今回は2019年のイギリス映画「イエスタデイ」をご紹介したいと思います。
「トレインスポッティング」のダニー・ボイル監督と「ラブ・アクチュアリー」の脚本家リチャード・カーティスが、「ザ・ビートルズ」の名曲の数々に乗せて描くコメディドラマです。
イギリスの小さな海辺の町で暮らすシンガーソングライターのジャックは、幼なじみの親友エリーから献身的に支えられているものの全く売れず、音楽で有名になる夢を諦めかけていました。
そんなある日、世界規模の瞬間的な停電が発生し、ジャックは交通事故で昏睡状態に陥ってしまいます。
目を覚ますとそこは、史上最も有名なはずのバンド「ザ・ビートルズ」が存在しない世界になっていたのです。彼らの名曲を覚えているのは世界でジャックだけになってしまいました・・・。
ビートルズの懐かしい名曲の数々はもちろん、彼らの楽曲によって成功を収めるジャックの姿やそれによる葛藤、そして純粋な愛情を描くラブストーリーでもあります。
世界的シンガーソングライターのエド・シーランが本人役で出演しているのも見どころです。
今回は「イエスタデイ」のあらすじ・見どころ・感想などを書いていきます。
Contents
あらすじ(ネタバレあり)
イギリス、売れないシンガーソングライターのジャック・マリクは、マネージャーで親友のエリーと一緒に音楽フェスのテントを借りてショーしていますが、いつもの様に客は全く集まりません。
音楽で有名になるという夢を諦めたジャックは、エリーにその事を伝えた後の帰宅途中、世界中で起きた12秒間の大停電のせいでバスに追突されてしまいます。
病院のベッドで目覚めたジャックは、自分が意識不明だったことを知りました。
エリーを含めた友人たちから退院祝いのパーティを開かれたジャック。そこで新しいギターをプレゼントされました。事故でギターが壊れてしまっていたためでした。
そこでエリーから「何か歌ってよ」と言われ、ビートルズの名曲「イエスタデイ」を弾き語りました。
エリーたちは「その曲、いつ作ったの?」と不思議がっているようです。「何って、ビートルズの『イエスタデイ』だろ」と当然のように返答しますが、エリーたちはピンと来ていません。
エリーたちはビートルズを知らないようでした。戸惑うジャックは、パソコンでビートルズをいくら調べても有名なあのビートルズは検索結果に一切出てきません。
ある日、出演した音楽番組がきっかけで、世界的シンガーのエド・シーランと知り合うことになります。
エドはジャックの才能を買って、ジャックに自身のライブツアーの前座を頼みます。エドはジャックが傑作を物凄い早さで作り続けることに驚き、自分を抜く天才が現れたと褒め称えます。
エドのマネージャーのデブラは、ジャックにロサンゼルスに拠点を移すように説得します。
ジャックは、ロサンゼルス行きを決め、エリーにマネージャーとして付いて来て欲しいと頼みますが、エリーは有名になっていくジャックとの間に距離を感じ、教師の仕事があるという理由で断ります。
ロサンゼルスで次々とビートルズの曲を世に出していくジャックでしたが、ある時どうしても歌詞が思い起こせなくなってしまいます。
行き詰まったジャックは、曲のモデルとなっているリバプールへと旅立ち、ビートルズのルーツを辿りながら歌詞を考えていました。
そこへエリーがジャックを訪ねて来て、2人は束の間の楽しい時を過ごします。
エリーは帰国間際にロサンゼルスに戻るなら、この先の関係は終わりだとジャックに伝えます。
エリーはジャックに歌手として活躍し続けてもらいたい気持ちと、一緒に穏やかな生活を送りたい気持ちで複雑でした。
ジャックが答えを出せず困っている間にエリーのフライト時間が迫り、2人は別れることになります。
ロサンゼルスに戻ったジャックの人気は留まることを知らず、世界各国でライブツアーを行う程になります。
ジャックの故郷イギリスでもライブを行い、両親やエリー、昔の友人を招待しました。ライブが終わると楽屋に2人の年配の男女が訪ねてきます。
2人の男女はジャックに、ジャックと同じようにビートルズを知っていることを告白し、ビートルズをこの世に残してくれてありがとう、と感謝を伝えます。
ビートルズの曲を使って成り上がったことを咎められると思っていたジャックは、思わぬ言葉に安堵し、今の金と名誉にまみれた生活への後ろめたさが増していきます。
そのとき老婦人からある住所が書かれたメモを渡されます。その住所を訪ねたジャックは、そこでジョン・レノンに会います。
この世界ではミュージシャンではないジョン・レノンはまだ生きており、78歳になっていました。
