今回は2018年製作のカナダ&スウェーデン合作映画「ストックホルム・ケース」のご紹介です。
誘拐や監禁事件の人質が犯人に好意を抱いてしまう“ストックホルム症候群”の語源となった、スウェーデンの有名な銀行強盗事件を映画化したクライム・スリラーです。
ロバート・バドロー監督と『ブルーに生まれついて』以来のタッグとなるイーサン・ホークが強盗犯に扮し、彼に不思議と惹かれていく銀行員をノオミ・ラパスが演じます。
「新しい夜明け」などボブ・ディランの名曲とともに、彼らが心を通わせていく様子をユーモラスに描かれています。
何をやっても上手くいかない悪党のラースは、自由の国アメリカに逃れるためストックホルムの銀行に強盗に入ります。
ビアンカという女性を含む3人を人質に取り、刑務所に収監されていた仲間のグンナーを釈放させることに成功したラースは、続けて人質と交換に金と逃走車を要求します。
しかし、警察が彼らを銀行の中に封じ込める作戦に出たことで事態は長期化。次第に犯人と人質の関係だったラースとビアンカたちの間に、不思議な共感が芽生え始めていきます。
犯罪仲間のグンナー役に「キングスマン」シリーズのマーク・ストロング、人質となるビアンカに「ミレニアム」シリーズのノオミ・ラパスがキャスティングされています。
今回は「ストックホルム・ケース」あらすじ、みどころ、レビューなどを見ていきましょう。
Contents
あらすじ(ネタバレあり)
1973年スウェーデンストックホルム。
ラースは長髪のかつらと帽子をかぶり、いかにもアメリカ人といった格好で“クレジット銀行”へやってきました。
ラースは落ち着き払ってバッグからラジオを取り出しカウンターに置き音楽を流し、そして天井に向かって機関銃をぶっ放します。
女性行員ビアンカはすかさずデスクの下の非常ボタンを押しますが、気づかれてしまいます。
ラースは客たちを外に逃がし、ビアンカには警察署長に電話するよう指示します。そして「10分以内に来ないと女を撃つ」と告げ、ビアンカともうひとりの女性行員クララを男性行員に縛らせました。
ラースの要求は刑務所に入っている友人のグンナーの釈放と逃走用の100万ドルの現金とブルーのマスタングを用意することです。
グンナーを待つ間、人質のクララとビアンカがトイレに行きたがります。ラースは「同時には行くな、交代で行け」と言うと、ビアンカの縄を解きました。
ひとりになってビアンカはメガネをはずして涙をぬぐい、そしてハンソンのもとに戻るのでした。
ラースは警察に食料と飲み物、酒、タバコを要求すると、車を用意でき次第人質を連れて逃げたいと言いました。
逃げられたら必ず人質を解放すると言いますが、オロフ・パルメ首相が警察署長に禁じたため、警察署長は無理だと答えます。
ラースは首相に電話をかけて、「人質と逃げてもよいという許可をしないと、いますぐ人質のクララを殺す」と脅しますが、それでも首相は応じませんでした。ラースは腹立たしく感じます。
ラースは脅したものの、実際には発砲しませんでした。クララが殺されると思ったビアンカがラースに体当たりして、その拍子に発砲してしまいますが、弾は当たっていません。
ソレンソンがビアンカに暴力を振るおうとしたのをラースが止め、ビアンカはラースが心優しい男性だと気づきます。
翌日。刑事たちは生理になったクララにタンポンを持っていきますが、その際にビアンカたちが怖がることなくラースと会話をしているのを見て、人質と犯人が親しくなっていると気づきます。
ラースはビアンカにこっそり話を持ち掛けます。ラースはビアンカに、「防弾チョッキを着せるから、みんなの前で死んだふりをしてくれ」と頼みました。
そうすればビアンカは家に戻れるし、ラースは人質を連れて逃げられるというので、ビアンカも条件を吞みました。防弾チョッキを着用します。
合図に応じて逃げたビアンカの背中を撃つと、想像以上の衝撃でビアンカは倒れ、気絶します。ラースはビアンカが死んでしまったと思って焦りました。
金庫室へ戻ったラースは、警察が何か作業を開始したと知ってピリピリします。それは通風孔のダクトに、警察が音声を聞くためのマイクをしかけたのでした。
直後、ビアンカが気絶から目を覚まします。ラースもクララもビアンカの生存を知って大喜びしますが、ビアンカが生きていることは黙っておくように指示しました。
マイクの前では偽の情報を流します。ビアンカは生きて無事ですが、銃弾をまともに受けた背中は少し傷を負っており、痛みました。ラースは警察に食料や鎮痛剤、氷を要求します。
警察署長は盗聴しつつ、違和感を覚えます。食べ物を差し入れるふりをしてソレンソンを呼び出すと、こそこそ話し合いました。警察署長はソレンソンに、共謀の話を持ち掛けていたことが分かります。
ソレンソンの裏切りを知ったラースは、仲間割れをしました。両者は銃を向けあいますが、すぐにそれを放って取っ組み合いを始めます。
それを見たビアンカが銃を拾い、「いい加減にして」と2人に向けました。ラースたちの喧嘩はなし崩しに終わります。
「さっきは勇敢だった」夜になり、ビアンカの背中の傷を心配しながらラースは語りかけます。家に電話したいというビアンカの要望を拒み、自分の昔話を始めるラース。
ラースのグンナーに対する友情を理解したビアンカ。すると突然、ラースはビアンカにキスをします。
