は単なるミュージカル映画ではなく、観る者の心を打つ映画です。
ただ、「いいものを観た」という満足感は確実に残りますが、どことなく違和感を覚える人もいるのではないかとも思われます
この甘くてほろ苦い物語は、結局は普通の人ではない才能あふれる美男美女のサクセスストーリーだからです。
夢を追う葛藤を描いてはいても、それを克服するまでの苦難は伝わってはきません。例えば、一人芝居を打ったけど客が来ないなんてことがそれほどの挫折でしょうか?
そういう映画ではない、と言えばそれまでですが、2人がいくら切ない後悔を抱えたところで、結構、恵まれた人生では?というという感想もなくはないです。
とてもいい映画ですし、共感もできますが、人生がもっと辛いことを多くの人は知っています。それを織り込み済みで観る夢のような作品です。
ミュージカル映画ということもあり、音楽多めで観やすく、また、音楽があることで登場人物の気持ちがセリフよりも伝わってきます。映画賞を独占した名作であることは間違いありません。
観るのを迷っているなら気軽に見てほしいと思います。最初の5分だけでも楽しいですよ。
監督 デイミアン・チャゼル
脚本 デイミアン・チャゼル
製作 フレッド・バーガー ジョーダン・ホロウィッツ ゲイリー・ギルバート
製作総指揮 サッド・ラッキンビル ジャスミン・マクグレイド
出演者 ライアン・ゴズリング エマ・ストーン ジョン・レジェンド ほか
音楽 ジャスティン・ハーウィッツ
撮影 リヌス・サンドグレン
編集 トム・クロス
製作会社 サミット・エンターテインメント ブラック・レーベル・メディア ほか
配給 〔アメリカ〕 サミット・エンターテインメント 〔日本〕 ギャガ/ポニーキャニオン
公開 〔イタリア〕 2016年8月31日(ヴェネツィア国際映画祭) 〔アメリカ〕2016年12月9日
上映時間 128分
製作国 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $30,000,000
興行収入 〔世界〕 $446,050,389 〔アメリカ〕 $151,101,803