ジョン・レノンは結婚し、子供たちに囲まれながら幸せに暮らしていて、人生で後悔していることはないとジャックに伝えます。
それを聞いたジャックは何かを決意したように、エド・シーランのショーに出演させてもらいます。
そこで観客に全ての彼の曲がビートルズというバンドの曲であること、今までしてきたショーで得た金銭は一切受け取らないこと、彼が歌ってきたビートルズの曲は無料で配信されることを観客に告白します。
そしてエリーをバックステージに呼び寄せると、彼女に愛の告白をします。ショーが終わり、マスコミと、激怒しているデボラから逃げ切り、エリーとふるさとへと戻るジャックは、彼女と結婚します。
決して大成功を収め大金を手にしているわけではありませんでしたが、子供を授かり家族と共に暮らせる日々こそ幸せだと感じたジャックでした。
キャスト
ジャック・マリック(ヒメーシュ・パテル)
売れないシンガーソングライターで元音楽教師。現在はディスカウントストアの従業員をしています。
停電によるトラック事故で人生が一変します。
演:ヒメーシュ・パテル
2007年に人気TVシリーズ「イーストエンダーズ」(07~16)のタムワー・マソオッド役で俳優デビュー。16年からは、チャンネル4のシットコム「Damned」(16~18)にレギュラー出演しています。
19年の「イエスタデイ」の主役に抜てきされ、一躍有名に。その他、エディ・レッドメインとフェリシティ・ジョーンズが共演する「イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり」(19)にも出演しています。
エリー・アップルトン(リリー・ジェームズ)
ジャックの幼馴染でマネージャー兼運転手。全く売れない時代の彼を支えます。中学の数学教師です。
演:リリー・ジェームズ
2012年に『タイタンの逆襲』で、長編映画デビュー。テレビドラマシリーズ『ダウントン・アビー』第3シリーズでレディー・ローズ・マクレア役で知られるようになります。
2013年にはオーディションでディズニー映画『シンデレラ』(2015年日本公開)のヒロイン・シンデレラ役に抜擢されます
2016年、舞台『ロミオとジュリエット』でジュリエット役に抜擢され、『シンデレラ』で共演したリチャード・マッデンと再共演を果たします。
ロッキー(ジョエル・フライ)
ジャックの友人。教師としての仕事の都合で、モスクワについていけないエリーに代わり、ローディーを任されます。
演:ジョエル・フライ
ロンドン出身。王立演劇学校卒業。多くのテレビドラマに出演しています。テレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のヒズダール・ゾ・ロラク役や、『イエスタデイ』のロッキー役で知名度を上げました。
ラブ、ウェディング、リピート(20)、クルエラ(21)に出演しています。
デブラ・ハマー(ケイト・マッキノン)
ロサンゼルスの大物音楽エージェントです。ジャックの歌を大いに気に入り、ジャックをロサンゼルスへ呼び寄せ彼の売り出しに力を尽くします。
演:ケイト・マッキノン
人気コメディ番組「サタデーナイト・ライブ」に出演。ヒラリー・クリントンの物まねなどが好評を博し、フォーブスの「30歳未満の影響力のある30人」12年版に選ばれます。
大ヒットコメディ映画「テッド2」に本人役でカメオ出演し、往年のSFコメディを女性キャストでリブートする「ゴーストバスターズ」(16)では主要キャストに抜擢されています。
エド・シーラン(本人)
人気ミュージシャン。ジャックがテレビ番組で演奏しているのを見て、ジャックの曲の可能性を感じ、モスクワで開催するライブのオープニング・アクトをオファーします。
ジャックが「Hey Jude」をレコーディングする際に、タイトルを「Hey Dude」に変更することを提案します。
演:エド・ノーラン
2011年、『+』でレコードデビュー。2014年、アルバム『x (マルティプライ)』は、ファレル・ウィリアムスやリック・ルービンらをプロデューサーに迎えて制作されました。
このアルバムは、イギリス・アメリカともにアルバム・チャートで初登場1位を獲得、イギリスではプラチナ・ディスクに認定されました。
2017年から2019年まで続いた『÷ Tour』は総計7億3670万ドルの興行収益、総動員数815万684人の規模となり『史上最も成功したコンサートツアー』でU2が保有していたワールドレコードを破り1位となりました。
基本情報
映画「イエスタデイ」の見どころ
ビートルズのいない世界
まず、映画「イエスタデイ」のストーリー上のキーになっているのは、「ビートルズの存在が世界から消えている」ということです。