ビアンカは驚きますが、今度はゆっくりとお互い探るようにキスを交わし、やがてふたりは皆に気づかれないようにこっそりと愛し合うのでした。
キャスト
ラース(イーサン・ホーク)
本編の主人公。銀行強盗犯です。
演:イーサン・ホーク
14歳の時「エクスプロラーズ」で映画デビュー。以後、活動を停止し学業と学生劇に専念します。
ニューヨーク大学入学後の89年、「いまを生きる」で復帰。「生きてこそ」、「リアリティ・バイツ」を経て、97年、SFドラマの名作「ガタカ」に主演。
この作品で共演したユマ・サーマンとは翌年めでたく結婚。「ヒマラヤ杉に降る雪」(98)では工藤夕貴とも共演しています。
また、95年にはリザ・ローブのミュージック・クリップの監督をしたり、97年にはロマンス小説『痛いほどきみが好きなのに』を発表するなど映画以外でも多彩な才能を披露。
01年の「トレーニング・デイ」でアカデミー助演賞候補になります。同年、「チェルシーホテル」では待望の監督デビューも果たしています。
ビアンカ(ノオミ・ラパス)
人質となった女性銀行員です。
演:ノオミ・ラパス
1996年にテレビシリーズTre kronorでデビュー。2007年公開のDaisy Diamondで注目を集めます。
2009年公開の『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』ではヒロインのリスベット・サランデルを演じ、世界的に注目を集める女優となります。
2010年フランスのサイコスリラー・ラヴ犯罪の英語リメイクでレイチェル・マクアダムズと共演。2011年公開の『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』でハリウッド作品に初出演。
リドリー・スコット監督のSF映画『エイリアン』の前日譚の『プロメテウス』の主役に抜擢され、2012年に公開されました。2013年ミレニアムの1作目を作った監督のハリウッドデビュー作、『デッドマン・ダウン』に出演しています。
グンナー(マーク・ストロング)
服役中の強盗犯。ラースの親友です。
演:マーク・ストロング
デビュー後は主にイギリス国内のテレビや映画で活躍。2000年頃からアメリカやイギリスの名作、大作映画に登場しています。
2003年にシェイクスピア劇の『十二夜』でローレンス・オリヴィエ賞にノミネート。
2015年にはヤング・ヴィック上演ながらイヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出が話題となり、NTLiveでもライヴ上映されたアーサー・ミラー作『橋からの眺め』で主演男優賞を受賞。同作は、ブロードウェイでも上演されて再び絶賛されトニー賞の演劇部門最優秀男優賞候補となっています。
「ハリウッドの悪役イギリス俳優」の代表格であり、そのことをネタにした、ジャガーのコマーシャルにも出演しています。
マットソン(クリストファー・ハイアーダール)
警察署長です。
演:クリストファー・ハイアーダール
ブリティッシュコロンビア州出身。ノルウェー系で、父親の従兄弟(いとこおじ)は、ノルウェーの有名な探検家のトール・ヘイエルダールです。
映画『ニュームーン/トワイライト・サーガ』(09)、『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part1』(11)、『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part2』(12)の吸血鬼マーカス役で知られています。
また、「スティーヴン・キングのキングダム・ホスピタル」(04)、ヤング・スーパーマン Smallville (07)、「サンクチュアリ」(08-11)、ヴァン・ヘルシング (16-19)など、テレビドラマにも数多く出演しています。
基本情報
撮影 ブレンダン・ステイシー(英語版)
編集 リチャード・コモー(英語版)
配給 〔アメリカ〕 Smith Global Media 〔日本〕 トランスフォーマー
上映時間 92分
製作国 カナダ アメリカ合衆国
言語 英語 スウェーデン語
興行収入 〔アメリカ・カナダ〕 $302,085 〔世界〕 $1,139,481
ストックホルム症候群とは?
ストックホルム症候群(英: Stockholm syndrome)は、誘拐事件や監禁事件などの犯罪被害者についての臨床において、被害者が生存戦略として犯人との間に心理的なつながりを築くことをいいます。
ただし臨床心理学における心理障害(精神障害)ではなく、心的外傷後ストレス障害として扱われます。
スウェーデン国外のメディアが事件発生都市名、ストックホルムに基づいて報道した経緯があります。
連邦捜査局の人質データベース・システム (HOBAS) や『FBI Law Enforcement Bulletin』報告書によれば、犯人と心理的なつながりを示す根拠がみられる人質事件の被害者は約8%にすぎません。
メディアやポップカルチャーにおいては、被害者が犯人と心理的なつながりを築くことについて「好意をもつ心理状態」と解釈して表現しているものが多いようです。
さらに、誘拐や監禁以外の被害者の反応についても表現されるようになり、ストックホルム症候群という用語の用法にも方言があります。
実は映画の王道ストーリー?