それをシーンとして描写しているのですが、何とも分かりやすく附に落ちる表現を巧みに駆使しており、そこで心を掴まれてしまいます。
何と言っても一番分かりやすいのが「ビートルズ」とネットで検索してみると「カブトムシ」の画像がヒットすることです。これほど現代的で明確なやり方はないと思いました。
さらには、ビートルズのついでにコカ・コーラもなくなっていたのですが、「コーラ(COKE)」と検索すると「コカイン」がヒットして、コロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルの画像が出てくるのもユニークです。
エド・シーランが本人役で出演も
もう1つの見どころは、世界的歌手のエド・シーランの本人役での出演です。
意外にも今作「イエスタデイ」で映画出演は4回目となります。
監督のダニー・ボイル氏が、エドの生き様が主人公のジャックにそっくりだということでエドに声をかけたそうです。
そして、さらに注目したいポイントがあります。エドが「イエスタデイ」のために楽曲を提供しているということです。
モスクワで歌った「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」を3時間で作ったとジャックから聞いたエドは、ジャックと即興での作曲対決を思いつきます。
制限時間は10分で、エドとジャックはそれぞれの部屋で作曲をする。ギターを演奏しながら「Penguins」を演奏するエド。対してジャックは、ビートルズの「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」を演奏します。
演奏を終えたジャックに、エドは自分の負けを認めます。そして、自分が誰かに追い抜かれる時が来ると思っていたこと、抜いたのはジャックであることを語ります。
まさかのジョン・レノン登場
映画イエスタデイでは主人公のジャック以外にもビートルズを知っている人物がいました。
盗作を告発されると怯えるジャックでしたが、女性は彼にある紙切れを渡します。
そこに書かれた場所にジャックが訪ねていくと・・・。
まさかの78歳になっているジョン・レノンと出会えることになります。
船乗りとして世界中を旅していたというジョン・レノン。幸せな家庭を築いて暮らしていたのです。
ジャックがジョン・レノンに幸せか尋ねると、幸せだと即答します。「愛する人がいて、愛を伝えているから」という答えでした。
そして、『彼女を逃しちゃったんだ』というジャックに、『いい人生を送りたいんだろう?』
『好きな人に好きといえ』、『できる限りの力でみんなに真実を告げるんだ』とアドバイスします。
その言葉でジャックは決心をします。それは、公共の場で「ビートルズ」の存在を公表する事でした。
エド・シーランに頼み込んで、イブに飛び入り参加したジャックは、無数の人々の前で、「自分の作った曲ではなく、ビートルズの楽曲であること」を告白し、無料の楽曲として全曲をネットに配信すると宣言します。
ビートルズの楽曲によって手にするはずだったカネや名誉を全部捨てて、エリーとの愛を選ぶのでした。
78歳のジョン・レノンを演じるのは、はロバート・カーライルという俳優です。
あまりに雰囲気が似ていたため、ジョン・レノンが亡くなっている事を知らない世代の人たちは「本物が出演しているの?」と思ったかも知れません。
友人、マネージャー、ローディー
エリー「どうしてこの枠に入っちゃったのかしら。“友人、マネージャー、ローディー”の枠。“アンド・アイ・ラヴ・ハー”の枠じゃなくて」
ジャック「それって別の枠なの?」
エリー「女子にはとても大切なことよ」
エリーはジャックの幼なじみ。中学校で数学を教えながら、運転のできないジャックの代わりにドライバーを務めるなど、プロを目指すジャックのマネージャーをしており、音楽の道を進むジャックを励まし続ける女性です。
実は、ジャックのことを愛していますが、ジャックには隠しています。
ジャックが急にすばらしい曲を書くようになったことに戸惑いながらも、ギャビンのスタジオでのレコーディングにコーラスとして参加するなど、最初のアルバム作りを楽しみます。
才能を認められたジャックがレコーディングのためにロサンゼルスへ行く最後の夜に、酔っ払いながらずっと愛していたことを告げます。
その後、ビートルズの曲の歌詞を思い出すためリバプールに来ていたジャックとデートをし、ホテルでキスをしますが、一夜限りの関係は望んでいないために部屋から立ち去ります。
彼女はギャビンと付き合うようになり、ロサンゼルスにいるジャックにそのことを伝えます。
ジャックのアルバムのお披露目となる地元ピア・ホテルのライブもギャビンと鑑賞します。
そして、そのライブを見に来た時に舞台裏に呼び出されます。
ステージのビジョンに大きく映し出され、ジャックからずっと自分を信じてくれたことへの感謝と愛を告げられます。
エンディングではジャックと結婚し、2人の子どもの親となったことが描かれています。
映画を彩る名曲たち
「イエスタデイ」
怪我から復活したジャックは、友人たちプレゼントされたギターで演奏しますが、ビートルズのことも知らない友人たちは、「とってもいい曲だね」と褒めます。
「イエスタデイ」をジャックの曲だと思っている友人たちは、「単なるいい曲なんかじゃない。これは世界最高の曲の1つだ」とムキになって反論するジャックの態度に戸惑います。
「Let It Be 」
両親に初めてジャックが演奏する曲ですが、何度も邪魔が入り、サビすら歌うことができません。それは彼が「Let It Be(ありのままに)」謳うことを捨てたこと、そして、これから味わうことになる苦悩を表していたのかもしれません。
「バック・イン・ザ・U.S.S.R.(Back In The U.S.S.R.)」
エド・シーランのライブの前座としてモスクワのライブハウスに登場したジャックが歌って大盛り上がりとなり、SNSでも大きな反響を呼びます。
「ヘルプ」
アルバム披露のライブで「ヘルプ」を歌ったジャックは、ビートルズのことを覚えているレオとリズの訪問を受けます。他人の曲を自分の曲としていることに罪悪感を抱えているジャックでしたが、レオたちからはビートルズの楽曲をよみがえらせてくれたことの礼を言われます。
「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ(Ob-La-Di, Ob-La-Da)」
エンディング。音楽教師に戻ったジャックが、ギターを弾きながら子どもたちと一緒に歌っています。
まとめ
今回は「イエスタデイ」をご紹介しました。
「世界的に有名なスターになりたい」誰もが一度は考えたことのある妄想ですよね。
「誰もビートルズの曲を知らないのなら、自分が作ったことにしてみたら?」とジャックは思いつきます。
始めは小さな会場で細々と演奏していたジャック。しかし、ビートルズの曲のおかげで徐々に大きなステージへ上がり夢を実現させます。
ファンタジー映画ではよくありそうな演出ですが、ビートルズの存在によって運命が大きく動かされていくのがポイントです。
また、ジャックが音楽シーンに名を轟かせる手法として、「SNS」や「インターネット」が使われていた事も現代ならではの脚本となっています。
映画ではジャックの恋愛模様も描かれています。田舎町の売れない歌手から世界的シンガーソングライターに成り上がっていく中での、ジャックの恋愛の心の変化にも注目です。
大ヒットした「ボヘミアン・ラプソディ」のように映画館で合唱というわけではありませんが、映画の至る所にビートルズの楽曲がちりばめられています。ファンにはたまらないと思います。
一方で、映画を観た人のファンの中には「ボヘミアン・ラプソディ」のようにビートルズの楽曲をがっつり聴くことが出来ないと失望の声があがっています。
そして、「ビートルズの楽曲を盗む」といった映画の基本コンセプトは、一部のファンには受け入れることが出来なかったようです。分かる気もしますね。
しかし、私は大変おもしろい作品だと思いました。
この映画によってビートルズを知らない若い世代が、世界の音楽シーンに絶大な影響を与えた伝説的バンドを知るきっかけとなるのでは?と考えると、とても嬉しい気持ちになりきます。
今回は「イエスタデイ」のご紹介でした。
監督 ダニー・ボイル
脚本 リチャード・カーティス
原案 ジャック・バース(英語版) リチャード・カーティス
製作 ティム・ビーヴァン エリック・フェルナー バーナード・ベリュー 他
製作総指揮 ニック・エンジェル リー・ブレイジャー
音楽 ダニエル・ペンバートン
撮影 クリストファー・ロス
編集 ジョン・ハリス
製作会社 ワーキング・タイトル・フィルムズ デシベル・フィルムズ
配給 〔イギリス〕〔アメリカ〕 ユニバーサル・ピクチャーズ 〔日本〕東宝東和
公開 〔イギリス〕〔アメリカ〕 2019年6月28日(日本) 2019年10月11日
上映時間 116分
製作国 イギリス アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $26,000,000
興行収入 〔世界〕 $145,786,650 〔日本〕 7億7200万円