作品では犯人ラースと図らずも何日も一緒に過ごすうちに次第に心からの共感を持ち、逃亡が成功するように進んで協力するビアンカの姿が描かれています。
しかし、こうした犯人の男性と人質の女性との間の不思議な絆を描いた映画というのは、実は「ストックホルム症候群」という言葉が生まれる前から作られてきました。
最も古い例だと、名作『キング・コング』(1933)がこのパターン。コングにさらわれた美女フェイ・レイが、最後には自分を護りとおして死んでいったコングの心を誰よりも理解するという物語はその後何度もリメイクされています。
ストックホルムの事件が起きた直後のこの時期は、ロバート・レッドフォードの『コンドル』(1975)、アル・パチーノの『狼たちの午後』(1975)と、同様のシチュエーションの映画が数多く作られています。
1980年代には、『テロリズムの夜/パティ・ハースト誘拐事件』(1988)という新聞王の孫娘が誘拐され、その後一味の仲間になった実話を題材とした映画が制作されています。
また、女性アーチストのジョディ・フォスターがマフィアの殺人を目撃したことで命を狙われるものの、奇妙な疑似恋愛関係になった2人が逃避行を繰り広げる『ハートに火をつけて』(1989)なども作られています。
その後も『バッファロー’66』(1998)のクリスティーナ・リッチ、『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999)でソフィー・マルソーが演じたボンドガールが、典型的な「ストックホルム症候群」の女性として描かれています。
こうしたシチュエーションは近年でもよく見かけます。それは最悪な形で出会った男女が逆にそれゆえに惹かれあってしまうというドラマチックな展開が、そもそも極めて映画的だからなのかもしれません。
「ストックホルム・ケース」評論・コメント
映画評論家のコメントをいくつかご紹介します。
・対象の事件は有名で、「ダイ・ハード」の台詞にも引用されているほど。シリアスな前作「ブルーに生まれついて」の監督・主演が再度組んだが、作風を変えて軽めのブラックコメディーに仕上げている。実力派キャストの競演が見どころ。
・70年代のストックホルムの再現はそう難しくないけど、車や服装、細かいアイテムが見事。犯人と人質の心の揺れ動きもわくわくします。なんかあったら犯人を惑わせようと昔から考えていたのは、きっとこれがあったから。
・実話に正攻法のリアリズムで迫るのではなく、ダークなコメディーの要素を盛り込む監督の発想がユニーク。一見、滑稽にしか見えない駆け引きの中から、複雑に絡み合い変化していく感情が浮かび上がってくるところが面白い。
また、Rotten Tomatoesによれば、批評家の一致した見解は、「『ストックホルム・ケース』はそのテーマやドラマ化した実際の事件を完全に現実通りに表現することはできていないが、軽やかなタッチと選び抜かれたキャストによって最終的には安定した面白さを維持している。」となっています。
82件の評論のうち高評価は70%にあたる57件あり、平均点は10点満点中6点となっています。
Metacriticによれば、18件の評論のうち、高評価は6件、賛否混在は12件、低評価はなく、平均点は100点満点中54点となっています。
「ストックホルム・ケース」レビュー
まとめ
いかがでしたか?「ストックホルム・ケース」のご紹介でした。
緊迫した事件のはずなのに、なんだかのんびりとしていて、ハラハラドキドキを期待して観ると、やや拍子抜けしてしまいそう。物語もかなり淡々と進む印象です。
この映画は1970年代前半のスウェーデンが舞台になっていますが、有名なロックフェスティバルが開催されているようで、現場となった銀行に詰めかけてきたレポーターや地元民たちには、どこかお祭り騒ぎのような不謹慎さがあります。
不運にも人質となってしまったビアンカ・リンドの横顔にも、それほど悲壮感は漂っていません。
『ストックホルム・ケース』は、たとえばショーン・コネリーのような、「そりゃ、どんな女性だってコネリーに誘拐されたら恋をしちゃうでしょ」という“圧倒的な男の魅力”というものではありません。
どこか頼りなさげで、ヘマをやらかしそうで、凶悪犯を気取ってはいても本当はお人好しであることが透けて見えてしまうイーサン・ホークならではの主人公ラース。
こんな状況下で、子どもたちの食事の事心配してる銀行員ノオミ。
極限状態に置かれたヒロインと犯人との心のふれあいをコミカルに描いて見せた面白い映画です。
基本的にはサスペンス好きな方向けかもしれませんが、一風変わった事件を扱った作品ですので、気になった方は是非ご覧になってみてください。
脚本 ロバート・バドロー
原作 ダニエル・ラング
製作 ニコラス・タバロック(英語版) ロバート・バドロージョナサン・ブロンフマン 他